フィーネが根城とする洋館の広間で、一糸纏わぬ姿で瑠璃は眠らされている。
フィーネは瑠璃と口づけを済ませると、不敵な笑みを浮かべる。
「まだ洗脳は完全ではない……。だがバイデントの威力は証明された。ドイツの呪われたシンフォギアも、案外役に立つではないか。」
すると突然館のドアが乱暴に開き、クリスが入って来た。
「ふざけんなフィーネ!約束が違うじゃないか!姉ちゃんには手を出さないって……」
「手は出してないわ。全てはこの子の内側にある秘めた感情を引き出す手伝いをしただけよ。」
「言ってる事が分かんねえよ!それに、あたしが用済みってなんだよ?!もう要らないってことかよ?!あんたもあたしを、姉ちゃんを物のように扱うのかよ?!頭ん中ぐちゃぐちゃだぁ!何が正しくて何が間違ってんのか分かんねんだよぉ!」
「どうして私の思い通りに動いてくれないのかしら……」
振り向きざまにソロモンの杖を構えるとノイズを召喚した。
クリスを本気で亡き者にしようとしている。
「流石に潮時かしら。そうね、あなたのやり方でじゃ、争いを無くすことなんて出来はしないわ。精々一つ潰して、新たな火種を二つ三つばら撒くくらいかしら」
「あんたが言ったんじゃないかぁ!痛みもギアも、あんたがあたしにくれたモノだけが……」
「私の与えたシンフォギアを纏えながらも、毛ほどの役に立たないなんて。そろそろ幕を引きましょっか」
そう言うとフィーネの体を包むようにバラバラになったネフシュタンの鎧が再生、構築された。
「私も、この鎧も不滅。未来は無限に続いていくのよ。カ・ディンギルは完成してるも同然。強力で従順な手駒も手に入れた以上、もうあなたの力に固執する理由はないわ。」
「カ・ディンギル……。そいつは……。」
「あなたは知りすぎてしまったわ。」
杖を構えて命令を下すと、ノイズはクリスに襲いかかる。
間一髪、クリスは避けるも声が震えて歌えない。
階段から転げ落ちると、今日まで自分は騙されていた事に気付き後悔の涙を流した。
「チクショオオオォォォォーーー!!」
クリスの叫びは夕陽とともに消えていった。
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リディアンでは未来が一人、下校していた。
あれから響と再会したが、関係は悪化してしまった。
原因は嘘をつかれていたことでもあるが、最大の理由は響が傷付いているのに、自分は何も出来ない、また響が自分を犠牲にして、悩んで、抱えてもなんの役にも立てない。
結果的に、響の亀裂は決定的なものになってしまった。
気分が落ち込み、ため息をつきながら歩いていると……
そこに
(パシャッ)
「やっほー小日向さん。」
「出水さん……」
杖をついている輪が偶々通りかかり、写真を撮っていた。
「輪さん……?その足、どうしたんですか?!」
「いや、ちょっとね。それより、落ち込んでるんじゃないかなって思ってさ。ちょっと付き合ってよ。」
そう言って強引に連れて行かれると、着いた場所はルリと共にこと座流星群の写真を撮ったとしたあの場所だった。
「あの……ここって……」
「ここはね、私と瑠璃が、響と翼さんが戦っている所を目撃した場所だね。」
「知ってたんですか?!響が戦っていることを!」
未来は輪にグイグイ近づいた。
「落ち着きなよ。私達も本当にたまたまだったんだ。ここで写真取ろうとしたらさ、凄い爆発がして。で、瑠璃がそこに行ったらトンデモ体験したってわけ。ノイズはいるわ、妙な格好で戦ってるわで、訳分かんなかった。いや、今も分かんないや。」
未来はあっけらかんとした輪の態度が理解出来なかった。
どうしてそんなに割り切れるんだろうと考えてしまう。
「輪さんは……何でそんな風に割り切れるんですか?隠し事をされて何も思わないんですか?」
「実を言うとね、私も内心怒ってたんだ。瑠璃のお父さん、立花さんの上司みたいな人なんだけど、例の件、瑠璃にも秘密にしてたんだよ。守る為とはいえ、娘にまで秘密にしなきゃいけない事って何だよってね。」
そう言うと、輪はこの風景の写真を撮る。
「だけどね、瑠璃は信じるって決めたんだよ。たとえ秘密にされても、お父さんを信じるって。だから私もこれ以上言わないことにした。小日向さんもさ、立花さんが選んだ道を応援してくれないかな?強要するわけじゃないけど、人が選んだ道はそう簡単に変わらない。だけど、その人が苦しんだり泣きそうになった時、そばにいてあげないと、可哀想だから。」
響は誰かに言われて止まるような人ではない。
これからも響は戦い続けるが、その度に傷付く事になる。
そんな響を誰かが支えられる人が必要だ。
その意味に気付いた未来は俯いていた顔を上げたその瞬間、シャッターが押された。
「あー駄目だ。明るくないなぁ〜。」
「もう、勝手に撮らないでください!」
「あはは、ごめんごめん。」
響とは仲違いしているが、話を聞いて少し変われそうな気がする
。後は一歩前に踏み出す勇気だけが必要になったが、その事に未来はまだ気づいていない。
次の日、未来はまた一人で登校していた。あれからまだ勇気が出ずに話すら出来ない状態の自分に嫌悪感を抱く未来。
そんな心理状態を表しているかのように雨が降っていた。
ため息をついていると路地裏から物音がした。
何かあるのかと近づいていると、クリスが倒れていた。
「嘘?!ちょっと、大丈夫?!救急車呼ばなきゃ……」
「やめろ……」
救急車を呼ぼうとスマホを出した未来の腕を倒れていたクリスが掴む。
「やめろって言われても……そんな……」
「病院は駄目だ……ぐっ……」
何か事情があるのかと察した未来だったが、どうすればいいか考えていた。
「そうだ……あそこなら!」
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響は教室に入ると未来の姿が無いことに気づいた。先に出たはずなので遅刻なんてあり得ない。もしかしたら何かあったのではと考えてしまう。
だがその推理はある意味正しかった。未来は倒れたクリスをふらわーまで運んで看病していた。おばちゃんに事情を説明すると快く受け入れ、布団まで用意してくれた。今は疲労が溜まっていた影響なのかぐっすり眠っている。
(それにしても……この子、何処かで見覚えがあるような……)
会ったときから気になっていたがクリスが目を覚ましたことでそれはまたの機会になった。
「んぅ……ここは……」
「良かった……目覚ましたんだね!びしょ濡れだったから着替えさせてもらったよ。」
「な!か、勝手な事を……」
状況を理解したか自分の今の姿を見て、顔を朱く染めた。「小日向」と書かれた体操服一枚しか身に着けていなかった。
「流石に下着の替えは無かったから……!」
「ここは……あたしは倒れて……ここは何処だ?!それにお前は……」
勢いよく起き上がるクリスだったが慌てて未来が事情を説明する。
「落ち着いて。あなたが病院は嫌だって言うから知り合いの家を貸してもらってるの。」
「そうだったのか……助けてくれてありがとう……。」
粗暴な口調とは裏腹に感謝するクリス。
「どうも致しまして。ちゃんと休んで良くなってね。」
「ああ……お前何も聞かないんだな。」
クリスの襲撃に巻き込んでしまった罪悪感があるが、一応響とは因縁があるので自分が何者なのか聞いてくるものだと思っていたようだ。
「うん。私はそういうの苦手みたい……。今までの関係を壊したくなくて……なのに一番大切なものを壊してしまった。」
「それって、誰かと喧嘩したってことなのか?あたしには……よく分からない事だな。」
「友達と喧嘩したことないの?」
「友達……いないんだ。」
未来はその言葉に驚いた。
「地球の裏側でパパとママが殺されて、姉ちゃんと離れ離れになったあたしは、ずっと一人で生きてきたからな。友達どころじゃなかった……。」
「そんな……。」
未来はクリスの過去を聞いて絶句した。
「やっと再会できたと思っていた姉ちゃんも、あたしの事を何も覚えていなかった。たった一人、理解してくれると思った人も、あたしを道具のように扱うばかりだった。だれもあたしを相手してくれなかったのさ。」
クリスにとっては思い出したくない事だった。
「大人はどいつもこいつもクズぞろいだ……!痛いと言っても聞いてくれなかった!やめてくれと言っても聞いてくれなかった!あたしの話も……これっぽっちも聞いてくれなかった!」
クリスは今にも泣きそうになっている。話を聞いた未来は、彼女の思い出させたくない過去を話させてしまった事に申し訳なく思った。
「ごめんなさい……。」
少し話して落ち着くと、クリスは不思議と気が楽になった。誰かと話してしまうのも悪くないものだと思った。
「なあ、お前のその喧嘩の相手、ぶっ飛ばしちまいな。」
突然の過激な提案に驚く未来。
「どっちがつえーかハッキリさせたらそこで終了、とっとと仲直り、そうだろ?」
クリスらしい解決方法ではあるが、乱暴すぎる上に元も子もない。
「で、出来ないよそんな事……!でも、気を遣ってくれてありがとう……えっと……」
「クリス。雪音クリスだ。」
そういうと未来は優しく微笑んだ。
「優しいねクリスは。私は小日向未来。もしもクリスがいいなら……友達になりたい。」
未来の笑顔にクリスは戸惑った。それと同時に複雑な気分だった。嬉しいはずなのに、傷つけようとした罪悪感で心が苦しくなる。
「あたしは……お前達に酷い事をしたんだぞ。」
どういう意味なのか聞こうとしたとき、ノイズ発生を知らせる警戒警報が鳴り響いた。
「な、何だこの音?!」
警報を初めて聞いたからのか何が起こったのか分からなかった。
「クリス、外に急ごう!」
未来に言われて外に連れ出された。だが外は既にパニックになっていた住人達がノイズから逃げるために溢れかえっていた。
「おい、一体何の騒ぎだ?!」
「ノイズが発生したんだよ!警戒警報を知らないの?!急いで逃げよう!」
その意味にクリスは自分を激しく責め立てる。今まで自分が出してきたノイズがこうやって無関係な人々を巻き込んで恐怖に陥れている事に気付いてしまったからだ。クリスは民間人が逃げる方向とは逆の方へ走っていった。
「クリス?!どこに行くの?!そっちは……」
引き止めようとする未来だったがクリスは行ってしまった。
(馬鹿だ……あたしってば何やらかしてんだ……!このノイズは……あたしのせいだ!あたしがソロモンの杖なんか起動させなければ!)
河川敷まで走るとクリスは悔しさを滲ませながら叫んだ。
「あたしがしたかったのは……こんなことじゃない!」
(戦いを無くす為なんて言って、あたしがやった事は関係ない奴らを、姉ちゃんをノイズの脅威に晒しただけで……)
「いつだってあたしのやる事は……いつもいつも!!」
クリスの慟哭にノイズ達が気づいたのか、標的をクリスに定めた。
「来たな、ノイズども!あたしはここだ!だから、関係ない奴らの所になんて行くんじゃねえええぇぇぇ!!」
ノイズが体を変形させてクリスに襲い掛かる。
Killter Ich……
運の悪い事に詠唱途中で噎びいてしまい、最後まで歌いきれずシンフォギアを纏えなかった。
「しまっ……」
もう避けられず、詠唱も間に合わない。ここで炭になって消えるのか……諦めかけたその時だった。
「はああああぁぁぁぁっ!!」
弦十郎が前に立ち地面を殴りつけると、そのコンクリートの破片が盾となってノイズの攻撃を防いだ。ノイズが攻撃する際、一瞬だが物理が通る瞬間がある。弦十郎はそれを利用した。
しかし、これが本当に人間が成し得る技なのかとクリスは驚いたが、結果的にクリスは助かった。
「掴まれ!」
クリスを抱えるとそのままビルの屋上まで高く飛ぶという離れ業をやって退けた。
最早弦十郎は人なのかと疑いたくなる。
「大丈夫か?」
クリスの安否を確認する弦十郎だったかクリスは弦十郎の腕を振り払う。
Killter Ichaival Tron……
詠唱を歌うとクリスはイチイバルのシンフォギアを纏い、空中にいるノイズを蹴散らした。
「御覧の通りさ!あたしのことはいいから、ほかの奴らの救助に向かいな!」
「だが……」
「こいつらはあたしがまとめて相手をしてやるって言ってんだよ!」
(このノイズどと、もしかしたら姉ちゃんが……。だとしたら必ず何処かにいる!こうなったら絶対に止めてやる!)
【BILLION MAIDEN】
ボウガンをガトリング砲に切り替え、ノイズを蹴散らしていく。
「付いて来い!クズども!」
そういうとクリスは河原の方へ移動し、それを弦十郎はその背を見ている事しか出来なかった。
「俺はまた……あの子を救えないのか。」
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日が傾く頃、ソロモンの杖を持って山沿いの道路で河川を見下ろしている瑠璃がいた。
『ルリ、あの子は始末出来た?』
「対象、ロスト……。」
『そう、一先ずあなたは帰ってきなさい。まだ準備は完全じゃないわ。』
『了解。』
通信を切ると瑠璃はその場から立ち去ろうとすると、川で響と未来が笑い合っているのが見えた。
「ぐっ……!ぅ……ぁ……!」
(■リ■!)
(お姉ちゃん!)
突然フラッシュバックによる頭痛に襲われ、うめき声をあげながら蹲っていた。
瑠璃は痛みに耐えながら、ここを去って行った。
オリジナルエピソードをぶっ込みすぎて進みが遅いと感じてしまう……。
ちなみに今回ノイズによる死者は0なので、元に戻っても大丈夫です。
XDっぽくバレンタインセリフ
瑠璃編
あ、あの!チョコレート……良かったらどうぞ……。お、美味しい……かな?
輪編
やっほ〜!君には私特製の義理チョコをプレゼントをあげよ〜う!ん?本命は誰かって?ふっふっふっ……そんなの一人しかいないでしょ〜う!
ご感想、お待ちしております。