戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星   作:レーラ

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いよいよ瑠璃を絶望に落とす時が来た。



ラピス・フィロソフィカス

 装甲車の中では友里がバルベルデドキュメント、エルフナインはDr.ウェルが遺したLiNKERのレシピの解析に手を回している。外は既に夜になっているが、彼女達は自分達の仕事を果たそうと奮闘している。そんな二人に差し入れが届く。

 

「友里さん。温かいもの、どうぞ。」

「デース。」

 

 調と切歌が温かいコーヒーを届けてくれた。

 

「温かいもの、どうも。何だかいつもとあべこべね。」

 

 いつも友里が温かいものを届ける方なのだが、今回は届けられる側になっている事におかしかったのか、笑みがこぼれる。

 

「あなたにも。」

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

 

 エルフナインの方にはマリアと瑠璃が届けた。

 

「調べものは順調かしら……これって?!」

 

 マリアがエルフナインのデスクを覗くと、そのモニターに映っていたのはかつてF.I.S.に所属していた子供達のデータだった。エルフナインがこれを閲覧していたのには訳がある。

 

「これって、もしかしてF.I.S.の?」 

「はい……少しでも早くLiNKERの完成が求められている今、必要だと思って……。」

「私達の忌まわしい思い出ね。フィーネの器と認定されなかったばかりに、適合係数の上昇実験にあてがわれた孤児たちの記録……。」

 

 その中にはLiNKERに適合する為に自らの命を擲ったジャンヌ、バイデントの起動実験で命を落としたメル、そしてネフィリムの暴走を止める為に絶唱を唄い、命を燃やしたセレナのデータもあった。

 かつてマリアはセレナが皆を守ったように自分も強くあらねばとガングニールのギアを纏っていた時があった。しかし最初はその適合率の低さ故に、全身にバックファイアが襲い掛かり、何度やっても操れない事から諦めかけていた。

 

『マリア、ここで諦める事は許されません。悪を背負い、悪を貫くと決めたあなたは、苦しくとも耐えなければならないのです!』

 

 それを許さなかったのが今は亡きナスターシャだった。

 

「マム……。」

 

 あの日の記憶を思い出し、呟いた。その時、装甲車にアルカ・ノイズ出現のアラートが鳴り響いた。友里は一度解析を止め、状況把握に周る。

 

「多数のアルカ・ノイズ反応!場所は……松代第三小学校付近から風鳴機関本部へ進攻中!」

 

 小学校と聞いて切歌はピンと来た。

 

「トマトおばあちゃんを連れて行った所デス!」

「マリア!瑠璃先輩!」

「ええ!」

 

 4人は自分達の成すべき事を果たす為に行こうとした時、エルフナインが止めようとする。

 

「待ってください!まだLiNKERが……」

「何処へ行く?」

 

 そこに弦十郎も帰還し、出口の前に立ち塞がる。

 

「敵は翼たちに任せるわ!私達は民間人への避難誘導を!」

「分かった。瑠璃以外は向ってくれ。無茶はするなよ。」 

「ええ。」

「待って、何で私だけ……?」

 

 弦十郎からの許可が降り、マリア達は駆け出すが、自分だけ残留を言い渡された瑠璃は納得がいかないようだ。ギアを纏うわけではないので行っても問題ないはずであるが

 

「お前は万が一の為だ。」

 

 上手く言い表せないが先程から弦十郎は胸騒ぎがしていた。以前も同じような経験があったが、その時は瑠璃と輪がノイズに襲われるという事案が発生してしまった時だった。

 確証はないが、このまま行かせるのは良くない気がした為にここに留まるよう言い渡した。

 

「分かりました……。」

 

 瑠璃も弦十郎の意図を理解したわけではないが、渋々残留に従った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 現場に到着した響、翼、クリスはアルカ・ノイズ相手に時間は掛けられないと判断し、短期決戦で終わらせる為にイグナイトモジュールを起動、跳ね上がった火力でアルカ・ノイズを瞬く間にその数を減らしていった。それを施設の屋根で見ていた4人の影があった。

 

「抜剣、待ってました♪」

「流石イグナイト、凄いワケダ。」

「魔剣ダインスレイフの呪いによって跳ね上げられた威力。馬鹿には出来ないな。」

「そうね。だからこそこの手には、赤く輝く勝機がある。」

 

 4人はそれぞれラピス・フィロソフィカスが填められたアイテムを取り出す。サンジェルマンは西洋銃の引き金を引くと鉄劇が弾き、カリオストロは指輪を填め、プレラーティはカエルのぬいぐるみから剣玉を出し、アルベルトは持ち手にラピスが施された長杖の先端をカンッと鳴らした。するとラピスが赤く輝き出した。

 

 翼がサンジェルマン達の姿を捉えるとそれぞれの手に剣を握り、刃に紅蓮の炎を纏わせて飛翔する。

 

 【炎鳥極翔斬】

 

 炎の剣が翼のように羽撃き、サンジェルマン達へと突撃する。

 

「押して参るは風鳴る翼!この羽撃きは、何人たりとも止められまい!」 

 

 間合いに入った翼は2本の剣を振り下ろすが、それは錬金術による半球状のバリアで防がれた。

 

「実験は成功だ。」

 

 アルベルトが勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべる。何を意味しているのか、すぐには理解出来なかったが、それはすぐに判明する。

 

「何……?!ギアが……!ぐあああぁぁぁっ!!」

 

 翼のギアが粒子の光を帯びると、そのまま翼が吹き飛ばされてしまった。

 

「翼さん!」

 

 さらに翼のギアはイグナイトから元のギアに戻っており、ただ吹き飛ばされただけで立つことすらままならない程のダメージを負っている。

 響達はサンジェルマン達がいる方へ見上げると、4人は月を背後に佇んでおり、今までの容姿とは異なる。彼女達はそれぞれ形状が異なる戦闘スーツや鎧を纏っている。それがファウストローブである事はすぐに分かった。

 

「まさかファウストローブ……!」

「よくも先輩を!!」

 

 クリスは激情を小型ミサイルに乗せるように一斉掃射するが、プレラーティの大型の剣玉を振るった事で、それに繋がる大玉が高速回転、ミサイルを全て防いだ。さらにその爆炎から発した煙からカリオストロが飛び出すと、拳から光線を発射する。

 

「こんなもの!」

 

 クリスはリフレクターを展開、光線とぶつかる。だが、翼の時と同じようにギアに粒子の光が帯び、イグナイトが強制的に解除されてしまった。その拍子に吹き飛ばされ、背中を建物の壁にぶつかってしまう。

 

「お姉ちゃん!クリス!」

 

 本部のモニターで翼とクリスが倒されてしまったのを目撃してしまった瑠璃は叫んだ。

 

「何が起きている?!」

「イグナイトのカウントは残っているのに……!」

「何故イグナイトが……?!」

 

 何故イグナイトが強制的に解除されてしまったのか、突然の事態に皆が動揺する。だからこそ、装甲車から出ていく瑠璃に誰も気付かなかった。

 

 

 残った響もサンジェルマンの弾丸によってイグナイトが強制的に解除されてしまい、立ち上がれない程のダメージを受けてしまった。サンジェルマンが響を見下ろしている。

 

「ラピス・フィロソフィカスのファウストローブ。錬金技術の秘奥。賢者の石と、人は言う。」

「その錬成には、チフォージュ・シャトーにて解析した世界構造のデータを利用……もとい、応用させてもらったワケダ。」

 

 どういう理屈か理解していないだろうが、それでも何とか立ち上がろうとする響だが、全身に襲うダメージがそれを許さない。

 

「あなたがその力で……人を苦しめるというのなら……私は……」

「誰かを苦しめる?慮外な。積年の大願は人類の解放。支配の軛から解き放つことに他ならない。」

「人類の解放……?だったら、ちゃんと理由を聞かせてよ……。それが誰かの為ならば……私達……きっと……手を取り合える……。」 

「手を取り合う?」

  

 サンジェルマンは響の言葉をオウム返しに呟く。

 

「サンジェルマン。さっさと……」

 

 Tearlight bident tron……

 

 星々が煌めく夜空に歌が響くと、藍色の光と共に投擲された黒槍がサンジェルマンに迫る。サンジェルマンは後退するように跳躍すると、先程までいた場所に黒槍が刺さった。

 

「現れたか、バイデントの装者!」

 

 そこに瑠璃が降り立った。仮設本部では瑠璃が戦闘地に現れた事に驚愕する。

 

「バイデントの反応……?!まさか瑠璃ちゃんが!」

「あのバカ娘め……!」

 

 無断で出撃した事に憤怒するが、緊急事態である為、説教は後にする。

 瑠璃も3対1で、しかも相手はファウストローブを纏っている為、倒そうなどとは考えていない。ここに向かう前にマリア達に救援を出していた。それまで何とか持ちこたえる。

 残存しているアルカ・ノイズを蹴散らしつつ、サンジェルマン達の激しい攻撃を避け続ける。戦闘補助システムのお陰で、初見である攻撃を紙一重で避けられる事が出来る。さらにイグナイトを纏っていない為、響達のようにダメージを負うことはない。だが攻撃力が不足するという欠点が顕著に出ている。次第に数に押されていき、瑠璃は劣勢に立たされる。

 

「はぁ……はぁ……ぅっ……!」

 

 

 

 

 

 パパ!ママ!起きてよ!パパァ!ママァ!

 

 逃げてクリス!

 

 

 

 

 

 悪夢のヴィジョンが流れ、瑠璃を苦しめるが、敵を目の前にして止まるわけにはいかない。瑠璃は苦痛に耐え槍を握りしめる。

 

「また会えたね、ルリ。」

 

 そう言うとエメラルドグリーンを基色としたアーマーを身に纏うアルベルトが、すぐ目の前に立っていた。

 

「いつの間に……!」

「約束したね。次に会ったら記憶を返すと。」

「記憶を……んっ……?!」

 

 そう言うとアルベルトは瑠璃の身体を抱き寄せ、唇同士を重ねる。突然の出来事に呆然としてしまい、されるがままになる。

 だがこの行為の意味にエルフナインは気付いた。

 

「あれは思い出の!」

 

 これはキャロルとキャロルが作ったオートスコアラー達が力の源である思い出を搾取する時にやるもので、奪われた者は屍同然となる。しかし、瑠璃はそのような状態になる様子はない。

 

「思い出を与えている……?!」

 

 

 

 

 

 パパ!ママ!起きてよ!死んじゃ嫌だよぉ!

 

 絶対にお姉ちゃんが守ってあげるからね……!

 

 

 

 

 

 今まで霞がかっていたヴィジョンがハッキリと晴れていくのが分かった。唇を離したアルベルトはそのまま瑠璃を手放した。 

 

「ぅ……くそっ……姉ちゃん……?」

 

 奇しくも同じタイミングで気を失っていたクリスの意識が戻った。瑠璃がギアを纏って戦っていたのを目の当たりにしていたが、次第に瑠璃の様子がおかしい事に気付いた。

 

「思い出しただろう?」

 

 

 

 逃げてクリス!お姉ちゃんに構わないで走って!

 

 絶対に……クリスに会うんだ……クリス……。

 

 

 

「そうだ……。あの時……パパとママが亡くなって……銃を持った人達に追われて……クリスを逃して……」

 

 瑠璃の瞳孔は酷く揺れ、脂汗が滲み出ている。記憶が鮮明になるにつれて身体が震え、髪を乱暴に掴むように頭を抱える。

 仮設本部では緊急事態を知らせるアラートが響く。モニターには瑠璃のバイタルが表示されているが、心電図や脳波を示す波が激しく揺れている。これまでのものとは明らかに違う。

 

「瑠璃ちゃんのバイタル、異常発生!適合率急激に低下!」

「瑠璃!しっかりしろ!自分を保て!」

「姉……ちゃん……?!姉ちゃん……!」

 

 弦十郎と痛みを押し殺しているクリスが必死に呼び掛けるが、今の瑠璃には届いていない。その顔は恐怖と絶望に染まり、次第に涙も流した。

 

「それから……それから……っ……」

 

 

 

 

 

 

 嫌だ……い……や……ぁ……嫌だあああぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 放して!嫌だあぁぁ!助けて!パパァ!!ママァァ!!

 

 

 

 

 

 

「ぁ…………ぁ……ぁ…………っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瑠璃の悲鳴が夜空を切り裂く程に木霊する。地獄の6年間、自由も人権も、純潔も奪われた忌まわしき記憶が蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、瑠璃の忌まわしき過去が語られます。
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