遅れてしまい申し訳ありません。
ヴァネッサがクリスとマリアの二人と交戦していた頃、チフォージュ・シャトーでは神の力を、降臨させる為の儀式を進めていた。準備はヴァネッサが事前にしておいてある為、後は降臨に必要なエネルギーである。エルフナインを攫ったのは、チフォージュ・シャトーに廃棄されたオートスコアラー達のエネルギーを利用する為に、ジェネレーターの認証を解除させる為である。
「あなた達は……一体何を企んで……ぁっ!」
ミラアルクに首根っこを掴まれ、暴れられないよう持ち上げられる。そして、ミラアルクが
「バイオパターン、照合。」
その手を離すと、自由となったエルフナインはジェネレーターのパネルの前に立つ。強固な意思を持って戦う装者達とは違い、簡単に心を侵略されたエルフナインはミラアルクの命令通りに従っている。
「さあ、認証を突破してもらうぜ。マスター。」
エルフナインがパネルの前に立つと、画面が埋め尽くされる程の黄色い文字が羅列される。エルフナインはミラアルクの命令通り、意思を持たない人形のように唱える。
「その庭に咲き誇るは、ケントの花……。知恵の実結ぶ、ディーンハイムの証なり……。」
唱え終わると黄色い文字が赤く点灯し、ジェネレーターの棺に繋がれたラインが青く光る。棺に納められたオートスコアラーの残骸に残ったエネルギーが、祭壇へと流れ込んでいるのだ。
「稼働は順調。廃棄されたとはいえ高密度のエネルギー体。これを利用しない手はないであります!」
「そしてコイツの利用価値はここまでだぜ。後は心を破壊して……」
用済みとなったエルフナインを真正面に向けさせて、再び不浄なる視線を発動させる。エルフナインの精神を破壊して、廃人にさせる
これ以上オレを覗き込むな!
突如謎の声がエルフナインを守るかのように恫喝、不浄なる視線を弾いた。何が起きたのか分からないミラアルクはよろめく。
「どうしたでありますか?!」
「こいつ……何を?!」
エルフナインは気を失い、倒れてしまう。だがその直後、シャトー全体が揺れ始め、驚く二人。エルザがモニターから祭壇の様子を確認する。
「制御不能!腕輪から抽出されるエネルギーが、抑えられないであります!このままでは……」
祭壇に納められたシェム・ハの腕輪の輝きが放たれ、不協和音が響いた。そして、シャトーに光柱が現れ、その中心に出現した繭。
本部もチフォージュ・シャトーに起きた現象をモニタリングしている。
「あれって、チフォージュ・シャトーだよね?!それに……この不快な音は何……?」
まだ本部に留まっていた輪だが、今起きている不可解な事態に戸惑う。
そしてその遠く、高速道路でヴァネッサを追い込んだクリスとマリアが、チフォージュ・シャトーから光っているのを見て驚愕している。
「まさか……チフォージュ・シャトーが稼働しているの?!」
「コイツら、廃棄施設をアジト代わりに使ってやがったのか?!」
だが余所見をしている隙を、ヴァネッサは蹴りで突いた。ギリギリ防いだクリスだったが、銃による脅しから解放してしまった。マリアが逃がすまいと短剣を斬りつけるが、鋼鉄の硬さを誇るヴァネッサの腕を斬れない。
ヴァネッサは二人から距離を取るが、クリスの銃口が向けられる。撃たせまいと左右に動きながら接近し、懐に入ったと同時に、人差し指を銃口に差し込む。
「なっ?!」
銃口から差し込まれたヴァネッサの人差し指の所為で引き金が重い。それでも強引に弾くと、銃が爆発。クリスとヴァネッサ、両者は吹き飛ばされる。
「どこまで奔放なの?!」
爆発の煙が晴れると、ヴァネッサの右手が欠損していた。先程の爆発によって破壊されたのだろうが、当の本人はあっけらかんとしている。
「ビックリさせちゃった?だけどこちらも同じくらい驚いているのよ。」
そう言うとヴァネッサは、ジャケットから出したテレポートジェムを割った。ヴァネッサはそのまま姿を消した。逃げられて悔しい思いをしているクリスは悪態をつく。
「してやられちまったか!」
そこにチフォージュ・シャトーから響く不協和音。その音を聴いているマリアは、感じていた違和感の正体に気付いた。
だが今はそれよりも一体何が起きているのか把握する事が先決。クリスが本部に通信を繋げる。
『本部!状況を教えてくれ!』
「先日観測した、同パターンのアウフヴァッヘン波形を確認!」
「腕輪の起動によるものだと思われます!」
「これがシェム・ハ……。アダムの予言した、復活のアナンヌキ……。」
アヌンナキ、言わば神に対抗出来るのは、神殺しを備えた響。現在響達を乗せたヘリがチフォージュ・シャトーに向かっている。だが繭が侵略者を迎え撃つように、光線を放つ。光線はヘリの真横を通り過ぎ、その余波に搭乗している装者達は尻もちをついてしまう。その中で翼だけはしっかりと起立している。
「くっ……敵は大筒・国崩し!ヘリで詰められる間合いには限りがある!」
「それでも、ここまで来れたら……!」
「十分デス!」
立ち上がった調と切歌も、勇んでいる。たとえアヌンナキが相手でも負ける気がしない。装者達はヘリから飛び降り、急降下する。
Zeios igalima raizen tron……
起動詠唱を唄い、ギアを纏った4人は降下しながらシャトーへと向かう。そうはさせまいと、繭は光線を拡散させて放つ。
ギアであればそれを捌く事は出来る。それぞれ持ちうるアームドギアでそれらを捌いていくと、今度はは繭の無数の腕が襲い掛かる。翼と響はその腕足場にして降りていくが、調だけが反応が遅れてしまう。防御が間に合わないかと思われたが、切歌の大鎌が守ってくれた。
しかし、腕は切歌と調を集中して狙っている先に着地した翼と響だったが、到着が遅れている二人を案じ、響が振り返る。
「調ちゃん!切歌ちゃん!」
翼はただ一人、先行して、繭へと駆け出す。
「機動性にはこちらに分がある!」
接近してくる翼を迎え撃とうと、繭は腕を伸ばす。刀で弾き、跳躍して回避する。
ただ闇雲に特攻をしているわけではない。今の翼は、瑠璃を攻撃してしまい、冷静さを失っている状態ではない。そうでなければこの怒涛の連続攻撃を無傷で対処する事など不可能だ。
「まずは距離を取りつつ、威力偵察だ!行けるな?!」
「はい!」
「デェス!」
覇気が戻った翼に信頼されている。嬉しくなった2人は威勢良く返事をして、戦闘に戻る。
「装者応戦!ですが……」
「高次元の存在相手に、有効な一撃をみまえてません!」
「ああ……」
藤尭と友里の報告にもあるように、相手はアヌンナキ。完全聖遺物でもなければ錬金術師でもない、これまで戦ってきたもの達の枠組みから大きく逸脱した存在である。並大抵の攻撃でどうにかなる相手ではない事は、弦十郎も承知だ。
(相手が本物の神なら……あのデカブツの時みたいに……。)
輪が指すデカブツの時、それは神の力を得てディヴァインウエポンと化した、なかった事にされるダメージ。あれには手を焼かされた苦い記憶がある。もしそれと同じ事が出来るなら、勝機はある。
繭の攻撃を捌いて、避けた切歌は2本の大鎌を合体、刃が巨大な手裏剣となり、柄が鎖に変形させて、それを振り下ろした。
【凶鎖・スタaa魔忍イイ】
刃は高速回転しながら繭の腕を切り落とした。だがその瞬間、腕はすぐさま元通り、切り落とされる前の状態に戻った。その現象に覚えがある切歌は一瞬、驚愕で動きを止めてしまう。そして、すぐさま切歌を叩き落とした。輪の予感は的中していた。
「やっぱり……!だけどこっちには!」
「ああ……神を殺すのはやはり……神殺しの拳!」
輪と弦十郎も悲観はしていない。何故なら神の力を殺す、切り札がある。
切歌を押し潰そうと腕が迫って来た所を、響が雄叫びをあげながら、その腕を殴った。腕は再生されず、粉砕された。
頼もしい救援が来て、切歌は笑みを浮かべたが、それはすぐに驚愕へと変わってしまう。
「響さん!」
響の周囲から襲いかかった複数の繭の腕が、響の身体を絡めとって、繭にとっては小さい人間の身体にエネルギーを流し込む。
「エネルギー収束!」
「このままでは響ちゃんが……!」
十まで言っていないが、そんなものが流され続けては、シンフォギアを纏っていても命を落とす危険がある。
悲鳴を挙げる響だが、足掻く理由がある。
「負けられない……!私は未来を……未来にもう一度……!」
響を縛る繭の腕の隙間から光が漏れ出した。
「もう一度!!」
叫びと同時に、ギアのエネルギーを使って腕を破壊。拘束から解放されたが、深刻なダメージによってギアは解除され、まともに立てない。一番近くにいた調が駆け寄る。
「へいき……」
「分かってる……!だから今は無茶できない……!」
「へっちゃら……。」
「おい!大丈夫か?!」
そこにクリスとマリアが到着した。翼が皆を守るように先頭に立ち、刀を構えて繭の方を見据える。
「切り札たる立花を失えば、それだけ後れを取ることとなる。ここは撤退し、態勢を整えなければ……!」
「立てるか?本部へ戻るぞ。」
神殺しが封じられた以上、これ以上の戦闘は無用。三十六計逃げるに如かず。クリスが肩を貸して、響を支えて撤退する。他の装者達も撤退すると、殿を務める翼も撤退した。
「まさか……こんな事になるなんて……。」
「瑠璃に続いて、響君までもが……。」
瑠璃は未だに目覚めていない。そこに、神殺しの力をもつガングニールの装者、響の負傷。この痛手に、輪と弦十郎の表情が翳る。自分も皆を助ける為に戦いたい。そう考える輪ではあるが、それは出来ない。
(私にも……戦う力があれば……。いや……あるにはある……。だけど……。)
ラピス・フィロソフィカスのファウストローブ。そのスペルキャスターであるネックレスはある。だがパヴァリア光明結社との戦いが終わった後、疑似的に放った絶唱による破損から修復されたそれを纏おうとしたが、輪の体内にある錬金術のエネルギーが失われた事で、プロテクト化する事が出来なくなってしまったのだ。今はエルフナインのラボに預けているのだが、それを手にしても纏えなければ意味がない。
結局自分は何も出来ないのかと歯を食いしばる。だが、輪はあの事を思い出した。
『君には君の役割がある。守りたければ、それを果たせ。』
ここに運び込まれる直前、アルベルトから告げられたセリフ。何故あんな事を言ったのか。
「役割……守りたければ果たせ……。役割……役割……割……割る……あっ!」
「どうした?」
割るという単語が出た時、一つの可能性を発見した。だが突然大きな声を出した輪に、弦十郎は驚いて輪の方を振り返る。輪は慌てて何でもないと、首を横に振る。
「ううん!何でもない!気にしないで!」
「そ、そうか……。」
弦十郎に悟られるわけにはいかない。もし露見してしまえば、その場で取り押さえられるだろう。
今からやろうとしているのは、仮に上手く事が運んでも、雷が落ちるだけでは済まされないくらい危険な行為だ。だがそれでも輪は一つの可能性を手放したくない。輪はそっと、ブリッジから出ていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方チフォージュ・シャトーを根城にしているノーブルレッド。ヴァネッサがいないこの根城で神の力の儀式を行っていたミラアルクとエルザは、装者と繭の戦闘の様子をモニタリングしていた。そこやヒールの靴の足音が聞こえ、2人が背後を振り返る。そこに、右手を失ったヴァネッサが戻って来た。
「ヴァネッサ、帰還したでありますか。」
「早速でごめんね。状況を教えて。」
あの繭の出現は、ヴァネッサですら想定外の事態だ。何がどうなっているのか、確認を取る。ミラアルクがそれに答えた。
「神の力は固着を開始。だけど、想定以上の質量に城外へと緊急パージしたのが、この体たらくだぜ。」
「遊びなしのいきなりすぎる展開はそういう……。」
「遠からずこの場所は突き止められていたはず。むしろ神の力の顕現でシンフォギアを退けられたのは、僥倖であります!」
「そうだといいんだけど……。」
エルザは決して楽観視しているわけではない。神の力を手に入れる儀式の最中に横槍を入れてきたシンフォギア装者達を、あの謎の繭が撃退した事は大きな収穫であると同時に、神の力の儀式を阻止されずに済んでいるこの状況に、希望を持っている。それでもヴァネッサの不安は拭えない。
「決戦となると、お荷物の処分は早めに済ましておきたいところだぜ。」
まだ倒れ付しているエルフナインを見て、ミラアルクはそう言った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「覚醒の……時……。」
先程目を覚まし、起き上がった瑠璃がポツリと呟いた。しかし、何故このタイミングで言ったのか、理解出来ない瑠璃は、誰もいないメディカルルームで勝手に恥ずかしがる。
「へ?わ、私ったら何を……。」
我に返った瑠璃はベットから降りて、メディカルルームを出ようとした時は、誰かがブリッジとは反対側の通路を通り、開いたドアが閉まってしまった。
「あれって……。」
ドアが閉まる直前までしか視認出来なかった為、誰だったのか、皆目検討もつかない。瑠璃は弦十郎に報告するべく、ブリッジの方へと向かって行った。先程まで、隣で輪が眠っていた事を知らないまま。