ちなみに切歌と調の訓練シーンはカットになります。悪しからず……
おや?輪の様子が……
偶然瑠無と出くわした輪は、近くの公園まで移動する。公園の敷地内にベンチがあったので、そこに座っると、瑠無から自動販売機で買った缶ジュースを貰う。
ちなみに瑠無は学校にいるときと同じ、スーツの上に白衣を着ていて、黒い日傘を持っている。
「どうしたの?何か元気なさそうだけど。」
「いえ……何でも……なくはないですね。」
瑠無は隣に座り、輪は瑠璃に起こった事を話した。ただS.O.N.G.の事については掻い摘んで話している為、機密などに触れるといったことはない。
「そっか……そんな事が……。辛いわね。」
「辛いです。一番の親友がこんな事になるなんて……。」
「そうね。けど精神っていうのは、どこまで行っても本人次第だからね。たとえ友達や家族でも、干渉する事は出来ないもの。」
瑠無は缶コーヒーを飲み干し「うん、美味しい。」と感想を言う。
「じゃあ私は……何も役に立たないっていう事ですね。」
俯きながら、自分で出した結論に瑠無は輪の方を向く。
「だってそうじゃないですか。私は瑠璃や皆みたいに、力があるわけじゃない。元に戻す事だって出来やしない。親友が泣いているのに……私は何も出来ない。これって、本当に親友って胸張って言えるのかな……。」
まだ中身がある缶ジュースを握り潰す辺り、相当無悔しさを滲ませている。缶が握り潰された事で中身のジュースが飲み口から飛び出て、手に掛かるが、輪はそんな事を気にする素振りすらない。それだけ心の中は悔しさでいっぱいだった。
「私に……力があれば……!」
本当は瑠璃は争いを好まない優しい女の子。みんなと笑って過ごせる日常が好きだった。ひょんな事から瑠璃は戦う道を選んだが、本来ならば瑠璃を戦わせるべきじゃなかった。寧ろ自分が戦って瑠璃を守るべきだった。もし自分がギアを纏えたら、結果は変わったんじゃないか?だが今更そんな事を考えても詮無きこと。瑠璃が元に戻るわけがない。何も出来ない自分がとことん嫌になる。力が欲しい。そう言おうとした時
「それは思い上がりよ。出水さん。」
「え……?」
「さっきも言ったけど、精神は結局その人次第。他人が干渉できるものではないって。もしそれが出来るのなら、それは神の力に他ならない。でもね出水さん、あなたは人間なの。間違っても、そんな事を言ってはならないし、やってはならないわ。」
瑠無は飲み干した缶を握り潰してベンチから立ち上がり、それをゴミ箱へと捨てる。その一連の動作の中で言ったセリフはまるで折檻でもするかのように。
瑠無は前屈みになって輪の顔を見る。
「とにかく私達が出来るのは、結果が良くなるよう精々祈るくらいよ。ジタバタしたって、何にもならないんだから。だから出水さんは大人しく……」
「出来るわけないじゃないですか……!」
言い終える前に輪が大声で遮る。
「瑠璃が戦ってる間、私はずっと無事で帰ってきますようにって、いつも、何度もお祈りしながら待ってましたよ!でも……それだけんなんです……!結局それってまた待ってろってことじゃないですか!もう無理ですよ!親友が……瑠璃が辛い思いをしているのに、それを精々良くなるよう祈れって……無責任じゃないですか!力を求めて何がいけないんですか……?!欲しいですよ力!神の力でも何でもいいから……瑠璃を助けたいんですよ!」
いつもシンフォギアを持つ瑠璃に守られて、救われるだけで、肝心な時に瑠璃を守れていないどころか、逆に窮地に追い込んだり、泣かせてばかりの自分に嫌気が差していた。
瑠璃を助けたい。今の輪はその思いでいっぱいいっぱいだった。声を荒げてぶちまけた輪は、缶を乱暴にゴミ箱へと投げ入れる形でぶつけた。
だが声が大きすぎたようで、公園でサッカーや砂場で城作り、ブランコで遊んでいる子供達やその親達が輪の方に視線が集まる。それに気付いた輪は冷静になり、「すみません……」と言い、軽く頭を下げる。
「ミラー先生……一人にさせてください。ジュース……ありがとうございました……。」
輪は足早に公園から出ていこうとした時、足元に転がって来たサッカーボールが道路に入ってしまう。すると背後から子供がボールを追いかけ飛び出し、ボールを拾いあげる。だがそこにエンジンの音が聞こえた。
「ヤバっ!」
道路を走る車が、速度制限を無視したスピードで子供に迫っていた。しかも運転手は脇見をしていて子供が飛び出した事に気付いていない。
輪は走り出し、子供を反対の歩道へ突き飛ばした。運転手も前に向き直した事でようやく気付き、慌てて急ブレーキを踏むがすぐに速度が落ちるわけもなく、輪に迫る。このままでは輪が車に撥ねられてしまう。
「出水さん!」
叫んだ瑠無が日傘を手に走り出すが、もう間に合わない。輪は目を瞑って身構える。
衝突する音、大人達の悲鳴が周囲に響く。
「あ……あれ……?」
来るはずの痛みと撥ねられて、飛ばされているはずが、どちらもその様子はない。異変に気付いた輪は恐る恐る目を開かせる。
「え……?!」
すると、紫色のバリアが車から輪を守った。
「えっ……?!何これ……?!どっから……」
何故こうなったのか、どうやって出たのか、よく覚えていないが、このバリアは輪が咄嗟に自分を守る為に出した右掌から出現している。
バリアと衝突した車はその場で停止、ボンネットから煙が開き、煙が上がっている。運転手はハンドルから出たエアバッグのお陰で軽傷で済んだ。
手を引っ込めるとバリアは消滅した。輪はその場にへたり込むと、自分の掌を信じられないと言いたげな表情で見る
(どうなってるの……?)
輪も含め、目撃者達は何が起こったのか誰一人理解出来ない。ただ一人を除いて。
「まさかあれは……。」
ただ一人、瑠無は驚愕というよりどこか笑っているようにも見えた。手にしている日傘の装飾のハートの結晶が日の逆光で煌めいていた。
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本部へと戻った翼を除いた装者達はエルフナインの研究室へ招集を掛けられた。掛けたのはエルフナインだ。集められた装者達の視線は全員研究室の席に座るエルフナインに向けられる。
「皆さん、LiNKERの完成を手繰り寄せる、最後のピースを埋めるかもしれない方法を見つけました。」
「最後のピース……?」
「本当デスか?!」
ようやく見えた希望に調と切歌が真っ先に反応した。
「ウェル博士に渡されたLiNKERのレシピで、唯一解析できていない部分。それはLiNKERがシンフォギアを、装者を脳のどの領域に接続し、負荷を抑制しているか、です。フィーネやF.I.S.の支援があったとはいえ、一からLiNKERを作り上げたウェル博士は、色々はともかく、本当に素晴らしい生化学者だったとは言えます。」
「素晴らしい……ぞっとしない話ね。」
彼については快く思っていないマリアだが、彼が作ったLiNKERは確かに負荷など殆どないくらいの出来だった為、冷静にエルフナインの評価には同意する。
「そして、その鍵は︙マリアさんの纏うアガート・ラームです」
「白銀の……私のギアに?!」
アガート・ラームが鍵と言われ、驚愕するマリア。エルフナインはそのまま続ける。
「アガート・ラームの特性の一つに、エネルギーベクトルの制御があります。土壇場にたびたび見られた発光現象。あれは、脳とシンフォギアを行き来する電気信号が、アガート・ラームの特性によって可視化、そればかりか、ギアからの負荷をも緩和したのではないかと、僕は推論します。」
あの時、松代でアダムの黄金錬成から逃れる際に見えた燐光。それがLiNKERの解析の最後のピースであると推測したのだ。
「これまでずっと、任務の間に繰り返してきた訓練によって、マリアさん達の適合係数は少しずつ上昇してきました。恐らくは、その結果だと思われます。」
「マリアの適合係数は、私達の中で一番高い数値。それが……!」
「今までの頑張り、無駄ではなかったというわけデスか?!」
「ええ!マリアさんの脳内に残された電気信号の痕跡を辿っていけば……!」
希望は見えたが問題があった。脳内の電気信号を辿ると言っていたが、それをどうやって辿るかだ。少なくとも現代の最新の科学、医療技術を用いてもそれを解析するものなどありはしない。だがエルフナインはそれを解析する唯一の方法を知っている。彼女はラボの奥にある装置まで案内した。
「それは……?」
「ウェル博士の置き土産、ダイレクトフィードバックシステムを、錬金技術を応用し、再現してみました。」
かつて未来が使用していたシンフォギア、神獣鏡に搭載されていたものである。戦闘時において、その場における最適な戦闘パターンを計算し、脳に直接それを伝達させる事で、たとえ戦闘慣れしていない者でも、それをデータ通りに行動が出来るというものだ。それをエルフナインか研究用に解析したのだ。
ちなみに瑠璃のバイデントに搭載されている戦闘補助システムと通ずるものがあるが、違いは脳に伝達させるものではない点と、ダイレクトフィードバックにはない索敵機能である。
「対象の脳内に電気信号化した他者の意識を割り込ませることで、観測を行います。」
「つまり、そいつで頭の中を覗けるって事か?」
「理論上は。ですが、人の脳内は意識が複雑に入り組んだ迷宮。最悪の場合、観測者ごと被験者の意識は溶け合い、廃人となる恐れも……。」
失敗すれば自分を失い、二度と人の生き方が出来なくなるというあまりにも大きすぎるリスク。普通ならば恐怖で出来ないだろう。だが被験者となるマリアに、恐れを抱いている様子はなかった。
「ようやくLiNKER完成の目処が立ちそうなのに、見逃す理由はないでしょう?」
「でも危険すぎる……!」
「やけっぱちのマリアデス!」
マリアを姉のように慕う調と切歌は反対するが
「あなた達がそれを言う?」
マリアの反論にぐうの音が出ない。先程、調と切歌はLiNKERと許可無しでギアを用いた訓練を強行していた。結果的にギアのバックファイアによって中断されたのだ。
話を戻して、マリアはエルフナインに問う。
「観測者……つまりあなたにも危険が及ぶのね?」
「それがボクに出来る戦いです。ボクと一緒に戦ってください!マリアさん!」
エルフナインも危険を承知でこの賭けに出たのだ。ならば乗らない手はない。マリアとエルフナインは装置のカプセルの中で仰向けになり、それぞれの頭にヘッドギアが装着された。
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鎌倉に自らの屋敷を構える風鳴訃堂、その規模は巨大な武家屋敷を思わせる。風鳴訃堂邸にその息子達である八紘と弦十郎、そして孫もとい娘である翼が集められた。
広間の下座に八紘と弦十郎が、上座には主である訃堂が座している。その距離は遠いが、その間に漂う重たく剣呑な空気は、訃堂によるものである。翼は障子の外側である縁側に座している。
「して……夷狄による蹂躙を許したと……?」
「結果、松代にある風鳴機関本部は壊滅。大戦時より所蔵してきた、機密のほとんどを失うこととなりました。」
「外患の誘致、及び撃ち退けることの叶わなかったのは、こちらの落ち度にほかならず、全くもって申し開……」
「聞くに堪えん。」
期待外れと言わんばかりの態度だ。とても親子の会話とは思えない。訃堂は立ち上がり、障子の前に立つ。
「分かっておろうな……?」
「国土防衛に関する例の法案の採決を、急がせます……」
「有事に手ぬるい!即時施行せよ!」
そう言い放つと障子が開き、広間から縁側へと出る。開けたのは翼だ。縁側をある程度歩くと翼に背を向けて
「まるで不肖の防人よ。風鳴の血が流れておきながら……嘆かわしい。夷狄の混血もまるで役に立たん。」
「我らを防人たらしめるは血にあらず、その心意気だと信じております。」
翼の答えに、訃堂は返事もせずにそのまま去った。
おまけ
「まるで不肖の防人よ。風鳴の血が流れておきながら……嘆かわしい。夷狄の混血もまるで役に立たん。」
(あれ?何故翼だけなのだ?瑠璃はどうしたというのだ?)
「我らを防人たらしめるは血にあらず、その心意気だと信じております。」
(この場合、あやつは何て答えるのかのう……。愚息め……何故瑠璃を連れて来なんだ……?!)