戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星   作:レーラ

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久々に輪が戦います。生身で


役割

「未来……何で繋がらないの?!」

 

 アルカ・ノイズを殲滅し、戦闘を終えた響は未来の安否を確認する為に電話を掛けているが、一向に繋がらなかった。不安と焦燥に駆られる響だったが、本部の友里から通信が入った事で、その不安は現実のものとなった。

 

『響ちゃん!今、同じ区域から高エネルギー反応を検知したわ!』

「え……?!」

『過去のデータとも検証した!ラピス・フィロソフィカスのファウストローブだ!』

「じゃあミラー先生が?!」

 

 弦十郎からそれを聞いた響は驚愕した。それを現在持っているのは一人しかいない。瑠無・ミラー、もといアルベルトだ。

 

「場所は?!」

「座標を送る!だが、こちらからでは映像が映し出せん!すぐに向かってくれ!」

「了解!」

 

 通信端末から座標を送られた響とクリスは急いで現場へと向かう。そこは現場周辺に立入禁止テープが貼られ、警察やS.O.N.Gエージェントが現場調査を行っている。

 響とクリスが現場に辿り着いた時には辺りの壁や地面が陥没しており、戦いの跡があった証拠だ。捜査員がいる事から既に終わったという事だ。

 そこにS.O.N.G.の救護班に担架で運ばれている者がいた。それは頬と服に返り血がついて意識を失っている輪だった。

 

「嘘だろ……?!何で輪が……?!」

「輪さん!」

 

 何があったのか聞けるはずもなく、そのまま救急車で運ばれた。そして二人が現場に入ると、そこには血溜まりが出来ており、輪が羽織っていたコート、所有するバッグ、そして未来のものである血糊がついたバッグと破壊されたスマートフォンが落ちている。

 

「まさか……未来とエルフナインちゃんが……。」

 

 輪の身体からは血溜まりが出来るような傷もなく、付着している血液は返り血によるものである事はすぐに分かる。となると残るは未来とエルフナイン。二人に何があったのか。この血溜まりは果たしてあの二人のどちらかなのか。今響達が出来る事は、この血が未来のものでもエルフナインのものでもないと祈る事だけだ。

 

 装者達が帰投し、緒川達エージェントが現場調査に掛かっている。しかし目ぼしい情報はなく、進展らしい進展はなかった。

 周辺の監視カメラは全て破壊された事で、そこから情報を得る事は出来ない。さらに広域に渡って召喚されたアルカ・ノイズが隠れ蓑となった事、重ねて戦闘補助システムを備えたバイデントの所有者である瑠璃が、翼の攻撃によって負傷してしまった事ですぐに駆けつけられなかった。

 そもそもあの査察自体が敵の罠だったとも考えられる。

 

 通信で報告内容を弦十郎に伝える。

 

『恐らく、偶発的に巻き込まれてしまったのではなく……』

「ああ。敵の仕組んだ罠に掛かってしまったと考えるべきだな。」

『保護レベル最高位指定の2人が揃って……。』

「錬金術によるバックアップスタッフと、神の力の依代足りうると仮説される少女……。」

 

 前者はエルフナイン、後者は未来の事を指している。というのも、未来はフロンティア事変にて、響と共に神獣鏡の輝きによってバラルの呪詛から解放された人間である。響が神出ずる門より顕現した神の力を取り込めたのも、それが理由だからだ。つまり、未来も神の力を宿す事が出来る可能性がある。 

 

『調査部にて警護に努めてきましたが、査察による機能不全の隙を突かれてしまいました。』

「輪君を残した事から見るに、敵の狙いは未来君、またはエルフナイン君。あるいは……。」

『その両方という線も考えられますね。』

「いずれにせよ今必要なのは情報だ。だが、頼みの綱である輪君がいつ目覚めるか……。状況打開の為にも引き続きの捜査を頼む。」

『間もなく鑑識の結果も出ます。調査部の全力をかけて、必ず。』

 

 通信を終えると、それを切った。二人が無事である事を切に願った。

 

 

 一方メディカルルームに運ばれた瑠璃と輪。瑠璃が眠るベッドの傍らに翼がいた。瑠璃は額と前腕に包帯が巻かれており、左腕に点滴の針が入れられている。大きな怪我は無かったようだが、それでも痛々しい姿にしてしまったのは翼である。あの時の翼は普通じゃなかった。アルカ・ノイズ相手に過剰とも言える火力を振り回し、無駄に周囲の建築物や道路を破壊しただけでなく、あろう事か瑠璃をミラアルクと誤認して攻撃を仕掛けてしまった。命に別状はないとはいえ、それでも自分が犯した罪は消えない。瑠璃が目覚めたとしても、どんな顔をして会えばいいか分からない。

 

「ごめんなさい……瑠璃……。」

 

 全ては自分が弱いから、本来の敵を見失い、瑠璃を攻撃してしまった。そう考えた翼は眠っている瑠璃に謝り、メディカルルームを出て行こうとする。

 

「翼……さん……?」

 

 出ていこうとした時、突然呼びかけられた。ここにいるのは翼と眠っているはずの瑠璃と輪。この場で翼をさん付けで呼ぶ者は一人しかいない。翼は振り返ると、意識を覚醒させた輪が起き上がっていた。

 

「出水……。」

「痛てて……。ここは……メディカルルーム……。じゃあ未来とエルフナインは……」

 

 輪もあの現場にいた。輪だけがここにいるという事は未来とエルフナインを守れなかったという事になる。だが精神的に動揺してしまっている翼はそれを聞いている余裕がなかった。

 目が覚めたばかりの輪は辺りを見回していると、隣のベッドで瑠璃が眠っている事に唖然とする。

 

「え……?!何で瑠璃まで……?!翼さん!瑠璃どうしちゃったんですか?!」

「それは……」

 

 一体何が起きたのかを翼に聞こうとしたが、翼は狼狽えるばかりで答えられずにいる。言えるわけがない。敵と誤認して瑠璃を攻撃してしまったなどと。罪の意識に耐えかねた翼は飛び出すようにメディカルルームから出ていってしまう。しかもその直後、翼を心配してメディカルルームにやって来たマリアと鉢合わせする。

 

「翼?!どうしたの……?!」

「マリア……。」

 

 仲間を攻撃してしまった以上、皆に責められる。そう思ったのだろうが、その思いとは裏腹に、マリアは心配している。しかしそのマリアの問いも、翼はマリアの目を合わせずに黙すだけだった。

 

「どうしたの?らしくもない……」

 

 だが翼は、自分に向けて伸ばそうとしたマリアの手を無意識に払ってしまった。自分がした事に耐えきれなくなった翼は、逃げるようにマリアから去る。

 

「待ちなさい!翼!」

 

 今何を言っても翼の心には届かない。マリアは無理に追いかけようとはせず、メディカルルームへと入ろうとすると、輪がベッドから起き上がっているのを見て驚愕する。

 

「輪!まだ安静にしていないと……」

「私は大丈夫ですって!それよりも……どうしちゃったんですか?翼さん、何か様子が変ですし……瑠璃だって何でこんなに……?」

 

 輪に本当の事を教えるべきか、一瞬迷ったが、いずれは知られる事態。マリアは正直に話した。

 

「そんな!じゃあ瑠璃は……」

「ええ。けど、翼を責めないであげて。翼自身も分かってるはず。」

「そりゃあ……そうですけど……。」

 

 それは十分に承知している。それでも輪が納得出来ないのは、何故それを自分の口から正直に話さなかった事についてだ。自分がしでかしたのであれば、それをちゃんと面と向かって話すべきじゃないかと考えているのだ。

 だがそれは一旦後回しとなる。響達がアルカ・ノイズと戦っている間、最後に未来とエルフナインに接触したのは輪だけ。二人が行方不明になった詳しい情報を知る為には輪の証言が必要になる。

 

「それよりも、目が覚めたのなら教えてほしい。あの時、何があったのかを。」

「は、はい。でもその前に、オジサンを呼んだ方が良いと思いますけど……。」

「そうね。すぐに呼んでくるわ。」

 

 そう言ってマリアはブリッジにいる弦十郎に輪が目覚めた事を伝え、彼を連れて再びメディカルルームに入る。

 

「輪君。あの時何が起きたのか、覚えているか?」

「はい……それなんですけど……。」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 エルフナインを狙って追ってきたミラアルクを倒す為に、輪は戦闘体勢に入った。ミラアルクが仕掛ける前に殴りかかろうとしのだが、ミラアルクの方が速く動きだした。鋭利に伸びた一本の爪を振り下ろした事で、血飛沫が噴水のように吹き出した。しかし、それは輪のものでも未来のものでもない。

 

「お……思いがけない……空模様……。」

 

 何とミラアルクは協力関係であるはずの査察官の首を爪で切り裂いたのだ。切られた査察官の遺体は、ミラアルクが切り裂いた事で発生した緑色の炎で跡形も無くなってしまう。

 未来もエルフナインも、こんなショッキングな事態を目の前で見てしまった事で悲鳴を挙げ、気を失ってしまう。

 そんな中、目と鼻の先で人が惨殺される光景を目の当たりにし、その返り血を顔と衣服に浴びながらも、輪だけはギリギリ正気を保っていた。しかし、それでも目の前で人が殺される様を見るのは気持ちの良いものではない。

 

「アンタ……仲間を殺すなんて正気?!」

「あぁん?勘違いしないでほしいんだぜ。コイツとは協力関係だが、ウチらは端から仲間とは思ってないんだぜ!」

 

 どこまで外道な真似をするのかと、輪は心の底から嫌悪する。だが初めから小夜の仇を殺す事に何の躊躇いはない。

 

「だったら……心置きなく殺せるね!」

「ファウストローブも纏えない奴が言ってくれるぜ!」

 

 両者は地面を蹴って駆け出し、輪は拳を、ミラアルクは鋭利に伸ばした爪を振り上げた。だが突如、その間に割って入るように一本の杖が急降下、地面に着地した。二人はその足を止めて、距離を取った。その杖は互いに見覚えのあるものだった。

 

「あれってラピス・フィロソフィカスの……!」

「あいつが来やがったか……。」

 

 どこからともなく、その杖の持ち主が未来とエルフナインを抱えて降りてきた。

 

「失礼だね。仮にも君の上官だというのに。」

「アルベルト……?!いつの間に……?!」

 

 輪が戸惑いながらその名前を呼んだ。パヴァリア光明結社の幹部の中で、唯一生き残ったと聞いていたが、まさかこんな非道な真似をする連中を陰で操っているとは思わなかった。さらにいつの間にか未来とエルフナインの身柄を奪われていた。

 

「ミラアルク、この子は私が相手をする。二人をアジトへ。」

 

 そう言うとエルフナインと未来の身柄をミラアルクに預けた。

 

「礼は言わないぜ。」

「それで良い。」

 

 不本意な形ではあるが、目的を果たしたミラアルクは両翼で飛び去った。

 

「待て!!」

 

 追いかけようとしたが、杖を手にしたアルベルトに阻止される。

 

「君の相手は私。そう言った事を忘れたのかい?」

「そのヘラヘラした顔……ホントムカつく!!」

 

 アルベルト浮かべる余裕の笑み。それが人を苛つかせる要因となる。しかし、彼女はいかなる時も手を抜かず、相手を過小評価も過大評価もしない、相手をリスペクトする紳士な性格だ。それがアルベルトの人柄であり、強さである。

 スペルキャスターである杖から輝きが発せられると、ファウストローブを纏った。病院の時とは違い、最初から全力で倒しに来ている。しかし、ファウストローブのエネルギーを感知され、ここに装者達が来るのも時間の問題だ。

 

「さあ、来い。」

 

 そう言われ、輪は遠慮なく殴りかかる。あの時はファウストローブを纏われてから一方的に蹂躙された。だがあの時とは違い、弦十郎に戦い方を徹底的に扱かれ、特訓を積み重ねてきた。とはいえ、相手は元幹部のアルベルト。そう簡単に勝てる相手ではない。

 輪の素早いジャブを避け、杖で捌いている。しかし、その一撃は重く、受け止めると手に痺れが伝わる。アルベルトが杖を振り下ろすと、輪は手の甲と前腕で受け流すように捌く。ただ正面から防ごうとすればただ腕を痛めてしまうだけになる。故に振り下ろされる杖の側面から外力を与えてダメージを防いでいる。

 突きも身体を反らしてそれを躱し、アッパーカットを繰り出す。アルベルトはそれを身体を反らして避けると、それを待っていたと言わんばかりに輪のソバットが、アルベルトの鳩尾を狙った。だが……

 

「うわぁっ……!」

 

 アルベルトの左掌から展開された青いバリアに弾かれてしまい、一本足で支えていたバランスを崩し、転倒してしまう。

 

「チクショウ……!こんなの……がぁっ!」

 

 起き上がろうとするが、アルベルトに鳩尾を突かれてしまい起き上がれなくなってしまう。

 

「君には君の役割がある。守りたければ、それを果たせ。」

 

 輪に告げると、杖の先端から錬金術のエネルギーが集約し、それを直接輪の身体に放った。

 

「ぎぃっ!!ああああああああああああぁぁぁぁ!!」

 

 身体が切り裂かれるような痛みに、のたうち回る。アルベルトがその場を去っても、輪の身体に耐え難い苦痛が襲い、悲鳴が曇天に響いた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そこからの先の事は覚えていないが、気が付いたらメディカルルームにいるという事は、そのまま意識を失ったという事だろう。

 輪しか知り得ない一部始終を聞いた弦十郎は確認するように問う。

 

「では、あの血溜まりは……」

「あの人相の悪いジジイのものです。未来とエルフナインは……私のドジであいつらに……」

「いいえ。あなたのせいではないわ。むしろ、その状況でよく立ち向かったわね。」

 

 輪は守れなかった事に落ち込んでいたが、未来とエルフナインが生きていると知った二人には、一縷の希望が見えた。

 

「ありがとう輪君。君のお陰で光明が見えた。」

「え?」

 

 輪は何の事かさっぱり分からない。あの時、アルベルトが言っていた「君には君の役割がある。守りたければ、それを果たせ。」それがどういう意図があって、それを敵である自分に告げたのか。それが心に引っ掛かっていた。

 




今回オリジナルシーンをこれでもかというくらい挟む気がする……。
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