この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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度々の誤字修正ありがとうございます。


8話

 大通りからギルドへの道のりはそう遠くはない。歩いて数分程度であり、駅近物件みたいな感覚で辿り着く事ができる。

 ギルドに入ると好奇の目が集中するのはもう慣れた事だ。先日共同したパーティの人に手を振られたのでそれに返すように手を振る。

 

「おんおんちゃーん! またよろしくねー!」

 

 ……なんかマスコットみたいな扱いされてないか?

 いやまぁ、嫌われるような事はしていないが好かれる事もしていないと思うんだが。

 まぁ好かれている方がお得な感じがするし別にいいか。そんな事を考えながらクエストボードの方へと歩いて行く。

 めぼしい依頼は既に粗方はけたようで残っているのは駆け出し向けかベテラン向けと言う極端な残り方をしていた。

 

「……ジャイアント・トードを五匹討伐、ねぇ」

 

 その名の通り巨大なカエルのモンスターである。死亡率は低い方であるが、首に舌が絡まった際に引き寄せられる時にゴキッと即死する可能性がある。

 食欲旺盛なのか牧場の牛などの家畜を狙って丸飲みする習性があるため、農家からは不俱戴天の仇として認知されている。

 基本的に丸飲みにしてくる以外に攻撃手段は無く、聞く人に聞けば咥内は結構温かいらしい。

 柔らかくゴムっぽい上皮が物理的な攻撃を吸収材の如く受け止めるらしく、斬撃であれば普通に問題無いがメイス等を得物とする人には不得手のモンスターであるらしい。

 もっとも、普通に魔法が有効なので魔法使いにとってはカモである。

 だが、たまに不意打ちを食らって文字通り食われ、短剣等を持ち合わせていなかったが故にそのまま脱出に失敗してお陀仏になる駆け出しも居るとか。

 

「……まぁ酒場のメニューにあるくらいだしな、意外と美味いんだよなぁ」

 

 鶏肉に似た淡白な味わいで、それでいてもっちりとした食感が特徴であるジャイアント・トードはカエルのから揚げと言う名前でメニューに載っていたりする定番物の一つだ。

 怖いもの見たさで頼んだ事があったが普通に美味しくてたまに食べたくなるんだよなぁ。

 一匹の全長が五メートル程であるため解体の際に取れる食肉部分も多く、食べ盛りの子供並みに食べる冒険者たちへのメニューとして大助かりらしい。

 

「……焼き鳥とビールでまったりしたくなってきたな……」

 

 何せ、ギルドは酒場も兼ねているため料理の匂いが広がっている。美味しそうな香りが充満している事もあって食欲が進んでしまう。

 たまにはそういう日もあっても良いかな、と酒場の方を見てしまうが今の年齢ではお酒が飲めないのもあって損している気分になってしまう。

 それに醤油ベースのタレが付いているポピュラーな焼き鳥はこの世界には無い。大概が塩を振っているか香辛料で味付けしたものが多い。

 ……いっそ、自分で出してみるか焼き鳥店。移動式屋台でギルド近くの大通りで販売すれば結構な収入を得られるかもしれない。

 

「…………コカトリスの討伐でも受けるか」

 

 基本的にアークソーサラーは魔法対抗が高いジョブであり、特にデバフ等に分類される魔法に対する対抗が強い傾向にある。

 そのため、石化対抗スキルを取っておけば石化で即死する事も無くなり、コカトリスがただのでかい鶏に成り下がる訳だ。

 ……ジャイアント・トードの例からコカトリスの食肉部分は多いと判断していたが、そもそも美味いのかコカトリス。

 石化と言う強力な能力を持っているだけあって高位寄りのモンスターとして認知されているためか流石に酒場のメニューには無い。

 依頼のコカトリス討伐の紙を取る。内容を見ると農村地帯の養鶏家が飼育している鶏の中に何故かコカトリスが混ざっていたらしい。

 餌遣りは壁越しなのでできるのだが、清掃中に石化されてしまう可能性があり飼育環境の悪化を懸念して早急な依頼完遂を求むとの事だった。

 受付に向かって依頼受託の確認をし、紙を丸めて背嚢に仕舞い込む。現地でこれを依頼者に見せる事で一種の割り札のような扱いになるためだ。

 農村地帯へは馬で一時間くらいの位置にあるため、馬貸し屋に向かって一頭借りる事にする。

 

「おっ、おんおんさんか。早速依頼に行くのかい?」

「あぁ、そのつもりだ。トレントを貸してくれ」

「へいへい。あのプライドの高い馬を借りてくのはおんおんさんくらいだしな。いっそのこと買い取ってくれても良いぜ?」

「む、そこまで難儀する事か? 普通に乗せてくれるが……」

 

 馬貸し屋の年若い青年のケンドさんが苦笑する。彼曰く、最近借りるようになったトレントと言う馬は気品が高く、認めた相手しか背に乗らせない気質を持っている。

 もっとも、女性や子供には優しい対応をするが、気に入らない男性だと触れさせる事すら拒否する徹底振りらしい。

 そのため、見た目ががっしりとして気品のある容姿をしている立派な馬ではあるが、気性難のせいでお客を選ぶため人気が低いらしかった。

 

「お偉い騎士様の軍用馬の系譜らしくてな、だからその気質を継いでお堅い騎士みたいな性格をしてるんじゃねぇかなってのが見立てだ。実際、男性でも礼儀正しい奴には触れる事を許してくれるしな」

「触れるだけ?」

「そう、触れるだけ。乗せてはくれなかったみたいだ。そうなると馬を貸しておまんま食ってる俺らにぁ扱いが難しくてなぁ。だからと言って処分をするってなると惜しい馬でもある。なら、新進気鋭で駆け出し街道を突っ走るおんおんさんみたいな若い子に託すって言う選択肢は悪い話じゃねぇんだ」

「ふむ……、でもお高いんでしょう?」

「くはは、良いねそのノリ。実際、価値だけを見れば高い馬だ。だがまぁ、さっきの理由で扱い辛いし、何より馬貸し屋の馬ってのが致命的だ。一部の客にしか貸せない馬は居ても困るのさ。先代の親父が仕入れた馬だから義理立ててたが、流石に一年もこうだと気が滅入らぁ」

「代替わりの理由がぎっくり腰ですもんね……、死別とかならまだしも」

「そうなんだよなぁ。普通に家に居るし、別にお気に入りって訳でも無いみたいだし。元は百万エリスの一歳馬な訳だが……、轡や鞍とか込み込みで五十万エリスでどうだ?」

 

 どんだけ厄介払いしたいんだ半値って……。

 乗る人を選ぶと言う気質から個人に売る選択肢しか無いのは分かるが必死過ぎやしないだろうか。

 そんな此方の葛藤を察したのかケンドさんは一つ溜息を吐いて、耳打ちするように顔を近づけさせた。

 

「実はな、前に視察しに来たアルダープっていう豚領主がトレントを見て気に入っちまったみたいでな。流石に蹴り飛ばされるのが目に見えてる奴を近付かせる訳にもいかなくて、何とか誤魔化したんだ。どうせ忘れてるだろうけども万が一って事はある。流石に領主の肩書を持っている奴にこのじゃじゃ馬をくれてやる訳にはいかんだろ」

「あぁ……、そういう理由があったんですか」

「そういうこった。どうせ売るなら気に入られてるおんおんさんに売った方が良いと思ってな。それに、聞く話じゃ高難易度のクエストも受けてたりする実力者って話じゃねぇか。なら、懐もさぞ温かいだろうってな」

「商売上手ですね」

 

 まぁ私とてトレントが欲しくない訳ではない。豚と揶揄されるような領主に貰われるくらいならポケットマネーを使うのも良いだろう。

 ソウルから五十万エリスを取り出し、即決でトレントを買い取る。毎度、とケンドさんは良い笑顔でそれを受け取り、世話をする時の注意点や食事などの情報を教えてくれた。

 馬小屋の奥の方に居るトレントに会うべく二人で歩いていく。入口近くに置くとやらかしかねないという判断だそうだ。

 一番端に一馬の個室と化している場所にその馬は居た。逞しい肢体と屈強そうな筋肉美を感じさせ、端麗な顔に美しい双眸が格好良いイケメン馬。

 一番の特徴としてはこめかみから伸びた短い角が生えている事だろう。他の馬には無い特徴であり、先祖返りでモンスターの特徴が出たのではないかと考えられているらしい。

 だが、珍しい一方で見方を変えれば魔物種とも取れるために厄介払いのため安値で売られた経緯があるらしいが、私としては特段気にしている訳でも無い。

 華奢で華美な長剣よりも重厚で武骨な大剣の方が好きな私にとっては、容姿の良し悪しは二の次であり、実際に乗った事で分かるその力強さと逞しさ、そして何よりも知性の高い馬である事の方が大切だ。

 

「実は次におんおんさんが来たら売れるように色々と準備はし終えてたりするんでさぁ」

「用意周到な事だな。私が買わなかったらどうするつもりだったんだ?」

「くははっ、そりゃあ無いさ。俺ら馬飼いは馬を見て人を見る職業だ。その人に合わせた馬を貸せるのが一流ってもんだ。トレントはおんおんさんが駆るに相応しい知的な馬だ。霊験あらたかな事を成す馬だろうし、こんな名馬、いや、霊馬は滅多に居ない。んで、そんな性能美の塊みたいな馬をおんおんさんが見逃す訳が無いだろうってな」

「……随分と買ってくれるじゃないか。それ程の事をしたつもりは無いんだがね」

「いやなに、親友のカルグを助けてくれた恩人に対して出来る事をしたいと思っただけさ。それに、その方がこいつのためにもなる」

 

 そう言ってケンドさんはトレントの首に手をそっと添える。優しくも紳士的なその行動をトレントは嫌って離れようとはしなかった。

 敬意を持って接する者にはその身に触れる事を許す、そんな心情を察する事のできる光景だった。

 

「さぁ、こいつを自由に使ってやってくれ。何れ世界に名を遺すであろうおんおんさんならこれ以上の馬は居ない筈だ。霊馬トレント、愛すべきアークソーサラーの半身として活躍してくれる馬になる事だろうさ」

「あぁ、その期待に応えられるよう頑張ってみるよ」

「あ、因みにトレントは高級な干し草をそこそこ食べるくらいの食欲だから、維持費は結構高く付くぞ」

「ん、それは問題無いよ。呪術で契約して使い魔みたいな存在にするから」

「…………マジで霊馬じゃねぇか」

「あはは、私は紅魔族だから魔力は有り余ってるからね。維持するコストも魔力で何とかするつもり。多分、トレントとなら親和性が高いと思うんだよね」

 

 魔術師の使い魔は契約してパスを繋ぐだけだが、呪術師の使い魔は盟約によって縛り付けるので扱いがちょっと変わる。

 どちらかと言えば眷属みたいな呼び方が正解だろう。まぁ、そこは結ぶ盟約の強さ弱さで変わるので、今回の盟約は強制力よりも協力性を強めるものにしたいと思っている。

 カードを取り出し、スキル『使い魔契約』を取得する。トレントの前に立ち、両手を差し出すと頭の良い彼は頭を下げて擦り寄るように預けてくれる。

 額と額を重ね、『使い魔契約』のスキルを発動する。一本の線が額を通じて心臓へと向かい、お互いの存在を繋がった感覚を生み出す。

 もう一度カードを見やればスキル欄に『霊馬トレント召喚』のスキルが刻まれていた。

 

「よし、これで君と私は一心同体だ。私が死ぬまで君は死なないし、私の魔力で生き延びる存在になった。人馬一体の関係を築いていければ良いと思っているよ。これからよろしくね、トレント」

「ブルルゥ、ヒィンッ!」

 

 トレントは私の言葉を理解してか頷いてから嘶いた。手綱を掴む事無く私の後に着いて来るトレントの様子を見たケンドさんは感嘆の声を漏らし、お似合いだと笑顔で頷いて送り出してくれた。

 アクセルの街中を乗馬する事は原則禁止とされているので連れ立って入口まで歩いて行く。

 正門を預かる衛兵さんに一声挨拶をしてトレントに搭乗する。馬術用の製品も過去の転生者が残してくれたからか鞍などが揃っているおかげで乗りやすい。

 人や馬車が多い正門近くは歩いて進み、人通りが疎らになった道路からは徐々に速度を上げて走らせていく。

 少女であり物理的に軽い私は重荷では無いと言わんばかりにトレントは速度を上げて行き、本来一時間程は掛かる農村地帯への道のりを半分くらいの時間で踏破してしまった。

 

「……やっぱり格好良いなぁ君は。君を私の物にできたのは本当に幸運だった」

「ヒィンッ」

「可憐なお嬢さんを乗せて走る事ができて光栄だって? ふふふ、随分と紳士的だったんだな君は」

「ブルルルゥ……」

「あはは、私もこうして意思疎通ができるようになって嬉しいよ」

「ヒンッ」

 

 使い魔として契約したからかトレントの考えている事が脳裏にテレパスのように聞こえるようになり、紳士的な青年のような声が響いてくる。

 本当に良い買い物をしたものだなと農村の入り口が見えて来た事もあり、下馬してトレントの首に手を添えて撫でてやる。

 いやほんと、この子が居ればアルカンレティアまでも一日で踏破できるんじゃなかろうか。

 

「家の庭に小屋を作って貰わなきゃな。それまではまたケンドさんのところでお世話になろうか」

「ブルル」

「えっ、庭で良い? 屋根無いよ?」

「ヒヒン」

「……そっか。忠義者だね君は。できるだけ早く作って貰おうね」

「ブルゥ」

「…………いや、流石に私の部屋で寝泊まりはできないよ?」

「ヒィン……」

 

 私の事好き過ぎだろうこの馬。寝食を共にしたいだなんて言い出すとは思いもしなかったぞ。

 宥めるために首筋をぽんぽんと叩いておく。流石に通るとは思って無かったらしく、一声鳴いて大人しくなった。

 農村へと足を運んだ私は依頼者である養鶏場を営むファルダッツさんの所へと向かう。

 途中、トレントの格好良さに惹かれてか視線が集まっていた事もあって、後ろに着いて来る農民の方々が意外と多かった。

 まぁ、農村だし娯楽もあんまり無いだろうしな。コカトリスの討伐だなんて見世物があれば見たくもなるのも頷ける。

 養鶏場へと足を運ぶとビール腹が特徴的な男性が此方を見て良い笑顔で近づいてきた。

 

「すみません、冒険者ギルドの依頼を受けたアークソーサラーのおんおんと申します。ファルダッツさんでよろしかったでしょうか?」

「おお! 早速来て頂けるとは有り難い! 一刻も早くあのコカトリスを何とかして欲しいと思っていたのですよ! えぇと、お一人で?」

「はい。基本的にソロで活動しています。実績が気になるようでしたら、どうぞカードをご確認ください」

「あぁ、これはどうも……。……………え゛っ、……えっ? …………こ、此方お返しいたしますね。失礼な事を申し上げました、すみません」

 

 カードの裏には討伐履歴と言うものがあって最近倒したモンスターなどの記録が残るようになっている。

 ギルドの専用の機械を使えば日時等の確認もできるが、今まで何を倒したかと言う魚拓めいた大雑把なものであればカードの裏面を見せるだけで事足りる訳だ。

 最近倒した一撃熊や初心者殺しなどの記録が残っている筈だから実力を示せた事だろう。

 ファルダッツさんの様子から私が見た目に反した実力者であると理解してくれたようで、後ろに着いて来ている農民の方々も感嘆の声が漏れていた。

 

「そ、それではコカトリスの居る場所までご案内致しますね。室内ですのでそちらの立派な馬は残してくださると嬉しいです」

「はい、分かりました。そう言う事だからトレント、此処で待ってて。あ、もし盗もうとした奴が居たら蹴り飛ばして良いよ」

「ヒィンッ!」

「いや、流石に無理だから。狭い所で君が暴れたら養鶏が死んじゃうから」

「ヒヒヒン……」

「うん、分かってくれて有難うね。この子とは使い魔の契約をしているので意思疎通ができるんです。なので、このまま縛らずとも大人しく待っててくれると思うのでご安心ください」

「えぇ、勿論ですとも。高位の冒険者の方の言う事ですから、納得しますとも。では、此方へどうぞ」

 

 ファルダッツさんが此方のご機嫌を伺いながら話しているせいか、若干居心地が悪い。

 いや、別に実力を盾に強制するつもりとか無いからさ……。

 まぁ、農民の一人であるファルダッツさんたちは冒険者と比べて経験値を得る機会が少ないからステータス差で実力行使されると負けると踏んでのこの対応なのだろうけども。

 さっさとコカトリスを倒して帰るか。そう内心で溜息を吐きつつ、養鶏場の奥の方へと歩いて行く。

 コケッコケーと言う養鶏たちの甲高い鳴き声の合唱が聞こえてくる中、輪唱に失敗してやけに耳に入って来るコカッコカーと言う低い鳴き声が聞こえる。

 コカトリスの鳴き声ってコカなのか。ほんとこの世界のモンスター安直過ぎやしないか、とテンションが駄々下がりしていく。

 もっとも、案内しているファルダッツさんは辺りをきょろきょろと凝視するように警戒しているようで、私とのテンションの差で風邪をひきそうな感じである。

 

「ファルダッツさん。多分、コカトリスっぽい鳴き声が聞こえたので此処までで大丈夫ですよ」

「ほ、本当ですかな!? あぁ、大変申し訳無いが、自分は此処までです。コカトリスの容姿は養鶏と全く以って違っているので直ぐに分かると思います。では、ご武運を!」

 

 そう言ってクラウチングスタートばりの速度で入口へと走って行ったファルダッツさんの背を見送る。

 警戒しているのだろうけども臆病な性格のせいで台無しである。明らかに今のドタバタでコカトリスに気付かれた事だろう。

 近くにある柱に身を隠しつつ、手鏡を取り出して奥の方を見やるとそれは居た。

 黄色い羽毛の鶏のように見えるが、細部を注視すると羽根が被膜付きのものであるし、尾羽があるべき場所にはにょろにょろと鎌首をもたげる蛇の胴と顔が生えていた。

 ……そんな奇妙なキメラめいたコカトリスが養鶏の中に埋もれていた。

 ちっさ!? いや、あれだけ小さいから養鶏に紛れ込む事ができたのか。幼体と言う訳だな。

 ……幼体、だよな? それにしては見た目が成熟した鶏のそれと酷似しているのだけど。

 コカトリスの周りで石化した養鶏は居ないようで、それ以外に石化していそうなものも無い。

 

「…………何と言うか、普通に鶏に育てられたコカトリスって感じじゃないか? これ……」

 

 養鶏場は放し飼い形式らしく、卵を産みやすいスペースだけを作っているだけの簡易なものだ。

 何となく憶測するなら黄色い羽毛と言う事からひよこの時に此処に混じって育ち、大きくなった事でその差異から存在に気付いたって感じじゃなかろうか。

 手鏡を戻して柱から出る。そして、ゆっくりと歩きながらコカトリスに近付いていく。

 興味深そうに近付いて来る養鶏たちに交じってコカトリスも近付いて来て、しゃがみ込んだ私の目の前に来てコカーっと鳴いた。

 

「……鶏じゃん。獣に育てられた人間とか、そういう感じで鶏に育てられたコカトリスじゃんこれ……。討伐するの? これを? よく見たら可愛いんだけど……ちっちゃいし」

 

 成長すると大きくなるのだろうか。そんな事を思いつつ、慎重にコカトリスに手を伸ばして優しく掴み上げる。

 すると特段抵抗無くコカトリスは持ち上がり、不思議そうな顔で此方を見ていた。

 ……石化すら放ってこないんかい。野生の本能を置き去りにした家猫ならぬ養鶏かよ。

 

「にゃぁ」

「こかーっ」

 

 頭の上のちょむすけが鳴き、コカトリスがそれに返すように鳴く。ちょむすけがちょっかいを出そうと前足をぶらぶらとさせるが届かない。

 ……どうしよう。ちょっとだけ情を抱いてしまったので首を絞める訳にもいかなくなった。

 抱き抱えたコカトリスを膝の上に乗せると自分の脚で立ち、そしてそのまま座ってしまった。

 そして、ぷるぷると震えたかと思えば太腿に何かが転がって来た。

 

「……コカトリスも卵産むんだなぁ……」

 

 ほかほかの生卵がそこにあった。ソウルに変換し、見やれば以下のような文章が載っていた。

 ――コカトリスの無精卵。魔力の詰まった卵で非常に美味いが、殻が石のように固い。

 ……ちょうど新鮮な卵が欲しかったし、連れて帰るか。先程取得した『使い魔契約』を使ってコカトリスも契約しておく。

 無事に一本の線が繋がった感覚が生まれ、スキル欄に『鶏獣コカトリス召喚』のスキルが刻まれていた。

 

「……帰るか」

「こかー」

 

 流石に喋る知性は無いのか同意の感情が返って来る。なんかもう、呆れて疲れて来たぞ。

 養鶏場の入り口へと向かい、胸に抱いたコカトリスのもふもふ具合を満喫しながら出ると首を傾げた農民の方々が其処に居た。

 

「ぼ、冒険者様!? そ、そちらのコカトリスはいったい……?」

「その、人懐っこい様子でしたので下手に討伐するよりも契約で縛った方が安全と考えまして、こうして無効化した次第です。契約主の権限で石化のスキルは封印しているのでご安心ください」

「そ、そうでしたか! 因みに被害はどんな感じだったでしょうか?」

「その……、多分ひよこに混じって此処に連れて来られたのでしょう。普通に他の鶏と同じように生活していたようで、特段抵抗もされなかったので被害は何も無いですね」

「へ? ……そう言えば、やけに骨格の強いひよこが居たような……。まぁ、何にせよ解決してくださってありがとうございます! 何かの拍子にモンスターとしての本能を取り戻していたら大変な事になっていたでしょうし。依頼紙の方を貸していただけますかな?」

「あ、はい。サインの程宜しくお願いします」

 

 ファルダッツさんに依頼紙を手渡し、下の方の解決の証拠となるサインを書いて貰う。

 これを提出すれば予めファルダッツさんがギルドに渡した報酬を貰えると言う訳だ。

 そんなこんなで依頼が終わってしまったので、精神的に若干疲れてしまったのでさっさと帰る事にした。

 トレントの背に飛び乗り、ファルダッツさんたちに一礼してから帰路に着く。

 

「帰ったら巣箱を作ってやらないとな……。これで新鮮な卵を得られるからマヨネーズも作れるようになるな。……コカトリスにサルモネラ菌って居るのかね。というかこの世界にサルモネラ菌がそもそも居るのか……?」

 

 まぁ、最悪食中毒になるだけだから私には問題無いか。一度自分で試してみれば良い話だ。

 先程回収した卵を後で食べて見る事にするか。単体でコカトリスの卵ってどんな味がするのか少し気になるところではあるし。

 もう一つの問題はコカトリスの全長がどうなるかだ。今後すくすくと育っていくとなると飼えない可能性が出てくる。

 一度ギルドで調べて見た方が良いだろうなぁ。

 コカトリスをもふりながらトレントを走らせ、アクセルの正門前にあっと言う間に辿り着く。

 うむ、やはり足があるのは良い事だ。移動速度が恐ろしい程違うから大変便利だな。

 

「と、止まれ! いや、止まってください! 何故モンスターを懐に抱いているんですか!?」

 

 正門を通り過ぎようとしたら私の腕の中に居るコカトリスを見てぎょっとした顔の衛兵さんが近寄って来た。

 まぁ、鶏抱えて入るような人は居ないだろうから当然の申し出だろう。

 

「ひよこに混じって養鶏として育てられたコカトリスでして、使い魔の契約をしているので石化のスキルは使えないようになっていますのでご安心ください」

「へぇ、成程。……じゃねぇんだわ!? そもそもモンスターを入れるのが不味いって話だからな!?」

「では、許可を取れば宜しいんですね? 何処で手続きすれば宜しいでしょうか」

「えぇと……、おおい! 通行許可証の奴連れて来てくれ! 至急!」

「お、おう! 少し待ってろ!」

 

 衛兵さんが他の衛兵さんに声を掛けて責任者を連れて来てくれるらしい。

 数分程待っていると如何にも文官と言った様子の方が衛兵さんに連れられて来た。

 慌てて走って来たのか息が切れている様子で、申し訳ない事をしたなと少し罪悪感を感じた。

 

「えぇと、聞く話によればそちらのコカトリスは、えぇと」

「おんおんです」

「あ、はい。おんおんさんの使い魔になっているとの事でしたね。カードの方を確認させて貰っても宜しいですか?」

「はい、此方です」

「受け取りますね、えぇと……、………………ほ、本当のようですね。高位冒険者の方でしたか。でしたら、此方の用紙にサインの程をお願いできますでしょうか。内容としては、モンスターの管理についての契約となります」

 

 文官さんが手渡した用紙の内容を一字一句確かめて読み込む。内容としてはモンスターの管理を許可するが問題が発生した時は全責任を負えよ、と言うものだった。

 多分、これが使い魔化していないモンスターであればもっと色々と問題になっていたのだろうが、基本的に契約主に逆らえない使い魔であった事で穏便に済ませられた訳だ。

 こうして念書にサインする事で使い魔を操る契約主に対しての責任を負う規則になっているのだろう。これから新しい家族になるコカトリスを捨てる訳にもいかないので念書にサインを刻んで返した。

 

「はい、ではこれで書類の方は大丈夫です。基本的に家屋の外に出さないよう管理の程お願いしますね」

「分かりました。お手数掛けました」

「いえいえ、こっそりと持ち込まれていないので此方も助かりました。今後、モンスターの使い魔が増えるようでしたら治安維持局の方で手続きをお願いしますね」

「了解しました。ありがとうございます」

「いえいえ、それでは」

 

 文官の方が帰って行き、衛兵さんたちもほっと安堵しているようだった。

 

「すみません、使い魔であれば問題無いかなと思ってしまっていました。入る前に尋ねるべきでしたね」

「あー、そういや魔術師系の職業だと使い魔のスキルを覚えるんだったな。こっちも失念してたぜ。てっきり真正面からモンスターの密輸してるのかと思っちまったわ」

「あはは……、流石にそんなアホな真似はしませんよ」

「それもそうだな。大声で対応しちまってごめんな、教訓として覚えておくから許してくれ」

「いえ、此方こそすみませんでした。お仕事の方頑張ってくださいね」

「応。クエスト帰りだろ? お嬢ちゃんもゆっくり休みな」

「はい、そうします」

 

 まぁ、何事も無くて良かったな。トレントのドンマイと言う感じの感情に苦笑しながら、今度こそシェアハウスへの帰路に就いた。

 トレントのおかげで夕方前に帰って来れたので夕飯を作る時間は残っている。

 ……まぁ、疲れたから少し手を抜いても良いかな。キャベツが美味しい時期になってきたし、一撃熊の肉を使って鍋にでもするかねぇ。

 コカトリスの巣箱も作らなきゃなぁ。取り敢えず木箱とクッションで良いかな……。

 ギルドへの報告は明日に回そう、そうしないと帰って来る二人の夕飯を作れないからな。

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