戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星   作:レーラ

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長くなり、遅くなりました。

申し訳ありません。

ここから瑠璃の出番が激減します。代わりに輪の出番が増えます。

輪「わーい。」



繋ぐもの……それは……

 強くなりたい。

 

 黒い霧が晴れると、そこはまるで宇宙空間を思わせる場所で、その声が聞こえた。それの声はマリアのものだが、マリア本人は一言も発していない。その正体は目の前にいるマリアの幻影だった。マリアとエルフナインは、突如目の前に現れたマリアの幻影を見据える。何故自分達に現れたのか、それは分からない。

 

 誰かに嘘をついてでも……自分を偽ってでも……

 

 でも本当は……嘘をつきたくない……

 

「ここはマリアさんの内的宇宙……」

 

 つまり目の前にいるマリアの幻影は、マリアの心の闇。弱さを受け入れられず、誰かと繋がる事を拒んだかつての自分。

 

「誰かと手を取り合いたければ、自分の手を伸ばさなければいけない……。だけど……その手がもし……振り払われてしまったら……」

 

 今まで誰にも打ち明けられなかったマリアの心の闇。その闇に引きずれこまれるように、エルフナインから離れていった。

 

「マリアさん!マリアさん!」

 

 エルフナインが手を伸ばすが届く事なく、マリアは落ちていった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 病院にいる瑠璃と輪を救い出す為に、本部から車を猛スピードで走らせる緒川。しかし、いかんせん停泊地点から病院への道は近いものではなかった。しかし、S.O.N.G.と共に戦ってきた仲間を見殺しには出来ない。何としても二人を救い出さねばとアクセルを最大まで踏み込む。

 目的の病院に辿り着き、中へ入った時だった。

 

「うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 

「今のはまさか……!」

 

 ガラスが割れる音とともに響いた輪の悲鳴。しかも外から聞こえてきた。踵を返して、悲鳴が聞こえた方へと向かう。

 

「輪さん!!」

 

 アルベルトの攻撃でヒビが入り、脆くなってしまった窓ガラスが粉々に砕け、磔にされていた輪の身体は5階の窓のガラスの破片と共に外へと放り出されてしまった。 

 いくら手を伸ばした所で、掴むものも、助けの手など届くはずもない。無情にも重力とともに、その身体は落ちていく。

 

(あ……私……死んじゃうんだ……。何も出来ずに……何も守れずに……。)

 

 守れなかった友を思いながら、意識と共に輪は落ちていく。 

 

(ごめん……瑠璃……。)

 

 だがその時、輪の首にかけたネックレスに象られたハートの結晶が、輝きを発した。

 

「あれは……!」

 

 突如発さられた輝きが大きくなり、何が起きたのか分からない緒川。その輝きに、目が眩みそうになる。だがその輝きも、すぐに弱まった。ようやく視界が利く程度までになると、黄金の光が輪の身体を守るように包みこみ、同時に落下の速度が緩和されている。

 地面へ落ちる前に、駆けつけた緒川がキャッチして抱きかかえると、輪の身体を包んでいた光は消失した。

 

「一体何が……これは?」

 

 気を失っていた輪の首に掛けられたペンダントに象られたハート型の結晶が煌めいた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 自らが作った闇に囚われ、孤独いう名の深い海にマリアはどこまでも沈んでいる。自分の脳領域では、誰も手を差し伸べてくれる者はいない。

 

(私は……自分で作った闇に溺れて……掻き消されてしまうの……?)

 

 このままどこまでも沈むのだろうか……

 

『シンフォギアの適合に奇跡というものは介在しない。その力、自分のものとしたいなら、手を伸ばし続ければいい。』

 

 あの日、ウェルが最期に遺したセリフが蘇り、マリアの目の前に現れた光を、その手を伸ばして掴んだ。

 

「マリアさん!」

 

 気がつくとマリアは白い部屋におり、隣にはエルフナインがいた。その部屋には見覚えがあった。

 

「ここは……白い孤児院?私達が連れてこられた……F.I.S.の……」

 

 目の前にはかつての幼きマリアとセレナがいた。あの日、二人が初めてここへ連れて来られた時の事を覚えている。研究員と思われる女性が優しく手を差し伸べる。マリアがそれを手に取ろうと伸ばそうとした時、それを許さないナスターシャが鞭を振るった事を。

 

「今日からあなた達には戦闘訓練を行ってもらいます。フィーネの器となれなかったレセプターチルドレンは、涙より血を流すことで組織に貢献するのです。」 

 

 あの時のナスターシャは優しさを一切見せない、冷酷な人だった。幼い頃に刻まれた記憶は大人になっても強く残るものだ。

 

『本当にそうなのかい?本当に君の記憶……』

「私の記憶は……マムへの恐れだったの?」

 

 ナスターシャの顔を見たマリア。だがその時のナスターシャは自分が思っていたのとは違っていた。あの時マリア達は痛みに怯えていたが、ナスターシャは悲しみの表情が出ていたのだ。一言で表すなら、本当はこんな事をしたくない、というのだろう。

 

(そうだ……恐れと痛みから、記憶に蓋をしていた……。いつだってマムは、私を打った後悲しそうな顔をして。)

 

 マリアがガングニールのギアを纏い、バックファイアに屈し、膝をついて弱音を吐いた時も

 

「マリア、ここで諦める事は許されません。悪を背負い、悪を貫くと決めたあなたには、苦しくとも耐えなければならないのです!」

 

 マリアへ叱責した後、ナスターシャは唇を強く噛んでいた。

  

(そうだ……!私達にどれほど過酷な訓練や実験を課したとしても、マムはただの一人も脱落させなかった。それだけじゃない、私達が決起することで、存在が明るみに出たレセプターチルドレンは、全員保護されている……。全ては私達を生かすために……いつも自分を殺して……!)

 

 マリア達に見せなかった悲しみ、慈しみ。それを押し殺して厳しくする事で、マリア達を守っていたのだ。厳しさという言葉で、トマト農園のおばあさんが言っていたことを思い出した。

 

 『トマトを美味しくするコツは、厳しい環境に置おいてあげること。ギリギリまで水を与えずにおくと、自然と甘みを蓄えてくるもんじゃよ。』

 

「大いなる実りは、厳しさを耐えた先にこそ。優しさばかりでは、今日まで生きてこられなかった。私達に生きる強さを授けてくれた。それを知ったから……ジャンヌは、その最期の一瞬までマムの傍に。マムの厳しさ……。その裏にあるのは……!」

 

 ナスターシャの真意、ウェルが伝えたかった事、その全て理解した。

 

(ナスターシャにも、マリアにも、何時だって伝えてきた……。そう、人とシンフォギアを繋ぐのは……)

 

「可視化された電気信号が示す此処は、ギアとつながる脳領域……。誰かを想いやる、熱くて深い感情を司る此処に、LiNKERを作用させることが出来れば……!」

 

 最後のピースがハマった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はっ……!」

 

 いち早く目覚めたエルフナインは、頭に着けた装置を被ったまま、飛び上がるように起き上がった。

 

「エルフナイン?!」

「どうなったデスか?!」 

 

 本部のラボでは外から戻っていた切歌と調がダイレクトフィードバックの装置に眠っている二人の無事を願っていたのだ。

 

「もうひと踏ん張り、その後は……お願いします!」

 

 装置を外すと走っていってしまった。そのタイミングで、マリアも目が覚めた。その目尻には、涙が浮かび上がっていた。

 

「ありがとう……マム……。」

 

 涙を拭き取ったマリアだった。だがそこに

 

『切歌君、調君、すぐにブリッジに来てくれ!』 

 

 アナウンスから弦十郎からの召集を受けた。

 

「行くよ、切ちゃん。」

「合点デス!」

「私も行くわ。」

 

 起き上がったマリアは、すぐに自分の私服に着替えてブリッジへと向かった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃、響、翼、クリスはヤマタノオロチ型のアルカ・ノイズの対処に手を焼いていた。倒したと思ったら、首が3体へと分裂し、各地へと散っていったのだ。3人は各地へと散ったアルカ・ノイズの首を追ったが、分裂体になっても小型のアルカ・ノイズを生み出していた。それらをひねり潰し、本体を攻撃しても再び分裂してしまった。

 しかし、首が一本ずつになればこれ以上は分裂せずに消滅するが、3人の体力は既に限界だった。

 

 

「分裂したって!増殖したって!何度だって……叩き潰す!」

 

 響の渾身のパンチによって、遂に最後の1体となるが、再び逃げ出すように飛び立ってしまう。しかも分裂を繰り返した事で小さくなり、機動力が上がっている。疲弊により一瞬だけ膝の力が抜けてしまうも、まだ最後の一体を追わねばならない。

 

「今逃げた奴を追いかけなきゃ!」

 

 だが突如、響の頭上を影が覆われた。空を見ると、そこにはバルベルデで落とした巨大戦艦があった。そしてその甲板にはサンジェルマン、カリオストロ、プレラーティがいる。

 

「いくらシンフォギアが堅固でもっ」

「装者の心は容易く折れるワケダ。」

「総力戦を仕掛けるわ!」 

 

 サンジェルマンの指揮により、戦艦から母艦型のアルカ・ノイズが召喚される。さらに響に悪い知らせが届く。

 

『アルカ・ノイズ、第19区域方面へ進攻!』

「それって……リディアンのほうじゃ!」 

『ぼさっとしてねえでそっちへ向かえ!』 

「クリスちゃん?!」

 

 クリスがガトリング砲の弾丸をばら撒き、アルカ・ノイズを蹴散らしながら響に言い放つ。

 

「空のデカブツは、あたしと先輩で何とかする!」

『で、でもそれじゃあ……』

「あたしらに抱えられるもんなんて、たかが知れている!お前はお前の正義を信じて握りしめろ!せめて、自分の最善を選んでくれ!」

 

 クリスの叱責を受けた響は、決断を下す。

 

「ありがとうクリスちゃん……。だけど私……!」

 

 ギアコンバーターのウィング型に触れる。イグナイトを使うつもりだ。それをサンジェルマン達は見逃さない。

 

「待っていたのは、この瞬間!」

 

 不敵な笑みを浮かべ、ラピスの結晶がはめられた拳銃を手に取る。

 

「イグナイトモジュール、ばっけ……」

『その無茶は後に取っとくデス!』

『ワガママなのは、響さん一人じゃないから!』

 

 抜剣しかけた時、切歌と調がそれに待ったをかけた。すると上空に飛んでいる戦艦のさらに上空から調と切歌が降下していた。

 

 Various shul shagana tron……

 

 聴こえたのはシュルシャガナの起動詠唱。調がギアを纏ったのだ。そのまま降下しながら、両手に持つヨーヨーを操り、飛行型のアルカ・ノイズを切り刻む。さらに、ツインテールのアームバインダーが開くと、そこから小型の鋸を大量に投擲する。

 

【α式・百輪廻】

 

 切歌もイガリマを纏い、大鎌を振り回して共にアルカ・ノイズを両断する。そのまま二人は戦艦に降り立った。

 

 二人にはギアの適合率は安定しており、バックファイアによるダメージは見られない。遂にLiNKERを完成させたのだ。

 

「シュルシャガナとイガリマ!エンゲージ!」

「協力してもらった入間の方々には、感謝してもしきれないですね。」

「バイタル安定。シンフォギアからのバックファイアは、規定値内に抑えられています。」

「こっちもよく間に合わせてくれた。感謝するぞ、エルフナイン君!」 

 

 LiNKERを完成させる為に出来る事をやり尽くし、遂に完成させたエルフナインは、ラボで一息ついた。そして、モニターに映る塩基配列を見て

 

(LiNKER完成に必要だったのは、ギアと装者の間を繋ぐ脳領域を突き止める事。その部位が司るのは……自分を殺してでも、誰かを守りたい一生の思い。)

「それを一言で言うのならば……」 

 

 エルフナインは胸に手を当て

 

「愛よ!」

 

 リディアンの屋上にて、LiNKERを投与してアガート・ラームを纏うマリアが言い切った。短剣を手に構える。短剣の刃が蛇腹剣へと変わり、襲い掛かるヤマタノオロチ型アルカ・ノイズの最後の一体の首を斬った。

 

【EMPRESS†REBELLION】

 

 全ての首を倒し、マリアはリディアンの別棟へと降り立った。

 

「最高……なんて言わないわ。」

 

 Dr.ウェルの事は好かない。しかし、本当に大事な事を気付かせてくれたウェルに感謝している。

 

(あなたは最低の最低よ。ドクターウェル……。)




「バカとアクマと召喚獣」の方もよろしくお願いします!

クリス「ここで宣伝すんじゃねぇ!」

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