チフォージュ・シャトーの内部では再び来るであろう装者達を迎撃する為に、不安要素であるエルフナインを仕留めようとしていた。最初はミラアルクが鋭く伸びた爪で殺害しようとしていたが、ヴァネッサに制止される。止める為ではなく、代わりにやる為だ。
「新調した右手の具合を確かめなくちゃ。たまにはお姉ちゃんらしいところも見せないとね。」
ヴァネッサの右手が高速で振動する。これで何でも切断出来る、文字通り手刀となって、気を失っているエルフナインに近づく。
「神の力を神そのものへと完成するまでには、もうしばらくの時間が必要……。それを邪魔する要因は、小さくても取り除かなくちゃ!」
右手を振り下ろすが、突如エルフナインが身を翻して避けた。既に意識は戻っており、先程の会話も全て聞いていた。
「こいつ!」
「気づいていたでありますか?!」
だが所詮一発限りの回避であり、今度は避けられない。ギリギリで回避した事もあって、息が上がっている。
「自分が原因で世界に仇なしてしまった以上、生きているのも辛くないかしら?」
「確かに昔のボクならば……世界を守るために消えて良いとさえ思っていました……。だけど、この身体は大切な人からの預かりものです!今はここから消えたくありません!」
大切な人達の為にも、消えかけた自分を助けてくれた者の為にも死ぬわけにはいかない。だがヴァネッサ達からしてみれば、そんな事など知った事ではない。
「そう。だけどそれは聞けない相談ね。」
高速振動させた手刀を構えて再び近づく。
「どうすれば……だけど僕では……!」
「次は外さな……痛ぁっ!」
突如ヴァネッサの左頬に飛来物が直撃した。
「ヴァネッサ!」
「コイツは……デジカメ?」
ミラアルクが落ちた飛来物を確認すると、それはデジタルカメラだった。それを見たエルフナインは、それの持ち主を思い浮かべた。
「まさか……!」
「エルフナイン!こっち!」
「輪さん!」
出入り口から輪がデジタルカメラを投げてエルフナインに逃走を促していた。急いで輪の所へと走るが、そこにミラアルクが阻止せんと鋭い爪を振りかぶる。
「そうはさせないんだぜ!」
「輪パーーンチ!」
普通のパンチを必殺技の如く叫びながら繰り出しているが、バカ正直に堂々と叫んではどうぞ避けてくださいと言っているようなものである。しかし、そのパンチを回避してくれたお陰でミラアルクの注意が、輪の方へと向いた。
パンチを避けたミラアルクが輪に標的を変えて爪を振り下ろすが、輪は身体を反らして躱すと逆に回し蹴りで返り討ちにする。腹部に蹴りを入れられたミラアルクが咳き込んでいる隙に、足元に落ちていたデジタルカメラを拾い上げて、エルフナインの方へと走り出す。
「輪さん後ろ!」
「しまっ……きゃあああぁっ!!」
輪の背後からテールアタッチメントが襲い掛かり、背中から叩きつけられた輪は大きく吹き飛ばされ、倒されてしまう。
「余計な手間を取らせてくれたわね。」
エルフナインの方にはヴァネッサ、輪の所にはミラアルクとエルザが立ち塞がり、分断されてしまう。
「ここまで来て……!」
「残念だが、お前には姉貴の後を追ってもらうぜ。」
ミラアルクの爪が鋭く伸びた。流石の輪も、怪物の2人の包囲から逃れる事は出来ない。だがエルザは、輪の首に掛かっているネックレスの煌めきが見えた。
「それは!ミラアルク、離れるであります!」
「何だってんだ?!」
「そっちは気付いたみたいだね!」
輪はネックレスを見せびらかすように、その手に持つ。これが何なのか、ミラアルクでも分かる。
「そいつは……!」
「ラピス・フィロソフィカスのファウストローブ?!」
エルフナインの方へ行っていたヴァネッサが振り返って驚愕する。
サンジェルマン達が持っていた賢者の石と呼ばれるファウストローブ。アルベルトが使用していたのを見ていた為、それがどれほど強力なものであるかは把握している。
錬金術師でもない輪がファウストローブを纏えるなど俄には信じ難く、放置しても何の問題もないと思っていたが、もし本当に纏えるのであれば、先に片付けなければ面倒になる。驚くノーブルレッド達とは対照的に、輪は不敵な笑みを浮かべている。
「今更逃げようたって無駄なんだから!このファウストローブを使えばあんた達なんて!」
アルベルトと戦った時、身体に襲い掛かった切り裂かれるような激痛。病院で戦った時に受けた同じ痛みだった。あの時、錬金術のエネルギーを流し込まれたのだとしたら、今回もファウストローブを纏えると睨んだのだ。輪は結晶を握りしめると、結晶から眩い光が発せられた。ミラアルクとエルザは戦闘態勢で待ち構える。
「この土壇場で……!」
「っ……!いえ!待つであります!」
エルザが何かを察知して、戦闘態勢を解いた。眩い光が徐々に弱まり、ついに消えた。
「あれ……?」
そこにいたのはファウストローブを纏っていない、私服のままの輪だった。何故かファウストローブの姿にならない事に焦った感じた輪は、ハートの結晶を見る。
「何で?!何で纏えないの?!あの時は確かに……」
「そうだ……!一度壊れて修復してから……フォニックゲインが失われたまま……!」
エルフナインの失念。それは輪がファウストローブを纏えない理由が2つあった事だ。修復してから再び起動実験を行ったが、スペルキャスターの反応は何一つ無かった。この事から輪の中にある錬金術のエネルギーが無かった事が挙げられていたが、そこに囚われてしまったが故に、もう一点見落としてしまっていた。
シンフォギアのペンダントとは違い、輪のネックレスは元々フォニックゲインを持たない錬金術由来のもの。それ故に起動に必要なフォニックゲインを装者から流動する事で補っていたのだが、それが半壊した事で、それまてそれから装者達によるフォニックゲインの流動を行っていなかった。ここにはそれが出来る装者は一人もいない。つまり、今の輪は装者無しではファウストローブを纏えない状態に逆戻りしているのだ。
「じゃあこれ……ピンチ?」
「輪さん!」
「ピンチじゃないわ。ゲームオーバーよ。」
再びヴァネッサの右手の手刀が高速振動させる。自分だけならまだしも、助けに来てくれた輪までもがその命が奪われようとしている。だがノーブルレッドは慈悲など受け入れない。ヴァネッサの手刀が振り下ろされる。エルフナインが叫んだ。
「誰かぁっ!」
その叫びに呼応するように、ハイヒールが地面を叩く音が響いた。そして、ヴァネッサの手刀から守る剣があった。その剣の名前は……
「ソードブレイカー。その一振りを、貴女が剣と想うなら!」
そのセリフの通り、ソードブレイカーによって弾かれた手刀である右手が大破した。
「日に2度も?!」
「ファラ……?!何で……?!」
輪が驚愕しながらその名前を叫ぶ。ソードブレイカーを持つ者はファラただ一機。だがキャロルに仕え、呪われた旋律をその身に受けて破壊されたはず。故にここにいる事に驚いている。
ファラだけではない。棺から黄、赤、青、白の光と共に棺が爆発する。その煙の中からレイアが姿を現す。
「先手必勝!派手に行く!」
「レイアも?!」
指から弾かれたコインが弾丸のように放たれる。ヴァネッサ、ミラアルク、エルザはそれらを跳躍することで避けるが、ヴァネッサの方には無邪気な笑い声と共に、ミカが走って来た。
「ちゃぶ台をひっくり返すのは、いつだって最強のあたしなんだゾ!」
力いっぱい振るったカーボンロッドがヴァネッサの背中を叩きつけた。
「「ヴァネッサ!」」
「ここだ、虫けら共。」
倒されたヴァネッサに気を取られ、ジークの接近を許してしまった二人には、振り下ろされたハルバードによって叩きつけられた。
「ミカとジークまで……うわっ!」
ジークの肩に担がれた。この一瞬で何が起きているのか理解が追いついていない輪ではあるが、ガリィにお姫様抱っこで抱えられているエルフナインの方が冷静に見える。
「あなた達は……炉心に連結されていた廃棄躯体の……。」
「スクラップにスペアボディ?呼び方はいろいろあるけれど、再起動してくれたからには、やれるだけのことはやりますわよ。」
「ガリィ……アンタ……。」
魔法少女事変の時と比べると、至る所に傷などがある。それでもオートスコアラー達は以前から変わらない、マスターに忠誠を尽くす騎士達だ。
「マスターのようでマスターでない、少しマスターっぽい誰かだけど、マスターの為に働く事が、私達の使命なんだゾ!」
「裏切り者を助けたのは癪だが……それでもマスターと、マスターを助けようとしたお前の行動に免じて、少しは守ってやる。」
その中で一機、ジークだけは無愛想な口振り。人間嫌いのジークが、人間を守ろうとしている事に輪は唖然とする。
「この身に蓄えられた残存メモリーを、エネルギーに利用しようと目論んだようですがそうは参りません。」
「さてマスター、今後の指示を頼む。このまま地味に脱出するもよし。無論、派手に逆襲するも……」
「だったら、やりたいことがあります!」
エルフナインの強い決意と意思を持った行動。彼女達は心から喜んで従う。マスター、騎士、裏切り者、歪ながらも、再びこの7名が揃った。
輪のファウストローブについて
アルベルトが作ったラピス・フィロソフィカスのファウストローブの中でも、シンフォギアとファウストローブのハイブリッド型であるそれは、足りない錬金術のエネルギーを補う形でフォニックゲインが必要とするよう開発された。
輪のファウストローブは、疑似絶唱によって欠損してしまい、その際に翼とクリスのユニゾンにて流動された膨大なフォニックゲインも失われてしまった。
錬金術のエネルギーが無ければ、鎧として纏う事は出来ないが、膨大なフォニックゲインがなければそれを維持する事さえ出来ない為、チフォージュ・シャトーでは一瞬だけ輝きを発せたが、纏う事が叶わなかった。
GX編で裏切り者を作った時、これをずっと前から書きたかった。