がほんのちょっとだけ。
藤尭と友里の絶体絶命の危機を救ったのはマリア、切歌、調の三人だった。三人は自分達を見下ろすパヴァリアの錬金術師三人を見上げ、アームドギアを構える。
「ようやく会えたわね、パヴァリア光明結社。今度は何を企んでいるの?」
「革命よ。紡ぐべき人の歴史の奪還こそが、我々の本懐!」
マリアの問いに、サンジェルマンは見下ろしながら答えると龍『ヨナルデパストーリ』が咆哮を挙げ、マリア達に襲い掛かる。だがマリアは正面から龍へと向かい、その身体を縦横無尽に駆けて切り刻む。だが龍は倒れず、切歌達にそのまま襲い掛かる。
「攻撃が効いてないデス?!」
調は友里を抱え、切歌は藤尭を背負って避けた。その素早さにカリオストロは親指の爪を噛んで苦々しくなる。
「やだぁちょこまかとぉ!」
「だったらこれで動きを封じるワケダ。」
プレラーティは真顔の表情を変えず、アルカ・ノイズの召喚石をばら撒いた。
マリア達を囲うように、アルカ・ノイズは召喚されるが、装者達に動揺はない。三人はアルカ・ノイズを危なげもなく切り刻んでいく。だが三人には一つの欠点があった。
「この身体はキャロルがくれたもの……だけどいつも僕は無力で足手まといだ……!」
三人がギアを纏っているということは最後のLiNKERを使ってしまったという事だ。しかもLiNKERのレシピも解析しきれていない故に作る事も出来ない。本部のモニターで三人が戦う所をただ見ている事しか出来ないでいる事に、エルフナインは悔しさを滲ませていた。
LiNKERの効果が切れる前に撤退しなければ全員仲良くお陀仏だ。そうならない為に、三人は全力で目の前の敵を迎え撃つ。
だがアルカ・ノイズを滅する事は出来たが、問題はヨナルデパストーリだ。切歌と調が攻撃してもダメージが入っている様子がない。いや、ダメージは与えていた。実際マリアの攻撃も二人の連携攻撃も通っていた。しかし、ダメージを負っている様子がまるでない。
「ダメージを減衰させているのなら、それを上回る一撃で!」
左腕の篭手から無数の短剣を出し、それを自身を円状に囲い、高速回転させると竜巻を纏い、ヨナルデパストーリに突撃、その口に風穴を空けてみせた。
【TORNADO✝IMPACT】
「やった!」
藤尭がガッツポーズをするが、それは大抵やってない時の定番のお約束である。確かにヨナルデパストーリにダメージは入ったが、何とすぐさま元の形に再生、というよりはそもそも攻撃を受けてないかのようになっている。
「無かったことになるダメージ。」
「実験は成功というワケダ。」
「不可逆であるはずの摂理を覆す埒外の現象。ついに錬金術は人知の叡智、神の力を完成させたわ。」
これでは致命傷を与えても無かった事にされ活動を続けられてしまう。そんな不死身のヨナルデパストーリ相手に打つ手がない。ならば倒せない相手にわざわざ付き合う必要はない。マリアは大量の短剣を弾幕のようにばら撒いた。
「この隙に退くわよ!」
「逃さないんだからぁ♡」
カリオストロはバリアを張ってそれらを防ぐ……が
「あっ……!痛〜い!」
一本だけその守りを抜かされ、頬を掠めた。
この隙にマリア達は急いで敵の追撃を躱しつつ、弦十郎から送られた逃走経路に沿って走る。しかし、ヨナルデパストーリがしつこく追ってくる。逃げている全員がその不死性としつこさにうんざりする。
そこに良いタイミングで、下に貨物列車が走っていた。一か八か、マリア達は列車の上に乗り移った。
「何とか飛び移れた……けど……!」
全員乗り移れたが調の懸念通り、ヨナルデパストーリがどこまでも追いかけてくる。このままでは列車ごと自分達もやられてしまう。
「え?」
突如ヨナルデパストーリが消失した。先程まで暴れ狂っていた巨大な龍の姿がどこにもない。
「なぁに〜?ヨナルデパストーリをけしかけちゃわないのぉ?」
「神の力の完成は確認出来たわ。まずはそれで充分よ。それよりもティキの回収を急ぎましょう。」
先程の結晶の中に閉じ込められていた人形、ティキを回収する為にヨナルデパストーリを消した。しかし、その気になればあのまま追撃も出来たが、それを後回しにした事で、マリア達はこの危機を脱する事が出来た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ステファンの案内で、近くの村へと急行している瑠璃達。そこに指揮官が逃げ出したと思われるからだ。
「この先が俺の村です!軍人達が逃げ込むのだとしたら……」
「待って!この先……!」
瑠璃はバイデントのバイザーの反応をキャッチしたが、装者達とステファンは目の前の光景に唖然とした。指揮官が少女を盾にしており、左手には黄金のスイッチ。辺りにはアルカ・ノイズが蔓延っており、まだ住民が残っている。
「分かっているだろうな?おかしな真似をしてくれたら、こいつら全員分解してやる!」
下衆な真似にクリスは嫌悪する。しかし自分達が動いてしまえば、アルカ・ノイズ達が先に動いて村人達を虐殺してしまう。故に手を出せない。
「要求は簡単だ。俺を見逃せ。さもなくば出なくていい犠牲者が出るぞ。」
「卑劣な……!」
このまま手をこまねいてしまえば、指揮官に逃げられてしまう。だが人質がいる限り手出しができない。指揮官の要求を飲むしかないと思われたその時
「がぁっ!」
突如指揮官の後頭部にサッカーボールが直撃した。やったのはステファンだった。指揮官は装者に視線を集中していたあまり、ステファンが密かに裏手に周っていた事に気付かなかった。
ボールが当たった拍子に少女を手放してた瞬間、ステファンが少女を助けた。
「ステファン!」
「っ……!」
ステファンを呼ぶ声にクリスは一瞬驚いたが、この機を逃してはならない。今のうちに装者達はアルカ・ノイズを殲滅させた。
ステファンの機転を利かせたお陰で惨事にならずに済んだ。
「ソーニャ……。」
クリスは先程、ステファンを呼んだ女性を見てその名前を呼んだその時だった。
「ソーニャ……?ぅっ……!」
瑠璃が再び頭を抱えて苦しみだした。その異変に気付いたクリスは瑠璃に駆け寄る。
「姉ちゃん!大丈夫かよ?!おい!」
「め……まだ……ぁっ……!」
「どうしたんだよ?!」
「きゃああああぁぁっ!」
少女の悲鳴で、その方へと振り返る。指揮官は人質の少女を道連れにせんとアルカ・ノイズの召喚石をばら撒いていた。
召喚された時、瑠璃はヘッドギアのバイザーでその反応に気付いていたのだが、あの悪夢のヴィジョンが再び蘇り、苦しんでいるタイミングで召喚された為、何とかクリスに伝えようとしていたのだ。
「しまった……!」
クリスがクロスボウを構えるが間に合わない。少女にアルカ・ノイズの解剖器官が迫る。だがそこにステファンが少女を押し倒した事で、少女は分解されずに済んだが
「うわああぁぁっ!」
代わりにステファンの右下腿に解剖器官が巻き付いてしまった。このままアルカ・ノイズを倒しても、そこからステファンの身体は分解されてしまう。非情な選択を強いられてしまうクリス。
「ぅっ……クソッタレがああああぁぁぁ!!」
クリスがクロスボウの矢が放たれた。血が、肉が切られる音と、ステファンの悲鳴が夜空に響いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日本。バルベルデとの時差は10時間以上も違う為、日本は今昼前。夏休み中でも開放しているリディアンの図書室で一人、輪は本を読んでいた。
ここの所瑠璃の様子がおかしい事を察知していた輪は、S.O.N.G.がバルベルデへ発つ前に、弦十郎からその訳を聞いていた。
(瑠璃が悪夢に悩まされてるなんて……。しかもこのタイミングでバルベルデ……。大丈夫かな……。)
瑠璃が苦しんでいるのに、自分は何も出来ない。せめて瑠璃の苦しみを少しでも肩代わり出来たらと考えるが、所詮はもしもの話。何の解決もしない事を考えても仕方なかった。
輪は適当に本を出してそれを開こうとした時……
「痛っ……!」
人差し指を切ってしまった。指のお腹の切り傷から出血してしまう。鞄からティッシュを探すが、切らしている事に気付いてため息を吐く。
「はぁ……最悪……。」
「ため息が出ると幸せが逃げる。」
「え?」
ため息をしたら突然そのような事を言われて、自分の事だと思った輪は、思わず驚きながら振り返る。そこにいたのは瑠無だった。
「あ、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんだけど……。」
「あ、いえ……。それよりも今のって……私に言いました?」
「まあ……ね。ため息ついている人を見ると、何だか気になっちゃって。あら?怪我してるじゃない。保健室に行きましょう。手当してあげる。」
輪の指の出血を見た瑠無は輪を保健室へと連れて行った。
瑠璃の楽曲 AXZ編
ロストピースメモリー
失った記憶に苛まれながらも前を向く為に戦う覚悟を胸に刻む思いを歌にしたもの。