あるアメリカにあるロスアラモス研究所で新たな動きがあった。そこではS.O.N.G.が激闘の末に回収された聖骸が解析されていたのだが、その途中で聖骸が自壊するというアクシデントが起きた。しかし、その聖骸の右腕に着けられていた黄金の腕輪だけが残っていた。その為、その腕輪の起動実験が行われようとしていた。
「崩れ落ちた骸に興味はない。必要なのは、先史文明期の遺産であるこの腕輪。」
「起動実験の準備、完了しました。」
「我が国の成り立ちは、人が神秘に満ちた時代からの独立に端を発している。終わらせるぞ神代!叡智の輝きで人の未来を照らすのは、アメリカの使命なのだ!」
愛国心を胸に秘めた研究所長であるが、その使命を踏みにじられようとしている。研究員の中に紛れ込んだこめかみが長い黒髪の女。研究所長の思いを嘲笑うような余裕の笑みを浮かべている。
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あのライブ惨劇から一夜明けた朝。死傷者、行方不明者7万人超え、テレビや新聞に大きな一面を乗せる大惨劇となってしまった。アルカ・ノイズによる惨劇ではあるが、様々な機密に触れてしまう為、世間には爆発物によるものであると報道されている。
アルカ・ノイズと戦っていた翼とマリアはメディカルルームに運ばれた。マリアはすぐに目覚めたのだが、翼が一向に目覚めない。翼の眠るベッドの側にいる瑠璃は、その身を案じている。
「お姉ちゃん……。」
緒川曰く、脳波に乱れはあるものの、身体機能に異常はないとの事。しかし、奏を喪ったツヴァイウィングのライブの惨劇を超える地獄絵図、ミラアルクによって目の前で少女が胸を貫かれ惨殺されたという光景は、翼であっても目を背けたくなる。
パヴァリア光明結社とはいえ相手は残党、そのただの残党というだけで、ここまでの大惨劇を引き起こせるとは到底考えられない。調はその疑問を口にする。
「解体された結社残党の仕業と言うには……規模も被害も大きすぎないかな……?」
「何者かの手引き……。例えば強力な支援組織の可能性も……あるいは……。」
「確かもう一人、アルベルトって奴がいたはずデス!あいつが疑わしいのデス!」
「ミラー先生が……。」
響が口にしたミラー。それはアルベルトが別の姿へと変えていた時に名乗っていた瑠無・カノン・ミラーという名前。サンジェルマン達よりも先に日本に先行して訪れ、リディアンの養護教諭に紛れ込んでいた。
だが響は正体を現したアルベルトの事をまだその名前で呼んでいる。敵ではあったが、彼女もまたサンジェルマン達と同じく理想を共にし、さらにアダムを倒す為にラピス・フィロソフィカスの設計図を提供してくれたお陰でギアの出力を引き上げたのだ。彼女が再び敵として立ち塞がる事を、響はあまり信じたくないのだ。しかし思い当たるとすれば、幹部の中で唯一生存が確認されているアルベルトに疑いを向けられるのは仕方のない事だ。
「その可能性は低いわね。」
「どうしてデスか?」
勘とも言える切歌の推測をマリアに否定された事で問う。
「あの時の戦いから考えると、背後に彼女がいたとしても、ここまで派手な事はしないはずよ。」
「あっ……。」
マリアの言う通り、サンジェルマン達とは違い派手な立ち回りをするタイプではない、どちらかと言えば裏方に回る方だ。その上結社が瓦解した今、彼女も残党の一人。幹部の肩書など過去のものである。たとえ彼女の支援、指示があったとしても出来る事などたかが知れている。ますます残党に対する謎が深まるばかりである。
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その残党であるミラアルクとエルザは埠頭で黒服の男の二人からアタッシュケースを受け取っていた。中身をエルザが確認し、お目当てのものであるとミラアルクに伝えると
「あざまーす!」
と、陽気な声で裏ピースを顎に当てる。
「確かに受け取ったであります。受領のサインは必要でありますか?」
「いや……上からの指示はここまでだ。俺達もすぐに戻らなければ……。」
エルザは誠意を持って取引に応じているが、黒服達はミラアルクとエルザが怪物であるという隔たりのせいで不気味がっている。
「別に生まれた時から怪物ってわけじゃないんだぜ?取って食ったりなんてするもんか。」
「こんな体でも私めらは人間。過度に怯える必要は……っ!ガルルル……!」
そこにエルザが狼の耳を立てて黒服達の背後の方を威嚇している。その先にはコンテナの陰に隠れて取引を盗み見ていた3人の暴走族だった。
「モロバレェ?!逃げるべえぇぇぇーー!!」
命の危険を悟った3人はすぐに逃げ出した。黒服達もその姿を目撃する。
「マズい!見られたか!」
「早く連中を……ぉ?」
ミラアルクとエルザがいた方を向くが、既に二人の姿はいなかった。目撃者の始末を怪物である二人に任せると判断した。
一方ミラアルクは空を飛んで、エルザはキャリーケースを乗り物のように滑走して、アルカ・ノイズを召喚する。その群れの中はセグウェイに乗っているかのような姿をしている。その先頭を走るセグウェイ型アルカ・ノイズが、一台のバイクごと、二人の暴走族の男を分解した。さらに一人の白い特攻服を着た男の運転するバイクが横転してしまう。男は無事ではあるが、命の危機であることには変わりない。あっという間にミラアルク、エルザとアルカ・ノイズの群れに囲まれてしまう。
「気合の入った運転技術でありました。」
「だけど、赤旗振らせてもらうぜ。」
「嫌だぁ!神様!天使様ああぁぁーー!」
男が情けない声で命乞いをするが、相手は怪物であり、アルカ・ノイズ。どう足掻いても一般人に倒せる相手ではない。だがそこに、空から歌が聴こえてきた。
Killter ichaival tron……
空を飛ぶS.O.N.G.のヘリから響、クリス、瑠璃が降下して詠唱を唄っていた。3人がギアを纏うと、クリスのリボルバー拳銃による射撃でアルカ・ノイズを正確に撃ち抜いて着地。さらに周囲のアルカ・ノイズの群れを動きながら的確に対処。弾切れとなっても次の弾倉に入れ替えて、攻撃の手を緩めない。
さらに響が殴り、瑠璃が突き、払う。3人が言葉を交わさずともどうやって動くのかが分かる。これまで共に修羅場を潜り抜け、背中を預けてきた仲間だからだ。
「天使だ……!ここは地獄で極楽だぁー!」
と、白い特攻服の男が天の助けに喜んでいるが、背後からセグウェイ型アルカ・ノイズが迫っている。響がそれを殴った事で男は助かったが、未だにあぐらをかいてここに留まっている事に呆れてツッコむ。
「そういうのいいから、早く逃げて!」
それでも男は手を合わせて有り難やと頭を下げている。だが響にミラアルクが襲いかかったことで、流石の男も慌ててここを立ち去り、無事に保護された。
クリスと瑠璃はエルザと相対し、瑠璃の黒槍とエルザの尻尾状の兵器『テール・アタッチメント』が打ち合う。このテール・アタッチメントはエルザの持つキャリーケースと繋がっており、それを彼女の尾底部と連結させる事で、キャリーケースが牙を生やした狼のように形を変える。これにより、武器として扱う事が出来る代物。
だがそこに、クリスのクロスボウの矢が撃ち込まれ、瑠璃の槍と同時に攻撃してくる以上、エルザはテール・アタッチメントで防御に徹するしかない。
「エルザ!ヴァネッサが戻るまでは無茶は禁物!アジトで落ち合うぜ!」
「ガンス!ここは一つ、撤退であります!」
形勢不利と悟ったのか、即座の撤退を判断したミラアルクとエルザ。エルザがテレポートジェムを出すが、瑠璃の左手に持つ白槍がテレポートジェムに直撃して使い物にならなくさせた。
「逃さない!」
そのまま黒槍を突き出そうとしたが、そこにミラアルクが瑠璃を目掛けて瓦礫を投擲する。後退する事で瓦礫を避けたが、瓦礫の壁を作られてしまう。槍に乗って超えられない事はないが、瓦礫の壁を超える頃には追跡が出来なくなってしまう。
「クリス!響ちゃん!」
「任せろ!」
響がバレーのレシーブを取る体勢に入ると、クリスはその手に足を乗せたのと合わせて、響が腕を振り上げる。瓦礫の壁を遥かに超えて飛んだクリスは、アームドギアをスナイパーライフルへと変えて、それに合わせてヘッドギアをスコープへと変形、照準を合わせる。そして、ロックオンマーカーが車道を疾走するエルザに合わさり、引き金を弾いた。
【RED HOT BLAZE】
赤いエネルギーを纏った弾丸がエルザに迫る。反応した時には既に遅く、着弾。大爆発が引き起こされた。
黒煙が晴れると、巨大なクレーターの中心に破損したアタッシュケースが残っていた。残党を倒すまでには至らなかったが、何か重要なものであると思われる。アタッシュケースはそのまま本部へと回収され、解析された。
「回収したアタッシュケースの解析完了!」
「結果をモニターに回します。」
モニターにはアタッシュケースの中身が表示された。それは保冷剤と赤い液体が入ったパック。
「まさかの……ケチャップ?!」
「この季節にバーベキューパーティーとは、敵もさるもの引っ搔くものデス!」
調と切歌の頓珍漢な答えに、瑠璃は苦笑いを浮かべながらも、優しいお姉さんのように教える。
「あれは輸血パックだよ。つまり中身は血液。」
「中でもあれは、全血清剤。成分輸血が主流となった昨今、あまりお目に掛からなくなった代物だ。」
加えて、弦十郎が説明する。そこにエルフナインも加わる。
「それ以上に気になるのは、その種類です。Rhソイル式……。140万人に1人という、稀血と判明しています。」
「まさか……輸血を必要としているとでも言うの?」
敵の狙いをマリアが問うと、そこに先程救助された暴走族の男の事情聴取を終えた緒川がブリッジに入って来た。
「被害者からの聞き取りが終わりました。埠頭にて、少女たちと黒ずくめ男の二人組を目撃し、麻薬の取引現場だと思ったようです。」
「つまり、パヴァリア光明結社の残党を、支援している者がいるという事か。」
「考えられるのは、これまで幾度となく干渉してきた米国政府。」
「先だっての反応兵器発射以来、冷え切った両国の改善する為に進めて来た、月遺跡の共同調査計画。疑い始めたら、それすらも隠れ蓑に思えてきてしまうわね。」
反応兵器の一件だけではない、ルナアタック、フロンティア事変、直接的ではないにしろ、これまで何度も米国政府が関わっている。S.O.N.G.の面々もあまり良く思っていない者もいるのは事実。
だがそこに思わぬ知らせが入った。
「米国、ロスアラモス研究所が、パヴァリア光明結社の残党と思わしき敵性体に襲撃されたとの知らせです!」
「何だとぉ?!」
モニターにロスアラモス研究所が炎上している光景が映し出されている。瓦礫となり、炎が燃え上がる施設内に二人の姿が映っていた。一人はヴァネッサ。そしてもう一人は白衣を着たこめかみが長い黒髪の女。その風貌には見覚えがあった。
「あいつは!」
皆が驚愕し、クリスが声を挙げる。そして瑠璃がその名前を呟いた。
「アルベルト……!」
分かり合えたと思っていたパヴァリア光明結社元幹部、アルベルトが再び自分達の前に立ち塞がる事を意味していた。
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ロスアラモス研究所が襲撃されてから一日明け、ブリッジには翼を除いた装者が集まっていた。弦十郎は本部の通信を、八紘のタブレットに繋げていた。通話である為、画面に顔は映っていないが、八紘が得た情報の詳細を聞いていた。
「昨日の入電から丸一日、目立った動きは無さそうだが……兄貴はどう見てる?」
『ロスアラモス研究所は、米国の先端技術の発信地点。同時に異端技術の研究拠点でもある。米国を一連の事件の黒幕と想像するにはやはり無理がありそうだ。』
「米国の異端技術って……?」
調が恐る恐る問う。米国の異端技術の研究と言えばあれしかない。そこはマリア、調、切歌の馴染み深いものである。
「ああ。断言はできないが、ロスアラモス研究所は、かつてF.I.S.が所在したと目されている場所だ。」
『かつての新エネルギー、原子力の他エシュロンといった先端技術も、ロスアラモスでの研究で実現したと聞いている。』
「そんな所を襲ったってことは、やはり何か大事なものを狙ってデスか?!」
切歌が八紘に問う。
『伝えられてる情報ではさしたる力もないいくつかの聖遺物、そして……。』
モニターに映し出されたもの。それは自分達が倒した棺から出てきた聖骸の腕に填められていた黄金の腕輪。
『極冠にて回収された先史文明期の遺産。腕輪に刻まれた紋様を、楔形文字に照らし合わせると『シェム・ハ』と解読できる箇所があるそうだ。』
「シェム・ハ……。」
瑠璃がその腕輪の名前を呟く。だが米国の研究所から先史文明期の遺産を奪取されたのは大きな痛手とも言える。それが完全聖遺物であれば、それを武器に使われてもおかしくない。そうなれば、残党との戦いはますます容易ではなくなってしまう。
『事件解決に向け、引き続き米国政府には協力を要請していく。これが私の戦いだ。』
「恩に着る!八紘兄貴!」
八紘の通話が切れたのと同時に、S.O.N.G.の制服を身に纏っている翼が入ってきた。翼が復活した姿を見た皆が喜んだ。だが瑠璃だけは心配そうに翼に駆け寄る。
「お姉ちゃん!もう何ともないの?大丈夫なの?」
「ああ。心配を掛けたな。もう大丈夫だ。」
心配してくれる妹に、優しくも凛々しい微笑みかけるが、ブリッジの照明が落ちた。同時にモニターに大きく風鳴の家紋が映し出されている。
『大丈夫とは、何を指しての言葉であるか?』
「お祖父様……!」
「お祖父様……。」
その家紋の前に座る訃堂の姿。一度しか会った事がないとはいえ、瑠璃は身内にすら容赦ない、その無慈悲な姿を覚えている。
『夷狄による国土蹂躙を許してしまった先の一件、忘れたとは言わせぬぞ翼!』
「無論忘れてはいません!あの惨劇は、忘れてはならぬ光景であり、私が背負うべき宿業そのもの!」
『真の防人たり得ぬお前に、全ての命を守ることなど、夢のまた夢と覚えるがいい!』
「今の私では……守れない……?!」
『歌で、世界は守れないということだ!』
「歌で……世界は……」
訃堂の叱責に、翼は言葉を返す事が出来なかった。だがそこに納得がいかない瑠璃が訃堂に意見する。
「お祖父様、お姉ちゃんは歌で世界を……」
『お前にまだ、防人の血が流れていることを期待しておるぞ。』
瑠璃の意見を無視して、訃堂は言いたい事だけを言い、通信を切った。風鳴の血を流さない瑠璃を身内とは思わない彼にとって、瑠璃は有象無象としか見ていない。
「お姉ちゃん……。」
だがそんな事は気にせず、翼の方を向く。訃堂の叱責が効いたのだろう、顔を背けている。
「案ずるな瑠璃……。可愛げのない剣が……簡単に折れたりするものか……。」
それが強がりであるのは誰が見ても分かる。瑠璃は投げかける言葉が見つからず、ただ傷つく翼を見る事しか出来なかった。
帰り道、既に陽は沈みかけており、空には星々が煌めいていた。だが瑠璃は傷つく翼を案じて俯いていた。
「こんな時……どうしたら良いんだろう……。」
ため息をついているとそこに通信が入ってきた。
「はい、瑠璃です!」
『瑠璃ちゃん!今、切歌ちゃんと調ちゃんが敵を追って病院へと向かったわ!』
「病院?!病院って……」
何故切歌と調が敵を見つけたのか分からなかったが、通信を掛けてきた友里も悠長に説明している余裕はなさそうにも聞こえる。
『今二人から一番近いのは瑠璃ちゃんだけ!座標を送るからすぐに向かって!』
「りょ……了解!」
通信を終えると瑠璃はすぐに病院へと向かって行った。
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何故切歌と調が病院へと向かったのか。それは一つの閃きだった。公園で敵の狙いが何なのかを考えていた二人だったが、切歌が血液を集めている所が病院であると閃いていたのだ。そしてこの近くには一つ、大病院がある。流石の調もそれはないだろうと否定したのだが、病院のライトに映った吸血鬼少女、ミラアルクの影を目撃したのだ。
まさか的中していたとは二人は驚きだったが、二人はすぐにミラアルクを追い、病院の中へと入った。
「はぁ……今日も大変やったわぁ……。」
だがその病院は小夜の務め先でもあった。しかも現在、仕事終わりで私服に着替えて帰るところである。
「お疲れ様、出水さん。」
「おっ。お疲れ様〜。ん?あれは……」
同僚に手を振って帰ろうとした矢先、こちらに向かって走る二人の姿を見つけた。
「あれは……切歌ちゃんに調ちゃん?」
「あ、小夜さん!」
「説明は後で!」
「なっ?!こらぁ!病院の中を走ったらアカンで!っていうか面会時間とっくに過ぎてるでぇー!」
自身の横を走り抜けエレベーターに乗り込んだ二人に注意するも虚しく、そのまま屋上へと向かっていった。エレベーターの操作パネルに映る階層にはRの文字が点灯していた。
「ったく、屋上に何の用があんねや?ちょっと文句言わないかんな。」
小夜も二人を追ってエレベーターの上りボタンを押した。エレベーターが到着して扉が開くと、小夜はエレベーターに乗ってRのボタンを押した。
小夜さん……大丈夫かな?