仲間を失い、孤独となったサンジェルマン。ビルの屋上からその夜景を見下ろし、手に持った二つの白い百合の花を、殉死したカリオストロとプレラーティに手向けとして落とした。ビルに吹く風に乗り、花びらが舞う。
「73800……73801……」
これまで自分が奪ってきた命の数。自らが殺めたわけではないが、自分の為についてきてくれた仲間を、自分が死なせたようなものだと思い、二人の死をその身に背負うと決めたのだ。
唯一生存している仲間であったアルベルトも、先日決別の手紙を送られ、真に仲間と呼べる者はいなくなった。
「母を亡くしたあの日から……置いて行かれるのは慣れている……。それでもすぐにまた会える……。私の命も、その為にあるのだから……。」
静かに黙祷を捧げる。そこに背後から無邪気に嘲笑うようティキの声が聞こえた。笑いながら手拍子しているティキの隣にはアダムがいる。
「ありゃま~!死ぬのが怖くないのかな〜?」
「理想に殉じる覚悟など済ませてある。それに……、誰かを犠牲にするよりずっと……。」
仲間を犠牲にする事など、サンジェルマンには出来ない。サンジェルマンにとってこの革命は最後の一人になっても続けるだろう。故に死を怖れはしない。
「何それ?!それが本心?!」
「だから君は数えてきたのか、自分が背負うべき罪の数を……おためごかしだな……。」
ティキが嘲笑い、アダムが欺瞞だと切り捨てる。だがサンジェルマンは変わらない。
「人でなしには分かるまい……!」
アダムに堂々と言い放った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕日が差し込むリディアンの校舎。そこに通う装者と輪は響と未来のクラスの教室に集まっていた。というのももうすぐ響の誕生日、9月13日が近いのだ。
「ど、どうしたのみんな?」
「いやぁそれがさ、クリスから聞いたんだけどね、響の誕生日が近いんだって言っててさ。」
輪がクリスの方を向くと、本人はすごく恥ずかしそうにしている。
「覚えててくれたんだぁ!」
「偶々だ!偶々!」
「それにしても、そわそわしてた。」
「そうそう!分かりやすさが爆発してたデェス!」
後輩達に誂われ、クリスの顔が真っ赤になった。
「はしゃぐな二人ともぉ!そろそろ本部に行かないといけない時間だぞ!」
「おっと話題変えてゴリ押したなぁ?」
「お前も黙ってろパパラッチ!」
リディアンでは至って普通の女子高生達であるが、S.O.N.G.本部になると、皆真剣な顔つきとなり、来る決戦に備えている。
モニターには調神社似て見せてもらった赤い点が線で結ばれているオリオン座が映し出されている。
「調神社所蔵の古文書と伝承、錬金術師との交戦から、敵の次なる作戦は、大地に描かれた鏡写しのオリオン座……神出づる門より神の力を創造する事として間違いないだろう。」
「現在、神社本庁と連携し、拠点警備を強化するとともに、周辺地域の疎開を急がせています。」
「レイラインを使った、さらに大規模な儀式。」
マリアはバルベルデて戦った怪物、ヨナルデパストーリを思い出した。いくらダメージを与えても、それを無かったことにしてしまう恐ろしい性質を持っていた。まともに対抗すら出来なかったというのに、今度は神の力を呼び寄せ用とする大規模な儀式。恐らくヨナルデパストーリよりも遥かに強大なものである事は間違いない。
「一体どれだけの怪物を作り上げるつもりなの?」
「門より出づるは、怪物を超えた神……。」
「どうにかなる相手なのか?」
クリスが何か対抗手段がないか聞いた時、弦十郎が呟いた。
「どうにか出来るとすれば……それは神殺しの力だな。」
「神殺し?」
何も理解出来ていない輪がオウム返しに聞くと、弦十郎はそのまま続ける。
「神と謳われた存在の死にまつわる伝承は、世界各地で残されている。」
「前大戦期のドイツでは、優生学の最果てに、神の死にまつわる力を菟集したと記録にあります。」
「じゃあドイツのそれを借りれば良いんじゃないんですか?」
輪が素早く提案したが、それは永遠に叶わないものであった。手掛かりとなる情報は、松代にあった風鳴機関もろとも、アダムの黄金錬成で消失してしまっているのだ。
その一連の事実を聞いた輪は、肩を落としたが
「ちょっと待って。そのアダムって人は、本部を丸々一基を消してしまう力を持ってる。でも、シンフォギアが邪魔ならさっさと倒してしまえばいい話なのに……何で態々……いや待って……!」
「どうしたの輪?」
違和感の正体に気付いた輪に、マリアが問いかける。
「もしかしたら、そのアダムって人は神殺しの正体に辿られるのが嫌で、解析させないようにその本部って所を消したんじゃ!」
「つまり切り札の実在を証明しているのかもしれない?!」
「その通りだ輪君。」
弦十郎も同じ事を考えていたようだ。
「神殺しが……」
「実在する……。」
僅かに見えた希望。弦十郎は緒川に調査部への依頼、各国の機関に協力を願い出て神殺しに関するデータの収集に動く。
ブリーフィングを終えると、その間装者達は待機、食堂で夕食を取ることとなった。しかしブリーフィングの緊張感が食事中でも変わらないのは、ブリーフィングでも上がった神殺しが関わっている。
マリア達を追い詰めたヨナルデパストーリ、それを倒したのは響だった。ガングニールの一撃を受けたヨナルデパストーリは、無かったことにされる現象が発動せず、そのまま朽ち果ててしまった。その事から、マリアは神殺しの正体がガングニールなのではと疑問を抱いていた。
「まさか……ガングニールに?」
「その可能性は私も考えている。が、ドイツ由来とはいえ、ガングニールに神殺しの逸話は聞いたことがない。」
「今ん所、あたしらに出来るのは待つ事だけ……なんだよな……。」
クリスの顔は険しかった。攫われた瑠璃の事が気掛かりだった。今すぐにでも助けに行きたいが、行方が分からない以上、下手に動けない。仕方ないと分かってはいるが、どうにも逸る気持ちが抑えきれなくなりそうなのだ。
クリスの隣に座っている輪も同様だが、まだ戦士として心が未熟な故に、待つ事しか出来ない事に歯痒く感じている。
「待つだけ……かぁ……。」
呟きながら天井を見上げる。前にも瑠無、もといアルベルトに同じ事を言われた事を思い出した。
「何か分からないな……」
「デェース!」
「うわああああぁぁっ!」
突然切歌が輪の顔を覗いて大声を出した為、驚いた輪がバランスを崩して転倒してしまう。
「あっ……ご、ごめんなさいデス!」
「いたた……。」
「おいおい、大丈夫かぁ?」
差し伸ばしたクリスの手を掴んで起き上がった。
「もうビックリした。何で急にこんな事を?」
「あ、そうデス!皆さんに提案デェス!2日後の13日、響さんのお誕生日会を開きませんか?」
「なぁー!今言う?!今言うのぉ?!」
本来であれば嬉しいはずなのだが、状況が状況なだけに、珍しく響が困っている様子だった。
「もしかして、迷惑だった?」
「いやいや!嬉しいよぉ!だけど、今はこんな状況で、戦えるのも、私とクリスちゃん、切歌ちゃんに輪さんだけだからさ。」
数的には半数は戦えるのだが、それでも3人が戦えないと事態は大きな痛手である事に変わりない。
「せっかくのお誕生日デスよ?!」
「そうだけど……。」
「ちゃんとした誕生日だから、お祝いしないとデスね!」
「はーい、ストップストップ。響が困ってるでしょう?誕生日は確かに大切だけど、お気楽がすぎるぞ。」
お気楽、と言われて海上施設の戦いでカリオストロに言われた事を思い出した。
(大丈夫なんて、簡単に言ってくれるじゃない、このお気楽系女子!)
非戦闘員を避難させようとカリオストロと戦った際、カリオストロの攻撃を避けたことでその流れ弾に避難していた非戦闘員に当たって死んでしまったのだ。
「アタシのお気楽で、困らせちゃったデスか……?」
「ほ、そんなことないよ!ありがとう!」
気を遣わせまいとそう言うが、あまり慰めにはならないようだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
祭壇設置の儀式の最終段階。神出づる門を開かせる為に、鏡写しのオリオン座の中心地点である神社に、サンジェルマンは現れた。神社の周辺と境内には既に黒服達が警備に着いていた。しかし、サンジェルマンが相手では、数など問題ではない。サンジェルマンが放った光弾が、黒服達に直撃し、消滅させている。これによってサンジェルマンが奪った命の数は73811となった。
儀式の為に、上は白いコートしか羽織っていない。黒服達がいた事に、鳥居に寄りかかっているティキが文句を言う。
「有象無象が芋洗いって事は、こっちの計画がもろバレって事じゃない?どうするのよサンジェルマン?!」
「どうもこうもない。」
唯一身に纏っていたコートを脱ぎ落とした。
「今日までに収集した生命エネルギーで、中枢制御の大祭壇を設置する。」
本殿の前に立ったサンジェルマンは、祭壇設置の詠唱を唱え始める。すると、彼女の足元を覆うように光柱が発し、背中に刻まれた紋章がオリオン座の形のように浮かび上がる。天に打ち上げられた光は各地へと枝分かれするように散った。その光は神出づる門を開く為のキーポイントとなる神社に降り注いだ。
「それでも、門の開闢に足りないエネルギーは、第七光の達人たる私の命を燃やして……。」
サンジェルマンの背中に青い紋章が浮かび上がった。彼女の命も、光となって消えようとしている。
これだけの情報量でアダムの行動の真意を勘付いてしまった輪であった。