この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正ありがとうございます。ほんと助かります。


6話

「おんおん! 起きてくださいおんおん! 襲撃です! ゴブリンの群れです!」

 

 そんなとんでもない内容が起きたての私の耳に飛び込み、即座に上半身を起こして辺りを見回す。見やれば先陣を切る形となる隊商の方に緑色の小さい何かが蠢いているのが見える。

 めぐみんの叫び声が正しいのであれば、あれがゴブリンなのだろう。

 知性は低いもののその生命力はしぶとく、他種族の女の胎を使って同胞を増やす糞畜生の代名詞たるゴブリンは群れを成す事で低質を補うとされている。

 

「……起きた。ゆんゆん、めぐみんと一緒に待機。カルグさんを守れ。私は遊撃として打って出る」

 

 中級魔法の使えるゆんゆんが居れば荷馬車を守る事は何とかなるだろう。

 だが、それは前の隊商が全滅しない事が前提だ。あの量が此方に向えばどうしようもない。流石にゴブリン共の孕み袋になる気は無いので始末せねば。

 寝起きでやや機嫌が悪い事もあって睨むようにゴブリンを見やり、ソウルからハンドアックスを取り出してから荷馬車から飛び降りる。

 ゴブリンの武器に毒などが使われていたら面倒だ。左手に獣の皮を重ねて作った獣革盾を装備し、隊商の方へ駆け寄る。

 近寄って来たゴブリンを袈裟切りに叩き切り、追い込まれている冒険者たちを攻めているゴブリンの裏を取るようにルートを取る。

 後ろの方で粗末な弓を握っているゴブリンを見かけたので、アックスを地面に落として弓をソウルから取り出して速射する。この程度の距離であれば顔を狙う事は容易い。

 

「一つ、二つ、三つ……、草原だから見やすくて助かるな」

 

 遮蔽物の無い草原であるからこそ俯瞰して戦場を見れる。脅威となる弓兵を殺せた事で冒険者の前衛への圧が減り、目の前の相手に集中できるようになった。

 一応杖らしきものを持ったゴブリンが居ないか見渡してみれば、一塊になっている所の後方で頭蓋骨で飾り付けた悪趣味な杖を振るうそれっぽいのが居た。

 

「……距離はそこそこだが……、まぁ、当たるだろ」

 

 気持ち強めに弦を引き、頭では無く胴を狙うようにして射ると少し逸れて腰辺りに着弾した。メイジゴブリンは突然の痛みに呻き声を上げ、血走った瞳で辺りを見渡し私を視認する。

 勢い任せに矢を引き抜いたメイジゴブリンが此方に向おうと走って来るが、横合いから魔術師が放った『ファイアーボール』が着弾して上半身を焼かれ絶命した。

 前衛にとって致命的な一撃を放つメイジゴブリンが倒れた事で前線は完全に優勢と化し、瓦解したゴブリンの群れを追い詰める掃討戦へと移行した。

 荷馬車の方を見やるがはぐれたゴブリンが向かっている様子は無いので、此度の戦闘は此方の勝利と言って良いだろう。

 

「……ふぅ、何とかなったな。にしても、巨大ミミズと言いゴブリンの群れと言い、隊商の規模を見て襲い掛かって来るものか……?」

「『カースド・ライトニング』!!」

「なっ、あぶなっ!」

 

 上空から聞こえて来た声を見やれば、此方に向けて手をやるあの時の女悪魔が雷撃を放っていた。咄嗟にハンドアックスを蹴り上げ、避雷針として一撃を躱す。

 どうやらあの女悪魔が裏でモンスターたちを煽動していたのだろう。

 

「ちっ、勘の良い餓鬼だね。ウォルバク様を頭に乗せながら戦うだなんてふざけた真似をしやがってからに! 今日こそ渡してもらうよ!」

「ウォルバク? ……まさかと思うがちょむすけの事を言っているのか?」

「誰がそんなふざけた名前を呼ぶものか! さぁ、ウォルバク様を此方に寄越しな! というか既に代金は払ってるんだからしっかり渡すのが筋ってもんだろう!?」

「知らん。そもそも悪魔風情が道理を語るなよ、経験値として――ソウルを置いてけ」

 

 落ちて来たハンドアックスを受け止め、獣革盾を構えて臨戦態勢を取る。自由に空を飛ばれると厄介だな。ハンドアックスをソウルに変換し、捻じ狂った長柄の杖を取り出す。

 イザリスの杖を模したなんちゃって超長杖である。二メートル程の長さがあるこれならば闇術の展開も合わせてワンチャン当たる可能性が出てくる。

 業を煮やした女悪魔が再び雷撃の一閃を放つ。方向が分かっている魔法なんて攻略も容易いものだ、獣革盾を斜めに構えて受け流すように弾く。

 自然的な雷撃であれば私も死を覚悟するが、魔力の塊である魔法であればある程度の魔力耐性を持つ事で無力化できる。私の血を振りかけて作成してある獣革盾であれば持ち堪えられるッ!

 二度も上級魔法を防がれた女悪魔は驚愕を表情に浮かべて舌打ちし、魔術師系統が苦手とする接近戦を仕掛けるべく五指の鋭い爪を此方に向けて飛び込んで来た。

 

「死に晒せ糞餓鬼ぃッ!!」

「飛んで火にいる何とやらってなぁ! 『闇の刃』!!」

 

 超長杖を縦に構え、先端から人間性の闇を纏った刃を発生させ、三メートル程のリーチになったそれを渾身の力で振り下ろす。

 女悪魔は咄嗟に両手を交差させて『闇の刃』を防ぐ。切れ味は刃が勝るが、それを押し返そうとする膂力は彼方に軍配が上がるため、冷や汗が頬を流れる。

 押し切られ――瞬間、アクセルの方角からとてつもない神々しい光の柱が迸った。

 悍ましい程の超魔力の波動に戦いを忘れて二人で其方を見やる。『闇の刃』の展開時間が越え、ただの長い杖に戻った事もあり女悪魔が踏鞴を踏んだ。

 その好機を逃す私では無いッ!!

 

「しまっ――」

「この距離ならバリアは張れないなっ! 『大発火』!!」

 

 力強く地面を蹴り、吶喊するように突き出した右手から呪術の炎を灯し、魔力を出し切るように『大発火』を発動させ爆炎を生じさせる。

 面での攻撃である爆炎を防ぐ術も無く、超至近距離でモロに食らった女悪魔は勢い良く吹き飛ばされ草原を転がっていく。

 

「めぐみんっ! ゆんゆんっ!」

「やっちゃえめぐみんっ! 『ストーンバインド』!」

「任せてくださいッ! 既に詠唱は済んでいます! 『エクスプロージョン』――ッ!!」

 

 此方の様子を覗っていためぐみんが隙を逃さず、爆裂魔法を発動させる。逃げ出そうとした女悪魔だったが、ゆんゆんの『ストーンバインド』による石の檻に閉じ込められ逃げ場を潰された。

 魔法陣が虚空に迸り、先程の超魔力の波動に迫る程の魔力が女悪魔に収束して爆裂を生じさせた。

 一瞬、世界が止まったかのように音が消え去り、直後凄まじい轟音と風が巻き起こった。

 女悪魔の居た場所は深いクレーターが出来ており、生じた熱で土が一部結晶化する程の光景が爆裂魔法の高威力を物語っていた。

 

「……けほっ、流石は上級魔法の爆裂魔法だな。此処までの威力があろうとは……」

「おんおん! 大丈夫ですか!? 怪我してないですか!? 何処も異常無しですか!?」

「わぷっ、お、落ち着けめぐみん。見ての通り私は無事だ。と言うか怪我してたら抱き着いたら駄目だぞ。絶対凄く痛いからな?」

「だって、二度も雷撃を受けてたじゃないですか!」

「一度目はアックスにぶつけて、二度目は盾で受け切ったから直撃してないから。ほら、ちゃんと生きてるだろ」

 

 わーわーぎゃーぎゃーと涙目で騒ぐめぐみんを胸元に抱き抱えてやる。心臓の鼓動がしっかり動いているのを理解してか段々と腕の中の力が抜けていく。

 

「そ、そうでした……。私今身体、魔力すっからかんで、動かないんでした……」

「……ふふふ、それだけ私を心配してくれたんだろう。嬉しい限りだよめぐみん。君にも怪我が無くて良かったよ」

 

 火事場の馬鹿力辺りでも発揮したのか、私に抱き着いてからぐったりとしてしまっためぐみんを抱き締める。一番美味しい所を持ってかれたとは言うまいよ。

 上級魔法を扱えるとなると上級悪魔の類だったのだろうし、私の火力で仕留め切れたか分からない。と言うか『闇の刃』を受け止められたのが素直にショックだ。

 ちゃんと理力と信仰を上げている筈なんだがなぁと思っていると、おずおずと言った様子でゆんゆんが近寄って来ていた。

 

「ゆんゆんもお疲れ様。素晴らしいタイミングで拘束してくれたね」

「ううん、私の頑張りなんて些細なものだし……」

「まったくもう……」

「わわっ、お、おんおん?」

 

 もじもじと自信無さげに俯くゆんゆんを引っ張り抱き締める。

 私としては二人が無傷で居てくれた事が何よりも嬉しいのだから。

 

「ゆんゆんの拘束が無ければあの女悪魔を逃がしてたかもしれないんだ。やるべき所でしっかりと仕事したんだ。それだけは自分を褒めてあげなよ」

「……うん。なんだか、おんおんってお母さんみたいだね……」

「あはは……。ま、今は甘んじて受け止めてあげるよ」

 

 まるで双子のように私の胸に抱き着く二人を微笑ましく見守る。

 暫く抱き着いたままだったが、カルグさんを初めとして冒険者の皆々が集まり始めたので二人を解放する。

 もっとも、めぐみんは急性魔力欠乏症に掛かっているので、ソウルから取り出した魔力を込めたマナタイトの欠片を握らせて充填させつつ、肩を貸してやる。

 

「まさか上位の悪魔が出てくるとは思わなかったが、君たち三人が居てくれて本当に良かった!」

「そうだな。そっちの長杖の子は厄介なゴブリンを始末して援護もしてくれたし、本当に助かったよ」

「君たちの名前を教えてくれないか? 恩人の名前を知っておきたくてさ」

 

 そんな前振りをされてしまえば止まらない娘が居るんだが……。

 多少回復したのか産まれ立ての小鹿のように、足をがくがくさせながら立ち上がろうとしためぐみんを仕方が無く手助けしてやると案の定名乗りをしようとしているらしかった。

 

「我が名はめぐみん……! アークウィザードにして上級魔法を操りし者、爆裂魔法の申し子……っ!」

「わ、わた、我が名はゆんゆん! アークウィザードにして中級魔法を操りし者、次期族長の娘!」

「……はぁ。我が名はおんおん。アークソーサラーにして上級呪術を操りし者、暗き魂を持つ混沌なる呪術の申し子」

 

 紅魔族流の名乗りを行なった二人に合わせて一応私も名乗っておく。二人と比べてテンションは低いが、ちゃんと名乗りを行なったから問題無い事だろう。

 紅魔三人娘として認識された私たちは前評判を突っぱねる程の評価を貰ったようで、カルグさんも隊商の後ろについて良い事になり護衛が格段に楽になった。

 まぁ、あの女悪魔がモンスターをけしかけていたのだろうし、この後の事を考えると杞憂な気もするが、好意は受け取っておくに限るし良いか。

 

「……落ち着いたらどっと疲れて来たな」

「あはは、そうだね。おんおん凄いわちゃわちゃにされてたもんね」

「流石は私のおんおんです……、おんおんは凄いんですから……」

 

 三人で荷馬車の後ろで並び座り、既に一角が見え始めたアクセルへと向かって行く。めぐみんはすっかりおねむなのか、私の肩に頭を乗せうとうとと微睡み始めて寝言めいた言葉を漏らしていた。

 緊張が抜けたのかゆんゆんも私の肩に頭を任せて眠りに就いてしまった事もあり、何とも言えない時間が生まれてしまった。

 まぁ、此処までくれば襲撃があったとしてもアクセル側からも救援が来るだろう。私も少し寝てしまうか……。

 

「申し訳無い……、完全に油断してました」

「はっはっは! 仕方ねぇさ、お嬢ちゃんが一番活躍してたしな!」

 

 だなんて思ってた時には寝てしまっていたようで、気絶するように意識を落とした事でアクセルへと辿り着いた頃に肩を揺すられ目を覚ます始末。

 護衛だと言うのに初歩的なポカをしてしまった。戦闘疲れで寝入ってしまうとは非常に不覚だった。

 多分、両肩にめぐみんとゆんゆんを乗せていたから温かさでつい眠りに落ちてしまったのだろう。何たる不覚だ、恥じ入る様に両手で顔を覆わざるを得ない。

 

「そんじゃ、依頼料だが、今後もご贔屓にってんで一人頭十五万エリスだ! 持って行ってくんな!」

「おお! 太っ腹ですねお兄さん!」

「え!? そ、そんなに貰って良いんですか!?」

「無論だとも。是非受け取ってくれ!」

 

 めぐみんとゆんゆんの対照的な反応に気を取られつつ、私もまた驚愕で目を見開いていた。

 十万エリスも上乗せされているがいったい何が……、と思ったが、ミミズの群れにゴブリンの群れに上位悪魔の来襲を撃退してれば十分な内容だった。

 実際、しっかりと守り切ったからカルグさんには一つたりとも傷もついていないし、最後の詰めは甘かったが護衛と言う観点からはほぼ満点か。

 

「すみません、お言葉に甘えさせて貰いますね」

「いやいや、正当な報酬だぜ。あんなモンスターの群れに出くわしちまって、荷馬車も俺も損害が無いってなりゃ十分過ぎる話だ。貰い過ぎってんなら、次の機会があった時はまた俺の荷馬車に乗ってくれりゃいいさ! お嬢ちゃんとの会話も楽しかったしな」

「それは此方もです。商いの方頑張ってくださいね」

「応ともさ。お嬢ちゃんたちも冒険者として名を馳せてくれよな! ではな!」

 

 そう朗らかな笑みを浮かべ、カルグさんと荷馬車はアクセルの道を進んで行った。

 それを見送った私たちは手渡された布袋を仕舞い込み、アクセルの街を見渡した。

 人種多様のごった煮と言うべきか、流石は駆け出し冒険者の街だ。

 冒険者となるべく奮起する姿や音頭を取って何処かに向かうパーティや、途方にくれる青髪の美人さんを冴えない黒髪の少年が宥めていたりと、比較的年齢が若い層が散見できる。

 

「では、想定以上の報酬も貰えた事だし、これを資金に家でも借りようか」

「賛成です! これだけあればそこそこの一軒家あたり借りれると思います」

「え、あ、その、しぇ、シェアハウスだよね? わ、私も……」

 

 もじもじとか細く不安を口にするゆんゆんに苦笑してフォローを入れる。

 

「君も一緒だよ、ゆんゆん」

「そうですよ、流石にこの流れでハブにはしませんって」

「そうだよね! 痛っ、夢じゃない! わーい! お友達と共同生活なんて夢に見たっきりで叶えられるだなんて思って無かったのに叶っちゃった!」

「……もはや何も言うまい。さて、それでは不動産を冷やかす前に冒険者ギルドへ行くか。取り敢えず新人冒険者としてやっていく事を踏まえても挨拶に行こう」

「分かりました! 取り敢えず、おんおんに任せますね!」

「全力で丸投げするんじゃないよめぐみん……、まぁいいけどさ」

 

 実質リーダーみたいな役割してるしね。保護者として引率はするつもりだから良いっちゃ良いんだけども、少しは考えて欲しいなぁと今後の事を思って考える。

 冒険者ギルドへの道はそこそこ近く、やはり駆け出し冒険者の駆け込み寺のようなものだからか入口から近い立地に作っているらしかった。

 中へ入ると煽情的な恰好をしたギルド員の女性が給仕をしているのが先ず目に入り、次に昼間と言うのに既に酒を飲んでいる一団や強面で屈強な男性たちが見えた。

 成程、基本荒くれ者である冒険者を管理するために酒場も経営しているらしい。

 非常に合理的だな。厄介な客として振舞えばそのまま冒険者の資格を失う羽目になる事だろう。

 特に酒が入って羽目を外しやすい酒場をギルドが運営しているとなると、そういう輩も居る事を認知しての事なのだろうな。

 いや、単純に交流の場として運営しているのかもしれないな。所謂王道なRPGのお約束と言うべきか、酒場で仲間を募ってパーティを組むと言うのは意外と合理的なのだ。

 座って話せる場をギルド側が整えている事で、時間潰しと並行して同業者の動向を見られるのだから。

 聞き耳を立てて情報を得たり、駆け付け一杯と言わんばかりにジョッキ片手に話しかけに行っても良し、交流の場の大本がギルドなので双方安心して出逢える訳だ。

 

 

「おぉ……、これが冒険者ギルドですか。何と言うか、セオリー通りと言うべきか」

「ふむ。これからお世話になる場所だからな。ある程度の礼節を忘れずにな」

 

 一応釘を刺しつつ、冒険者ギルドの受付をしているカウンターの方へ歩いて行く。

 ……何故か、三列ある内の一つが大盛況で残り二つが閑古鳥状態だった。

 奥を見やれば豊満な胸の谷間を晒したセクシーな受付嬢に男性冒険者たちが並んでいるようで、思わず私たちの視線が冷たいものになる。

 空いている方の受付に向かうと片方の受付嬢のお姉さんが手招きしてくれたので其方に歩いて会釈をして対面する。

 

「こんにちは、此方が冒険者ギルドの受付で宜しかったですか?」

「ええ、そうよ。私はエリー・ミアットソン。ギルドの受付嬢を担当しているわ」

「これは御丁寧に。私は紅魔族のおんおん。眼帯をしているのがめぐみんで、もう一人がゆんゆんと申します。今後、アクセルで活動をするのでご挨拶に来ました」

「へぇ紅魔族……紅魔族!? え? き、聞き間違いじゃないわよね?」

「ええ、紅魔族と名乗りましたが……、どうかなされました?」

「いえその、……大体紅魔族の方はテンションの高い方が多いので」

 

 エリーさんの言葉に瞳が死んでいくのを感じた。

 いやまぁ、そうだよな。初対面だし紅魔族と言う偏見は切っても切れない腐れ縁のようなものだしな……。

 意気消沈とした私の代わりにめぐみんがずいっと前に出て無い胸を張った。

 

「ですが、おんおんは違います! おんおんは基本的に礼儀正しく謙虚でテンション低めのダウナー系なのです!」

「……めぐみん。それフォローのつもりか? まぁ、言いたい事は分かるが、普通に言って良いんだぞ」

「…………おんおんは紅魔族の常識に囚われない性質を持っているのです」

「何と言うかもう……、可愛い奴だなめぐみんは。別に貶されている訳じゃないから安心しろ。常識人でびっくりしてるって意味だから。うちの里とは逆の意味合いだから」

「あ、そうなんですか? てっきり、どうせこいつもやべー奴だろ的なニュアンスかと」

「……いえ、その、御気分を不快にしてしまったのならごめんなさいね? 紅魔族の方を受付する時って大概が個性的な人たちばっかりだったから驚いちゃったの。決して悪態の意味は無いわ」

 

 まぁ、そりゃそうだ。仮にも冒険者ギルドの受付だ。駆け出しの街なら尚更だろう。

 取り敢えず、此処での基本的な案内を聞いて使い方を把握しておく。

 基本的に依頼はあちらのボードに貼られているのを引っぺがして此処に持ってくるらしい。中には事後受付の物もあり、そう言うものは剥がさないでくださいと言う注釈が入っているとの事なのでよく確認するようにしよう。

 

「と、言うのが此処での案内ですね。他に聞いておきたい事はありますか?」

「あぁ、一つだけ。此方では冒険者向けの賃貸などは斡旋していますか?」

「賃貸、ですか。基本的に駆け出しの方は馬小屋か宿を取る形になりますね」

「先立つ物が幾らかある、と言っても?」

「……失礼ながらカードを拝見してもよろしいですか?」

「あぁ、構わないが……、はい」

 

 私のカードを受け取ったエリーさんはどれどれと言った様子で確認していくが、段々と顔色を変えて此方とカードを何度も見比べるように顔を縦に振り始めた。

 小首を傾げ訝しむものの、ありがとうございましたとカードを返却されたので受け取る。

 

「えぇと、おんおんさん。貴女の討伐記録を確認させて頂きましたところ、ギルドでの規定を超える実績をお持ちのようなので幾つかおすすめを案内できます。此方の封筒を不動産屋にお渡し頂ければ大丈夫です。既に話は通っていますので」

「ふむ? 因みにどう言った規定なんです?」

「そのですね。ギルドから賃貸等の案内をするにはある程度の実力者である事が条件付けされていまして。過去に駆け出しの方を案内して一ヵ月も借りれなかった方が多く居まして、そのような規定を定めたそうです」

「あぁ、冒険者は不定所得だから賃貸料が払えなかったのか。成程、理解しました。では、此方を渡せば良いのですね?」

「はい。冒険者が拠点としやすい大通りの物件の幾つかをギルドが預かっているんです。王都からの緊急クエストで高位冒険者の方にお貸しする時に使われたりしますね」

「ははぁ、それなりにする、と」

「まぁ、そうなります、はい」

 

 冒険者は準備七割行動三割だなんて言うくらいに前準備と言うものが肝要だ。

 毒を持つモンスター相手に解毒剤を持ち込まない馬鹿は居ないと言う事だな。

 そのため、拠点からそれらの店舗へのフットワークが軽ければ、準備の時間を効率化して依頼をこなしやすい環境にもなる訳だ。

 そうなると金回りも良くなるし、賃貸料も確り払える。なのでそれをできる相手にだけギルドがおすすめする訳か。

 ……良し、一度普通に聞いてからこれ出してみるか。最初からこれ出したらボられそうだし。

 カルグさんから色々と雑談の際に聞き及んでいる事もあって、鵜呑みだけはしないように気を付けねばなるまい。

 

「成程、分かりました。ご助力ありがとうございます。早速不動産屋に行ってみますね」

「お力になれまして幸いです。どうぞ、お気をつけて」

 

 受付から離れ、二人を連れてギルドから出て行こうとすると入口近くで飲んでいる強面の男性と目が合った。

 屈強な体躯に半裸姿、極めつけは睨み顔に目元の傷跡。明らかにヤーさんと言うか、裏家業な見た目の人物に会釈だけしてそそくさと入口へ向かう。

 

「おい、そこの嬢ちゃん」

「な、なんでしょう?」

 

 ――が、呼び止められてしまった。何だ、小さいガキはママのおっぱいでも吸ってろ的な侮辱と嘲笑を投げかけてくるのだろうか。

 

「不動産屋は此処から出て左に真っ直ぐ突き当たりまで歩いて右に曲がった先にあるぞ。家の形をしている看板を出しているから分かりやすいだろう」

「あ、御丁寧にありがとうございます」

「構わんさ。ギルドから紹介を受けるような実力を持っているとなれば、共同する時もあるだろう。その時は宜しく頼むぜ嬢ちゃん」

「此方こそ、その時には宜しくお願いします」

「応」

 

 めっちゃくちゃ良い人だった。心成しか微笑む姿の陰に父性が見える。見れば左手の薬指に指輪もあるし、凄い家庭的な人だこの人。

 人は見かけに依らないな、そんな教訓を得た私たちは歩みを進めた。

 

「おっと、すみません」

「いえ、此方こそ」

 

 入口で黒髪の少年と美人なお姉さんと対面してしまい、お互いに会釈してすれ違った。

 さて、不動産屋で良い物件が見つかると良いのだが。流石に家を建てるとなるとローンを組んだとしてもそれなりにかかってしまうからなぁ。

 どんな家が良いか二人に尋ねてみれば、私に一任するだなんて言葉が返ってきてしまった。

 

「その、恥ずかしい話ですがおんおんに依存した生活になると思うので、少しでもおんおんが暮らしやすい家の方が良いかな、と思いまして」

「えっと、私もほとんどお母さんにして貰ってたからあんまりそう言う事分からなくて……」

「……まぁ、内装は殆ど一緒だろうし、立地で考えるか。出来るだけギルドから近い方が良いだろうしな。疲れた身体でとぼとぼ歩くのは嫌だしな」

「それもそうですね。まぁ、私の場合一発撃ったら動けなくなるのですが!」

「胸張って言う事じゃないぞめぐみん……」

 

 どや顔で言うめぐみんに苦笑しつつ、そう言えば伝え忘れていたな、と思い出した。

 

「あぁ、因みに私はソロで活動するから二人はパーティを見つけるんだぞ」

「「え゛っ!?」」

「今回の護衛依頼で思った事だが、私が居ると二人の活躍の場面が減るからな。冒険者として実力を付けるためにはそれでは意味が無いしな」

「そ、それじゃあ力尽きた私を誰が運ぶんですか!?」

「魔力を込めたマナタイトを貸してあげるから自力で戻って来るか、パーティメンバーに運んで貰うんだな」

「わ、私パーティに入れる気がしないんだけど!?」

「それも含めて族長修行だろう。入れないなら作ると良いぞゆんゆん。戦士、プリースト、シーフ辺りを募集すると良いぞ。中級魔法を扱えるゆんゆんなら何とかなるだろう」

 

 私の両腕にしがみついて泣きついてくる二人の懇願を心を鬼にして突っぱねていく。

 すまないな、めぐみん、ゆんゆん。私もしたくてしている訳じゃないんだ。

 ただ、単純に私が居れば良いやと言うパーティを結成して二人の成長を止めたくないんだ。

 上級呪術を使える私は二人のポジションを両方取れる万能枠だ。ハンドアックスや『闇の刃』で前衛もできるし、何なら弓もできる。

 正直、私一人で大概が何とかなってしまうので、二人に出番を譲ろうとすると私の成長の機会が失われてしまう。

 それではアクセルに来た意味が無くなってしまう。なので、此処は我が子を千尋の谷に突き落とす思いで自立を促すしか無いのだ。

 

「まぁ、その代わり家事や食事などは私が請け負うから二人は出来る限り頑張ってみるんだ。生活費は勿論毎月幾らか入れて貰う予定だからその分くらいは稼いでくるんだぞ」

「ど、どうしてもですか?」

「無論だ。なら、里に帰るかめぐみん。この程度できなきゃ帰った方が良いぞ」

「ぐぬぬ……、それも、そうですね。良いでしょう! 受けて立ちます!」

「よしよし、その意気だ。ゆんゆんもライバルがこうして奮起しているんだ、頑張り所だぞ」

「うぅぅ、めぐみんが頑張るなら私も頑張らなくちゃ……」

「もしもの時は手助けしてやるからな、これも経験だ」

 

 項垂れる二人を連れて不動産屋で大通りの物件を借りる事になった事で拠点もできた。

 賃貸料も月々十万エリスと言うそこそこなお値段ではあるが、払えない額では無いので利便性を考慮して決定した此処が私たちの始まりの場所だ。

 これから沢山大変な事に見舞われる事になるだろうが、それもまた経験だと成長せねばなるまい。何せ、将来は魔王を討伐せねばならないのだからな……。

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