この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正ありがとうございます。
助かる……助かる……。

感想なども頂けて感無量でございます。
皆さんの娯楽の一足しになれていれば幸いです。


9話

 家に帰ると既に灯りが付いており、鍵も開いていた。

 どうやら久しぶりに私が最後に帰って来たらしい。普段は二人を夕飯の支度中に出迎える事が多いから少し新鮮だ。

 トレントを庭に放ち、番犬ならぬ番馬の役割を命じておく。ふんすふんすと鼻息荒く頷いてくれたので頼り甲斐があった。

 使い魔の契約を交わしているため意思疎通は離れていても可能なので非常に便利だ。

 ……もっとも、トレントは私が好き過ぎるのか数分おきに何かしらの言葉を囁いて来る。

 そのどれもが求愛か口説きのそれなので、割と返答に困るのが実情である。

 お前の前世、馬の特徴を持った人間めいた種族でレースに出てたりしないだろうな?

 あんまり鬱陶しいと嫌いになるぞと脅してやればスンッと声が控え目になった。物分かりの良い子は好きだぞ、とフォローしておくのを忘れない。

 

「……はぁ、なんか疲れたな。ただいまー」

 

 そう玄関口で声を掛ければ、リビングの方から薄っすらとおかえりーと言う声が聞こえてくる。

 やはり、我が家は良いな。特に誰かにおかえりを言って貰える家と言うのが素晴らしい。

 そこそこの金額でシェアハウスを決めた甲斐はあったようだ。

 リビングに向かうと既に私服姿になってくつろぐめぐみんとゆんゆんの姿があった。

 二人してテーブルでトランプタワーを作っており、対決でもしているのか何処か急ぎ気味だった。

 ギルドで暇を潰している時に遊んでいたのか、はたまた前から遊んでいたのかは分からないがゆんゆんの方が優勢らしい。

 頂上の二枚を立てれば勝ちと言った具合で、対してめぐみんは上段二段が残っている。

 

「ただいま」

「おかえりなさい、随分と珍しいですね。おんおんが最後に帰って来るなんて」

「おかえり、おんおん。確かに、何かクエスト行ってたの?」

「あぁ、そんなところだ。……ところで、二人に相談事があるんだが此方を見てくれないか」

「今、真剣勝負の真っ最中なんで――「こかーっ」――えっ!? 今渋い感じの鶏の鳴き声しませんでした!?」

「い、今こかーって鳴いた!? そんな鳴き方する鶏なんてコカトリスぐらいじゃない!?」

 

 あ、マジでコカトリスの鳴き声はこかーっなのか。二人して此方を見たせいで風圧により、タワーは呆気なく崩れ落ちた。

 

「「あっ」」

 

 二人のしまったと言う声色の言葉が漏れ、努力の成果が水の泡になった瞬間であった。

 特に最後の二枚を乗せようとしていたゆんゆんはダメージが大きいらしく、肩を落としていた。

 胸に抱く黄色い羽毛のふわふわボディと尾蛇の何とも言えないつるりとした感触を楽しみつつ、二人に見せつけるように掲げる。

 

「実はコカトリスの討伐に向かったんだがな。ひよこに紛れてコカトリスの幼体が混ざったまま育てちゃったと言うオチだったんだ。見た目も可愛いし、つい衝動的に使い魔にしてしまったんだ」

「えっ、使い魔契約のスキル持ってるんですか?」

「あぁ。馬貸し屋で一頭馬を買ってな、その時についでに取得したんだ」

「あ、あの、窓からこっちを見つめてるあのお馬さんの事?」

 

 ゆんゆんの言葉に釣られて窓を見やれば、慈愛を秘めた眼差しで此方を見やるトレントの姿があった。

 どうやら口説く代わりに見つめる事を選択したらしい。

 ……まぁ静かだから良いか、問題無し、ヨシッ。

 

「あぁ、名前はトレント。女性と子供と紳士だけには紳士的なお馬さんだ。因みにオスだぞ。結構力強いからあんまりおちょくらないようにな」

「……そう言えばおんおん馬欲しがってましたもんね。アクセルへの道のりも馬を使おうだなんて言ってましたし……」

「えっ、此処から里まで相当な距離あるけど……」

「「おんおんだしなぁ……」」

 

 何か言いたげな視線を向けられ、少し気落ちする。

 別に良いじゃないか馬、馬だぞ。自転車や自動車の無いこの世界だと馬車が主流だ。

 それに、旅人や冒険者が馬に乗って旅するとか普通に格好良いだろ。

 何で君ら紅魔族なのにそういう泥臭い武骨な浪漫に対して反応薄いんだ……。

 

「……何か変なイメージ定着してないか私に。良いじゃないか別に……、交通の利便は良いに限るだろ」

「あっ、その、貶していた訳じゃないですから! だからすねないでください!」

「すねてないし」

「ごめんなさい! そうですよね! 一家に一馬有って良いですよね! なんかこう、良いと思います!」

 

 ボキャブラリー貧弱かよめぐみん……。本当に学院の成績優秀者か?

 あそこ中二病の巣窟な訳だからそう言う言い回しのために語彙力とか高める環境にあると思うんだが。

 慌てて私に抱き着いて必死に宥めにくるめぐみんの抱擁に少しだけ気分が持ち上がる。

 ……コカトリスが私とめぐみんにサンドイッチにされ具と化しているのはどうにかするべきだろうか。何やら庭でトレントが羨まけしからんと騒いでいるし。

 

「何をしているんですかゆんゆん! このままでは夕飯のピンチですよ! 完全にテンションが下がった時のおんおんはガチのダウナー化するんですから! 基本的におんおんは面倒臭がりで、普段は私のために過保護なくらい世話を焼いてくれてるんです! 今も忘れません。水と塩の入ったコップを手渡されて。完全に冷え切った瞳で、夕飯だぞ喜べよ、だなんて塩対応された時は本気で心折れ掛けましたからね!?」

「えっ!? あのめぐみんにべったりで過保護ってくらいに優しくしてくれてるおんおんがそんな対応を!?」

 

 あぁ……、あの時か。確か、めぐみんが調子に乗って夕飯を早くしろーとせがんで煽ってきたんだっけか。

 生理中で苛々していた私がめぐみんの小生意気な煽りに対応するのも面倒臭かったのでそうしたんだった。

 その後、めぐみんがガチ泣きして「捨てないでください! 調子に乗り過ぎました!」と泣きついたんだっけか。

 

「……はぁ。まぁいいや。めぐみん、何か夕飯のリクエストある?」

「え、あ、はい! えぇと、は、ハンバーグ! ハンバーグと言うのが良いです!」

「ハンバーグ?」

 

 はて、紅魔の里でハンバーグは売っていないからめぐみんが知る訳無い筈なんだが。

 デミグラスソースを作ると言うのは割と難易度が高いため、王都などのガチめの定食屋さんくらいでしか見かけないらしい。

 前に共同した時にアクセルの料理事情を教えて貰ったのだが、日本食は薄っすらと浸透しているだけで家庭に並ぶ事はあんまり無いと言う認識らしい。

 まぁ、料理好きな転生者がレシピを残さない限りはこの世界に残る訳が無いからな。

 残りかすを集めた挽肉を丸めたなんちゃってステーキみたいな扱いでなら存在しているが、ハンバーグと言う名称で通じている訳では無い。

 故に、ハンバーグと言う単語をめぐみんが知っている事が疑問に思ったのだ。

 

「えっと、あぁ! そうでした! おんおん、私たちついにパーティに加入できたんですよ!」

「へぇ、そうだったのか。それはおめでとう。何処のパーティに入ったんだ? テイラーさんのところか? それともファルブンケさんのとこか?」

「えぇと、そのお二人の所は既にお断りされてしまいまして……。実は、同じ駆け出しのカズマがメンバーの募集をしていたのでそれに乗っかった感じなのです。冒険者とアークプリーストの組み合わせだったので、攻撃職である私たちは都合が良かったようでしたね」

「カズマ……? 誰だ? ううむ、此処最近でギルドに立ち入る者であればある程度名前と顔が一致するんだが、すまないが分からんな」

「えーっと、その、カズマさんは昨日の午後に募集を出したみたいで今朝お試しでパーティを組んだって感じなんだ。だから、丁度おんおんはすれ違ったんじゃないかな」

「それに、ギルドに登録はしたものの昨日まで土木作業員のアルバイトに精を出していたと言う事なので知らなくても仕方が無い気はしますよ」

「ふぅん……。まぁ、何にせよ変な事をされないようにな。まだ十三歳とは言え、君らは可愛い女の子なんだから。恋人でも無い相手に粗相されては将来困るからな。ちゃんと相談するんだぞ? ――首を縊り落として、蘇って来れないように骨まで燃やし尽くしてやるからな」

 

 ついつい力を強めてしまい瞳が発光する。めぐみんが後退ってゆんゆんとひしっと抱き着いて恐怖で震えてしまった。

 おっと、想定以上に低い声が出てしまった。怖がらせるつもりは無かったんだがな……。

 って、なんでトレントとコカトリスも震えてるんだ。視線を向ければ何故かこくこくと頷いている。何に頷いているんだか……。

 

「んで、そのカズマさんからハンバーグを教えて貰ったのか?」

「は、はい! クエスト帰りに少し酒場で休憩した時に話題に出たんです。私たちを見てからメニューを見て、そういやハンバーグ無いんだな、って呟いてたんです」

「ふぅん、……成程ね、そう言う事か。因みに、年齢は幾つだって?」

「えぇと、確か十六って言ってたような? アクアさんは……秘密ってウィンクされましたね」

「なら、カズマくんか。君らを見て何やら劣情の籠った視線は受けたりしたかい?」

 

 めぐみんとゆんゆんはお互いを見て小首を傾げた。だが、めぐみんだけが視線が下がって豊満でたゆんたゆんなところを凝視して睨み付けていた。

 あぁ、うん、ゆんゆんの胸に釘付けだったのか。ゆんゆんのたゆんたゆんは年齢と比べても大分豊満だからな。

 まぁ表立って鼻息を荒くするようなタイプでもなく、性的な興奮を覚えるロリコンでも無い訳か。理性があって何よりだ。

 恐らく、そのカズマくんは転生者だろう。私と同じ勇者候補である筈だ。

 ……まさか、な。確かアクアってアクシズ教が崇める女神の事だったよな。んでもって、アクセルに来た日に神々しい魔力の昂りが生じていた。

 …………そっかぁ。カズマくんは転生特典として女神アクアを選んだのか。

 道理でめぐみんたちに手を出すつもりが無かったのだろう。となると、あの時ギルドですれ違った男女がカズマくんとアクアさんか。

 アクセルに来た高揚感で見落としていたが、そう言えば少年の方はジャージを着てたな。連れの女性も水色の綺麗な人だったような……。

 ふむ、女性を特典としたのだし、色々とずっぽりとした関係なのだろう。

 特典を盾に夜な夜な性欲的にプレイをして、それに飽きて来たから冒険者として働き始めたと言う感じだろうか。

 …………めぐみんに鉄製の首輪を付けて裸で夜な夜なプレイ、か。良いな、実に良い。

 感度が良いめぐみんの事だ、可愛い声を漏らしてくれる事だろうな……。

 情欲の孕んだ視線をめぐみんに向ける。きょとんと首を傾げる無垢な姿を見て――。

 

「落ち着け馬鹿ぁっ!?」

「「おんおん!?」」

 

 何頭の中をピンクに染めてるんだ。正気に戻るべく両手で顔を叩く。

 ……ふぅ、わたしはしょうきにもどった!

 ううむ、やはり禁欲的な生活で溜まってるんだろうか。新しいのを執筆すれば幾らか発散できるだろう。新作、書くかぁ……。

 

「…………ふぅ。ハンバーグだったな。作って来る」

「あ、はい。だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、問題無い」

 

 直後にボコボコにされそうな台詞を吐いてから、若干茹だった頭でキッチンへと歩いて行く。

 おっと、コカトリスを胸に抱いたままだった。濡れ布巾で足を拭ってからリビングに解き放つ。

 新しい場所で興味が尽きないのかコカトリスはあちらこちらを見やって探索を始めたようだった。

 

「あ、そう言えばおんおん。このコカトリスって名前付けてるの?」

「ん? いや、特段考えてないが……、そうだな。ヒヨトリウス……、いや、ヒヨトリアだ。卵を産むから雌だしな。仲良くしてやってくれ」

「うん! 新しいお友達になってくれると良いなぁ……」

「……頼むから人間の友達も増やすんだぞ」

「う、うん!」

 

 ひよこみたいなコカトリス、略してヒヨトリス。そのままだと安直だから有名な名前を模してヒヨトリウス、その女性名でヒヨトリア。

 壊滅的なネーミングセンスの紅魔族からすれば程々に良い名前では無かろうか。

 まぁ、深淵を歩く騎士のようになるかは分からんけどな。鶏サイズだし……。

 さてと、ヒヨトリアを放ったし、取り合えず着替えてくるか。

 手洗いうがいをしてから二階に上がり、カルラ衣装をハンガーに移し、部屋着に着替える。

 キッチンへと戻り、ソウルからバタン牛の肉塊を取り出し、まな板の上で包丁を使って挽肉にしていく。

 バタン牛は極度のビビり症を患った牛の一種であり、驚くとその場にバタンと倒れる事で有名だ。

 それだけを聞くと変な牛なのだが、実態を知ると恐ろしい牛であると分かるだろう。

 近付いてきた肉食動物に対し気絶して倒れた振りをして、鋭利な角を突き刺して振り回し、傷跡を広げて返り討ちにすると言うアグレッシブな自衛をするのである。

 獲物に短角を突き刺す時の威力は鉄の盾を貫通する程であり、生態を良く知らない者に対して初見殺しを発揮する。

 ……里の森で偶然出会ったバタン牛にまんまと引っ掛かって脇腹に風穴開けられた時は本気で死を覚悟したものだ。

 その時にソウルの奥底にエスト瓶が収納されていた事を知って事なきを得たんだったか。

 ほんと、九死に一生を得る経験だったな。それからは見た目に騙されないように気を付けるようになった訳だ。

 

「よし、初めてのハンバーグだし、繋ぎは無しで行くか」

 

 アルミのボウルなんてものは無いので木製のボウルをさっと濡らしてから挽肉にした牛肉を移す。

 流水で手を冷やしてから、岩塩を振って挽肉を潰しこねていく。あんまりこねすぎると手の熱が入りべちゃついてしまうので手早く混ぜ、形を整えながら空気を抜いていく。

 六つ成形したハンバーグを作って木製トレイに並べて置く。ううむ、掌が小さいから一個一個が小さく感じてしまうなぁ。

 まぁ付け合わせを増やすか。木箱からジャガイモを取り出して鉄串を突き刺して活〆し、包丁で皮に切れ込みを入れてから鍋で茹で上げる。

 水を張った木製ボウルで皮をつるりと剥き、一部残ってしまった芽の部分を取り除いていく。水を捨て、木製ボウルの中でじゃがいもを潰し、塩コショウで味を調えてマッシュポテトを作る。

 野菜の乾物と干しキノコを小さな寸胴鍋に入れて煮込んでいく。ベーコンを足してポトフもどきとして汁物にする。

 流石に今からデミグラスソースを作るには時間が掛かり過ぎるので、ケチャップ風のトマトソースを拵えるか。

 魔道冷蔵庫から低温睡眠中のトマトを取り出し、鉄串をヘタの所に差し込んで活〆する。

 

「……ほんと、なんで野菜を活〆しなきゃならないんだか……」

 

 手元でぴくぴくと痙攣するトマトを見やりながら溜息を吐く。

 気を取り直して包丁でヘタを取り、先程ジャガイモをゆでた鍋でさっとゆでて湯剥きする。

 フライパンでトマトを潰しながら煮詰めていき、水分が減り始めたら魔道冷蔵庫から瓶に入れて冷やしたお手製チキンブイヨンを取り出して加える。

 チキンブイヨンは鶏骨を野菜と煮詰めて白湯スープにし、最後にコラーゲンを混ぜて冷やして固めたものだ。

 流石にお手製なので一ヵ月保たないが、スープなどにちょくちょく使うので痛む前に使い切れているので問題無い。

 煮詰めてとろっとしたら塩で味を調えて小鉢に移し替える。ハンバーグはそのまま食べても普通に美味しいので後掛けできるようにしておきたいからな。

 フライパンに油を引き、ハンバーグをじっくりと焼いていく。その隣で溶けだした肉汁を絡めながらアスパラをソテーしていく。

 平皿にマッシュポテトとアスパラを盛り付け、綺麗な焼き色が付いたハンバーグを二つずつ並べていく。

 主食は取り置きの白パンがあるからそれで良いか。本音で言えば白米が良いが、二人が食べ慣れてないからなぁ。

 流石に一人だけ食べるのもアレだし、今回はパンで妥協だ。

 スープの味を調えてカップに入れて完成だ。流石に三人分を一気に持っていく事はできないのでリビングの方へ顔を向けて……、って、なんでこっちをじっと見てるんだ二人とも。

 

「ほぁあ……凄い美味しそうです……。これがハンバーグ……」

「料理も凄いけど調理過程が凄い手慣れてて、お母さんの背中を見てる気分だった……」

「こかー」

 

 あ、ヒヨトリアの食べるもの忘れてた。ゆでたコーンで良いかな。ささっとトウモロコシを半分茹で上げて包丁で種をそぎ落とす。

 これはヒヨトリア専用の木皿にするかな、と適当な浅めの深皿にコーンを入れて床に置く。

 こかこかーとありがとうの感情を此方に送ったヒヨトリアが啄んでいく。

 

「トレントに夕飯あげるから、出来上がったそれ配膳しておいてー」

「「はーい」」

 

 めぐみんたちに配膳を任せ、トレントには……生のにんじんでいいか。四本程活〆にし、庭に繋がる窓へ向かう。

 にんじんを差し出すとバリボリと美味しそうに食べていく。四本目を差し出してから、リビングに戻って清掃用に予備に置いておいた清潔なバケツを持って行き、庭で『クリエイトウォーター』で作り出した水を入れてやる。

 嬉しそうに飲み干すトレントのお代わりの声に応えて三杯程足してやる。……後で半樽に替えよう。そう見えないように振舞っていたがバケツだと飲み辛そうだった。

 まぁ気遣いを言葉にするのも無粋であるし、それとなく明日にでも替えといてやるか。

 リビングに戻ると円卓テーブルに配膳し終えた料理をまだかまだかと見つめている二人に苦笑する。

 

「待たせたな。これがめぐみんが食べたがっていたハンバーグだ。本格的なものだとソースが違うが、まぁこれでも美味しいだろうから今日はこれで勘弁してくれ」

「とんでもないです! おんおんが作ってくれる料理は全部美味しいんですから文句なんて無いですよ! じゅるり……」

「あはは……、めぐみんお肉好きだもんね……。かく言う私もちょっと限界……、凄い美味しそうだもんこれ……」

「ふふふ、作り甲斐があって何よりだ。それじゃ、食べようか」

「「「いただきます」」」

 

 目をキラキラと輝かせながらフォークとナイフで食べ始めためぐみんとゆんゆんを見つめる。

 うっとりとした様子で美味しそうに頬張る姿に思わず笑みが零れる。こんなにも美味しそうに食べてくれるんだから作り手冥利に尽くと言うものだ。

 ケチャップ風味のお子様ハンバーグではあるが、我ながら美味しく作れたと自負できるくらいの出来栄えだった。

 

「んん~、美味しいです。これ何てお肉ですか?」

「バタン牛だよ、バタンキューでお馴染みの」

「あぁ、あのびっくりしたら倒れる牛ですか。……え? あれって家畜化が難しいって言われてて高級じゃありませんでしたっけ?」

「う、うん。数は揃えられても交配が難しいから主に狩猟でしか食べられないって話だよね。よく手に入ったね」

「里の外でたまたま遭遇してね。仕留めてあったんだよ。流石に一匹分しか無いからそう多くは無いけどね」

「へぇ、そうだったんですか」

「あぁ、ちなみに外で見つけても近寄っちゃ駄目だからな。バタン牛は気絶した振りで自分を狙う敵を油断させて、近づいたら頭の角で突き刺して暴れるからな。ほんと痛いぞ。めっちゃくちゃ痛いからな。近づかずに魔法で仕留めるなら良いが、気絶してるだろうってナイフで首を切りに行っちゃ駄目だからな、約束だぞ?」

「……まさかと思うのですが、返り討ちに?」

「………………ちゃんと仕留めたからノーカンだ。次は無いさ」

 

 気恥ずかしさからそっぽ向いたが、円卓テーブルなので丸見えだろう。

 致命傷だろうとエスト瓶二口で回復できる身体だからな。

 ゲームと違って即死さえしなければ瀕死の重傷でも根性でエスト瓶を飲めさえすれば前線に復帰できる。特典様様だな。

 ……二人からの視線が痛い。そりゃまぁ知らないところで幼馴染が死にかけてましただなんて聞けばそうなるか。

 

「まぁまぁ、その一件で私も考えを変えたんだ。今は安全第一に生きてるから安心してくれ」

 

 捨て身で戦う必要なんて無いなと考えを変えたのがちょうどその頃だ。

 私とて人間である、それも少女だ。痛いのが好きって訳じゃ無いので、大怪我を負った事でその事に気付けたのは僥倖だったと言える。

 マジで痛かったからな……、生前に胃腸炎になった時以上に痛かった覚えがある。

 遠い目をしているとめぐみんが溜息を吐いて、じっとりと睨むのを止めてくれた。

 

「仕方がありませんね。おんおんはそういうところ微妙に不器用ですから……」

「何と言うか、仕事はかっちりしてるのに一人の時の私生活が自堕落、みたいな感じなんだねおんおんって」

「ぐふぅっ、……仕方が無いだろう、面倒じゃないか。どうせ……」

 

 あっぶね、死んでも生き返るんだからどうでも良いだろ、と続けかけた口を止める。

 はぁ、やはり私の根幹は不死人としてのそれが強いな。特に考え方が。

 めぐみんと出会う前の生活で心の贅肉をそぎ落とし過ぎた弊害だろうなこれは。

 前提が不死であるから常識の天秤が揺れまくってるので、普通に生きるめぐみんたちの在り方とぶつかるとこうして不安定な部分が見えてしまう。

 ……まぁ、一番の問題はソウルを渇望するこの飢餓感だろうけども。モンスターなどからもソウルは得られるが、日頃からソウルの輝きを見ているが故に人へと視線が向いてしまう時がある。

 私がソウルを得るには私自身がとどめを刺さなければならないようで、遠くで死んだモンスターや誰かに倒されたモンスターなどはその人の方へ経験値として入るようだ。

 共同している際に非常にもどかしい思いをしたのを思い出す。ゲームなら適当にくたばった奴も手に入るのになぁ、と。

 如何せん、ここは現実。乖離しているのは当然の事だろうと現実を飲み干さねば生きていけない。

 

「誰も見てないし、ってところですかね。おんおんそういうの気にしがちですし」

「実際そうだろう? 人に見られる部分くらいは取り繕っておかないとボロが出るじゃないか」

「……まぁ、おんおんの場合、見えたボロが意外なギャップになって好感度上がるんですけどね」

 

 そうなのか? 私としてはそういうボロはあんまり出していないと思うのだが。

 首を傾げる私にめぐみんが額に手を当てて溜息を吐く。どうしてそこで私困ってますアピールをしたんだめぐみん。困らせた覚えは無いぞ?

 

「あるえ曰く、おんおんの魅力は、気の知れた頼り甲斐のあるお姉さんが時たま魅せるずぼらな一面の親近感から来る愛おしさ、だそうですよ。ほんと、それに振り回される身にもなって欲しいです……」

「ふぅん、あるえがねぇ……」

 

 ……ん? 何でそれでめぐみんが振り回されるんだ? めぐみんを見やれば頬を染めてそっぽ向かれた。

 可愛いかよめぐみん。ううむ、良く分からないがめぐみんにも通じる私の魅力と言う奴なのだろうか。

 私と違ってめぐみんは普通のノーマルだろうから、男友達的な見方でもしているのかねぇ。

 そう内心で独り言ちているとめぐみんが意味深な溜息を吐いた。

 ううむ、女心は難しい。私とて女である筈なのにさっぱり分からん。やはり、中身が伴わないと駄目なのかもしれん。

 

「……はぁ。この話は此処で終わりにしておきましょう。ええと、それで明日から私たちはそのカズマとクエストを受けていく感じでまとまりました」

「そっか。それは大変喜ばしい事だ。おめでとうめぐみん、ゆんゆん。初のパーティ入りだからと言って無理に合わせる事は無いからな。無理な時はちゃんと無理と言って示すんだぞ。それでも無理矢理しようものなら――」

「分かってます! 分かってますから瞳を輝かせないでください! 私たちと同じの筈なのに妙に迫力あるんですよねおんおんのは……」

 

 ……右目にダークリングが浮かんでいるからかもなぁ。威圧感を増す可能性があるとすればそれぐらいだろう。

 別に勇者候補ならソウルの輝きが強くて美味しいんだろうなぁだなんて思ってはいないんだぞ。

 ……ほんとだぞ?

 

「取り敢えず、明日はジャイアント・トード狩りの続きになると思います。……ゆんゆんのおかげで飲まれはしませんでしたが、やっぱり良い気はしませんね……」

「あはは、まぁまたアクアさんが飲み込まれて足を止めたのを倒す感じになるんじゃないかな」

「ジャイアント・トードか。それなら一応短剣を腰に忍ばせておくと良いぞ。万が一、飲まれた後に地面に潜られたらそのまま連れてかれるからな。内側から脱出する手段を用意しておいた方が良いぞ。後は毒薬とかだな。カエルは異常物を飲み込むと吐き出す習性があるから、そう言った小物も用意しておくと良いぞ」

「そうなんですか? なら、明日は雑貨屋に寄ってからギルドに行きましょうか」

「そうしよっか。私は『ブレード・オブ・ウィンド』があるけどめぐみんの爆裂魔法はお腹の中じゃ使えないしね」

「流石に巨大カエル相手に自爆は嫌ですね……しょぼすぎます」

 

 上級魔法の派生魔法である爆裂魔法を取得しても上級魔法のそれらを扱える訳じゃ無いしな。

 アークウィザードの魔法スキルの基本ツリーが初級、中級、上級魔法とすれば、爆裂魔法は上級魔法から派生する特化魔法に当たる立ち位置だ。

 これはテレポートと称される空間転移魔法と同じ立ち位置であり、その魔法スキル一つで成り立つ扱いをされる訳だ。

 なので、こういった特化魔法は上級魔法までの基本ツリーを完成した後に取るのが一般的な考えだ。

 めぐみんのように何かしらの意図があって特化魔法を先行する者も居るだろう。

 特に空間転移魔法はそれだけで一生涯の職業として成り立つので取っておいて損は無いのだから。

 

「……まぁ、ジャイアント・トードの唾液はめちゃくちゃ臭いって話だから飲み込まれないようにな」

「そうですね……、アクアが泣いてトラウマになってたぐらいですし……」

「うん……、凄く臭かったね……」

 

 スプレータイプの消臭剤だなんて便利な物は無いからな。唾液を拭ってから水洗いするしかないだろう。

 と言うか仮にも女神であるアクアさんが飲み込まれていたのかよ。

 いやまぁ、アークプリーストだと昇天系の魔法くらいで後は物理で殴る事ぐらいしかできないか。だが、それなら普通別の得物を使うとか工夫するだろうに……。

 案外、カズマくんとやらに出し抜かれるような女神だし、おつむが悪いのかもしれないな。

 そんな事を思いながら私は一つ小さく溜息を吐いたのだった。

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