ツインタワービルの間に形成された、巨大な繭への攻撃を自衛隊が展開する。響が閉じ込められているにも関わらず、攻撃を始めたのは風鳴訃堂の護国災害派遣法によるものだろうが、あの中には響がいるのだ。当然S.O.N.G.の面々がそれに憤慨する。
「彼らは知らされていないのか?!あの中に人が取り込まれているんだぞ!」
「このままでは、響ちゃんが!」
藤尭、友里がそれを声に出すが、それでも自衛隊は砲撃を止めない。全弾命中という自衛隊員の朗報が聞こえる。だからこそサンジェルマンと共に車両に乗っている輪はある違和感に気付いた。
「おかしい……攻撃されているのに、どうして瑠璃は止めようとしないの?!」
砲撃されているというのに瑠璃が一切守ろうとしない。それどころかモニターに影すら映っていない。輪の不安に、サンジェルマンがハッとする。
「砲撃を阻まないのは罠か!」
サンジェルマンの推測、輪の不安、それが的中している事に気付くのは繭に亀裂が生じた時だった。やがて、その亀裂は繭全体に行き渡り、強烈な光を放つ。
そして、その光が弱まると巨人の姿が現れ、誕生の咆哮をあげる。ツインタワービルの天辺にある一柱から見下ろす瑠璃。
『瑠璃ちゃんの姿を発見!』
「やっぱり……あの砲撃で開放を早まらせようと……!」
本部の藤尭の報告を受けて、輪は舌打ちをした。すると、現場に到着した為に車両がブレーキを掛ける。輪とサンジェルマンは急いで車両から降りた。遠目からでも繭から生まれた巨人、破壊神ヒビキの姿が見える。
「あれが……響なの?!」
咆哮を挙げながら暴れ狂うその様に、輪は信じられずにいる。
「行くぞ。我々が彼女を足止めしなければ、作戦は成り立たない。」
「分かった!」
もうすぐAnti LiNKERを積ませた特殊車両が到着する。もしそれが響と瑠璃を止める為の代物であると露呈されれば全力で阻止しに来るだろう。故に瑠璃を引き付けなければならない。輪はファウストローブを纏ってツインタワーへと走る。そして先に到着していたクリスも破壊神ヒビキを避けてツインタワーへと向かう。
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バイデントのファウストローブに身を包み、ツインタワーの天辺から眺めていた瑠璃。破壊神ヒビキが放つ光線が大地を焦がしても、表情を一つも変えず、止めようとしない。アガート・ラームのギアを纏ったマリアが、バリアで戦車を守っているのを見下ろしていると、瑠璃はここに近づくもう二つの影に気付いた。瑠璃はビルから降り立ち、その人物と相対する。
「瑠璃……!」
「姉ちゃん……!」
「お前達が来るか……。お前は怖気づいたのではなかったのか……?」
瑠璃が、ラピスのファウストローブを纏っている輪を睨みつける。
「あの時は訳わからなくて、つい逃げちゃったけど……今度は違うから。もう覚悟を決めたんだ。」
「我から逃げ出したお前に、一体何が出来るというのだ?」
「そう……一度逃げ出した。私は瑠璃を助ける為にファウストローブを纏った。だけど、瑠璃を傷つける事を恐れて……違う。あれは、私自身が傷付くのを恐れたんだ。」
瑠璃と戦う事は、最初から望んでいない。誰しも望まない事をするが嫌いなものだが、輪はそれをハッキリと体現している。故に瑠璃と戦う事を望まない輪は逃げ出した。
「そこまで分かっていながら……何故戻って来た?」
「瑠璃は……望んでないのに、逃げたくても逃げられない痛みや傷を背負わされて、一人で泣いている。」
「誰にも理解されない、助けてくれない……どうしようもないくらい深い闇に……姉ちゃんは一人ぼっちだ。」
輪とクリス、握る拳が強くなる。
「瑠璃が助けを求めてるんだ。泣いている友達がいるなら……助けるのが友達でしょう!」
「欺瞞だな……!」
闇と共に顕現した二又槍を手にすると、槍の穂先を天に掲げる。すると、穂先から放たれたエネルギー波が、雷のように連続で落ちてくる。輪とクリスはそれを跳躍して避ける。
「勇者を気取る蛮勇、この愚行……万死に値する。」
「やってみやがれ!何度も死にかけて戻って来た装者と元ヤンが、今更ビビるかっての!」
クリスが発破をかけて突撃すると同時に、輪も共に駆ける。瑠璃は二又槍を構える。
作戦はこうだ。破壊神ヒビキにAnti LiNKERを打ち込ませる為に、まずは瑠璃を戦いながらなるべく破壊神ヒビキから遠くまで引き離す。Anti LiNKERで神の力を引き剥がす事が瑠璃に露呈されれば全力で妨害しにかかるだろう。幸い周囲は建物だった瓦礫に溢れている。半壊した建物の陰を利用すれば、破壊神ヒビキから目を離す事も出来る。それを担うのが輪とクリスだ。
瑠璃の心の闇から救い出せる唯一の鍵。エルフナインと輪の推測、瑠璃が崩壊した心を周囲から守る為に作り出した闇の人格、そして取り込んだ神の力。そして身に纏うのは、バイデントのファウストローブ。神殺しが使えない今、瑠璃を目覚めさせる事が出来るのは一番の親友と最愛の妹だけ。
そして、バイデントの天敵とも言えるラピス・フィロソフィカス。与えられるダメージは大きくなる。しかし神の力がある以上、そのダメージはすぐになかったことになるだろう。そこにAnti LiNKERを使って依代から神の力を引き剥がせれば倒す事は可能になる。
戦いの口火を切ったのはクリスと輪。クリスがクロスボウの矢を雨あられの如く放ち、それを二又槍で弾いていく。そこに接近してきた輪がチャクラムを振り下ろす。二又槍の柄で受け止めた。これでラピスの力が発揮されるかと思われたが
「効いてない?!」
「何だと?!」
ラピスのあらゆる不浄を焼き尽くす力が、バイデントのファウストローブに対して発動しなかった。驚愕している隙を突かれて、押し返されてしまう輪。一旦距離を離して、体勢を立て直す。だが事前に聞いていたのとは違う事態になっている事に動揺している。
「ラピスならバイデントの呪いを焼き払えるって言っていたのに……何で?!」
「槍自体は呪われていない。」
突然瑠璃が答えた。それが輪が見落としていた点である事に気付いた。
「しまった……!呪われたのはあのギアであって槍じゃない……!」
正確には哲学兵装である。槍自体には呪いの伝承などはない為、聖遺物であるバイデントは呪われてはいない。発端となったのはアーネンエルベでの実験で起きた悲劇である。故にそれとは別に作られたバイデントのファウストローブには哲学兵装は備わっていない。こうなれば地道にダメージを与え続けるしかない。
一方、破壊神ヒビキの攻撃を翼、マリア、切歌、調、サンジェルマンが防いでいるが、出鱈目な威力ばかりであり、防いでもその余波で吹き飛ばされる。
特殊車両は既に到着しているが、破壊神ヒビキからまだ遠ざかっていない。
「それにしても……あれが瑠璃だっていうの……?!」
「何だか怖い……。」
「あんなの、瑠璃先輩じゃないデスよ!」
破壊神ヒビキと相対しているマリア、調、切歌は絶対の破壊者なった瑠璃の冷たい闇、得体の知れない恐ろしさを遠くからであるにも関わらず、それらを感じ取っていた。翼もモニター越しからでも、瑠璃の変わりようには驚愕していたが、いざこうして目の当たりにすると、これまで感じたことのない恐怖がのしかかって来るのが分かる。
「今は雪音と出水に任せるしかあるまい。我らは我らの成すべき事を成すぞ!」
瑠璃が離れなければこの作戦は成立しない。今は輪とクリスに委ねるしかなかった。
近距離では輪がチャクラムを振るって、クリスが放つ弾幕で徐々に破壊神ヒビキから遠ざける。輪とクリスの攻撃で目の前の二人に集中している瑠璃は、破壊神ヒビキから少しずつ遠ざかっている事に気付いていない。
瑠璃の二又槍と輪のチャクラムがぶつかり、鍔迫り合いになる。
「意外だよ。我から逃げ出したお前が、ここまで戦えるとはな。」
「それはどう……もっ!」
輪が強引に押し込んだ。そして横からクリスのガトリング砲の弾幕が放たれ、瑠璃はそれを跳躍して避ける。
半壊した瓦礫の建物まで誘い込んだのを確認した翼は好機と捉えた。
「今だ!始めるぞ!」
特殊車両に積み込まれた巨大なアンカー。中には大量のAnti LiNKERが詰め込まれている。これを打ち込む為には、あの暴れ狂う巨体の動きを止めなければ打ち込んだ所で振り払われてしまう。故に拘束は必須である。翼が大量の短刀を投擲、破壊神ヒビキの影に刺さる。
【影縫い】
しかし、対人戦に特化した影縫いではすぐに振り払われてしまう。
「だけどこの隙を、無駄にはしない! 」
マリアの短剣の刃から白いヴェールを展開、破壊神ヒビキの周囲を縦横無尽に駆け巡る。その間に、サンジェルマンが銃を発砲、破壊神ヒビキの注意を引きつける。神殺しが使えない以上、こうするしかない。次第にヴェールが縄のように、破壊神ヒビキの身体を拘束した。
それに気付いたのか、解放されようと藻掻く。
「止まれえええええぇぇぇ!!」
しかし、破壊神ヒビキは咆哮とともに暴れ狂う。たとえヴェールが強力でも、マリアが操作している以上、彼女がやられたらこのヴェールも消えてなくなり、破壊神ヒビキを自由にしてしまう。切歌、調がマリアを援護する。
「マリア!私達の力を!」
「束ねるデス!」
「一人ではない!」
さらに翼も手を貸し、アガート・ラームの固有の力であるエネルギーのベクトル操作によって、その拘束はより強固なものとなった。
「今です!緒川さん!」
「心得てます!」
合図を受け取った緒川が、既に配備していた車両にアンカーを発射させ、破壊神ヒビキの身体に命中、その中に入っているAnti LiNKERが注射のように注入される。
「Anti LiNKER命中!注入を開始!」
「対象より計測される適合係数!急速低下!」
『弦、まもなく国連の協議が終了する。結果は日本の、立花響の状況次第だ!』
「人事は尽くす!尽くしている!」
『趨勢は圧倒的に不利!個人を標的に、反応兵器の投下が承認されてしまいかねない!』
「瑠璃……響君……!」
本部も本部で切羽詰まっている。この作戦の結果によって、未来が決まる。失敗すれば反応兵器が撃ち込まれる。今度ばかりは弦十郎にもその緊張感が表面に出ている。
半壊した建物が囲う場所で輪とクリスが瑠璃を抑えている。あとはAnti LiNKERを打ち込むその一瞬の好機を探る。
「やっぱりまだ神の力が馴染んでないみたいだね……。結構追い込まれているんじゃない?」
「その減らず口……すぐに黙らせてやる。うおおぉぉぉ!!」
輪の挑発に応えるべく、神の力が発動した。受けたダメージを帳消しにしてしまった。それを目の当たりにした輪は愚痴をこぼす。
「やっぱ狡いよ、その力……。」
「これこそが、アヌンナキの我に相応しき力。その力の前には、貴様らの玩具など無力!」
瑠璃が輪を目掛けて二又槍を突き出す。チャクラムをメリケンサック付きのガントレットへと変化させて受け流す。こうする事で二又槍の連続突きを素早くいなせる。しかし、先程受けたダメージが無かったことになった為、力と速度、鋭さがより増している。対する輪は体力が消耗している。次第に押されていき、腹部を蹴られて吹き飛ばされた輪は、建物の壁に背中を強く打ってしまう。
「輪!!」
「次は貴様だ!」
今度は標的をクリスに変える。遠距離特化のイチイバルでは小回りが利かない為、連続突きをガトリング砲で防ぐ事しか出来ない。左手のガトリング砲が破壊されると、穂先から放ったエネルギー波をまともにくらい、倒されてしまう。
「他愛もない……ん?」
「はああああぁぁぁ!」
突如現れたサンジェルマンが、半壊した建物の屋上から飛び降り、瑠璃にブレードを振り下ろした。
「甘いわぁ!」
二又槍で受け流した。着地したサンジェルマンは倒れたクリスを広って担ぎ、輪に駆け寄る。
「お前、大丈夫か?」
「痛てて……何とか生きてる。」
輪は身体中の痛みを押し殺して、何とか立ち上がる。降ろされたクリスはサンジェルマンに問う。
「何でこっちに来やがった?」
「あちらはもう作戦を開始している。あとはこっちだ。」
「それで救援ね。確かに……正直なところ手を貸してほしい。」
3人は目の前に立ちはだかる瑠璃と相対する。
次で終わらせられるかなぁ……。