例のトレーニング回になります。
カリオストロ、プレラーティの襲撃というアクシデントがあったが、無事に撃退。愚者の石の回収作業が再開される。海中から引き揚げた泥の中から、タブレット端末がキャッチした反応から探し当てなければならない。しかも広範囲であり、S.O.N.G.の職員の殆どを駆出している。
「およ?!」
そんな中、切歌の持つタブレットの電子音が鳴る。愚者の石を発見した知らせだ。この広大な範囲に苦しめられた分、その期待と喜びはとても大きい。
「よし、切ちゃん。まずは落ち着こう……」
「およおおぉぉーーーー!!」
調の制止も虚しく、切歌が勢い良く泥に両手を突っ込んだお陰で、飛び散った泥が調の顔に掛かってしまう。
「デエェェェーーース!」
引き抜いたその手には愚者の石。切歌はガッツポーズを決めるが如く、愚者の石を持つ手を満面の笑みで掲げた。切歌が愚者の石を発見したと知ると、エルフナインはすぐに切歌の方へと走る。
「あ!見せてくださーい!……わ、わあああぁぁーー!」
しかし泥のぬかるみに足を取られ、転んでしまう。当然泥の上で転べば泥塗れになってしまう。しかし、エルフナインはそんな事を気にする事なく、切歌が発見した愚者の石を手に取る。
「そうです!これが賢者の石に抗う、ボク達の切り札!愚者の石です!」
「すっかり……愚者の石で定着しちゃったねぇ……」
エルフナインが切り札発見に喜ぶ。しかし、生み出した本人である響にはとても複雑な心境である。
時を同じくして、輪は弦十郎指導の下、格闘訓練に勤しんでいた。いつものアクション映画を鑑賞する時間がない事を除けば、響と瑠璃が体感したトレーニングと変わらない内容である。同じタイミングで愚者の石を発見したという報告を受けた弦十郎は、輪に休憩を与えた。
「疲れた……瑠璃と響は……いつもこれをやっていたのか……。」
ヘロヘロになりながらもシャワー室へと辿り着くと替えの着替えを籠に入れ、ラピスのネックレスを外す。トレーニング着を脱いで上半身が露わになると、愚者の石の回収作業から帰って来た響達が入って来た。
「あ、輪さん。」
「おかえりなさ……調、どうしたのその顔?」
「じーっ……。」
愚者の石を発見して意気揚々と帰って来た切歌をジト目で見ている。それで何となく犯人が切歌である事を悟って、うんうんと頷いた。当の本人はお気楽にもそれに気付く事なく、一矢まとわぬ姿となってシャワーを浴びに行こうとした時、シャワーを浴び終えたエルフナインが個室から勢いよく飛び出して来た。
「うおっ?!エルフナイン?!どうしたの?」
「すみません!急いでますので!」
せっせと身体を拭いて着替えると、十分に乾かしていない髪にタオルを巻いてシャワー室から出て行った。
7人全員シャワーを浴び、身体の泥と汗を洗い流している。そんな中、切歌は陽気に
「かあぁー!五臓六腑に染み渡るデェース!」
「流石石の発見者は言う事が違う。」
流石に泥を引っ掛けられた事もあって、かなり嫌味っぽいく言う。
「輪さんは師匠とトレーニングですか?」
「それもあるけど、ラピスを纏う方法も探してたんだよ。安定して纏えなきゃ、皆の戦力になれないし。」
「けど、アイツらが作った石っころを本当に使うのか?」
クリスがラピスを纏って戦う事の懸念を口にする。何しろ自分達を騙して瑠璃を攫った張本人、アルベルトが作ったものだ。簡単には信用出来ないのは仕方のない事だ。
「だったら私に渡した事を後悔させてやる方が、仕返しにもなるじゃん?そんでもって瑠璃を取り返さなきゃ。」
シャワーを浴び終えた輪は、蛇口を捻って個室から出た。
「意趣返し、というわけか。」
翼と輪、互いにニヤリとする。二人の間に憎しみや哀れみなどもうない。仲間であり、信頼している証だ。
そこにシャワーを浴びに来た友里が入って来た。
「あっ……クリスちゃん宛に外務省経由で連絡がきていたわよ。」
「連絡?あたしに?」
「バルベルデのあの姉弟が、帰国前に面会を求めてるんだけど……。」
「悪い。それ無しで頼む。」
バルベルデの姉弟といえばソーニャとステファンだ。しかしバルベルデに行った事もなければ、その姉弟を知らない輪は、何の話なのか分からない。しかし、クリスの表情と出した答えには何か訳があるとすぐに察する事が出来た。
全員私服に着替え、本部の廊下を歩いているが、事情を知る者たちは皆クリスを心配している。
「クリスちゃん……。」
「過去は過去……選択の結果は覆らない……。」
「だからとて、目を背け続けては、今成すべき事すらおざなりになってしまうぞ?」
「ご忠節が痛み入るね。」
「まったく……妹は何でこうも素直になれないんだか。」
翼からのアドバイスに素っ気ない返事をするクリスに呆れる輪。瑠璃なら素直に聞き入れるだろう。
「うむ、揃っているな。」
そこに弦十郎から呼び止められた。彼は休憩室のソファーに腰を掛けている。
「師匠!何ですか藪から棒に?」
「全員、トレーニングルームに集合だ!」
響の問いに出た答えに、全員が疑問符を浮かべた。特に輪に至っては先程まで過酷なトレーニングを熟した所だというのに。
「トレーニングって……。オッサン!愚者の石が見つかった今、今更が過ぎんぞ!」
「これが映画だったら、たかだか石ころでハッピーエンドになるはずがなかろう!」
「確かに……ってちょっと待って!そのトレーニングって私も?!まだラピスの起動は……」
「それを起動させる手掛かりを探る為に、輪君は見学だ!」
「ふぇ?」
クリスと輪のツッコミを入れるが、弦十郎が意味もなくそんな事をする男ではない。必ず何かあると判断した輪は、これ以上問うことはしなかった。
「御託は、一暴れしてからだ!!」
拳を掌について、力強く言った。
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先日の戦闘で切歌と調のユニゾンに敗れ、重傷を負ったプレラーティを、水の錬金術で治癒させるカリオストロ。すぐ傍にはアルベルトもおり、流石の彼女もいつもの余裕の笑みは翳りがある。
仲間と呼ぶには懐疑的なアルベルトが近くにいるだけでも、カリオストロにとっては気に入らないが、もう一つ気に入らない事があった。
アダムとサンジェルマンの会話を盗み聞きした事で、祭壇設置に足りない生命エネルギーを、自分達を生贄にして補おうとしている企みを察知した。無論サンジェルマンはそのような事を望まないのは分かってはいるが、アダムは違う。目的の為ならば手段を選ばない。サンジェルマンをも犠牲にしようとしている可能性も否定しきれない。故にカリオストロの中で覚悟を決める。
「アルベルト、話があるわ。」
「奇遇だな。私もだ。」
奇しくも、アルベルトも同じように覚悟を決めたようで、カリオストロの方を真剣な眼差しで見ている。互いに疑い合った二人は、この時初めて腹の中を明かした。
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トレーニングルームに集まった装者と輪。装者達はギアを纏っており、既にトレーニング着に着替えた輪は離れた位置で見学している。
友里の操作で広いトレーニングルームの背景が街中へと変わり、アルカ・ノイズのホログラムを投影する。装者達は出現したアルカ・ノイズを次々と葬る。トレーニングとはいえ、本物と遜色ないアルカ・ノイズの恐怖が、生身である輪に襲いかかる。
「これが……実戦。」
輪は何度もノイズとアルカ・ノイズと遭遇し、その度に瑠璃達に助けられた。だが今度は自分が戦う立場となる。これだけで屈していては戦えない。
「でも、今度は私が……あれ?」
ラピスのペンダントを握った時、再び感じた現象。握ったばかりだというのに、何故か暖かかった。そしてまるで鼓動を打つような感覚。
「これって……」
「どうした?」
突然傍にいる弦十郎に声を掛けられてビックリする。彼もいつものカッターシャツではなく、ジャージに着替えており、準備運動をしている。輪は一旦心を落ち着かせてその訳を話した。
「なるほどな。よし、これをエルフナイン君に伝えよう。だがその前に……」
弦十郎は、装者達の前に立つ。
「今回は特別に、俺が訓練をつけてやる!遠慮はいらんぞ!」
突然弦十郎が相手だと言われ、装者はもちろん輪も困惑している。しかし、ノイズとアルカ・ノイズの特性故に戦う姿をあまり見せていないが、弦十郎は素手でギアと完全聖遺物と戦い、あらゆるものを拳で粉砕して来た、言うなれば憲法にすら抵触しかねない男だ。その男が今、装者6人を相手に構えている。
「こちらも遠慮無しで行く!」
凄まじいスピードでマリアに接近し、拳を連続で叩き付けてきた。マリアは咄嗟に両腕で防ぐもその威力と速さを前に、反撃が出来ない。
「どうすれば良いの?!」
結局対策する間もないまま、蹴り一つでかなり後ろにある雑木林まで吹き飛ばされた。
「人間相手の攻撃に躊躇しちゃうけれど……」
「相手が人間かどうかは疑わしいのデス!」
「もう何処ぞの戦闘民族なんじゃない……?」
切歌と調のボヤキに輪がボソッと呟くが、いい得て妙である。
「師匠!対打をお願いします!」
「張り切るな特訓バカ!」
単独で突っ込む響を制止しようとするが、まさに特訓バカである響にそれは無駄というものである。
「猪突に身を任せるな!」
響の拳を難なく受け止めている。
「あれは……手を合わせ、心を合わせる事で、私達に何かを伝えようとしている……?」
冷静に弦十郎の考えを分析しているが、そうこうしている間にも、響は拳を片手で掴まれ、マリアが落ちた雑木林へと軽々と放り投げられた。落下した場所にマリアがいたのか「ぐはぁっ」とうめき声が聞こえた。
「だがその前に、私の中の跳ね馬が踊り昂ぶる……!」
先程冷静に分析していたはずの翼までもが、闘争本能を抑えきれずに、単独で斬りかかった。
お見通しと言わんばかりに、その刀を避け続ける。そして、翼の刀は二本の指で白羽取りされてしまう。輪は口を開けて驚愕した。
(ええぇ〜?!)
「お見事……!」
受け止められた刀をそのまま引き寄せられた翼は、弦十郎の鉄山靠を食らい吹き飛ばされた。
「ほたえなオッサン!」
クリスは容赦なく腰部のアーマーから小型ミサイルの雨を放った。
【MEGA DETH PARTY】
(人間相手にミサイル?!クリスやりすぎ……いやちょっと待って?ミサイル達を掴んで、掴んで、掴んで、掴んでから……投げ返したあああぁぁぁぁーーーー?!)
「嘘だろ?!」
今何が起きたのかは輪が見た通りである。信管を起動させずにミサイルを投げ返すなど、明らかに人間技ではない。自分が放ったミサイルを投げ返されたクリスはその爆破による衝撃波により吹き飛ばされ、ビルの窓ガラスに背中を強打してしまった。なお輪はさっきまで開いていた輪の口はより大きく開いていた。
「数をばら撒いても、重ねなければ積み上がらない!心と意を合わせろ!爆進!!」
一喝とともに、その足でコンクリートを踏み抜いた。その衝撃は切歌と調に襲い掛かり、二人は何も出来ないまま悲鳴と瓦礫とともに吹き飛ばされた。
装者6人が、たった一人の人間に手も足も出ないまま敗れるという衝撃的な展開に、輪は開いた口が塞がらない。装者が弱いわけではない、弦十郎が異次元すぎるのだ。それは十分理解しているつもりではあるが、いざこうも目の当たりにすると、緒川といい弦十郎といい、ここの大人たちの超人ぶりに驚愕が止まらない。
「忘れるな!愚者の石は、あくまで賢者の石を無効化する手段にすぎん!さぁ、準備運動は終わりだ!」
「いやいやいや待って待って!さっきが準備運動なの?!」
「本番は……ここからだ!!」
弦十郎はラジカセをどこからともなく出し、中にあるカセットテープを再生させた。
おまけ
話の流れはともかくこのトレーニングに瑠璃もいたら?
「行くよ!お父さん!」
二本の槍を握りしめて接近すると、黒槍を突き出した。それを軽々と避け、瑠璃が繰り出す連続突きを手で捌くことすらせずに、ただ避け続ける。
痺れを切らした瑠璃は、槍を一本へと連結させてそれを振り下ろすが、その柄を片手で掴む。
「え?ちょ……うわああああぁぁぁーーーーー!!」
弦十郎は掴んだ槍を両手で持つと、そのまま高速回転。
「あああああああぁぁぁぁーーーーー!!回る回るううぅぅぅーーーーー!!」
「うおおおおぉぉりゃあああぁぁ!!」
娘を容赦なく放り投げた。瑠璃は落下すると、クリスのすぐ傍まで勢いよく転がっていった。
「姉ちゃん?!」
「あぅぅ……」
高速で振り回され、目が回ってしまっていては起き上がる事すらままならなかった。
弦十郎さん恐ろしい……。