マリアが危惧した通り、カリオストロが単独で奇襲して来た。しかもよりによってギアの使用を制限されている上におばあさんがいる。調と切歌、そして瑠璃はおばあさんを守るようにカリオストロに立ち塞がる。
「あれま?一人はアルベルトのお気に入りと、後は色々残念な三色団子ちゃん達かぁ〜。」
「三……?!」
「色っ?!」
「団子とはどういう事デスか?!」
マリアのアガート・ラーム、切歌のイガリマ、調のシュルシャガナがそれぞれ白、緑、桃色である事を揶揄した挑発だろう。特に切歌がそれに憤慨する。
「見た感じよ?怒った?まあがっかり団子三姉妹はともかく、アルベルトのお気に入りちゃんがいるのがマシって所ねぇ〜。」
今度は瑠璃を挑発する。しかし、瑠璃はカリオストロに構う事なく、冷静に弦十郎に敵襲を報せる通信を掛ける。
「司令、パヴァリアの錬金術師がこちらを急襲!まだ民間人がいます!司令!バイデントの使用許可をお願いします!」
『くっ……!』
敵襲は予想出来たが、よりによってギアの使用を制限された瑠璃達の方に敵が来てしまった。向こうがアルカ・ノイズを使用しないとも限らないが、苦しませると分かっていてバイデントのギアを纏わせるわけにはいかない。
『駄目だ!』
「司令!何故?!」
『お前の武器はギアだけではない!』
「あらぁ〜?ギアを纏わないの?そ・れ・と・もぉ、纏えない理由でもあるのかしらぁ〜?」
カリオストロが目を細めて瑠璃の図星を突いた。アルベルトから事前にバイデントの呪いについて、予め聞いていたカリオストロはわざと挑発しているのだ。
瑠璃もギアを纏いたいが弦十郎の許可が降りない以上、ギアを纏う事が出来ない。力があるのに戦えないという歯痒さを体現するように、ギアペンダントを強く握りしめている。だが挑発に乗ってはならない。おばあさんの安全を確保させる為に、マリアの方に目配せする。
意図を察したマリアはおばあさんを背負ってその場を離脱しようとするが、カリオストロがそうはさせない。
「だったら少しでもギアを纏えるようにして……っ?!」
アルカ・ノイズの召喚石をバラまこうとしたカリオストロを、瑠璃がタックルして阻止する。組み倒されたカリオストロは瑠璃を退かそうとするが、掴まれた手が動かせない。思いの外瑠璃の力が強く、振り解けないとカリオストロは思っているが、瑠璃は弦十郎から合気道や組手を教わっているので、どこに力を入れればいいかを心得ているのだ。故に体格がカリオストロより劣っていても抑える事が出来た。
「この子、どんだけ力があるのよぉ?!」
「三人とも!今のうちに!」
マリアはおばあさんを背負い、調と切歌を伴ってその場を後にする
カリオストロもただ組伏せられているだけではない。左掌に集まった光弾が放たれようとした時、それに気付いた瑠璃は身体を左に捻るように跳躍して、放たれたそれを避けた。だが拘束を解いてしまった為、自由の身になったカリオストロは起き上がる。
「もう汚れちゃったじゃなぁ〜い!なら今度は私から密着しちゃうんだからぁ〜!」
カリオストロはアルカ・ノイズの召喚石をばら撒いくと、瑠璃はアルカ・ノイズが姿を表す前に出来るだけその場から距離を取る為に走り出す。
「逃さないんだからぁ〜!」
カリオストロの意思に従うようにアルカ・ノイズは瑠璃を追撃する。瑠璃は振り返らずに走り続ける。
逃げてクリス!!
私の事はいいから!早く!!
その時タイミング悪く、霞がかったようなヴィジョンが流れてしまう。だか後ろからアルカ・ノイズが追ってきている以上、今はそんな事を考えている余裕はない。そのまま走り続けるが
「うわぁ!」
突然背後が爆発し、その爆風に吹き飛ばされてしまい、大きく転倒する。振り返ると、カリオストロは不敵な笑みを浮かべながらその右掌に光の弾が浮いていた。それを投擲したのだろう。
さらにそこに追ってきたアルカ・ノイズに囲まれてしまう。もはや逃げ場がない。
「待たせたな!姉ちゃん!」
上空から声が聞こえた。姉ちゃんと呼ぶのは一人しかいない。空を見上げると、イチイバルのギアを纏い、ミサイルをサーフボードのように乗りこなすクリス。そのままクロスボウの矢が瑠璃の周りにいるアルカ・ノイズに降り注ぎ、文字通り蜂の巣にしてやった。
「あたしに任せて早く逃げろ!」
「ありがとう!気をつけてね!」
「ああ!」
カリオストロの相手はクリスに任せて、瑠璃は撤退した。
『錬金術士は破格の脅威だ!翼たちの到着を……』
『そうも言ってられなさそうだ!』
「会いたかったわぁ!ああ〜ん!巡る女性ホルモンが煮えたぎりそうよぉ〜!」
カリオストロが放つ光弾が容赦なく上空に飛ぶクリスのミサイルを狙う。クリスのクロスボウとカリオストロの光弾がぶつかり合うが、最後の一発を放った光弾がミサイルのブースター部が直撃し、クリスが降り立つとミサイルは爆発してしまう。しかも着地した直後も、光弾が容赦なく襲い掛かる。
「今度は妹が近くに来てくれたぁぁぁ〜!!」
カリオストロは歓喜の叫びを挙げながら、自身の背後に展開した錬金術の陣から大量の光弾を放った。バク転しながら回避し、距離を取るクリス。砂煙でクリスの姿が見えなくなるが、砂煙が晴れるとクリスの左腕のアームが大弓へと可変させて、ミサイルを番えて構えていた。だがカリオストロは動じない。
「焦って大技、それが!命取り、なのよね!」
弓は銃とは違い、方向転換してからすぐに放つ事が出来ない。さらに矢の軌道は一直線。例え放たれてもそれを避ければその隙を突く事が出来る。
カリオストロはミサイルの矢が放たれる前に、クリスの背後に周った。だが
「ああ。誘い水に乗って隙だらけだ。」
目線だけ動かし、不敵な笑みを浮かべるクリス。まるで待っていたかのように。
自分が誘い込まれていたのに気付いたカリオストロだったが、砂煙を切り裂くように現れた響に懐まで入られ、その腹に肘打ちが直撃する。
「内なる三合、外三合より勁を発す。これなる拳は六合大槍!映画は何でも教えてくれる!」
大きく転がったカリオストロは悪態をついて、近くの壁に手をつきながら起き上がる。だがそこに壁がある事に違和感を感じた。その壁は鏡のようにカリオストロの姿を写している。
「壁……?」
「壁呼ばわりとは不躾な!剣だ!」
壁、もとい巨大な剣、天ノ逆鱗が刺さっていたのだ。柄の上に腰に手を当てて佇んでいる翼は壁呼ばわりされた事で憤慨する。
「信号機共がチカチカと……!」
翼の青、響の黄色、クリスの赤で信号機と揶揄する。数で不利になってもカリオストロはまだやる気のようだが
『私の指示を無視して遊ぶのはここまでよ。』
サンジェルマンがテレパスでカリオストロに直接、通信する。どうやら独断で動いていたようだ。サンジェルマンに咎められたカリオストロは舌打ちしながらも、テレポートジェムを足元に投げる。
「次の舞踏会は、新調したおべべで参加するわ。楽しみにしてなさい。ばあ~い♪」
手を振りながら転移した。
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日が傾き、夕日が差し込む頃、おばあさんを連れて撤退したマリア達。現在は避難場所である小学校にいる。
「ありがとね。ただ、あの黒子の子も大丈夫かねぇ。」
「心配いりません。彼女も無事に逃げ出せたみたいです。」
マリアの背から降ろしたおばあさんは瑠璃を心配していた。マリアは瑠璃の無事の知らせは先程知らされ、先に弦十郎達の所へ戻っているとの事だった。
「お水もらってくるデスよ!」
「待って切ちゃん!私も一緒に!」
物資を運んでいる自衛隊へ切歌は走っていき、調もその後を追う。
「元気じゃのう。」
元気に走っていく切歌と調を温かい目で見送っている。
「お母さん、お怪我はありませんか?」
「大丈夫じゃよ。寧ろあんたらの方が疲れたじゃろうに。わしがぐずぐずしていたばっかりに迷惑を掛けてしまったねぇ。」
「いえ……。私達に守る力があれば、お母さんをこんな目には……。」
マリアはLiNKERが無いばかりにギアを纏えず、おばあさんを危険な目に遭わせた事に落ち込む。
「そうじゃ。せっかくだからこのトマト、あんたも食べておくれ。」
おばあさんが思いついたように籠からトマトを一つ差し出す。だがマリアの表情は引きつっていた。
「わ……私トマトはあんまり……」
マリアはトマトが苦手だという事が分かりやすく出ている。優しく断ろうとしたが、おばあさんの優しい顔もあって断りきれず、受け取った。
「では……ちょっとだけいただきます。」
マリアは恐る恐る、トマトを一口齧った。すると、瑠璃の時と同じように目を見開いた。
「甘い……!フルーツみたい!」
トマトが苦手なマリアも美味しく食べられる事に驚いている。
「トマトを美味しくするコツは、厳しい環境に置いてあげること。ギリギリまで水を与えずにおくと、自然と甘みを蓄えてくれるもんじゃよ。」
「厳しさに、枯れたりしないのですか?」
逆に水を与えないと駄目になるんじゃないのか、そう思ったマリアは齧ったトマトを見つめる。
「寧ろ甘やかしすぎると駄目になってしまう。大いなる実りは、厳しさを耐えた先にこそじゃよ。」
「厳しさに耐えた先にこそ……。」
おばあさんが教えてくれた事を呟く。厳しさにも色々あるが、それがどんな意図があるのか、今も分からない。だがそれは、自分が迷いこんだ時に導いてくれる道標になってくれるような気がした。
「トマトも人間も、きっと同じじゃ。」
おばあさんは優しく、マリアに諭すように呟いた。
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仮設本部では弦十郎、緒川、エルフナインが険しい表情でモニターを見つめていた。バルベルデドキュメントの解析が難航していたのだ。そこに戦線から撤退した。瑠璃も合流した。
「大丈夫か瑠璃?」
「うん。大丈夫だよ。ギアを纏わなくても、何とかなったけど……ちょっと焦ったかな。」
何故あのタイミングでヴィジョンが流れたのか分からない。しかも全体的に霞がかっていたのでハッキリとしない。しかし、無事に生き延びたのだからそれで良しとしている。
そこに緒川が
「司令、鎌倉からの入電です。」
鎌倉という単語を聞いた瑠璃は、少し怯えたような表情になる。
「直接来たか……繋いでくれ。」
「はい。」
鎌倉とは風鳴訃堂の屋敷を構える地名であり、この場合訃堂の事を指している。
風鳴訃堂は弦十郎と八紘にとっては父親であり、翼と瑠璃にとっては祖父、なのだが翼は血縁的には父親である。
瑠璃は一度、弦十郎に連れられ鎌倉へ挨拶に訪れた事があるのだが、護国の事を第一と考える訃堂に快く受け入れられるわけもなく
『夷狄の混血』
と罵られ見向きもされなかった。この時、瑠璃は本当は雪音である事を覚えていなかった為、どういう意味か理解していなかった。ただ正直、恐ろしいの一言しかない。
訃堂の恐ろしさを知る者達は、緊張しながらモニターに注目する。すると、モニターには家紋が映し出された。だがそこには訃堂の影が映っている。着物姿であるが肩幅が広く、見た限りでは老人とは思わせない。
『無様な。閉鎖区域への侵入を許すばかりか、仕留めそこなうとは。』
訃堂の怒号はその場にいるものを震え上がらせるくらい強いものだった。
「いずれこちらの詰めの甘さ、申し開きは出来ません……!」
『機関本部の使用は、国連へ貸しを作るための特措だ。だが、その為に国土安全保障の要を危険に晒すなどまかりならん。』
「無論です……!」
『これ以上夷狄に八洲を踏み荒らさせるな。』
訃堂は言う事だけを言うと、通信を切断する。実の父親とはいえ、抱く思想は正反対である事もあり、訃堂が苦手である。その証拠にあの弦十郎がため息をついていた。
「流石にお冠だったな。」
「それにしても司令、ここ松代まで追って来た敵の狙いは一体……?」
「狙いはバルベルデドキュメント。または装者との決着。あるいは……」
いずれにせよ判断するには材料が少なすぎる。これでは対策も練られない。パヴァリア光明結社に勝つ為に、バルベルデドキュメントの解析を急ぐ必要がある。
おまけ 訃堂へ挨拶
瑠璃「瑠璃と申します……。」
訃堂「ふんっ……夷狄混じりか。」
弦十郎「この子には翼とは違う道を歩ませるつもりです。何卒……」
訃堂「所詮夷狄の混血にはこの国を守れん。」
立ち上がり、広間から出ていき、一人になる訃堂
(うおおぉぉーーー!可愛い娘キターーー!愚息にしては上出来じゃぁ!)
タイプはどストライクでした。