まあ無印編でもあったし、仕方ないね!
装者達が深淵の竜宮とともに沈んだ愚者の石の回収作業中の間、輪は弦十郎の特別特訓メニューを受けていた。先程は山道と街中をランニング、今は緒川とのスパーリングに勤しんでいる。
「ほっ!おりゃぁっ!」
トレーニング着姿の輪が緒川の手に持つミットをジャブとキックで叩く。力強い輪の拳がミットに当たる度に、トレーニングルームにその音が強く響く。これだけ見れば普通の訓練と何ら変わりないが
「やりますね。それでは少しペースを上げましょうか。」
すると、目の前にいたはずの緒川の姿が消えた。
「えっ?!」
「こっちですよ。」
「いつの間に?!」
振り返りといつの間にか背後を取られている事に気付く。そのままジャブを繰り出すも届く前に再びその姿が消え、また別の位置に移動している。
輪は知らないが、緒川の家系は飛騨の忍びの家系という影の一族の出身。これまで超人的な動作も、忍びとして鍛え上げられた賜物である。故に、それを知らない輪は、予測不能な動きに翻弄され、一度もミットにジャブを当てる事も出来ない。そのままあっという間に体力切れを起こしてダウンしてしまう。
「はぁ……はぁ……緒川さんって……いったい……何者……?」
「翼さんのマネージャー兼、S.O.N.G.所属エージェントです。」
「いや……本当に……それだけ……?」
涼しい笑顔で答える緒川に、大の字で寝そべる輪はその肩書きに怪しむ。
「流石司令に護身術を習っただけあって、筋は悪くないですね。ただ真っ直ぐすぎては、届くものも届かなくなりますよ。」
「ほえ?」
ドリンクを手渡され、それを飲み干した輪は次のステップへと進む。今度はラピスのファウストローブを纏う訓練である。錬金術師と戦おうにもラピスを纏えなければ意味がない。戦闘中でも安定して起動出来るように、訓練が必要になる。今度はエルフナインの観察の下で行われる。
「変身!ラピス・フィロソフィカス!」
ネックレスを首から外して、ラピスの結晶を握った手を頭上に掲げて叫ぶ。
「あれ……?やっぱ駄目か。」
特撮系でよく見る変身するヒーローと同じポーズを取るも、起動しなかった。そこに別室にいるエルフナインがアナウンスで輪に伝える。
『輪さん、何でも良いので起動した時の切っ掛けを思い出せますか?』
「切っ掛けって言われてもなぁ……。」
あの時は高所から落とされ、命を落としかけた故に考えを巡らせても何がどうやって起動させたのか分かるはずがない。
「あー!もう分かんないよー!シンフォギアじゃないから歌って起動出来るわけでもないから……」
お手上げの輪は頭皮を書き毟って叫んでいる途中、アルカ・ノイズの反応アラートが鳴り響いた。
「え?!まさかアルカ・ノイズ?!このタイミングで?!」
これにより訓練は一旦中断、ブリッジへと駆け足へと入った。そのモニターには愚者の石の回収作業の為に建てられた海上施設にアルカ・ノイズの群れ、ファウストローブを纏ったカリオストロとプレラーティが急襲を仕掛けて来た。
クリス、切歌、調がギアを纏い、対処しているのだがそれでも多人数の攻撃から作業員を守りきれず、犠牲者が数名出てしまう。それでもこれ以上被害を出さない為に三人は奮闘するが、カリオストロとプレラーティの攻撃に吹き飛ばされてしまう。
「ダインスレイフを抜剣出来ないシンフォギアなんて、チョロすぎるワケダ。」
「ここでぶち壊されちゃいなさい。」
そのセリフから敵の目的が愚者の石ではなくシンフォギアの破壊である事を察した。愚者の石が賢者の石に対抗する為のものである事が知られれば、回収作業そのものを妨害されかねない。だがそれを知らなければ装者達にとってはこのまま自分達に注意を向けさせればいい。まさに好都合だ。
「だったら派手に行くぜぇ!」
腰部のジャッキから小型ミサイルを放つと、すかさずクロスボウからガトリング砲へと可変させて、撃ちまくる。相も変わらず砲撃と高を括ったカリオストロは水のヴェールをバリアのように展開させて、その弾幕を防ぐ。その結果、ガトリング砲を乱射しながら接近するクリスに反撃を封じられた上に、水のヴェールも破壊されてしまった事で懐まで潜り込まれ、その砲門を向けられる。まさに埒をこじ開けられた状態だ。
さらにガトリング砲から弓へと可変し、矢を思わせるミサイルを向けられる。
(ベーゼ可能な0レンジ……!だけど、あーしの唇は安くない……。)
クリスが弦を放したと同時に、カリオストロは身体を反らして回避した。だがそれこそクリスの狙いだった。
「ドッキンハート?!」
そのミサイルの後方にイガリマの大鎌が繋がれており、そのまま調の所まで向かう。装者達の狙いは調と切歌によるユニゾン。ザババの刃によるユニゾンであれば、他のギアでは引き出せない強力なフォニックゲインを引き出す事ができる。その為にクリスは、自分に注意を引いて切歌を調の所まで送り届けたのだ。
プレラーティが調に止めを刺そうとした時、それに気づいたプレラーティがその場から離れる
「さあ、いっちょ派手にやらかすデスよ!」
「切ちゃん!」
到着した切歌が伸ばした手を、調は手に取り立ち上がる。二人はプレラーティに狙いを定め、駆け出す。大鎌を高速で振り回し、コマのように回転する。
【災輪・TぃN渦ぁBェル】
錬金術のバリアでそれを防ぐが今度は、調のヨーヨーが放たれる。2つのヨーヨーが連結され、巨大化するとそれを叩きつけるように振り下ろす。それを巨大な剣玉で弾き返す。
「調ちゃんと切歌ちゃんのフォニックゲイン、飛躍していきます!」
「この出力なら……!」
ブリッジのモニターからでも、二人がプレラーティに対して圧倒しているのが分かる。
「凄い……。」
装者の戦いを見守る輪がポツリと呟いた。
二人の猛攻に押されるプレラーティ。予想外の事態を前に膝をついてしまう。だが装者達にも戦う理由があるように、プレラーティも負けられない理由がある。
「うだつの上がらない詐欺師紛いだった私達に、完全な肉体と真の叡智、そして理想を授けてくれたのはサンジェルマンなワケダ!だから彼女の為に……負けられないわけだぁ!」
「プレラーティ?!」
一人でユニゾンをねじ伏せようと戦うプレラーティと合流しようとするも、クリスがそれを許さない。
「愉しい事気持ちいい事だけでは、理想には辿り着けないワケダ!!」
サンジェルマンの為に、プレラーティは立ち上がる。
調と切歌は共に飛び立ち、切歌の大鎌が長く伸長すると、調が投げた2つのヨーヨーが大鎌の左右先端に連結すると巨大な車輪へと変化、左右それぞれに大型の3本の刃が展開される。
【禁合β式・Zあ破刃惨無uうnNN】
車輪の刃が回転し、二人のギアのブースターが点火、猛スピードでプレラーティへと突っ込んでいく。
「理想の為にいいいぃぃ!!」
剣玉の刃から、大砲のように玉を射出、刃とぶつかり合い火花が散る。だが次第にその均衡は崩れ
「ぐあああああぁぁぁぁ!!」
玉は両断され、その威力に吹き飛ばされたプレラーティは悲鳴とともに海へと落ちた。
「ここまでにしてあげるわ!」
形勢不利と見たカリオストロはプレラーティを回収して撤退。愚者の石の秘匿は守りきれた。
「重ね合ったこの手は」
「絶対に離さないデス。」
「そういう事は家でやれ……。」
ザババのユニゾンが無ければ勝つ事は出来なかった。調と切歌の手は重ね合う。
「やってくれましたね。」
「ああ、今日のところはな……。」
潜水艦のブリッジのモニターで、勝利を見届けた緒川と弦十郎。しかし弦十郎は喜びに浸っている余裕はない。そして、その後ろでモニターを静観していた輪はラピスの結晶を握りしめていた。
(あれ……?)
ラピスを握った時、何か変化を感じた。
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ホテルのプールの水面に浮かぶティキ。その目からはまるでプラネタリウムのように星空を映し出している。その脇には椅子に身を預けるアダム。片手にはワイン、そのすぐ傍にはサンジェルマンが立っている。
「順調に言っているようだね、祭壇の設置は?」
「はい。ですが、中枢制御に必要な大祭壇の設置に必要な生命エネルギーが不足しています。」
「じゃあ生贄を使えばいいんじゃないかな?」
「え……?」
「あの三人のどちらかを……。十分に足りるはずさ、祭壇設置の不足分だってね。完全な肉体より錬成される生命エネルギーならば。」
だがそのやり方は、仲間大事に思うサンジェルマンの意思に反するもの。流石のサンジェルマンも、そのやり方には反対する。
「局長……あなたはどこまで人でなしなのか……?!」
「選択してもらおうか、君の正義を……。」
しかしサンジェルマンの意思など、アダムは顧みる事はなかった。
そのやり取りを密かに盗み聞きする者がいた。
ちなみに輪が来ているトレーニング着は、マリアさんがスパーリングしていた時に着ていたものと同じデザインです。