この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正ありがとうございます、助かります。
あれもこれも変換が悪いんだ、ぐぬぬ。

追記
魔法の取得が一括らしかったので表記変更しました。
指摘の程ありがとうございます。


5話

 行商人との交渉によりアクセル行きの荷馬車に護衛として雇われる事を勝ち取った私は満足げに笑みを浮かべていた。アクセルへの道のりはゆんゆんの聞いた通り二日ほどで、此れと言って障害らしい難敵は居ないとの事だった。

 そのため、内訳がアークソーサラーにアークウィザードと言う私たちは過剰戦力気味らしく、私のカードの履歴を見せた事で更に苦笑されたのは言うまでもない。

 けれど、旅に困難は付き物と言う事で念には念を入れたいと言うのが行商人のお兄さんことカルグさんの本音らしく、最終的に一人頭五万エリスを依頼金とし、それ以上は出来高制でどうかと言う案に私は頷いたのだった。

 乗り合い馬車代がケチれるのと冒険者としては駆け出しである私たちにそこまでの価値があるかと言う点が大きい。

 正直、パーティとしては仮組であるし、連携して戦った経験も無い訳で。

 なので、今回は経験を積む事を念頭に置いて冒険者としてステップアップする事が目的になる。

 その旨を二人に伝えると否定意見も無くすんなり通ったので、カルグさんに挨拶をしてから荷馬車の後方の空きスペースにお邪魔する。

 アルカンレティア周辺で取れる野菜は水が良いからか美味しくて栄養価が高いらしく、暴れ出す事を考慮して既に加工済みの商品が主になっているとの事だった。

 そのため、近くのタルからは塩気のある匂いがしており、この中にはきっと塩漬けにされた野菜の漬物が入っているんだろうなぁと感じさせるものがある。

 思い思いに座り込んだ私たちの準備が出来た事で前に合図を送ると、馬の嘶きと共に荷馬車が進み始めて多少揺れ始めた。

 

「……と言うかですね、基本的におんおんの指針は現実的かつ無難と言う安定を取りに行くスタイルなので否定する余地が無いんですよ。依頼金が少ない事に腹を立てようとも正論で殴り返されるのがオチでしょうしね」

「確かに、おんおんってそつなくこなすイメージあるわよね。でも、何処からそんな知識を得たの? 学園にも二日しか在籍してないし、基本森の小屋に住んでるって話だし」

「んー……、そうだなぁ。何て言えば納得してくれる?」

「初っ端から説明する気無し!? 本当にいったい何処から仕入れた知識なの!?」

「まぁまぁゆんゆん。おんおんの秘密主義は今に始まった話では無いですから、ミステリアスな頼れる幼馴染として接するのが良いと思いますよ私は」

「めぐみんですら諦めてる!? あの知らない事を根掘り葉掘り聞いてくるめぐみんが!?」

「そうなのか? それにしてはそういった素振りは見えなかったが」

「あぁ、単純にゆんゆんを揶揄うために質問責めにしたりしてるだけですから、おんおんの前で見せた事無いですよ」

「がーん……、めぐみんに頼られて結構嬉しかったのに……、そんな理由だったの……」

 

 露骨に肩を落とし、落ち込むゆんゆん。そんな様子に罪悪感が生まれたのかバツが悪そうな顔でめぐみんが視線を逸らす。

 ……まぁ、いじめっ子の正体が好きな子にちょっかいかける悪戯小僧だった、と言う訳なのだろう。ゆんゆんとのめぐみんの普段の距離感はそんな感じらしい。

 微笑ましいものを見たと思わずほっこりとして口元が緩んでしまう。

 

「ふふふっ、めぐみんも私の知らない間に成長していたみたいだな。少し、悪戯ッ気が強いみたいだが」

「べ、別にかまってちゃんなゆんゆんで暇を潰すための方便ですし……、ああもうそんな暖かい視線を向けないでください!」

「安心しろゆんゆん。めぐみんは君で遊んでいると意地張っているようだが、ちゃんと友人として見ているよ」

「ふぇ、そ、そうなのめぐみん……?」

「うっ、そ、それはその……」

 

 実際図星なのだろう。羞恥で頬を赤らめためぐみんがそっぽ向くが、期待の視線を込めたゆんゆんが見つめているため根負けしたのか小さく頷いた。

 喜色に顔を染めたゆんゆんが満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに小躍りし始めた。まったく、可愛らしい子たちだなぁと私の頬も緩む。

 

「……嫌いな奴と学園生活を送る訳無いでしょう、そういう察せないところがゆんゆんの悪いところですよ」

「うん! ごめんねめぐみん!」

「えぇい、うっとおしいです! 抱き着いて来るんじゃないですよ!」

「じゃぁ、私も混ざろうか」

「ふにゃぁ!? 何でおんおんも抱き着いて来るんですか! つ、潰れる! 潰れます!」

 

 感極まったのかスキンシップを取りに行ったゆんゆんが持ち前のどんくささを発揮し、見事につんのめり、めぐみんに抱き着いたのでそれに乗じるように私も抱き着いて二人を抱き締めてやった。

 和気藹々な姦しい遣り取りも十数分もすれば飽きてくるもので、お互いに冷静になり壁に背を預けて各々座り込んだ。

 乗り合い馬車と違って屋根の無い荷馬車は窓席を奪い合う事無く景色を一望できるため、段々と小さくなっていくアルカンレティアを三人で見つめていた。

 

「さて、仕事をしますかねっと」

 

 一応護衛として乗っているので、外の景色に目を奪われている二人を残して私だけ前の方の荷積みのタルの上に座り直す。後方はめぐみんたちが見てくれるので、私は前方左右を見ておくとしよう。

 カルグさんは意外とちゃっかりしているのか、大規模な乗り合い馬車が薄っすら前に見えるタイミングで出発しているので露払いを彼ら彼女に任せて悠々と荷馬車を進めているようだった。

 前方に見えるのは隊商であり、あえて人が座れるスペースを作って商品を積む事で乗り合い馬車としても機能するように工夫しているらしい。人を多くする事で野盗やモンスターの被害を抑えられる他、搭乗代も取れると言う一石数鳥のシステムとの事だった。

 個人運営の行商人であるカルグさんのような人たちはこういった大隊に紛れ込む事はせず、薄っすらと見えるくらいの距離を保って難癖を付けれないようにこっそりと追従するのが処世術なんだそうだ。

 

「実際、俺みたいな一般農村から飛び出して来た奴にはこのやり方が一番得するんだ。勿論、前の隊商が何かしらのトラブルに巻き込まれてたら可能な限り手助けしてやるのは当然の事だぜ。そこらへんの義理はしっかりしねぇと難癖付けられて商いができなくなっちまうからな」

「へぇ、何事も無ければそれで良し、って事ですか」

「そうともさ。安全安心が第一ってな。あっちの速度に合わせなきゃならんから歩みは遅いが、安全に行商できる事の方が大切だ。それを踏まえて俺は保存食を中心に買い揃えている訳よ。アクセルだと携帯食料として保存食は需要が高いから安定するしな」

「成程ねぇ。存外強かだねお兄さん」

「はっはっは! それはお互い様だぜお嬢ちゃん。乗り合い馬車じゃなくこんな小さな行商人の護衛なんざ頼み込むお嬢ちゃんには負けらぁ」

 

 此方に振り返って人の好い笑みを返すカルグさんにこっちも笑みを返しておく。

 こういうちょっとしたコネを作っておくと後々便利になるのが冒険者の生活と言うものだ。二日もあるんだし、彼の性格を知るためにも雑談はしておくに限るしな。

 

「ふふふ、そうかもね。でも、可愛い子が三人も居るんだから役得でしょ?」

「そりゃぁちげぇねぇ! 一人寂しくとろとろと道進むよりか遥かにマシだぜ。それに、アークソーサラーだなんて聞いた事の無い上級職のお嬢ちゃんが居るんだ、役得が過ぎるぜ」

「ふぅん、やっぱりレアなのかね、アークソーサラーって」

「じゃねぇのか? 今日日聞いた事ねぇぜ。しかもお嬢ちゃん紅魔族の子だろ? 紅魔族って言ったら大概アークウィザードって話じゃねぇか。つまりは突然変異か先祖返りかで、優秀な遺伝子が仕事したんじゃねぇかなと俺は思ってるぜ」

 

 勇者候補として別世界から転生しましたとは言えないので、曖昧に笑っておく。

 明らかに外見が日本人の手が入っているのは間違い無いので、過去にそういう特典を持って紅魔族と交わった人が居るかもだし、案外良い線いっている説かもしれないな。

 

「成程ねぇ。そんな優秀な護衛が付いているんだから安心してくれて良いよお兄さん」

「……一撃熊を一人で倒す嬢ちゃんが居りゃ安泰だっての。聞く話だと中位の冒険者グループが辛勝するって強さらしいじゃねぇか。その歳で十四匹も狩れるんだ、こっちとしてもすんげぇ安心できるぜ。しかも仕事熱心なのか、こうして見張りもちゃんとこなしてくれてるしな。いやほんと、そこらの冒険者よりもしっかり冒険者してるぜお嬢ちゃん」

「ふふふ、お褒めの言葉どうも。こっちも路銀が尽きそうだったから渡りに船だったんだ」

「そうなのか? お嬢ちゃんの実力なら依頼は数多だと思うんだが……」

「ギルドでの実績が無いから依頼を受けられなかったと言うオチなんだよね」

「あぁ……、そういやアルカンレティアは実績主義なとこあるよな。地理的に仕方が無いってのは分かるが……」

 

 アルカンレティアに住まうアクシズ教の印象が強いが、良い水と言うのは何も人だけではなくモンスターたちにも恩恵を与えている存在である。

 良い水を吸って成長した野菜などをモンスターが摂取すれば経験値を得る事になり、平均的なレベルが上がるのは当然の摂理と言う事だ。

 そのため、比較的アルカンレティアの周辺には強いモンスターが生息する地帯となるので、冒険者の死亡率などからギルドが実績主義を掲げるのも仕方が無いのだろう。

 近くにアクセルがあるのだから駆け出しはそちらに行けば良い話だしな。

 カルグさんと雑談をしつつ特段異常の無い道を進んで行く。前の隊商がお昼休憩を取り始め、私たちもアクセルまで続く何にもない草原に荷馬車を止める事になった。

 

「では、お昼ご飯を作りましょうか。『アースウォール』」

 

 土壁を作り出す初級魔法の『アースウォール』を使って少し隆起させた場所に即席コンロを拵え、ソウルに格納していた調理器具一式と食材と調味料を取り出す。

 鉄鍋に『クリエイトウォーター』で水を入れて乾物の野菜と暴れ猪の肉を投入し、薪に『ティンダー』で火を付け煮込んでいく。

 岩塩で味を調え、木製の深皿によそってめぐみんたちに手渡していく。

 始めは何処からか取り出した器具に驚いていた様子だったが、手慣れた私の調理風景を見つめるようになり、手渡された乾物スープを受け取ってぽかんとした表情を浮かべていた。

 もっとも、私の普段を知るめぐみんだけがそれに当てはまらず、嬉しそうな顔でスープを受け取り食事を始めていた。

 

「いただきます!」

「色々と気になるところはあるが、まぁ、いいか。すまねぇな、こっちからは塩パンを出させて貰うぜ。足しにしてくれ」

「いえいえ、ありがとうございます。ほら、めぐみんたちもお礼を」

「ありがとうございます! うぅん、塩気のあるパンにおんおんのスープが合いますねぇ!」

「あ、ありがとうございます……。おんおんって料理できたんだね。それも凄い手慣れてるし……」

「一人暮らしが長いからな。それに、めぐみんの朝と夜の食事は私が作っていたんだぞ?」

「そういえばそうだったね……、って、こんなに美味しいのを食べてたのに私のお弁当を奪ってたのめぐみん!?」

「腹が減っては何とやらです」

「はっはっは! こりゃぁうめぇや。長年乾物とかを取り扱ったが、野菜を干した乾物ってのは初めてだ。結構イケる味になるんだな」

「野菜は天日干ししてあげると栄養と味を濃縮できるんですよ。だからこうして煮込むだけで美味しいスープになるのでお手軽ですよ」

「へぇ……、これだけで新しい商売になりそうだ。もし繁盛したらアクセルにも卸すからそんときゃ頼むよ」

「えぇ、物が良ければ大量に買い付けるのでお安くしてくださいね?」

 

 実際、作る手間はあれど干し野菜はかなり美味い。元の野菜がこの世界は美味しいので尚更にだろう。それに乾物状態の野菜は動かないので貯蔵に向く商品として良い分類になる事間違い無いだろう。

 

「はっはっは! 良いアイデアをくれたお嬢ちゃんには特別価格で卸させて貰うさ。今後もご贔屓にってな」

「ふふふ、因みにキノコとかも干すと旨味が強くなってお勧めですよ」

「へぇ、そりゃ良い事を聞いたぜ。実家がキノコ栽培を生業にしてるから帰ったら教えてやらなきゃだな」

 

 無論キノコも動くので大変美味だ。キノコの乾物も今後手に入るとなると料理の選択肢も増えるから嬉しい限りだな。

 そんな主婦目線で会話しているとめぐみんとゆんゆんからの視線を感じた。そちらを見やれば目をぱちくりしており、想定外と言った様子の表情を浮かべていた。

 

「……ず、随分と仲が良くなったんですねおんおん」

「ん? ……あぁ、なんだ妬いてるのかめぐみん。安心しろ。カルグさんは既婚者の方だ。商売相手としては良い関係になるかもしれんが、男女の関係にはならんよ」

「はっはっは! そういうこった! こんな男だが好いてくれた幼馴染が居てくれてな。乾物の方は家内に任せる腹積もりな訳だ。是非、紹介するから都合が良い日にでも会ってくれ」

「えぇ、是非に。幾つか助言ができると思いますので楽しみにしておきますね」

「お、大人だ……。私たちと歳が変わらないのにすんごい大人してる……」

「……ふぅ、おんおんを取られるかと思いました。ほっとしたらお腹が空いたのでおかわりお願いします」

「はいはい。たんとお食べ」

 

 具を多めによそってやりめぐみんに手渡す。

 いつもの可愛らしい満面の笑みで食べ始めたのを見届けてから私も食事を再開する。

 正直な話、男性としての意識の強い私が男性と良い仲になる事は無いだろう。そもそも身体を触らせようとも思えないし、キスをするだなんて以ての外である。

 そもそもの話、不死人である私に生殖機能がちゃんと機能しているかどうか怪しい。今はまだ成長しているから生理が生じているが、全盛期の身体になったら成長が止まるだろうし恐らく生理も止まるだろう。

 別にこの世界のはじまりの火が弱まった訳ではないのでこの身は火の無い灰では無いが、特典を貰う際にダークソウル3のと言ってしまった事もあってその性質の一部を受け継いでいるのが我が身の正体だ。

 人間性を持ち得る火の無い灰もどきと言うべきか、私と言う名の人間性の火が尽きた瞬間に真に火の無い灰となる定めを受けているようなものだ。

 つまり、自意識を確立している間に死ねば亡者に近付き、人間性を手放してから死ぬと火の無い灰として再誕すると言えば分かりやすいだろうか。

 真に火の無い灰となった私の自意識がどうなるかは未知数であるが、きっとソウルを求めて輝きを殺し続ける存在に成り果てる可能性が非常に高い。

 それこそ新たな魔王のような存在に成り果てる事だろう。殺しても死なない悍ましい亡者の王として簒奪の限りを尽くすに違いない。

 ……なんてな。流石に憶測と言うか妄想に近い考えでしかない。

 

「我ながら業が深過ぎるな……」

 

 そうならないようにこの人間性を大切に抱えながら生きなければならない。

 そのためにもそもそも死ぬ事を忌避するべきだと考えた当初の私は里の周りの獣狩りを始めたのだ。紅魔の里周辺のモンスターは非常に手強く、それこそ上級魔法によって漸く打倒できると言う立地が出来上がっている。

 そんな場所で地力を上げれば自然と力が付くと考えた幼い私は弓を握ったのだった。今や呪術師として活動しているが、弓を握れば弓術士としても活動する事ができるくらいの実力を持っている。

 何せ、一撃熊を初めて狩った時の武器は弓なのだから、むしろ単純な技量としては弓の方が軍配が上がるのではなかろうか。

 どうせ死んでも生き返れるしな、と言う背景が私にトライアル&エラーの精神を与えたのだろうなぁ。実際、エスト瓶で大概の大怪我は回復できるし。

 

「あ、食器は洗っちゃうので食べ終わったら此方に」

「すまねぇな。しっかし、初級魔法って奴だろそれ。随分と便利なもんなんだな」

「戦闘に使う事はほぼ無い魔法ですけどね。ゆんゆんもこうして旅路に出るのなら取っておいて損は無いぞ。『ティンダー』と『クリエイトウォーター』はおすすめだ。火打石や水筒要らずだからな。どうせ紅魔族の私たちならこの程度の魔力消費は誤差だしな」

「へぇ……、そうなんだ。丁度スキルポイント余ってるから初級魔法取っておこうかな……ってぇ、あぶなっ!? 止めてよめぐみん! 今指を横から押そうとしたでしょ!?」

「ゆんゆんがおんおんからおすすめスキルを取ろうとしていたので、私も爆裂魔法をおすすめするので取らせようかな、と」

「勘弁してよ!? 流石にポイント足りないわよ!」

 

 私たち紅魔族は多量のスキルポイントを持って産まれるが、其処に加えて成績優秀者であっためぐみんがスキルアップポーションを飲んで漸く手に入る魔法となると相当量が必要になる事だろう。

 スキルや魔法を覚える時は自身のカードをポチポチっとするだけなので押し間違いは意外と多いらしい。今の様に横合いから押されて違うのを取ってしまい、喧嘩になるだなんて事もあったりするので取得する際には場所を選ぶと良いとされている。

 そんなこんなでゆったりとお昼を満喫した私たちは、前の隊商が動き出したのを機に再び荷馬車へと戻った。

 お腹が膨れたのかうっつらと舟をこぎ始めている後ろの二人を微笑ましく思いつつ、一応の警戒を辺りにしていると何やら前の隊商が止まっているようだった。

 

「どうしたんでしょうか」

「んー、ここらで考えられるとしたらジャイアント・アースウォームだろうな」

「どんなモンスターなんですか?」

「畑や土の中にうにょうにょしてるピンク色の細長いの居るだろ? あれが幼体で成長すると数メートル級の大きさになるんだ」

「……つまり、巨大ミミズという事ですか」

「ま、そうなるな。脅威度はあんまり無いんだがその見た目のせいで女性冒険者からは毛嫌いされてるモンスターとして有名だ。土の悪いものを食べてくれるってんで農家にはありがたいモンスターではあるんだがな」

「はぁ……、一応手伝いに行った方が良いですかね?」

「いんや、あれぐらいなら大丈夫だ。ハウンドドッグの群れとか死人が出かねないのは助けに行った方が良いけどよ」

「そうですか……。うわぁ、確かになんかにょろにょろしてる……」

 

 遠目で道路脇からくねっているピンク色の物体が見える。

 剣などであっさりと倒されているが数が多いのか立ち往生が長い。前の積み荷に巨大ミミズの好きなものでもあったのだろうか。

 

「……時間掛かりそうなので手伝ってきますね」

「おう、分かった。確かにちっとばかし量が異常だな。普通数匹ぐらいしか飛び出してこないんだがなぁ」

「めぐみん! ゆんゆん! 私は前に加勢に行くから万が一こっちが襲われたら守ってあげて!」

 

 そう後ろに声を掛けてから前の隊商へと走って行く。到着してみれば前の方が大量に沸いているらしく、護衛らしき冒険者たちもてこずっているようだった。

 

「助太刀します! 『炎の嵐』!」

 

 一声掛けてから右手に呪術の炎を灯し、魔力を込めて地面へと解き放つ。私の周囲に居た巨大ミミズが根元から噴出した炎の柱によってこんがりと焼かれていく。

 駆け寄りながら『薙ぎ払う炎』を詠唱し、鞭状にしなった炎の束が攻めあぐねていた一団の前に居た巨大ミミズの胴を焼き払う。一度、二度と振るい、纏まった数のミミズを炭に変えていく。

 片側の巨大ミミズを討伐できた事で冒険者側が優勢となり、反対側の方はあっと言う間に狩り切られて殲滅する事ができた。

 

「いやぁ、助かったよ! それにしても凄かったがアークウィザードの方かい?」

「いえ、アークソーサラーをしている者です。違う荷馬車の護衛についていましたが、此方の隊商が襲われていたので助太刀に参った次第です」

「あぁ、そうだったのか。態々助けに来てくれてありがとう。近年稀に見る異常発生だったからな、君が居なければ馬車を食い破られてたかもしれないからね」

「お姉さーん! ありがとー!」

 

 乗り合い馬車に乗っていたのであろう少女が私に向って手を振ってくれていた。

 それに手を振り返しながら、私はカルグさんの馬車へと戻って行った。お礼はそこそこにギヴ&テイクな関係のため長居しても面倒しか無いだろうしな。

 戻ってみれば此方も襲われたのか巨大ミミズが数匹道端に転がっていた。焼き焦げた跡があるのでゆんゆんが撃退したのだろう。めぐみんの爆裂魔法だと塵すら残らないだろうし。

 

「ただいま戻りました。近年稀に見る異常発生だったみたいですね」

「おぉ、おかえり。遠目ながら活躍を見てたぜ。君らを雇って正解だったみたいだな」

「いえいえ、それ程でも。……で、めぐみんたちは大丈夫だった?」

「えぇ、私の魔法を使うまでもありませんでしたよ」

「私が! 凄い頑張ったんだけど!?」

「あはは……、お疲れ様ゆんゆん。めぐみんを守ってくれてありがとうね」

 

 ゆんゆんに労いの言葉をかけるとえへへとはにかみながら頷きを返してくれた。

 どうやら活躍する事が出来てご満悦らしい。聞く話によればゆんゆんは目立ちたがらない性格のため、実習でも控え目な評価しか貰えていなかったらしい。

 そのため、こうして実際に巨大ミミズから荷馬車を守った事で少しだけ自信を付けたようだった。

 

「よし、前も進んだし俺たちも出発だ、乗ってくれ」

 

 モンスターとの戦闘の後は剥ぎ取り等を最低限してさっさと出発するのが定石らしい。

 と言うのもモンスターの死骸に他のモンスターが食事しようと集まる可能性があるそうだった。

 それからは何事も無く道のりは進み、予定していた野営ポイントで野宿をする事になった。馬を荷馬車から外してやり、木の杭にロープを縛り付け半ば自由にさせて休憩させながら、私たちも見張りをしつつ夕飯の準備をし始めた。

 

「ふむ、ではゆんゆんの頑張りを讃えるために塊肉でも焼こうかね」

 

 ソウルから暴れ猪の肉塊を取り出し、人数分にカットして鉄板で豪勢に焼いていく。

 その分厚さから三人の視線はステーキに釘付けのようで、誰も見張りをしていなくて苦笑してしまった。シンプルに塩で味付けしたそれを平たい木皿に移していき、乾物野菜スープを深皿によそって配膳していく。

 いただきますの合図の直後に一心不乱に食べ始める三人を見て思わず笑みが浮かんでしまった。まぁ厚さ二センチはあろう塊ステーキだからな、無理も無いだろう。

 私とて食べ飽きてなければ同じように食べていたに違いない。まだソウルに二スタックもあるのでじゃんじゃん食べると良い。

 

「ふぅ……、久々に食べましたがやはり暴れ猪の肉は美味しいですね……」

「あ、これ暴れ猪のお肉だったんだ。初めて食べたかも」

「何言ってるんですか、お昼にも食べたでしょうに」

「あれもそうだったの? それにしてもおんおんって料理上手なんだね。凄く美味しかった」

「あぁ、この腕前なら普通に店を開けるレベルだぜお嬢ちゃん。もし開くとしたら是非食材を卸させてくれ、安くしとくぜ」

「あはは……。まぁ、冬とかやる事が無くなった時だけするのも良いかも知れないな」

「その時はお手伝いしてあげますよ」

「めぐみんが? なら、私も一緒に……」

「ふふふ、そうだね、それも良いな。その時は鉄板屋でも開こうか」

 

 そんな他愛のない雑談をしながら談笑していく。

 隊商の護衛をしているらしい冒険者らしき人が遠くから態々こっちの近くまで見張りに来てくれているようで、視線が合うと親指を立ててサムズアップをしてくるのでそれにこっそりと返す。

 巨大ミミズ討伐の恩恵と言うべきか、此方が少女三人である事を加味してのお節介だろうか。優しい人たちが居てくれて良かったと素直に思う。一応寝ずの番として起きているつもりではあるが、ああして警戒をしてくれる人が居ると心強い限りだ。

 寝袋を敷いて寝てしまった三人の寝息を聞きながら辺りの警戒を続けていく。時折、暇潰しにか此方に冒険者の人たちが遊びに来て雑談をする事もあったが、特段何も無く夜を過ごしたのだった。

 

「……それじゃ、少し仮眠を取るからその間護衛を宜しくね」

「任せてください! 最強魔法である爆裂魔法を操りし私がついてます!」

「あ、おんおん夜の見張りありがとう。安心して寝ててね、私も頑張るから!」

 

 朝食を軽く済ませた後、荷台の余ったスペースに寝転がり、寝袋を枕に仮眠を取る。このまま何事も無くアクセルに着けば良いんだけどなぁ。

 けどまぁ、初めての冒険でもあるのだし、ある程度の傾斜くらいの何かはあっても良いかもしれない。そっちの方が刺激的で楽しいだろうしね。

 ちょむすけを抱き枕のようにしながらその温かさに身を任せて意識を飛ばしていく。

 アクセルについたら何をしようか、そう微睡みながら考えていくと段々と睡魔によって瞼が落ちていく。

 取り敢えず、三人でシェアできる賃貸の部屋でも借りるか。経験のためにパーティはあえて組まないが夜とかぐらいだったら一緒に居ても問題は無いだろう。

 そして、その日にあった事を教えて、貰おう……、かな…………。


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