戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星   作:レーラ

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帰ってこい!!瑠璃ぃ!!


死で灯す 命の歌

 何もない、真っ暗闇な空間。気が付いたらクリスはそこにいた。

 

「ここは何処だ?」

 

 バイデントのギアを通じて瑠璃の精神世界に入り込めたが、そこに初めて入った為戸惑っている。辺りを見回しても何もない、真っ暗な空間。何処へ向かえば良いのか分からない。困り果てたクリスだが、握った手が暖かい事に気付く。手を開くと、そこにバイデントのギアペンダントが光を発していた。

 

「どうなってんだぁ?!」

 

 そしてその輝きから、一筋の光が放たれた。それはまるで道標のように長くどこまでも続いている。

 

「そっちに行けば良いんだな……?」

  

 クリスは光が指した方へと歩き出した。この光に向かって歩いていけば、あるいは、と。たとえ罠だとしても、クリスに恐れはない。向こうへと、向こうへと歩いていく。そして、ようやく見つけた。

 

「まさか……姉ちゃん!」

 

 破壊され、鉄屑となった鉄格子達の中心に、倒れている瑠璃がいた。それに気が付いたクリスは瑠璃に駆け寄って抱きかかえた。身体はクリスのものより傷だらけで、その瞳には光が無い。

 

「姉ちゃん……。」

「た……けて……ない」

 

 非常に弱々しい声で何か呟いていた。

 

「助けて……くれなかった……。誰も……私を……」

 

 初めて瑠璃の心の奥底に眠っていた本当の気持ちに気付いた。あのバルベルデでの地獄から、記憶を失ってもずっと助けを待っていた事を。クリスの目尻からは一筋の涙が零れ落ちた。

 

「ごめんな……姉ちゃん……。ずっと一人ぼっちで……助けを待ってたんだよな……。もう、一人で背負わなくていいから……一緒に帰ろう……姉ちゃん。」

 

 声を震わせながら発したその言葉に反応した瑠璃はクリスの方を向いた。

 

「クリ……ス……?」 

 

 応えてくれた。呼んでくれた。それだけで嬉しくなった。

 

「帰ろう……姉ちゃん。みんなが待ってる。」

「みんな……?」

「先輩や馬鹿にオッサン……それに……輪の奴も。みんな、姉ちゃんの帰りを待ってる。だから……」

『だから……それでどうするのだ?』

 

 背後から声が聞こえて、振り返ると、そこには闇の瞳をした絶対の破壊者となった瑠璃がいた。だが本物の瑠璃はクリスの腕に抱えられている。これは一体どういう事かと困惑する。

 

「我は瑠璃の闇そのもの。瑠璃に内在する苦痛憎悪、それが我である。故に我は瑠璃の写し身。」

「ごたごたと訳の分かんねえ事を……!」

「ならば問おう。何故瑠璃を、地獄へと連れ戻そうとする?」

 

 突然の問答に、クリスは何も言い出せなかった。だが言われっぱなしのままではいられないクリスは答える。

 

「姉ちゃんの……姉ちゃんの帰りを待ってる奴がいるんだ!こんな所にいて良いわけがねえ!」

 

 だがその答えに、闇の瑠璃は高笑いする。

 

「クックックッ……ハハハハハ!おめでたい奴だ。心が壊れた瑠璃を、再び地獄へと連れ出す事が、一体何を意味するのか、理解していないようだ。」

「何だと?!」

「確かに、瑠璃は生者。生者は光ある地上へと戻るべきだ。だが、そこに救いなどない。今まで受けた苦痛がある限り、瑠璃は再び生を拒絶する。人間同士の力、絆、救済など、内在する苦痛を真に消す事は出来ないぞ。」

 

 瑠璃はもう十分すぎるほどの痛みと悲しみをその身に受けた。これ以上、苦しませる必要はない。尊大ながらも身を案じている。瑠璃の写し身だからこそ言える事だ。瑠璃自身の痛みは、彼女が一番よく知っている。

 外へと連れ出す事がどういう意味か、それをようやく理解したクリス。言い返す事が出来ない。だが

 

「確かにそうだ。この先も、辛い事だって沢山ある。どうしようもないくらい泣きたくなる時もある。だけどな、人っていうのは、繋がる事が出来るんだ!」

「繋がる……?」

「姉ちゃんは一人じゃない!互いに思い合って、支え合って、助ける事だって出来んだ!あたしはそれを教えてもらった!この目で見てきた!力なんか必要ない!あたしは信じる!姉ちゃんが教えてくれた、人の絆の強さをな!!」

 

 かつて、人を信じられずに、力で全てをねじ伏せようとした自分がいた。それで世界の火種をなくせるのなら、そう信じて戦ってきた。だがそれは、新たな悲しみの連鎖を生む結果になった。

 自暴自棄になっていた自分を救ってくれた未来と輪、手を繋ぐ事の暖かさを響から伝わった。そして、瑠璃が教えてくれた、絆の強さ。全部受け止めて、今を生きるクリスは、あの夜空で誓った、両親の夢を叶えるという約束、そしてその夢を二人で引き継いで、歌で世界を平和にしたいと、思えるようになった。その為に戦い、ここにいる。

 

「きず……な……。」

 

 生きる事を諦めていた瑠璃の瞳に、光が戻った。

 

「あたし達は……姉ちゃんは一人じゃない!信じ合えて、一緒に未来へと歩める仲間がな!!」

 

 全てをぶつける様に叫んだ。闇の瑠璃は、何もせず、クリスの叫びを腕を組んで聞いていた。そして、組んだ腕を解いた。

 

「眩しすぎるな……だが何と言おうと、瑠璃が生を拒み続ける限りは……」

「もう良いの……。」

 

 瑠璃が拒んだのは、闇の瑠璃の否定だった。瑠璃は立ち上がって、闇の瑠璃と堂々と面と向かう。その表情は心が壊れる前より凛々しく思える。だがクリスは懐かしさを感じていた。

 

「私は生きるのを諦めない。」

「あの地獄を……再び味わう覚悟があると……?」

「そうじゃないよ。確かに、あれは辛かった……。痛くて痛くて……死んでしまいたいって思った。けど……クリスと輪、皆が私を助けてくれた。私は一人じゃない。私の帰りを、待ってくれている人達が、いるから。」

 

 瑠璃が振り返ると、そこには一緒に戦う装者達、父親の弦十郎に緒川、エルフナインやS.O.N.G.の仲間達、そして瑠璃の隣にはクリスが笑いかけてくれる。それを見ている闇の瑠璃は口角を釣り上げて

 

「やはり……眩しすぎるな。」

 

 瑠璃達に背を向け、何処かへと消えようとしている。それに気付いて振り返った瑠璃が呼び止める。

 

「待って!あなたも……一人じゃ……」

「勘違いするな。私は……再び眠りにつく。先程の痛みも、消しておかなければならないからな。」

 

 そう言い残し、影となって消えた。心なしか微笑んでいるようにも思えた。闇の瑠璃が立っていたその先には眩い光が輝いている。あそこを目指せと導いてくれているかのように。

 

「帰ろう。姉ちゃん。」

「うん。」

 

 クリスの左手と瑠璃の右手が繋ぎあった。二人の姉妹は、光へと歩き出し、その身を包まれた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 輪が放った波動の余波で爆発が起こり、3人は吹き飛ばされた。

 

「雪音!出水!」

 

 装者達は3人へと駆け寄り、安否を確かめる。バイデントのファウストローブは粉々に砕け散った事で解除された状態で気を失っていた。しかし、あの闇の瑠璃の力のお陰なのだろうか、神の力を使ってダメージと、その力は消えていた。

 クリスはギアが解除されておらず、すぐに動けた。というより痛みはほとんどない。

 

「あたしは平気だ。それよりも、あいつが……おい!大丈夫か?!しっかりしろ!!」

「出水!!」

 

 輪は3人の中でも最も重傷だった。既にファウストローブのバッグファイアによるダメージに加え、擬似的とはいえ絶唱を放った代償が重なり、輪の身体はボロボロだった。口や鼻、目からも流血している。しかし、意識は辛うじてあるようだがそれも薄っすらであり、非常に危険な状態である。

 

「っ……ぁ……」

「出水の意識を確認!すぐに救護班を!」

『分かっている!すぐに向かわせる!』

 

 翼はすぐに弦十郎に通信して、救護班を要請した。だが元々フォニックゲインを持たない、しかもそれ由来ではないエネルギーを使った為、その負荷がどれほどのものなのか検討もつかない。だが自身が今にも死んでしまいそうだというのに、輪は瑠璃の安否を気にしている。

 

「どう……なったの……瑠璃……は……響……は?」

「姉ちゃんもあいつも無事だ!それよりもお前が……」

 

 響も先程神の力から解放され、無事を確認した。今は未来が傍におり、眠っているようだ。それを聞いた輪は安堵する。

 

「そっか……良かった……。」

「良くねえよ!何でこんな無茶を……お前が死んじまったら、姉ちゃんが悲しむのは分かってるだろ?!お前が犠牲になるなんて……誰も望んじゃいねえよ!!」

「ごめん……。けど……こうするしか……思いつかなくってさ……。だけど……誕生日パーティ……行けなくなるかなぁ……。」

 

 皆の心配をよそに、輪は満足そうに笑い、そのまま眠るように意識を落とした。生か死かの瀬戸際であるというのに、誕生日パーティに行けないのを残念がっている辺り、輪らしい。

 

 救護班を乗せた車両はすぐに到着し、輪は担架に担がれ、車両に乗せられた。ドアが閉まるとそのまま医療機関へと向かった。皆が輪の無事を祈る中、八紘から本部へ朗報が入った。

 

『国連による武力介入は、先ほど否決された。』

「八紘兄貴……!」

『これまでお前達が築いてきたS.O.N.G.の功績の大きさに加え、斯波田事務次官が蕎麦にならったコシの強さで交渉を続けてくれたお陰だ。』

「人は繋がる……1つになれる……。」

『そうだ。反応兵器は使われない。』

 

 これで後は輪が息を吹き返せば大団円になる。

 

 が、その期待は一つのアラートによって裏切られる。海面からミサイルが打ち上げられ、上空を飛来している。

 

 

「太平洋沖より発射された、高速度飛翔体を確認!これは……!」 

『撃ったのか?!』

 

 なんとアメリカが国連の意向を無視して独断で発射させてしまったのだ。全世界並びに自国人類や秩序を守る為とはいえ、反応兵器はそこらのミサイルとはわけが違う。常に冷静で何者にも隙を見せない八紘も、これには狼狽する。

 しかも反応兵器は超高速で日本へと近づいている。迎撃しようにも間に合わない。

 

「だったらこっちで斬り飛ばすデス!」

「駄目!下手に爆発させたら、辺り一面が焦土に!向こう永遠に汚されてしまう!」 

 

 勇む切歌を調が制止する。反応兵器は核ミサイル同然。着弾を許せば調の言う通りの結果になってしまう。翼も策がないこの事態に歯痒くなる。だがそこにサンジェルマンが……

 

「私はこの瞬間のために、生き永らえて来たのかもしれないな……。」

 

 覚悟を決めたように、地を蹴り、空を舞う。迫る反応兵器に真っ向から対峙すると、彼女は唄う。その歌に反応して、サンジェルマンのラピスの輝きが増す。だが歌っているのは、サンジェルマン一人ではなかった。

 

「カリオストロ?!」

 

 振り返るとクリスとマリアとの激闘で死んだはずのカリオストロがファウストローブを纏ってサンジェルマンにウィンクしている。そしてもう一人

 

「プレラーティ!」

 

 プレラーティもまた、ファウストローブを纏い唄っている。3人の歌声が重なり、奏でるのは死を灯す歌。

 

(女の勘で局長を疑ったあーしは、アルベルトと協力して、死んだふりなんて搦手で、姿を隠していたの。)

(そんなカリオストロに救われた私は、一矢報いるための錬成を、アルベルトと共にこっそり進めてきたワケダ。)

(アルベルトも……?!)

 

 アルベルトの研究室と資材を借りて、プレラーティはサンジェルマンに託す弾丸を錬成していた。故にサンジェルマンを裏切ったアルベルトに借りを返す為にカリオストロが救ったのだ。そして、闇の瑠璃が放ったエネルギー球体、あれを相殺させたのもアルベルトだった。本人は地上から見上げて3人の結末を見届けようとしている。

 

「これで……本当にさよならだ。サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ。」

 

 プレラーティがサンジェルマンに最高傑作の弾丸を託し、託されたサンジェルマンはそれを銃に装填。それを反応兵器に向けて引き金を弾いて、発砲した。錬金術で弾丸はエネルギー波となり、反応兵器と衝突、大爆発を起こす。だがその爆発は本来の威力より下回っている。放った弾丸によって抑えられている証だ。だがそれがただの弾丸ではない事を、モニターで見ているエルフナインが察した。

 

「これも……ラピス・フィロソフィカス。」

 

 この弾丸もラピス・フィロソフィカスであった。3人はラピスを介して、持てる全ての力を注ぎ込んでいる。

 

(アルベルトの協力も上乗せの、現時点で最高純度の輝き!つまりは私の最高傑作なワケダ!)

(呪詛の解呪より始まったラピスの研究開発が、やっと誰かのために……!)

(本音言うと、局長にぶち込みたい未練はあるけどね。でも驚いた。いつの間にあのコたちと手を取り合ったの?)

(取り合ってなどいないわ……。)

 

 素直にはなれないサンジェルマン。最後まで頑固なのは相変わらずだった。

 だが次第に爆発が大きくなり、3人は苦しげな表情を浮かべている。このままでは抑えきれなくなる。だがそれでも手はあった。

 

(完全なる、命の命の焼却を!)

(ラピスに通じる輝きなワケダ!)

 

 3人のエネルギーが、サンジェルマンのもつ銃のスペルキャスターに注ぎ込んだ。

 

(あの子たちと手を取り合ってなどいない……。取り合えぬものか……。死を灯すことでしかわかり合えなかった……)

「私にはああああああああぁぁぁ!!」 

 

 咆哮とともに、3人のエネルギーを錬金術へと変えて発射した。抑え切れなさそうになっていた爆発へと一直線に向かい、爆風すら残さず光となって消えた。

 サンジェルマン達の活躍で、反応兵器の脅威は免れた。だがその代償はあまりにも大きい。

 

「付き合わせてしまったわね……。」

「良いものが見られたから、気にしていないワケダ……」

「良いもの?」

「サンジェルマン、笑ってる。」 

 

 それは今まで誰に見せなかったサンジェルマンの笑顔。

 

「ああ……死にたくないと思ったのは、いつ以来だろう……。」

 

 カリオストロが手を振り、プレラーティは腕を組みながらその身体は光となって消滅した。

 

「ね……お母さん……。」 

 

 そしてサンジェルマンも、天を見上げながら光となって消えた。手にしていた銃のスペルキャスターも落ちた。

 

「ありがとう……。」

 

 涙を流してローブを羽織ったアルベルトは姿を消した。

 

「錬金術師……理想を追い求める者……」

「後は分離した神の力を……あっ!」

 

 調と切歌が振り返ると、そこには浮かんでいたアダムの左腕を依り代にして神の力を集約させていた。

 

「しなければね……君たちに感謝を……。」

 

 何処からともなく現れた空間の穴からアダムが右腕が、神の力を宿した左腕を掴み取った。そしてその穴が広がり、アダムが姿を現した。

 

「僕の手に、今度こそ!」

 

 左腕を天に掲げた。

 

「止めるぞ!」

「もうさせないよ、邪魔立ては!」 

 

 翼達が阻止しようと動くが、水の錬金術を応用して凍らせる事で、装者達の動きを封じ込めた。このままでは神の力がアダムの手に渡ってしまう。

 

「だとしてもおぉ!」 

 

 そうはさせまいとギアを纏った響が動いた。だが神殺しを使う響の接近を許すわけもなく、同じ轍は踏むはずがない。

 

「近づけないよ、君たちだけは……なっ?!」 

「アダムのいけず……。抱いてくれないから……私が抱いちゃう……」

 

 だがティキの残骸がしつこくアダムに愛を求めてその足を掴んだ。それが仇となり、転倒してしまった事で響の接近を許してしまった。

 

「やめろぉ!!都合のいい神殺しなものかその力は!!2000年の思いが呪いと積層した哲学兵装!!使えば背負う!!呪いをその身に!!人間が使えていい物じゃないんだその輝きはああぁ!!」

 

 喚き散らかすアダムだが、そんなものは知った事ではない。バンカーユニットとブースターを最大出力まで引き上げた。

 

「私は歌で……ぶん殴る!!」

 

 響の拳が、アダムの左腕を破壊した。これにより神の力は完全に消滅した。

 

 

 

 

 




闇の瑠璃

瑠璃に内在する全ての苦痛によって目覚めた人格。
性格は残忍かつ冷酷と、瑠璃とは正反対であり、一人称も「我」と尊大になる。
彼女を精神世界へと閉じ込めたがそれも全て、瑠璃を危険な世界から守りたいという思いだった。
神の力を手に出来た理由は不明であり、全てが謎に包まれている。結局、解明する前に再び眠りについた。

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