この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正ありがとうございます。
見落としが、見落としが多い……。

感想等も励みになります、ほんとありがとうございます。
自己肯定感低いので評価があると自信に繋がります。


7話

 アクセルの大通りに面したシェアハウスで暮らす事二週間が経った。

 これと言って大事は無く、冒険者としての生活に段々と慣れつつある段階だ。

 

「……ふわぁ。もう朝か。ねむ……」

 

 暖かな布団が恋しいが泣く泣く上半身を起こして伸びをして眠気を飛ばす。こうする事で一日が始まった気がする、そんなルーチンの一つになっていた。

 布団の中で丸くなっていたちょむすけもあくびをして這い出て、のそのそと定位置に着くが如く私の頭の上に乗っかる。

 すっかり私の頭の上を気に入ったのか、脱力しているように見えるのにしっかりとバランスを取る器用なちょむすけの行動に私はもう慣れていた。

 シェアハウスとして使っているこの家は二階建てになっており、一階にはリビングや応接室などに使える広めの部屋があり、二階には個人で使えるような個室が備わっている。

 そのため、一階を共同スペースにして二階を個人の部屋として利用している。

 今はまだ生活雑貨が最低限あるくらいで、殺風景極まりない光景が私の部屋の状況だ。正直、小さな庭の方に螺旋剣を突き刺した篝火を設置できた事でほぼほぼ満足してしまったのが理由である。

 めぐみんは厨二チックに染め始めているし、ゆんゆんはお友達兼お喋りの相手として観葉植物を買っているようで、自分だけの部屋と言う物を好きにアレンジして楽しんでいるらしい。

 ベッドだけは各自質素なものを取り敢えず用意し、テーブルや棚なども似たような感じの値段の物を共有資産から捻出して生活ができるように整えている。

 ……まぁ、私の要望が大体キッチン周りの時点で二人からは察したような視線を向けられてしまったが。

 

「さて、朝ごはん作るか……」

 

 家事を率先して行うと宣言してしまった以上、手を抜くのは筋違いと言えよう。

 パジャマ姿で一階に降り、キッチンへと向かって口を濯いでからコップに水を『クリエイトウォーター』で入れて飲み干す。

 こうして賃貸の物件を借りている訳だが、一番驚いたのは水回りだ。蛇口を捻れば綺麗な水が出てトイレも水洗式。小さなお風呂も浴槽が付いており、前世での生活を彷彿させる充実っ振りに眩暈がしたくらいだ。

 手を入れ過ぎだろ日本からの転生者。ファンタジーの世界に住んでいる筈なのに何処か日本らしさを感じさせる物が多過ぎる。

 ……と言っても、同世代の女の子と同棲して食事や家事をしているのは前世とは掛け離れた生活ではあるのだが。この性別に変わってから十三年も過ぎた訳で、流石に女性らしい考えや身の振り方をする事も板についてきた事だろう。

 魔力が続く限り中にフリーズを放ち続ける魔導冷蔵庫の中を見やれば、幾つかの食材が残っている。どれもこれも中途半端な量なので、朝は簡易にしてお弁当にサンドイッチを拵えるか。

 献立を考えながら食材を取り出し、慣れた手付きでソーセージをフライパンで炒め、皮が弾けた頃合いで生卵を落として目玉焼きを作っていく。

 空いたコンロの方でフライパンにバターを落として溶けたらパンを焼いていく。トースターが無いのでフライパンで焼き目を付けるしかないのだ。

 

「よし、良い焼き加減だ」

 

 皿へ移したトーストの上に目玉焼きを置いて、ソーセージを二本ずつ添える。平行して乾物野菜を戻しつつ煮込んだ野菜スープの味を確認する。

 野菜のコクのある美味しいスープが出来上がり、味見のための小皿をシンクへ置く。

 野菜を天日干しするだけで簡単に作れるので乾物野菜のストックはしっかり作っているため、こうして日常に使うだけの量は生産しているのだった。

 こうして住まう家も手に入れた事だし、燻製とかも手を出してみたいものだな。塩漬けの干し肉は正直味がストレート過ぎてつまらないんだよな。

 燻製と言えばハムか。暴れ猪の塊肉でハムでも作ってみようか……。

 出来上がったそれらをテーブルに配膳し、お弁当のためのパンも焼いていく。

 流石日本人の手の入った街と言うべきか、食に関するあれそれが行き届いている印象を感じる。

 何せ、値段が高めな輸入品を取り扱う店で数種類の米が売られているのを見た時は驚いたものだ。ついでに味噌と醤油も手に入ったし、和食が恋しくなった時の備えは十分だ。

 始めちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いても蓋取るなってな。釜炊きするのも手慣れたもんだ、今じゃ何となくであるが匂いで状態が分かるようになってきたぐらいだし。

 

「……随分と手慣れたもんだなぁ」

 

 冒険者として自立を促したあの日から私は主にソロで活動していた。

 理由は単純な事でヘイト管理が一人だと楽だから、と言うのもあるが、腕の立つ冒険者として周知されるべく中位のクエストに手を出すためでもある。

 初めのうちはエリーさんからも苦言を呈されたものだが、今や普通のように依頼を受け付けてくれるようになった。

 そして、それはギルドでの立ち位置も確立してきたという意味でもあり、ちらほら注目される事も増えて来た。

 先日も傭兵の如く他のパーティに誘われて共同を行なった。自分の有用性を魅せる機会と言う物は中々気持ちの良いもので、臨時の助っ人として程良い評価を得る事ができた。

 クエストボードに傭兵として活動する旨のものを貼っておいたので、今後も共同の依頼は増える事だろう。

 理由としては自身の成長に繋がるから、と言いたいものだが実際のところは違ったりする。正直に言えばめぐみんとゆんゆんのためだ。

 報酬を貰う際に、紅魔族の友人たちを気に掛けて欲しいとお願いする事をしている。

 正直言ってゆんゆんは兎も角めぐみんは爆裂魔法一本であるため使い辛いし、役割が薄い。そのため、前評判でパーティ組みを断られる可能性が出てくる。

 そのため、一度でも良いから組んでみて上げて欲しいと私がお願いをしている訳だ。

 もしかしたら、めぐみんやゆんゆんを有効に扱えるパーティが居るかもしれない。そんな淡い気持ちを抱きながらお節介を焼いているのが実情であった。

 実際、めぐみんは爆裂魔法の事をクエストの途中まで隠してポンコツを晒しているし、ゆんゆんに至ってはそもそもパーティに入る事もできておらずギルドで一輪の花と化している。

 非常に頭の痛い有様な訳だが、二人とも自分なりに頑張っているらしいので応援だけをしていると言うのが現状である。

 

「さて、二人を起こしてくるか……。まったく、お寝坊さんめ」

 

 こうして賃貸ではあるが持ち家がある事で二人は切羽詰まって依頼を受ける必要は無い。生活費が足りなければ私が補填すれば良いだけだしな。

 二階に上がりながら前世の母もこんな気分だったのだろうかと苦笑してしまう。手の掛かる事で大変でもあるが、それもまた可愛らしい事だと許せてしまう。

 正しく家族と言う感覚で私は二人に接している。まぁ、二人からはどう思われているかは分からないが。

 二階に辿り着き、先ずはゆんゆんの部屋の方へ足を運ぶ。単純に寝起きの手間が掛からないからだ。

 

「おーい、ゆんゆん。朝だぞー」

 

 ノックしながら声を掛けるが返事はない。すっかり熟睡しているらしかった。

 ドアノブを回して中へ入るとこざっぱりとしていながらも所々に観葉植物が置かれた光景が広がる。時折露店の方でぬいぐるみを見ている時があるので、そのうちそれらも並べられるのだろうな。

 ベッドで健やかな寝息を立てているゆんゆんに近付き布団を剥ぎ取る。寒さから縮こまったゆんゆんに苦笑しながら声を掛けた。

 

「ほら、ゆんゆん。朝だぞ。起きるんだ」

「うぅん……、おかーさん、まだねむぃ……」

「朝ごはんできてるから早く起きるんだゆんゆん。此処は実家じゃないぞ?」

「もうすこししたらおきるー…………、っておんおん!? あっ、そうだった、此処家じゃないや……」

「まぁ、私たちの家でもあるがな。眠気は飛んだようだし、顔を洗ってきな」

「はーい……」

 

 気が緩んだ姿を見られてか恥ずかしそうに顔を赤らめるゆんゆんにそう声を掛けて部屋を出る。さて、次はめぐみんだな。

 

「おーい、めぐみん、ご飯だぞー」

 

 めぐみんの部屋にノックをしながら声を掛けるがやはりと言うべきか応答が無い。

 やれやれと苦笑しつつ中へ入る。爆裂魔法カラーと言うべきか雑貨やカーペットなどが紅系に統一されており、そこらの露店で買ったのだろう厨二心を擽られそうな置物などが散乱している。

 ゆんゆんもだが衣類をそのまま放り捨てる習慣は無いためそこだけは安心して良いだろう。冒険者と言うのは身体が資本であり、まぁ何を言いたいかと言うと汗をかく仕事が多いという事だ。

 そのため、横半分に切った空のタルに衣類を入れて洗剤と共に『クリエイトウォーター』でじゃぶじゃぶと洗濯板で洗う必要が出てくる。

 衣類を出してくれないとそれらの手間が二度手間になるので、しっかりと言ってある二人はきちんとお風呂の後に指定した空のタルに衣類を入れてくれるようになった。

 ……まぁ、此処に出さないのは回収しないし洗わないと言ったのが効いているのだろう。

 やはり、女の子であるし衣類は清潔な物を身に着けたいしな。

 この世界にはパンツはあるが、何故かブラジャーが無く薄い肌着が一般的に使用されている。そのため、でかい人は戦闘中や走っている時ばるんばるんしているのをたまに見かける。

 ま、私とめぐみんにはあんまり必要の無いものだが、ゆんゆんも居るのでちょちょいと裁縫で胸当ての肌着を作り、お手製ブラもどきを作ったところ中々良い感触を得られた。

 成長期である私たちくらいの世代だと着ズレによる胸の痛みが結構あるようで、二人もそうだったのか嬉しそうにしていた。

 

「……ま、私はそろそろ成長が止まり始めてるからか痛みはもうあんまり無いんだけどな……」

 

 ぺたんすとんつるん。あえて言わないが私の体型はそんな感じである。

 まぁ、いいけどさ。あんまり必要だと思って無いし……。

 ぐっすりとすやすや寝ている寝相の悪いめぐみんを見ながら微笑みを浮かべる。

 めぐみん理論だとこれからも伸びる魔力に比例して胸も成長するらしいからめぐみんの憂いも解消される事だろう。そのためにも健康的な食事を心掛けているしな。

 布団を剥ぎ取り、これまた同様に丸く縮こまっためぐみんを起こすため肩を揺らす。

 

「ほら、めぐみん。朝だぞ。ご飯無くなっちゃうぞ」

「ごはん……、おんおん……? ふぁあ、もう、朝ですか……」

 

 ぼんやり眼で上半身を起こそうとして力尽きる様子に苦笑しつつ、伸ばされた手を引っ張って手伝ってやる。

 ふにゃふにゃ顔で「ん」と此方に両腕を伸ばすめぐみん。やれやれ、甘えん坊だなぁめぐみんは……。

 こんなに可愛らしく頼られてしまえば仕方が無い。両脇に手を入れて抱き起こし、床に立たせてやると私に寄り掛かるようにして抱き着いてきた。

 

「すっかりおねむだな。昨日夜更かしでもしたのか?」

「その……、今後爆裂魔法をどうやって強くしていこうか考えていたら途中で寝落ちしてしまって……」

「あぁ、それで寝不足なのか。駄目だぞ、めぐみん。冒険者たるもの身体が資本、ちゃんと睡眠は取らなくちゃだぞ」

「はぁい……。ん……、すみません、そろそろ自分で立ちます」

「ああ、そうしてくれ。朝ごはんできてるから顔洗っておいで」

「そうします……」

 

 ふらっふらと小刻みに揺れながらも自分の脚で歩いて行くめぐみんの後姿を見送り、今日もやり遂げたと軽く伸びをする。

 ……同性とは言え、根っこが男性であるからか、それとも匂いフェチでも発症したのかめぐみんたちの部屋の生活臭が妙に気になってしまう。

 その上、甘えたがりなめぐみんに抱き着かれたりすると寝汗の匂いなどがダイレクトに鼻孔に飛んでくるので尚更に興奮してしまう。

 まぁ、そんな素振りを見せないように心掛けているから大丈夫だとは思うけどな。そうでなきゃ、こうしてシェアハウスが続く訳も無し。

 

「さて、私も朝ごはんにするかね」

 

 めぐみんの部屋から出て一階のリビングに戻る。パジャマ姿でぽわぽわしているゆんゆんと顔を洗ってしゃっきりしたらしいめぐみんが席に座る。

 三人で基本的に使う事もあり顔を合わせやすい円卓状のテーブルを使っているのでお互いの顔がしっかりと見やすい。会話する時も両隣に真横に居るよりも斜めの方が楽だしな。

 既に座っている二人と私の分の牛乳をコップに入れて配膳し、私もまた席に座る。

 手を合わせて「いただきます」と声を揃えて朝ごはんを食べ始める。

 

「んー……、この質素でありながらしっかりと美味しいおんおんの目玉焼きトーストは最高ですね……。私好みにパンはカリっと目玉焼きも半熟ですし……」

「あれ? めぐみんのは半熟なんだ。私は固焼きが好きだから美味しいなって思ってたんだけど……」

 

 二人の視線が交差し、小首を傾げてから此方を見やる。いや、普通に好みに合わせて焼き加減を変えているだけだぞ?

 

「そりゃ、君らの好みくらい把握してるからね。めぐみんには半熟で、ゆんゆんには固焼きのを作ってるよ」

「へぇ、流石はおんおんですね。ありがたいです」

「おんおんはちなみにどっち派なの?」

「ふふふ、中間くらいだよ。だから、二人の分を作るのも手間じゃないのさ」

 

 まぁ、どちらかに偏らないようにそうしているだけで、前世ではゆで卵にして潰してマヨネーズを混ぜてた。

 輸入品店にもマヨネーズは無かったので自作する事になるのだが、植物油と卵黄を混ぜ合わせる事もあり、生で食べられる鶏卵を見つけられていないのが理由でもある。

 食中毒を起こしてあいたたたーとなるのは流石に嫌だしな。何処かに生で食べられそうな鶏卵を作る農家さんは居ないものかね。

 どっちつかずの解答に二人は納得してくれたのかトーストを齧るのに戻ってくれた。

 調味料の方はあまり着手できていないので、少量の味噌や醤油を使う訳にもいかない。あくまで私が買った嗜好品のようなものだし、和食を作れる食材が足りてないのもあって食べ損ねている。

 んー、でもまぁバターはあるし夕飯に暴れ猪のステーキをバター醤油で食べるってのも良いかもな。一応試食させて抵抗が無ければ使って行けばいいし。

 ……でもまぁ、高いんだよなぁ醤油と味噌。小瓶で十万エリスくらいするし。

 大豆を仕入れて自家製のを作るか? 温度の調整も魔法を使えば上げ下げは容易だしな。

 ……温度計って売ってただろうか。ガラスの中に水銀が入っているのは覚えているのだが、如何せん原理が思い出せない。でもまぁ、密閉空間で上下するとなれば膨圧辺りだろう。

 熱による膨張で目盛りを上下してるんだっけか。まぁ、そこらへんは色々と試行錯誤すれば良いだろう、時間はあるしな。

 

「「御馳走様でした」」

「お粗末様でしたっと」

 

 シンクの方へ使用した皿を回収してささっと洗ってしまう。浸け置きする程の汚れでも無いし、汚れた直ぐに洗ってしまう方が楽なのだ。

 

「そう言えば、二人は今日はどうするんだ?」

 

 と、背中越しに尋ねてみれば沈黙が返って来た。

 まぁ、言わずもがな、と言うべきか。パーティ加入の進捗が悪いのだろう。

 めぐみんは一発屋が故に、ゆんゆんはコミュニケーション能力の低さ故に、中々パーティに定着する事ができていない状況なのだから。

 

「その、やっぱり三人でパーティ組みませんか? 何処も一度は受けてくれるのですが、私が爆裂魔法しか使えない事を知ると脱退を余儀なくされまして……」

「い、良い考えだと思うなぁ。わ、私もパーティを募集してるけど誰も来てくれなくてギルドの一角で暇潰ししてるだけだし……」

「そりゃあんな怪文書みたいな募集してたらそうなりますよ。ゆんゆんが欲しいのはパーティメンバーの筈なのに、何故かお友達を募集してますし……」

「うぅ、だって、アクセルに来たんだからお友達できるかなって思ってぇ……」

「……うぅむ、前途多難なのは分かるがなぁ……」

 

 こっそりお膳立てしても本人たちが日和っているので意味が無さそうだ。

 めぐみんとゆんゆんでペアになると言うのも有りっちゃ有りなのだが、それをするとゆんゆんへの負担が大きいんだよなぁ。

 基本的にめぐみんはジャイアントキリングが専門だし、そんな相手にゆんゆんの中級魔法では威力や実戦経験が足りないから囮どころか肉盾に成り得る。

 うーむ、どうしたものかな。一度二人が自立できるくらいまではキャリーすべきか?

 私もパーティ戦闘は学んでいる途中だから変な感じの癖をつけてしまったらアレだしなぁ。

 ……あっ、妙案を思いついた。

 

「と言うか、めぐみんがパーティを探して、ゆんゆんもそれに続けば良いんじゃないか? 二人で入れば継続してくれるところもあるんじゃないか?」

「ほぅ、確かに。爆裂魔法を理解しているゆんゆんに足止めと誘導させて、私が爆裂魔法をドカーンとすれば良いかもですね」

「それ、絶対私への負担が凄いんだけど……。でもまぁ、二週間もギルドで新しい遊びを考えるくらいならそっちの方が良いかも」

「よし、それなら今日の活動はそれで決まりだ。二人でパーティに入って経験を積むんだ」

「「はーい」」

 

 いや、私はお母さんかっての。二人は声を揃えて返事を返し、私の決定だから納得したと言った様子で頷いていた。

 ううむ、先が思いやられるなぁ。ただまぁ、何事も経験を積まないと成り立たないもんだしなぁ。

 今日の行動指針が決まったからか二人して二階に上がり、外出の準備をし始めたようだ。

 まぁ、やる気が少しでも戻ったなら良いのかもな。別にまだ焦る必要も無いし。

 幸い初心者殺しの討伐や一撃熊の討伐などで貯蓄があるため借金でもこさえてこなければどうにでもなる訳だし。

 

「では、行ってきますおんおん!」

「い、行ってきます」

「あぁ、いってらっしゃい。武運を祈るよ」

 

 お弁当を手渡してから、めぐみんに主導される形でゆんゆんも一緒にギルドへと向かった。

 さて、今日の家事を始めるとするかな……。

 基本的に午前中に洗濯や掃除、生活雑貨の買い出しなどを行ない、昼頃からギルドに向かうのが普段のルーチンだ。

 パーティの傭兵を依頼された時は最低限をすませてから午前中から動いたりもするが、今日は共同の予定は無いので家の事を終わらせる日にする。

 まぁ、先日買い物は済ませているので洗濯と掃除くらいだな。

 

「さぁて、手早く済ませますかねっと」

 

 玄関から廊下、リビング、応接室などを箒で掃き、雑巾で水拭きしていく。

 掃除の手間を考えて玄関以降は土足禁止にしている事で、衣服についた砂や埃くらいしか無い事もあって掃除は比較的簡単だ。

 一応玄関に泥汚れ用の衣服を入れる空のタルを設置しているので、普段から掃除している事もあって作業はささっと終わる。

 脱衣場に向かい、衣服の入ったタルをお風呂場に移動させて粉状の石鹸を中へ振りかける。

 『クリエイトウォーター』で水を流し入れ、じゃぶじゃぶと浸け置きしながら揉んで汚れを吐き出させる。

 洗濯板を取り出して汚れの強い部分をこそぎ落し、洗剤の泡が無くなるまで手動の濯ぎ洗いを繰り返し、木製のハンガーへと差し込んでいく。

 そして、庭の物干し竿にそれらを引っかけて洗濯を完了する。ふぅ、中腰になるから結構腰にくるんだよなぁこの作業。

 誰か全自動魔導洗濯機でも作ってくれないものかな。大分手間が減るんだけどなぁ。

 ……いっそ、ハンドル式の手動の洗濯機を作るか? いや、その方が手間掛かるか。溝に引っ掛かって衣類が傷付いたら事だしな。

 

「魔法が自由に作れたら便利なのになぁ。水と風系の合わせ技で水流竜巻とかできないもんかな」

 

 まぁ、明らかに私の魔法はこの世界の物とは違うのが混ざっているけれども、基本的な法則と言うかルールはこの世界準拠のものだ。

 スキルとして覚え、詠唱と魔力を消費して発動する。逆に言えばカードにスキルとして記載されなければそれは魔法とは言えないと言う事で。

 爆裂魔法のような特殊な魔法に関しては一括の括りから外れて固有の魔法と化しているようだし、オリジナルの魔法と言うのはワンチャンあるかも、ぐらいな確率だろうな。

 血族限定の魔法だとかそういうものがあるのであれば、新しく魔法を作ると言う事はできる可能性はある。

 

「……まぁ、最悪両手で魔法を発動できるようにすれば良いか。片方魔道具で片方魔法とかでも良いし。……ん? 考えて見れば結構現実味を帯びて来たな。職人に湾曲のあるドラムを作って貰って手動で回転させれば、必要なのは水だけになるから魔道具でも作れそうだな」

 

 普段は料理のレシピとかを書いたりする紙を一枚取り出し、先程のアイデアを書き纏める。

 手動のろくろのような足で踏んで回転させれる奴だと良いなぁ。ずっとハンドル回すの大変だし、素材次第ではある程度理想に近い形で作れたりするんじゃなかろうか。

 

「……あぁ、成程。ひょいざぶろーさんが開発費用で貧困に陥る理由が分かってしまった……。そうかぁ、確かにアイデアを昇華させるために素材は欲しいもんなぁ」

 

 だが、それは家庭を顧みてからすべき事だろう。その辺りは受け入れられないので、私は自由に使えるある程度の金額で作れるかどうかを思案すべきだ。

 しかし、足で踏んで回転する図面とかどうやって作るんだ?

 あぁいや、別にそれを作ろうとしなくても良いのか。似てるものから発想を得れば良い訳で、足で漕いで車輪の回る自転車の機構を真似すれば良いか。

 どんな感じだっけかなとあーでもこーでもないと紙に書き連ねる。結局お昼の時間を少し過ぎるくらいまで没頭してしまい、知恵熱で頭がくらっくらになってしまった。

 

「ふぅ……、水でも飲むか。『クリエイトウォーター』」

 

 コップ一杯の水を作って飲み干す。作業の手間を減らして楽しようとしている筈なのになんで疲れてるんだろうな、と正気に返ってしまった。

 もう午後になってしまっている時間帯だ。サンドイッチを頬張りながら、この後どうすっかなと思考に没する。

 適当な討伐依頼でもソロで受けて狩ってくるか。

 一応下位のものから順当にやっていってどれが駆け出し向けかは分かっているからそれ以外を選ぶ必要がある。

 駆け出しの街と謳ってはいるが、ギルドの依頼には普通に中位から上位のクエストも貼られている事もあり私のような実力者も滞在しやすい街になっている。

 まぁ、明らかにお前ら上位のパーティだろって言う男性陣も居たりするので、何かしらの男性向けの何かがこの街にはあるんだろう。

 

「んー、そう言えばアクセルに娼館って無かったよなぁ。普通、こう言う荒くれな仕事をする冒険者の多い街にはあるってのがお約束と言うか鉄板なのに」

 

 この二週間でアクセルを一度歩いて回った事があるのだが、娼館ですって言う感じの店は無かった筈だ。それなのに男性が女性を性的に襲ったと言う話を聞く事はあんまりない。

 態々王都までテレポしてヘルスってる可能性もあるが、そんな面倒な事をするかねぇと男性目線でも可笑しさを感じる事実に好奇心が芽生えて来た。

 いや、別に働くつもりは一切無いがあるべきものが無いと言うのはそれだけで不自然に感じるものなのだ。

 決して秘宝館的なところがあるのかなとかキャバクラに扮したハプバーでもあるのかなとか考えてたりはしないんだ。

 そ、そう、めぐみんたちが知らずにそう言ったところの近くに行かないように調査する必要がある筈だ。

 

「……んやねぇよ、頭沸いてるのか私……。シェアハウスになってからシ辛くなってるから溜まってんのかなぁ」

 

 いや、普通に疲れているから頭が働いてないだけだろうな。そう終止符を打って煩悩を抹殺した。

 ただまぁ少し気になりはするから情報だけは押さえておくか。異世界ファンタジーな世界だし、女性には見えないサキュバス娼館みたいなところがあるだけかもしれないしな。

 ちらりと紙を見やり、久しぶりに原稿用紙に性癖をぶつけるのも良いかもしれないなぁと思うものの、万が一めぐみんたちにガサ入れされて見つかってしまうと面倒だなとも思う。

 ……めぐみんたちも冒険者として頑張ってるんだし、流石に自重するか。

 煩悩退散。そんな事を考えながらアイデアを書いていた数枚の紙を二階の自室に置きに行き、ついでにカルラ衣装に着替えて支度を済ませる。

 さて、どんな依頼が置いてあるかな。この前ちらっとギルドの酒場でグリフォンを見たって言う話を聞いたし、そういうのもあるかもなぁ。

 いや、対空用の魔法無いから無理だわ。討伐するとすれば地に足着いてるマンティコアの方だろうな。

 何故かグリフォンとマンティコアはこの世界だとハブとマングースみたいな敵対関係にあるらしく、よく縄張り争いとして道路で喧嘩が勃発して長々と戦い続けるらしい。

 そのため、どちらかが負ければもう片方は主として去っていくので、どっちかを討伐してこいと言う依頼が貼られる事があるらしかった。

 

「片方倒したら普通、残った方が殺しに掛かって来るもんだと思うんだが、そうじゃないのが不思議だよなぁ。ほんとファンタジーしてるよなこの世界……」

 

 そんな事を考えながら戸締りをして、玄関口の大きな姿見でチェックしてから外に出る。

 庭先にある何故か炎の消えない篝火と突き刺さった螺旋剣を一瞥してから、ギルドの方へと歩き出したのだった。

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