何故こうなった……?
それはさておき、またしても瑠璃の出番がない。
デートに誘われた時まで遡る。最初は乗り気だった、というより行く気満々だった。
だが切っ掛けはある着信だった。
「小夜姉?ちょっとすみません。」
一言断りを入れて電話に出る。
「もしもし?」
『あーもしもし?輪さ今どの辺におるん?』
「え?まあリディアンの近くだけど。」
二課の本部にいるなんて口が裂けても言えないので、ある程度は誤魔化すが、嘘は言っていない。
『こないだ一緒にご飯食べたクリスちゃんって子が家におるんよ。』
「はぁ?!」
思わず大きな声が出てしまう。しまったと思いながらも、クリスの事は気付かれていないようなので、このまま小声で通話をする。
「なんで家にいるの?」
『さっき偶々バッタリ会ってな。何か疲れてるみたいやから家に入れたんやわ。』
最悪だと思った。
クリスが逃亡生活をしているとは聞いていたが、まさか家に転がりこむとは、いやそもそもそんな事予想出来るわけがない。
「で、どうしようと?」
『クリスちゃん、お家に帰れん事情があるみたいやし、せっかくやから泊めてあげようと思ってな。せや、輪さカレー作ったってや!』
相変わらず滅茶苦茶な事を言う小夜である。
しかし、小夜に何を言っても無駄なのは輪がよく知っているので大人しく従うことにする。
「分かった……。すぐ帰るから……。」
不機嫌そうに言って着信を切る。
(ヤバい……これかなりヤバい案件じゃん。デート行きたいけど……小夜姉仕事があるんだろうからあの子一人になるし……そうしたら何が起こるか分かったもんじゃない……。)
結局色々考えた結果、家にいる事にした。
響達との会話の輪に戻るが、申し訳なさそうに断った。
「ごめーん!その日はどうしても外せない用事があるの!」
「そんなぁ!」
響が今にも泣き出しそうになっていた。
「でも仕方ないんじゃない?輪さんはいつでも誘えるんだし。」
「あまり無理に誘うのは、出水に悪いぞ。」
「はぁい……。」
「何か、ごめんね。」
そして今に至る。
輪はため息をつく。
小夜はこれから夜勤で働きに行くので二人きりになると考えると頭が痛くなってくる。
「にしても……やっぱ食べ方汚い……。」
「良いだろ別に。あたしはそんな教養ねえしな。」
これが瑠璃の妹なのかと疑心暗鬼になる。
瑠璃は綺麗だし、口調も丁寧、何より可愛い。
対するクリスが食べたカレーの食器の周りは見るも無惨、粗暴な口を叩くから可愛くない、明らかに正反対だらけだった。
「クリスちゃんせっかくやからお風呂入って来な。」
「い、良いのか?」
「ええんやええんや。乙女の身体は清めなあかんよ。」
「じゃあ……遠慮なく。」
そういうとクリスは浴室へと入った。そして小夜はニヤリと一瞬だけ浮かんだ。
小夜は高校時代こう呼ばれていた、「小悪魔美人」と。
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クリスは浴室で一人、シャワーを浴びている。しばらく逃亡生活でまともにシャワーを浴びる機会も余裕もなかった為、有り難かった。
しかし同時に小夜がフィーネとは違う意味で恐ろしいと感じた。
「まったく……あんな奴初めてだ……。」
「最初はみんなそう言うよ。」
浴室の引き戸の方を見るとなんと一糸纏わぬ輪がいた。
「おおお、お前何で?!入ってんだぞ?!」
「こっちだって願い下げよ!でも……」
それはクリスが浴室に入る直前の事だった。
「ほんなら輪も一緒に入ったらええな。」
「はい?!」
また始まる小夜の横暴。さすがの輪も顔を赤らめて拒否する。
「何であいつと……」
「親睦を深める良い機会や。女同士裸の付き合いになれば、話しにくい事も話せるやろし。ちなみに拒否したらお小遣い半分にするで。」
無慈悲な所業に、輪は成す術はない。
もはや小悪魔を通り越して悪魔である。
「分かったよ!その代わり、お小遣い少し増やしてよね!」
「ええよ〜。クリスちゃんの着替えは輪のものから貸してやってな〜。」
そういうと輪はクリスの分の着替えも用意して入る事になった。
そして今に至る。流石のクリスも同情してしまう。
「お前って結構大変なんだな……」
「うん。」
と、言うわけで輪も入浴に加わる。
今は輪がクリスの背中を洗っている。
「やっぱ双子なんだねぇ。体格も顔も、洗心地も同じ。」
「そりゃ……まあな。って最後の洗心地って何だよ?!」
「べっつに〜?」
構わず背中を洗う。
輪はよく瑠璃の家に泊まる事があり、瑠璃も輪の家に泊まる事がある。
その際に瑠璃と一緒に入浴しているからなのか、輪はこの状況をすんなりと受け入れられている。
「なあ、今もあたしを許せないでいるか?」
突然の質問に輪の手が止まる。
「確かに、思う所はあるよ。二度も殺されかけたし……。でも、あんたも利用されたんでしょ?オジサンから聞いた。それに……あの時私を殺そうと思えば殺せたでしょ?なのに、私はここにいる。」
瑠璃が攫われた時、クリスは輪に向けて杖を構えていだが、向けただけで何もしなかった……いや、殺せなかったという方が正しかった。
「ずっと何でだろうって思ってたけど、あんたも何だかんだ優しいんだなって思う。だからあんたを恨んでも意味ないよ。」
いがみ合っている時より弱々しい声で本音を話す。
「そうか。初めて会った、あの夜の日の事や……色々悪かったな……。」
「うん。まあ今となっては、忘れられない思い出だね。確かに怖かったなぁ……。このまま前も洗おうか?」
「ば、馬鹿!前くらい自分で洗えるわ!」
強引にハンドタオルを奪って身体を洗う。
(も、もう!前くらい自分で洗えるよ!)
その一連の動作まで、瑠璃と同じ反応をしていた事を思い出す。
(変な所で一致するんだなぁ……。)
そもそも他人に前を洗ってもらおうとする人はそうそういないだろう。
洗い終わるとクリスはシャワーのお湯で身体のボディソープの泡を流す。
ここで、輪はある事に気付く。
「あれ?背中に傷無いんだね。」
「あ?何の事だ?」
「いや、瑠璃の背中には痣とか……何か傷だらけだったから……」
その話を初めて聞いたクリスは急に輪の方を向き、輪の両肩を掴む。
「おい、それどういう事だ?!詳しく話せ!」
「ちょ、ちょっ……うわぁっ!」
勢いよく掴んできたので、踏ん張りきれず押し倒された。
その騒音は、小夜がいるリビングにまで聞こえた。
「ちょっと!大丈夫?!何か凄い音が……」
浴室の戸を開けた先には、クリスの顔が輪の豊かとはあまり言えないが、翼よりはあるだろう谷間に埋まっていて、いかにも百合の花が満開に咲きそうな絵面になっている。
意図したわけではない二人ではあるが、小夜に見られた事で羞恥心全開で顔が赤くなる。
「あ、あはは……まさかここまでの仲になるとは……お姉ちゃんもびっくらこいたなぁ。ま、まあそういう関係でも、お姉ちゃん応援しとるわ〜。どうぞ続けてな〜。」
気不味そうに戸を閉める小夜。
「「ち……違あああぁぁぁーーーう!!」」
仲が良いのか悪いのか分からないが、息だけはピッタリな二人であった。
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ちょっとしたハプニングが起きたが、それから夜も更け、小夜は夜勤である為、輪とクリスの二人きりになった。
クリスは輪の部屋で寝る事になり、輪のベッドで寝ている。
「悪いな……ベッド使っちまって。」
「気にしなくていい。」
輪は床に布団を敷いて眠る事になった。
久々に温かいベッドで眠るクリスだが、如何せん人のベッドという事もあり緊張でなかなか眠れない。
寝返りを打つと、輪がデジタルカメラを操作していた。
「なあ、カメラなんて出して何してんだ?」
「ん?まあメモリー整理。」
カメラの写真を見ながらそう答えるが、実際は写真を見ているだけだった。
「何の写真なんだ?」
「あんたの姉が写ってる写真。」
「見せてくれないか……?」
輪はクリスの方を見ると、カメラを手渡す。
受け取ったクリスはデータ内にある写真を見ていく。
「姉ちゃん、こんな風に笑うんだな……。忘れてたな。」
その写真を見てどこか懐かしさを感じている。
どんどん次の写真と見ていくが……
「これ殆ど姉ちゃんしか写ってねえじゃねえか!他にねえのか?!」
「無い。」
「即答かよ?!」
二枚程未来の写真があったがそれ以外は全部瑠璃しか写ってない。
「私の写真は瑠璃がいて初めて輝く、これ常識。」
「さも当然みたいに言うな!」
クリスはカメラを返す。
「あんたにだけ教える。瑠璃……ここの所元気なさそうだった。」
「は?」
「何か、無理して笑顔を作ってるみたいでさ……瑠璃ってばいつも自分より他人を優先するから、それで傷付く事だってあるのに……。結局何に悩んでるか分からないまま、あんたに拉致られちゃった。」
クリスは申し訳なさそうに謝る。
「悪かった……。」
「いや、別に私に謝られても……」
突然何かを思い出した途端、思わず笑ってしまう輪。
「な、何がおかしいんだよ?!」
「ちょっと、そういう困った顔とか、塩らしい顔になると瑠璃に見えちゃうんだよ。いやぁ双子って凄いなぁ。」
「何処で感心してんだよ?!」
「アハハ!反応も瑠璃と同じくらい面白いよ!クリスって性格は正反対なのにこういう所はそっくりなんだね……クヒヒヒ!」
あの姉にしてこの妹あり、という事だ。
しかし輪がクリスの名前を呼ぶ辺り、クリスに対する印象も変わって来たという証でもある。
だが反対に、クリスは輪も姉と同じくらいの悪魔であると認識した。
翌朝、輪が起きた時には既にクリスはおらず、リビングのテーブルにはお礼の置き手紙だけが残っていた。
百合要素が強すぎる事に気付くレーラさんである。
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