瑠璃とクリスを部屋に招き入れた輪。突然の来客で何も用意していない上に、身だしなみもまともに手入れしていなかった。うら若き女子高生にとって、これは良くない。二人には部屋で待ってもらい、シャワーを浴びている。
「お待たせ。」
シャワーを浴び終え、身だしなみを整えた輪が私服に着替えて部屋に戻って来た。輪もカーペットに座る。だがその表情は気まずそうだ。
あの時、瑠璃が心配してくれたというのに、瑠璃は何も悪くないのに強く当たってしまった。それを申し訳なく思っている。しかしそれを言い出す勇気がなかなか持てずにいる。それでもちゃんと言葉にして伝えなければ意味がない。
「あのさ瑠璃、クリス……私……」
「ねえ輪。」
「え?」
勇気を出して謝ろうとしたのだが、当の本人である瑠璃に遮られる。よく見ると、目線が輪というより周囲の方を見ている。それに気が付いた輪が周りを見て……
「あっ……。」
「確かに、こりゃあ酷えな……。」
片付いていない部屋に気が付いて、恥ずかしさのあまり顔を赤くする。恐らく今の部屋は翼が散らかしたと嘘をついても通るレベルで酷い。だが輪は片付けが出来ないわけではない。だが悲しみに暮れていた輪の心はそんな余裕がなかった。
「というわけで……。」
「片付け開始だ。」
3人掛かりで輪の汚部屋を片付ける。積み重なった洗濯物を洗ってベランダに干し、カップ麺のゴミを片付け、新聞を次の燃えないゴミの日に出す為に纏めて縛る。
「クリス。もう少しキツく縛らないと、緩くて新聞が落ちちゃうよ?」
「わーってるって。」
「輪、それは燃えないゴミ。」
「あ、ご、ごめん……。」
あまりにも散らかっていたせいか、瑠璃にスイッチが入ったようでクリスと輪に指示を与えながら大掃除に取り組んでいる。
しかし、その甲斐もあって汚かった部屋は綺麗になっていき……
「「「終わったー!」」」
塵一つ無い、ピカピカなくらい綺麗になった。やり遂げた3人は晴れやかな笑顔で喜びあった。ついでに昼ご飯のカレーうどんを瑠璃とクリスが作った。輪が作ったカレーを使って作ったのだ。
「ありがとう二人とも。掃除までしてくれたのに、お昼ごはんまで……」
「良いってことよ。それによ……」
「輪、やっと笑った。」
「えっ……。」
思い返せば小夜を亡くしてから、輪は泣いてばかりだった。ずっと部屋に引きこもって悲しみに暮れていた。そんな自分を、二人は心配してくれてここまで来てくれたのだ。あの時、二人は悪くないのに怒鳴った自分を悔いた。
「ごめん二人とも!」
「え?」
「おいおい!何で謝るんだ??」
突然輪に謝られたのが予想外だったのか二人は驚く。
「あの時……私の事、心配してくれて電話くれたのに……なのに私、二人に強く怒鳴って……本当にごめん!」
謝られた二人は、あの時の事を思い出していた。まさかそんな事で謝られると思わなかったのだろう、二人はその事を全く気にしていなかった。
「何だそんな事かよ。別にあたしらそんな事気にしてねえよ。」
「そうだよ。それに……余計なお世話だったかもしれないけど、やっぱり輪を一人にさせたくなかったんだもの。」
こんな駄目な自分を大切に思ってくれる友達がいる。それだけでも、輪は救われたような気がした。
「ありがとう……瑠璃、クリス。」
「さ、冷めないうちに早く食べましょう。」
「おう。」
「「「いただきまーす!」」」
(小夜姉、心配かけてゴメンね。私、一人ぼっちじゃないよ。)
小夜を失ってから数日、輪はようやく立ち直り、前へ進められるようになった。
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昼食を食べ終え、瑠璃とクリスは使った食器を洗っている。客人だというのに働かせてばかりで、輪は申し訳なくなる。だが突然、輪はこんな事を聞き出す。
「そう言えばさ、今日本部に行かないの?」
確かに装者であるこの姉妹は本部に行っているはずだ。たとえ弦十郎からの依頼があったとしても、あんな朝早くからというのは考えにくい。
「もしかして……何かあった?」
輪にそこまで勘繰られたら、いかなる言い訳も通用しない。これまでのケースでも輪は大人顔負けの洞察力で事件もその人の本質や核心を突いている。こうなっては喋るしか他にない。
話は少し遡る。本部に査察が入った事で装者達に特別待機と下されたが、それは査察の邪魔をするなという厄介払いと同じ。装者達とエルフナインはカウンターに座り、その半分以上が日本政府のやり方に対して不満を吐いている。
「一部を除く関係者に特別待機って……」
「物は言い様ってやつだ!とどのつまりは、査察の邪魔をするなって事だろ!」
「ますますもって気に入らない!」
「だが、それが正式な申し入れであるならば、私達に拒否権がないのも文民統制の原則だ。致し方あるまい……。」
査察の受け入れに不満を持たない翼に、瑠璃とマリアは違和感を覚えた。防人の矜持を持っているとはいえ、不合理を良しとしない。今回の査察もそれに該当しているはずだが、不満を言わない辺りに何か様子が変であると感じているのだ。
「休息をとるのは悪い事じゃないと思うけど……。」
「だからってはしゃぐようなお気楽者は、ここには誰一人いないのデス!」
と、切歌がカウンターテーブルに雑誌を叩きつける。そこに瑠璃がジト目でツッコむ。
「うんうん。所で切歌ちゃん。その手に持ってる本は……一体何なのかな?」
その雑誌の表紙には『冬旅行』とデカデカと載っている。言っている事とやっている事の違いに呆れている。瑠璃だけではない。翼を除いた皆が切歌にジト目でじーっと視線を集めている。
「違うのデス!この本は偶々そこにあっただけで、全くもって無関係デス!」
必死に弁明するが、イマイチ信用されていない。お休みと聞いて、エルフナインが休日は一体何をしているのか、気になっていた響はエルフナインに聞く。
「エルフナインちゃんってお休みはいつも何してるの?」
「お休みの日は気晴らししてます。」
「あ、響ちゃんそれは……」
エルフナインの休日と聞いて、唯一知っている瑠璃がそれを止めようとするが既に手遅れだった。
「ダイレクトフィードバックシステムを応用して、脳領域の思い出を電気信号と見立てる事で……」
「あ~!今はやめて止めてやめて止めてー!「ダイレクトフィードバックシステムを応用して、脳領域の思い出を電気信号と見立てる事で……」
「あぁー!今はやめてとめてやめてとめて!それは気晴らしじゃなくて割としっかりめのお仕事か何かだよ多分!」
「だから言ったのに……。」
響の知っている気晴らしとはかなりかけ離れた気晴らしに、まるで拒絶反応を示すかのように止めた。そういう反応になるだろうなと予想していた瑠璃は呆れている。
「なんと!だったら僕は、お休みの日に何をして良いか分からない、ガッカリめの錬金術師か何かです……多分……。」
「だったら僕は……じゃないだろ全く。そういう事なら、暇潰しにしてくれるうってつけにくっついて数日過ごしな。」
クリスがそう言うと、今度は響に視線が集まった。当の本人はなぜ自分なのか分かっていないようではあるが。
回想終了。一通り聞いた輪は腕を組んで頷いている。
「確かに……それは納得出来ないよねぇ……。」
「うん……。」
「けど、せっかく休みが取れたんでしょう?だったら付き合ってよ。」
「え?」
「はぁ?」
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「お、おい!これ派手すぎだろ?!」
「そんなことないよ〜。似合ってる似合ってる。」
「お前ついで感覚で撮るな!」
クリスの試着を輪がカメラで撮影している。今3人がいるのは街中にある洋服店。せっかくの休息という事で輪がデートを提案した。
「そう言えばお姉ちゃん、響ちゃん達に誘われたって聞いていたけど……大丈夫かな……。」
奇しくも同日に街へと繰り出している一行があった。響の提案で未来とともに、翼とエルフナインを伴って街へ繰り出していたのだ。今はカラオケにおり、エルフナインが気合を入れて熱唱している。ただ何故その曲を知っているんだと問い質したくなるチョイスであるがそれは置いておく。
だが翼の方はと言うと表情が暗いままだった。カラオケに来る前もその表情であり、あまり楽しんでいる様子ではない。気掛かりになった未来は響に問う。
「響、何がどうなってるの……?」
「おかしいなぁ……。最近しょげてる翼さんを盛り上げるつもりだったのに……。」
これには響も予想していなかったのか困惑している。
「すまない……。突然予定が空いたが故、立花の申し出を受け入れてはみたが……私に余裕が無いのだろうな。今は歌を楽しむよりも、防人の技前を磨くべきだと心が逸る……焦るんだ……。」
やはりあの凱旋ライブのトラウマが残っているのだろう、翼の心が焦りや不安を掻き立てる。翼の手も震えている。
「あの日以来……震えが止まらない……。弱き人を守れなかった、自分の無力さに……。全てが自分の所為なのだと……。」
翼が心の内を吐露している間、エルフナインが歌い終わった。その晴れやかな表情から翼の話は聞いていなかったようだ。
「楽しいです!これもまた休日の過ごし方!たまには良いですねこういうのも!」
「響は勝手すぎるよ!!」
突然未来が叫んだ。
「何もそんないい方しなくても……」
「ちょっと待て!どうして二人が……」
響と未来が突然口論を始めてしまった事で、翼も慌ててしまう。当然話を聞いてなかったエルフナインもどういう状態なのかも言うまでもない。
「翼さんの事私にも相談くらいしてくれてもよかったじゃない!それにもっと別の方法だって……」
「私だって私なりに考えて……」
「私なりにじゃなくて、翼さんの事も考えたの?!」
「じゃあ未来は、翼さんの気持ちが分かるの?!」
「分かるよ……。」
先程まで熱が入ったかのように言い争っていた未来が俯いて、今まで抱え続けていた隠し事を零した。
「だって私、ずっと自分がライブに誘ったせいで大好きな人を危険な目に遭わせたと後悔してた……。それからずっと危険な目に遭わせ続けてる自分を許せずにいるんだよ?ごめんって言葉……ずっと隠してきた。それがきっと、その人を困らせてしまうと分かってたから……。」
元々ツヴァイウィングのライブに誘ったのは未来であったが、訳あって行けなくなった事で響が一人でライブに行った事であの惨劇に巻き込まれてしまった。それによって体内に埋め込まれてしまった胸の中のガングニールが起動、シンフォギアを纏って戦う事になり、未来は何度も送り出してきたが、内心ではずっと心苦しかった。自分があのライブに誘わなければ、ずっと己を責め続けて。
そこに本部からの通信が入った。響はバッグから通信端末を出して応答する。
「響です!翼さんとエルフナインちゃんも一緒です!」
『現在査察継続中につき、戦闘指令は査察官代行である私から通達します。』
「へぇっ?!どちら様ですか?!」
いつもなら友里か藤尭が通告してくれる為、聞き知らぬ女性の声にビックリしている。
『第32区域にアルカ・ノイズの反応検知。現在、該当区域より最も近くに位置するSG-01とSG-03'、は直ちに現場へと急行し、対象を駆逐せよ。尚、現在該当区域にSG-01.2、及びSG-02も急行中である。』
査察官代行が言っていたこの番号はギアを識別する為の形式番号であり、開発者である櫻井了子が打刻したものである。SG-01は天羽々斬の所有者である翼、SG-03'はガングニール、つまり響を指している。そしてSG-02はクリス、SG-01.2の事はバイデントの主である瑠璃。
一行は急いでカラオケ店から出ると、アルカ・ノイズの出現に怯えて逃げ惑う民間人、空を飛行して漂うアルカ・ノイズを目視で確認した。
「二人は安全なところへ!」
「うん!行こう!エルフナインちゃん!」
「未来!」
エルフナインを連れて避難しようとした時、響に呼び止められる。
「また、後で……。」
「うん……。響も、気を付けてね……。」
気まずくはあるが、今はそうは言ってられる余裕はない。未来とエルフナインはここから離脱、残った翼がと響が空に漂うアルカ・ノイズを見据える。
「行くぞ立花!刃の曇りは、戦場にて払わせてもらう!」
「はい!」
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「まさかここでアルカ・ノイズを呼び出すなんて……!」
「連中、またここらの人間諸共吹っ飛ばすつもりかぁ?!」
ノーブルレッドは幹部達とは違い、何の躊躇いもなく民間人の命を奪う。彼女達たちなりにも戦う理由があるのだろうが、これ以上好きにさせるわけにはいかない。
「輪、私達はアルカ・ノイズを倒す。だから……」
「分かってる。私じゃ……何も出来ないからね。」
瑠璃とクリスは気付いている。口ではそう言うが、本当は小夜の仇を取りたくて仕方がない。輪の握り拳がそう訴えている。だが輪はそれをどうにか抑えているが、いつかはその我慢も抑えられないだろう。輪の性格を知る瑠璃とクリスはそれを危惧している。
「輪……」
「大丈夫!私はさっさと逃げるから!ね?」
瑠璃達の不安を取り払うように笑顔を見せた。完全に取り払われたわけではない。しかし、それでも二人は輪を信じる。
「うん……分かった。」
「お前は早く逃げろ!ここはあたしらが!」
「うん、任せたよ!」
輪は手を振ってアルカ・ノイズが出現した反対の方へと、瑠璃とクリスはアルカ・ノイズの出現地点へと走っていった。
Tearlight bident tron……
瑠璃とクリスはそれぞれのギアを纏って、襲い掛かるアルカ・ノイズを真っ向から迎え撃つ。
バイデントの形式番号
SG-01.2はバイデントのギアの事を指し、正式名称はSG-r01.2(ゼロワン ポイント トゥー)。聖遺物第一号である天羽々斬よりも後に、聖遺物第二号であるイチイバルよりも先に作られたギアである事を意味している。
天羽々斬、イチイバル、ガングニールとは異なり、アーネンエルベで作られたギアである為、イレギュラーな部分が多いが、日本政府も公認の上で櫻井了子、もといフィーネに作らせたものなので、表とは異なる、まさに裏のギアとして打刻された。