雪音ルリ 雪音雅律とソネット・M・ユキネの娘であり、妹のクリスは双子である。一卵性双生児である為、髪や瞳の色、黒子の位置に差異はあれど瓜二つだった。髪も切っておらず、クリスと同じ2つのお下げをしていた。
今でこそ内気で時々大胆な行動を取ることがあるが、昔はそうではなかった。どちらかと言えば、ルリの方が活発だった。
妹が近所の子供に虐められた時は、ルリが真っ先に駆けつけ立ち向かい、クリスが熱を出して苦しんでいた時は、ルリがずっと傍にいて看病した。
両親と共にバルベルデで行く事になった時も、不安がっていたクリスを励ましていた。
「大丈夫だよクリス!何があっても、私が守るから!」
だからクリスは見知らぬ土地に着いても、怖くはなかった。ルリもクリスと一緒にいる事で、どんな事が起きても乗り越えられる。そう感じていた。
バルベルデで両親がNPO活動をしていたある時、ルリとクリスは現地の子とサッカーで遊んでいた。もちろん両親の目が届く場所で。クリスも参加していたが、なかなか上手くボールを蹴れなかった。
一方ルリはというと
「行くよー!それぇっ!」
勢いよく蹴ったボールは、ゴールとは全然違う方へと飛んでいった。10回に一回上手く蹴れるが、それ以外はクリスとほぼ同じくらいポンコツである。しかも蹴ったボールの先には
「危ない!」
偶々通り掛かった人の頭に直撃しそうになった瞬間、その人は高く飛んで、右足で見事にトラップ。着地すると、地面に軽くバウンドしたボールを、足の甲で蹴り上げ、大腿で2回トラップ、足を回して蹴り上げて、最後にインサイドストールをした足を飛び越える反動でボールを蹴り上げた。アクロバティックな動きをする度に、後ろに結んだポニーテールがしなやかに舞う。
「凄い……。あっ……ごめんなさい!」
ルリは慌ててその人に駆け寄って謝った。すると、こめかみが肩にまで付きそうなくらい長い黒髪の女性が、ボールをルリに返した。
「大丈夫さ。私も少し齧ったくらいだが経験していてね。君は……現地の子じゃないね?」
「うん。パパとママが連れてきてくれたの!」
「ご両親か。ああ、あの歌が綺麗な夫妻か。どうりで、あの二人にそっくりなわけだ。」
「お姉ちゃーん!どうしたのー?」
いつまでもルリが帰って来ないのを心配したクリスが様子を見に来ていた。
「あ、もう戻らなきゃ。ボールありがとう!」
ルリが子供達の所へと戻って行こうとした時
「君、名前は?」
「雪音ルリ!お姉さんは?」
クリスに問われると女はフッと笑みを浮かべ
「瑠無だ。」
「ありがとう瑠無さん!」
ルリが子供達の所へ戻るのを見届けた瑠無は、何処かへと姿を消した。
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両親が死んだ。ソーニャが運び込んだ物資が偽装で、本当の中身は爆弾だったのだ。その爆発に巻き込まれ、両親はこの世を去った。
「パパァ!ママァ!死んじゃ嫌だぁ!起きてよぉ!」
両親が死んだ事を認めたくなくて、ルリは両親の遺体に崩落した瓦礫を退かそうとしたが、ソーニャに止められてしまった。
二人は見知らぬ土地で天涯孤独となってしまい、しばらくは知り合った子供達の所でお世話になっていたが、間もなくそこも紛争が激しくなってしまった。
政府軍がその村を反政府ゲリラの拠点であると疑い、攻撃を仕掛けたのだ。実際、この村は反政府ゲリラとは無関係だったにも関わらず、戦車の砲撃や機関銃の弾丸が飛び交う地獄絵図と化した。
そこにいた村人は射殺された者、捕虜になった者に分けられ、捕虜は皆女子供だった。しかし彼らは子供相手でも容赦はしない。死者の中には、サッカーで遊んだ子供もいたのだ。とても軍人がやる事とは思えない所業だ。
ルリとクリスは小さな家に身を潜んでいた。窓からこっそり外の様子を見るが、兵士が一軒ずつ家に突入している。ここに入って来るのは時間の問題だ。
だが一つだけこの場を切り抜けられる方法がある。作戦を至近距離ではないと聞こえないくらい小声でクリスに伝える。
「クリス。私があの人達を引きつけるから、その間にクリスは裏手から逃げて。」
「そんな事をしたら、お姉ちゃんが……!お姉ちゃんも一緒に逃げよう……!お姉ちゃんと一緒じゃないと嫌だ……!一人は嫌だよ……!」
「クリス、二人で逃げてもあっという間に追いつかれちゃう。そうしたら何をされるか分からない。」
国を守るはずの政府軍がこれでは自分達が捕虜になった時、何をされるか分かったものではない。彼らを信用できないと判断したルリはせめてクリスだけでも逃す事を決めたのだ。
しかし、ルリと離れるのが嫌なクリスは言う事を聞かない。すると複数の足音が近付いてきた。もう時間がない。
「クリス、私が絶対に守るから……。約束する。必ず生きて帰るから、今だけはクリスだけでも何とか逃げきって。私も後から追いつくから。」
「本当に……?」
「もちろんだよ。ほら、指切り。」
そう言うとルリは小指だけを立てる。クリスも同様に小指を立てると、小指同士を組んで、指切りげんまんをした。
だがそれが終わると同時に外からドアを蹴破られた。
「ガキがまだいたぞ!」
「マズい……!」
それに気付いたルリは急いでクリスを逃す為にタンスにあった衣服を乱暴に放り投げて、そこら辺にある小物を兵士に向かって投げつける。顔に掛かった衣服が目くらましになったようで、今のうちにクリスに逃走を促す。
「お姉ちゃん……!」
「逃げてクリス!私の事は良いから早く!」
クリスは裏口から脱出し、少しでも時間を稼ぐ為にルリは残り必死に抵抗する。食器や本、使えるものは何でも投げた。だがその抵抗をかいくぐって裏口へ行こうとする男がいた。
「させない!」
ルリはその男に飛びかかって、クリスを負わせない為にしがみついた。
「このメスガキ!」
アサルトライフルの銃身でルリは叩き落とされてしまう。起き上がろうとした時、既に大勢に囲まれたルリは起き上がれないよう男達に暴行を加えられた後、取り押さえられた。そのまま捕虜として政府軍に連行されてしまった。
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捕虜として連行されたルリは目隠しをされたまま牢屋まで連行され、そこで目隠しを外されるとそのまま放り込まれた。
その牢はとても狭く衛生的とは言い難い。それに加えてルリと同じくらいまだ幼い少年少女が一つの牢に10人単位で押し込められている為、余計に狭さを感じてしまう。
食事も悲惨なもので、一日に必要な栄養素など皆無に等しかった。故に栄養失調になる者が後を絶たなかったが、彼らがそんな事に構う事はない。
兵士達が来ると男子は全員連れて行かれ、そこでは強制的に銃を持たされ、訓練に参加させられる。それを嫌がれば殺される故にやるしかなかった。だがその訓練は虐待じみており、それで亡くなる子供も少なくなかった。訓練で生き延びると再び収容されていた牢に放り込まれる。
女子は掃除や物資の運搬などの肉体労働を強いられる。いかなる時であっても休む事は許されず、少しでも休もうとすれば暴行される。さらに苦労して終わっても、兵士達がわざとぶち壊し、やり直させる。
時々何人かは、兵士達に何処かへと連れて行かれるが、そのまま帰って来ない。奴隷として扱われ、何処へ連れて行かれ何をされるのか分からない故に女子達は男子と同様に、政府軍の兵士達にひどく怯えていた。
唯一の救いは、ここにクリスがいないという事だ。ここに来てから何度も暴力を振るわれており、身体に痣が何箇所も出来ている。だがルリは必ずクリスと再会する約束を果たす為なら、どんなに辛くても恐怖に抗い続けられる。
(クリスと絶対に会うんだ……!必ずここを出るチャンスがあるはず……!)
そのような過酷な生活で6年過ごし、途中ではあるが身体は成長している。同じ奴隷の子達を励ましていきながら、生還出来る事を、クリスと再会出来る事を願っていた。
ある時、国連軍がここに来るという噂を耳にした。何でも音楽会のサラブレッドを保護する為に引き渡しを要求しているのだとか。これがルリとクリスの事を指している事は、すぐに察した。この噂が本当ならクリスとの再会も夢ではない。
その日の夜、二人の兵士がルリがいる牢屋の前に立つと
「おいお前。」
「私……?」
「お前だ。出ろ。」
どういうわけか牢屋から出された。何故自分だけ?まさか噂は本当だったのか?なら……
(クリスに会える……!)
顔には出さなかったが心の中で、妹との再会への期待が大きく膨らんでいく。だが突然、兵士はルリに目隠しに加えて鎖付きの首輪を着ける。
「な、何これ……?!」
「黙って歩け!」
鎖を兵士に引っ張られると、それに繋がった首輪を着けているルリは犬のように強制的に歩かされる。外へ出ると、今度は護送車に乗せられる。後部の扉から乗せられ、途中で脱走されない為か奥の方へと入れられた。すると、先程ルリを連行した兵士とは別の4人の兵士が後部の扉から乗り込んできた。ルリは目隠しのせいで見えてないが、兵士達のルリを見る目が下卑ていた。
護送車が発車し、ジャングルの奥地へ走ると収容所と思われる施設の前で停車する。ルリはそこで降ろされたが、目隠しをされている為、ここが何処なのか分からない。
「ここ何処なの……?」
「いずれ分かる。ほら、さっさと歩け。俺達は忙しいんだ。」
鎖を引っ張られ、中へと強引に連れて行かれる。この時、今まで自分達を楽しそうに痛めつけておいて何が忙しいのかと心の中で毒づいていた。
「やめてええぇぇぇっ!」
甲高い悲鳴が聞こえた。
(何……?!今の……)
視界が利かない故に、突然聞こえた悲鳴に恐怖を感じて立ち止まった。
「止まるな!」
「痛っ!」
さっきよりも強く引っ張られる。歩く度に不安がどんどん大きくなっていく。しかし、ルリの意思とは関係なく男達にルリの首輪を繋ぐ鎖を引っ張られ、強引に連れて行かれる。歩く度に悲鳴が大きくなっているような気がする。
「ここで止まれ。」
すると、目隠しを外された。その前には大きな二つ扉がそびえ立っている。男がその扉を開くと
「え……」
その先の光景にルリは絶句した。
「やだあぁっ……やめ……てえ……ぇ…ぁ…」
「ぁっ……ぁぅっ……」
中で男達が女の捕虜を性欲のはけ口として弄んでいた。涙を流してやめてくれと泣き叫ぶ者がいれば、中には、大勢の男達の相手をしきれずに、既に事切れている者もいた。
この光景を目の当たりにしたルリは自分がこれから何をされるのか、想像などするまでもなかった。
「ね、ねぇ……これ……」
後ろにいた男達の自身を見る下卑た顔を見たルリは自分の運命を悟った。脚は震え、表情も恐怖によって歪んでいた。今の彼女に立ち向かう気力も勇気も皆無だった。
「いや……やだ……いやぁ……いやだあああぁぁぁ!」
これまでクリスの為に恐怖に抗ってきたルリだったが、遂に恐怖に屈した。泣き叫んで逃亡を図るも鎖に繋がれた首輪のせいで逃げ出す事は叶わず、強引に引っ張られながら牢に入られ、そのまま倒された。
男達が群がりルリを囲むと、一人が腹に蹴りを入れて抵抗出来ない様にした。
痛みで蹲るルリに別の男の手が、ルリが着ていた洋服を強引に破り捨て下着までもが剥がされた。
「いやぁっ!いやだ!やめてええぇっ!放してぇっ!」
一糸纏わぬ姿にされ、男達によって押さえられ、ルリは生殺与奪の権を握られた。圧倒的な力と数の暴力と悪意がまだ小さなルリに降りかかる。
「やだやだやだぁ!助けてクリス!!パパァァ!!ママァァァ!!」
「うるせえな、大人しくしてなぁっ!」
「いぎぃっ!」
ズンという音ともにルリの中にある心が崩壊を始めた。
いやああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
記憶が蘇った瑠璃の心は、あの日と同様に崩壊した。
忌まわしき記憶
クリスと離れ離れになった後、政府軍に捕まったルリはそこで6年間、虐待じみた収容生活を余儀なくされる。
それでもクリスとの再会を願い続けたルリ。どんなに痛めつけられようが、絶望する事なく捕らえられた他の子供達を励ましながら希望を模索していた。
そしてそれが実を結び、雪音姉妹の生存を知った国連軍は救助隊を派遣される事が決まり、それを知ったルリは希望を掴んだ。
だがその日の内に、ルリだけが他の収容所に移された。そこは、政府軍の性欲を発散させる為に作られた地獄。少女達はここで三日三晩、慰み者として兵士達に凌辱されていた。
自身の運命を悟り、遂に絶望し。ルリもまた彼女達のように、なす術なく兵士達に精神が壊れるまで犯され続けた。
これがきっかけで勇敢で活発だったルリは記憶を失い、性格も内気になってしまった瑠璃へと変わりました。
漢字とカタカナを使い分けていたのもそういう理由です。
しかし瑠璃がたまに見せる大胆な行動は、ルリだった頃の名残です。
今回の惨劇の内容を細かくしてしまうがR-18に抵触するのでいつかはそっちで描きたいと思います。