ヴァネッサ、ミラアルク、エルザは戦慄していた。ただの装者であるはずの瑠璃から発せられる冷たい闇、圧倒的な威圧感、それらがただ一人の人間によって放たれている。目の前で小夜が撃たれた。それが引き金となり、再び瑠璃の瞳が冷たい闇へと変わっている。
本部のモニターにも、怒る瑠璃が大きく映し出されている。その冷たい闇の瞳、かつて絶対の破壊者となっていた時と同じ瞳だった。
「姉ちゃん、まさかあの時みたいに!」
さらに藤尭が驚愕が混じった報告をする。
「瑠璃ちゃんのバイタル上昇に伴い、適合率も上昇!これは……」
「ギアが共鳴している……?まるで、瑠璃さんの怒りを体現するように……」
かつて融合症例第一号だった響が、怒りとともに暴走した事例はあったが、適合率は上昇する事はなかった。それが今回、瑠璃の怒りによって適合率が上昇した。このようなケースは初めてであり、櫻井理論にはない。だからエルフナインも驚愕している。
「許さない……絶対に許さない……!貴様ら全員……殺してやる!!」
「待って瑠璃先輩!」
「無闇なんてらしくないデスよ!」
調と切歌の制止を無視して、たった一人で3人に突撃する瑠璃。3人を諸共に吹き飛ばそうと槍の穂先にエネルギーを集約させてそれを振り下ろした。
【Raging Hydra】
3人は跳躍して避けた。だが砂煙から突如、槍がヴァネッサに向けて投擲される。一瞬焦ったヴァネッサだが、冷静に手刀をドリルのように高速回転させて打ち合い、弾き返す。だがヴァネッサを追って跳躍した瑠璃が、弾かれた槍を手に突き出す。
「「ヴァネッサ!」」
咄嗟にミラアルクの剛腕とエルザのテール・アタッチメントの防御によって、ヴァネッサは守られた。
さらにミラアルクは双眸から
「邪魔を……するなあああああぁぁ!!」
だが
『落ち着けよ姉ちゃん!!それ以上はマズい!!』
『そこは市街なんだぞ!!』
通信越しにクリスと弦十郎が諌めようとするが、怒りの虜になった瑠璃には届かない。力任せの一撃、 普段の瑠璃からは考えられない口調。それほどまでに瑠璃の怒りは凄まじい。
だがここは市街地。まだ電気が着いていたという事は、建物に人がいる事を意味する。もし、瑠璃の攻撃で建物が損壊すれば、無意味に被害者を出してしまう恐れがあった。現に、瑠璃の一撃によって、病院の屋上の一部が損壊してしまっている。しかし、今の瑠璃はそんな事は頭にない。
瑠璃はヴァネッサの息の根を止める為に、執拗に攻撃を繰り返す。しかし、そこにエルザのテールアタッチメントの奇襲によって、瑠璃は建物の一階の中まで吹き飛ばされた。
「大丈夫かヴァネッサ?!」
「ありがとうミラアルクちゃん、エルザちゃん。」
「ですが、まだ終わってないであります!」
エルザの狼のような耳がまだ立っている。中から吹き飛ばした瓦礫が3人に襲い掛かるが、跳躍して避ける。
瑠璃が建物から出てきた。バイザーが損壊しており、露わになった闇の瞳が3人を戦慄させる。今の瑠璃は、怪物である自分達よりもよっぽど怪物らしいと肌で感じ取っている。
「ヴァネッサ、エルザ!こうなったらダイダロスエンドで……っ?!」
ここでミラアルクが脱力したかのように膝から崩れ落ちた。
「ミラアルク?!」
「ここに来て……!」
ミラアルクは連戦で既に消耗していた。ここに来てその代償が表れてしまった。もはや今の3人では止める事が出来ない。瑠璃の持つ二叉槍の連結が解除され、分離した黒槍と白槍から同じ形状の槍が展開される。
「くたばれ!!」
【Judgment Libra】
振り上げた腕を下ろすと大量の黒槍と白槍が3人に降り注いだ。
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一旦ギアを解除して、血だらけの小夜を医師と看護師に預けた切歌と調は、再びギアを纏ってすぐに瑠璃の方へと向かった。だが二人はその足をすぐに止めてしまう。既に車道や建物の一部が損壊してしまっている。これが心優しい瑠璃一人でやった事なのかと信じられずにいる。
「いくらなんでもやりすぎデスよこれ!」
「早く瑠璃先輩を止めないと……」
だがそこに再び爆発するかのような音が聞こえ、すぐに駆け出す。そこにはバイザーが損壊して、冷たい闇の瞳を宿した瑠璃。もう片方はあの3人なのだろうか、土煙で姿が見えなくなってしまっている。
「瑠璃……先輩……。」
調が呼んだ時、ラピスラズリのような慈しみの瞳に戻った。
「小夜さん……ごめんなさい……。ごめん……輪……。」
まるで懺悔するかのように泣き崩れる。瑠璃は分かっていた。小夜はもう助からないと。それを知ってしまった時、深い悲しみと強い怒りが、瑠璃の闇の力を動かした。切歌と調は瑠璃に何て言葉を投げかけてやればいいか分からない。
だが調はある事に気付いた。
「切ちゃん!瑠璃先輩!あれ!」
調が指した土煙の方。それが晴れると青色のバリアが展開されていた。そして本部では高エネルギー反応を検知している。
「これは……!」
友里は見覚えのある反応パターンに驚愕する。何故ならばその反応は
「ラピス・フィロソフィカスだとぉ?!」
過去のデータと一致し、弦十郎が声を挙げる。
「あれって……!」
そしてあのバリアは切歌と調には見に覚えのあるものだ。あれはかつてフィーネの魂を宿らせた調が使った力。だがフィーネの魂は切歌の絶唱の特性によって消滅してしまっている。さらに言えば、フィーネの魂は宿らせてはいないが、その力を輪が使っている。一体誰が使っているのか、その人物を切歌が見つける。
「調!アイツがいるデスよ!」
展開したのはパヴァリア光明結社の元幹部、アルベルトだ。先程の瑠璃の一撃をこれで防いでいたのだ。その手にかざしたバリアを解除すると
「君達は撤退するといい。後は私一人で十分だ。」
振り向かずに3人に撤退の命令を下した。その口ぶりからしてアルベルトが彼女達を率いているのが分かる。
「やっぱりあなたも……!」
「ああ。彼女達を動かしていたのは私だ。尤も、私が雇っているわけではないがね。」
開き直るように言った。これでアルベルトも3人と同じ、敵であると断定出来た。だが今の瑠璃はそれどころではない。
「どうだっていい……そいつを渡して!」
「渡せないな。彼女達、『ノーブルレッド』はまだ利用価値がある。」
この隙に、ヴァネッサはテレポートジェムを出した。それを見逃す瑠璃ではない。
「逃さない!絶対に……」
瑠璃が駆け出そうとした時、既に目と鼻の先にアルベルトが接近していた。そのまま鳩尾に膝蹴りを食らい、吹き飛ばされて倒れてしまう。
「「瑠璃先輩!」」
「君達はこれでも遊んでいたまえ。」
まるで眼中にないと言わんばかりに、アルベルトは二人を見る事なくアルカ・ノイズの召喚石をばら撒いた。
「こんな時に……!」
「邪魔するなデェス!」
現れたアルカ・ノイズを鬱陶しく思いながらも二人はアルカ・ノイズの対処を行う。
「ルリ、君は怒りに囚われている。その闇を覚醒させる程の逆鱗に触れてしまうとは……ヴァネッサめ……余計な事を……。」
余裕の笑みの表情を、少しも変えることなく悪態をつく。瑠璃は咳き込みながらも何とか立ち上がった。
「あなたも……そっち側だっていうのなら……あなたも……殺してやる!」
既にヴァネッサはミラアルクとエルザを伴って撤退してしまった。次の標的をアルベルトに定めた瑠璃。黒槍と白槍を連結させて、二叉槍に変えるとその穂先をドリルのように高速回転させながらアルベルトに突き出す。
【Horn of Unicorn】
しかし、アルベルトは仕込み杖の刃を抜かず、バリアで迎え撃つ。だが適合率が上がればギアの出力も上がる。その分威力も上乗せされる。瑠璃の槍を受けたバリアは少しずつ亀裂が生じる。
だがそれでもアルベルトは余裕の笑みは消えていない。すると、手を翳していない、右手に持つ杖の先端を瑠璃に向ける。
「バァン。」
すると、瑠璃の足元から水の錬金術が放たれ、瑠璃の身体を水で包囲して、氷漬けにする。
「この……!このぉっ……!」
何とか氷を壊そうと藻掻くが、強固なのか壊れない。
「また会おう。」
指をパチンとならすと、瑠璃を拘束する氷から、雷が放出された。
「うわああああああああぁぁぁ!!」
瑠璃の悲鳴が響いた。雷が止むと氷が粉々に砕け、拘束から解き放たれたが、先程の大ダメージによって倒れてしまう。
「調!急いで瑠璃先輩を助けるデス!」
「うん!」
「既に手遅れさ。」
アルカ・ノイズを全滅させた切歌と調も、アルベルトへの攻撃を試みようとした時、地面か放たれた7つの火柱が二人を襲った。
「「うわあああああぁぁ!!」」
宙へと飛ばされ、そのまま地面へと叩き落される。
「イグナイトを失い、出力をダウンしては良くやった方だな。」
地に伏した切歌と調を見下ろしながらも称賛の言葉を贈るが、その余裕な笑みのせいで、切歌と調にはそれが届かない。
「人を馬鹿にして……!」
「悔しいデス……っ?!」
ここでLiNKERの効果が切れたのか、ギアが強制的に解除されてしまう。予備は今手元になく、これではギアを纏えない。しかも相手はあのアルベルトだ。このまま走って逃げでも追いつかれるのは目に見えている。まさに絶体絶命の状況。
ただアルベルトは先程から攻撃出来る状況であるにも関わらず、手を下さない。
「まあ……今日はほんの挨拶だ。この辺にしよう。私の雇い主は、かなり傲慢だからな。」
そう言うとテレポートジェムを足元に割り、そのまま何処かへと転移してしまった。
「私達を倒す……絶好の機会だったのに……」
「消えた……デスか……?」
本部でもラピス・フィロソフィカスの反応が途絶え、追跡不可能となった。
「まさか、一度は我々に協力してくれた彼女が、再び我々の敵に回る事になるとは……。」
未だ掴めぬ敵の謎。弦十郎は残党相手にここまでの敗北を喫した悔しさを滲ませている。
「緒川、小夜君はどうなった?」
弦十郎の問いに、緒川は首を横に振った。その意図を理解した弦十郎は
「そうか……。」
すぐにタブレットを出して電話を掛ける。相手は輪だ。
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輪と小夜が住むアパート。カレーを作って待っていた輪だが、小夜の帰りが遅い事に心配している。
「小夜姉、遅いなぁ。」
そこにスマホから着信が鳴る。輪は小夜からと期待して手に取ったが、着信相手が弦十郎であると少し落胆する。しかし、弦十郎がわざわざ自分に掛けてくるなど珍しい事だ。輪は不思議がりながらも通話をする。
「もしもしオジサン?どうしたの……?」
『輪君。落ち着いてよく聞いてくれ。』
「何々?どうしたのそんな深刻そうにして〜。……えっ……?」
弦十郎から告げられた報に、輪は驚愕のあまりスマホを落とした。その画面は割れていた。
小夜姉が……亡くなった……
というわけで、ウチのオリジナルキャラクター、出水小夜さん退場となります。