さあ、立ち上がれ!
突如、本部のモニターに『Emergency Call』の文字が表記された。藤尭が弦十郎にその旨を報告する。
「司令!外部より専用回線にアクセスです!」
「専用回線だと……?モニターに回せるか?」
「はい……うわぁはあぁっ!!」
何とモニターが映ると、破壊したはずのガリィとレイアが映っており、その恐ろしさから藤尭が情けない悲鳴を挙げる。だがエルフナインと輪が二体を退けて顔を出した。
『待ってオジサン!私達だよ!』
「輪君にエルフナイン君!無事だったのか?!」
『無事……とは言い難いかな?それよりも、時間がないからよく聞いて!』
輪とエルフナインはシャトーの玉座の間にはなかった、恐らくノーブルレッドが持ち出したコンピュータを使って、本部に通信を掛けたのだ。だが輪とエルフナインの表情は穏やかなものではないのが分かる。
ちなみに動いているだけで消耗が激しいミカは、台座で一度稼働を停止させている。
「ここは、チフォージュ・シャトーの中!エルフナインは見つけることが出来たけど、未来がまだ……!だけどここの何処かにいる事は間違いない!」
僅かな吉報に、皆が安堵する。瑠璃とクリスは涙を浮かべている。
「じゃあ未来ちゃんもそこに……!」
「ったりめーだぁ!そう信じていたから無茶してきてんだ!あたしらも……あの馬鹿も!」
涙を乱暴に拭うクリス。輪と交代して、エルフナインが通信を行う。
『これからオートスコアラー達の助けを借りて、未来さんの救出に向かいます。神そのものへと完成していない今なら、まだ間に合います!』
「君達が?!無茶だ!」
『そう無茶です!だから、応援をお願いします!』
弦十郎の制止を突っぱねるなど、輪はともかく今までのエルフナインでは考えられない事だ。
たとえ戦う力がなくても、装者達が戦う理由があるように、エルフナインにも戦う理由がある。故にエルフナインの意思は硬い。これには流石の弦十郎もたじろいぐ。
このタイミングでミカが再起動、台座から降りた。
「ここは敵の只中です!どうしたって危険が伴うのであれば戦うしかありません!輪さんもその覚悟でここに来たはずです!だから、僕も戦います!」
強く意気込むエルフナイン。要である神殺しのガングニールを持つ響か未だ昏睡状態から回復していない。ラピス・フィロソフィカスの反応パターンも無い事は把握しており、輪がファウストローブを纏えない事も察している。他に打つ手がない以上、エルフナインの案に賭けるしかない。
『……こちらも負傷で神殺しを欠いた状態にあるが……。』
「この局面に響さんを……」
『救出に向かうまで、何とか持ちこたえてほしい!頼んだぞ!』
「了解!」
要件を伝え終えたその瞬間に通信を切断する。
「マスター、敵襲を確認。」
同時にジークの報告。ノーブルレッドの3人に追いつかれてしまう。
「地味に窮地。今度は流石に不意をつけそうにないかと。」
テールアタッチメントの牙が襲いかかるが、ファラとレイアの2人掛かりで食い止める。しかし、二人掛かりだというのにどうも押され気味である。
「二人とも!」
「ここは私達に。ガリィにはマスター達のエスコートをお願いするわ」
「任せて。目的地までの道のりは、ここに叩きこんであるから。アンタは自分の足で走りなさいよ?」
「分かってるよ!」
エスコートと言っても、比較的戦える輪を守る余裕がない。とはいえ輪もガリィに守ってもらう気はなく、嫌味ったらしいガリィに言い返す。
ファラが風の錬金術で、テールアタッチメントを押し返すと、エルザは距離を取って体勢を立て直す。
「ミカとジークも一緒に!」
「お前達がついていれば、私もファラも憂いがない!」
「元気印の役割は心得てるゾ!」
「お前達に言われずともな。」
ミカはその刺々しい手を元気よく上げながら、ジークはぶっきらぼうに答える。
「マスター!今のうちに!」
ガリィがエルフナインの手を取ると、2人は走り出した。その後ろにミカとジーク、輪もついていく。
「ごめん……!違う……ありがとう!ファラ!レイア!」
初めてありがとうと言われ、嬉しくなった2人は口角が釣り上がる。
「行かせないぜ!っ?!」
ミラアルクがエルフナインを狙おうとするが、それを風の錬金術が阻んだ。そして、ファラフラメンコのステップでがソードブレイカーを、レイアがタップダンスでコインのトンファーを手に構えて、2人は並び立つ。
「この道は通行止めです。他を当たっていただきましょう。」
「ああ、行かせるわけにはいかないな。」
祭壇を目指すべくレイア、ファラを除いた5人はエレベーターに乗って、上階へ昇る。マスターを守る為に戦う騎士とはいえ、仲間であるレイアとファラを心配するエルフナイン。
「ファラとレイアなら……きっと大丈夫ですよね……?」
エルフナインにそう言われ、2人の表情は芳しくない。輪もその表情から2人の不安を察した。それでもガリィはエルフナインを元気づけるべく、笑顔で振る舞って安心させる。
「不足はいろいろありますが、それでも全力を尽くしています。だからマスターも全力で信じてあげてくださいな。」
そうは言うものの、ガリィの立てた指の動きがぎこちないのを、輪は見逃さなかった。残存メモリーが少ないせいで、流暢に動かせない事も察して。
ただジークの方をちらりと見ると、彼女だけはハルバードを片手に目を閉じていて、表情は一切変えていない。相変わらずだと内心呆れる。
だが突如、エレベーターが止まったと同時に目を見開いてハルバードを構える。
「敵だ。」
「もう追いつかれた?!」
ジークの言うと通り、ミラアルクの豪腕がエレベーターの扉を強引にこじ開けた。ミカがエルフナインを守るように、彼女の前に立って構える。
「待たせたなぁ!お仕置きの時間だぜ!」
「ぞなもし!」
ミカが腕を交差させて待ち構えていたが、それごと掴まれて、エレベーターの扉ごと放り出されてしまう。輪が叫んだ。
「ミカ!」
「あ〜ん!もうしっちゃかめっちゃか〜!」
このハチャメチャな状態に、ガリィがお手上げの仕草をする。しかし、すぐさまエルフナインの手を掴んで、2人はエレベーターから脱出。輪とジークもエレベーターから飛び降りてガリィ達に続く。
「させないぜ!」
エルフナインに襲いかかろうとしたミラアルクだったが、そこにミカが飛び込んできた。押し倒されたミラアルクはミカを退けようと藻掻くが、相手は戦闘特化のミカ。その馬鹿力を前に、押し負けている。
「こ、このぉ!」
「マスターを頼んだゾ!そんな楽しい任務ほんとはあたしがしたいけど、この手じゃマスターの手を引くことなんてできないから……残念だゾ。」
「ミカ……。」
「分かってる!あんたの分まで私達に任せて!」
ミカの思いを汲み取ったガリィとジーク。ガリィがエルフナインの手を引いて駆け出す。
「ミカ……!だけど、かっこいいです!ミカのその手!大好きです!」
生まれて初めて、この手を褒められた。嬉しくなったミカの口が大きく開いた。だがそれで気が緩んだのかミラアルクの押しのけられてしまうが、ミカは嬉しさでいっぱいだった。
「褒められたゾ!照れくさいゾ!」
「廃棄躯体がなめてくれるぜ!」
「こうなったら照れ隠しに邪魔者をぶっ飛ばしちゃうゾ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
気がつけば、オートスコアラーの数が2人まで減ってしまった。マスターを守る為に、僅かな力を全て出し切ってまで戦いぬこうとしている。自分だってエルフナインを助ける為にここに来たはずなのに、しくじるばかりか守られている。
「クソが……何やってんだ私は……!」
皆、言葉にしないが分かりきっていた事だ。魔法少女事変の時とは違い、残存メモリーが少ない状態で戦っても、本領どころか半分のスペックすら引き出せない。レイアとファラが、エルザに苦戦している様子を目の当たりにして、それを知ってしまった。その状態で戦った所で勝てる見込みなど万に一つもない。ファウストローブさえ纏えたら、皆助かったはずだと、そう考える。だが
「輪さん!」
エルフナインの声で我に返ると、背後から弾丸の雨が降り注いだ。咄嗟に突き出した右の掌からバリアを展開して、全弾防いだ。
「あの人の言う通り、フィーネの力を宿していたのね。」
暗闇からヴァネッサが姿を現した。追う立場である故か随分と余裕そうな態度だ。
「けど、それを人の身で扱えばどうなるか。」
ヴァネッサはフィーネの力を、輪が使う事によって体力の大半を持っていかれてしまう事を知っていた。輪にとって、咄嗟でもここで使ってしまったのは悪手だった。
(ヤバい……こんな所でへばったら……!)
「馬鹿者め……。」
ため息をついたジークが輪を背に、ハルバードを構えてヴァネッサと対峙する。
「出水輪。」
「な、何……?」
「死んでも走れ。そして、マスターを守れ。」
「え……?」
ジークが輪の名前を呼んで、後を託した。あの人間嫌いなジークがそんな事をするとは思わなかったのか、立ち上がった輪は意外に思って驚く。
「マスター!」
ジークが振り返らないまま、大声で呼び掛けると、ハルバードの石突を床に突いた。
「マスターの……勝利を。」
再びハルバードの石突を床に突いた。ジークは主を守る為に戦い、散る。その前に、主の勝利の願掛けと、最後の別れを告げたのだ。他のオートスコアラーより多くを語らないジーク。たとえ言葉の数は少なくても、その中にあるマスターへの絶対的な忠誠心だ。
「ガリィ!行け!」
「言われなくても!行きますよ!マスター!」
「逃さないわよ!」
ガリィがエルフナインを抱えて走り出した。だが、ヴァネッサがそれを見逃してくれるわけもなく、残った左手を高速振動させて手刀へと変える。だがジークのハルバードが目前で振り下ろされる。手刀で防ぐが、ジークがヴァネッサの前に立ちはだかる。
背後を目配せすると、輪も走り出しており、後ろの憂いがなくなったと安堵していると……
「ジーク!」
ガリィに抱えられているエルフナインが大声で叫んだ。
「ボクも頑張るから!絶対に勝つから!だから絶負けないで!!ジーク!!」
初めて応援の言葉を掛けられたジーク。今まで使命を与えられる時にしか言葉を交わさなかった彼女にとって、何ともこそばゆいが、悪い気はしない。嬉しいとは、こういう事なのだろうと気付いた。
「ええ……マスターが生きておられる限り、私は負けません。」
「死にぞこないはいい加減に壊れてくれないかしら?」
「虫ケラ以下のくず鉄ごときが……その減らず口ごとバラバラにしてくれる!」
ジークとヴァネッサが同時に走り出し、激突した。
「もっと速く走れないの?」
「分かってるよ!」
祭壇の部屋までもうすぐだというのに、フィーネの力を使ってしまった影響で走る速度が低下してしまっている。それでも何とか死ぬ気で走っている。そして、目的地が見えてきた。
「あそこです!」
「あの先に未来が……っ!」
希望が見えてきたその刹那、輪の脇を掠めた飛来物。
「ガリィ!」
狙いは最後に残ったオートスコアラーであるガリィだと気が付いた輪が叫ぶと、ガリィは抱えていたエルフナインを放り投げた。
「何を?!」
投げ出されたエルフナインが叫んだ時、ガリィは既に飛来物の正体、ヴァネッサのロケットパンチが腹部に刺さると内部機構が砕ける音と共に吹き飛ばされた。
「「ガリィ!!」」
エルフナインと輪がガリィに駆け寄ると同時に、ノーブルレッドの3人に追いつかれてしまった。
マスターを守る為に残ったオートスコアラー達はレイア、ファラ、ミカ、ジークは破壊されてしまった。そして最後に残ったガリィも倒されてしまった。エルフナインがガリィを抱き上げる。
「ガリィ……僕を守るために……。」
「いやですよマスター……性根の腐った私が、そんなことするはずないじゃないですかぁ……。」
気丈に振る舞おうとしても、その声は弱々しかった。
「もっと凛としてくださいまし。私達のマスターはいつだって、そうだったじゃないですか……。」
「キャロルは……。」
エルフナインの目から涙が零れ落ちた。
「あんたも……自分を責めるんじゃないわよ……。」
「え……?」
「あの時のあんたは気に入らなかったけど……最後まで戦うあんたの事、少し見直したんだからね……。」
「ガリィ……。」
あの時の輪とオートスコアラー達とは雇い主と裏切り者、ただそれだけの関係だった。だが今は、最早そんな薄っぺらい関係ではない。ガリィはそれを伝えようとしてくれた。
だがそんな茶番劇に付き合ってられないヴァネッサは、ガリィの身体を蹴り飛ばした。宙を舞い、床へと叩きつけられてしまったガリィに、輪が叫んだ。
「ガリィ!」
「手に余るから、足で失礼しちゃいます。」
ロケットパンチを放った左手を回収し、装着したヴァネッサ。仲間をやられた輪は、怒りを抑えられなくなり……
「このクソ女ぁ!!」
怒りと悲しみに任せて殴りかかるが軽々と避けられ、鳩尾に蹴りを入れ込まれた。ヒールが深々と刺さり、輪は呼吸が出来なくなってしまう。さらにミラアルクの豪腕に首根っこを掴まれ、放り投げられると床へと叩きつけられた。
「輪さん!!」
「手間を取らせやがるぜ。」
「皆は僕の為に……。」
「だけど、それもここまでであります!」
輪までもが倒され、エルフナインを守る者は誰もいなくなってしまう。ヴァネッサ達は先にエルフナインを抹殺するべく、ファウストローブを纏えない輪を後回しにする。
「じゃあ僕はみんなの為に何を……。」
「あなたに出来る事は……最早一つ!」
跳躍したヴァネッサの右足が変形、槍のように形を変えると電撃を纏い、そのまま急降下、飛び蹴りを繰り出した。
「皆の為に僕は!!」
涙を流して叫んだエルフナインが右手を突き出した。
ガキイイィィン!!
「何なの?!」
戦闘能力の無いエルフナインが、右手から錬金術のバリアを展開した。確実に直撃したと思われた一撃を防がれ、弾き飛ばされたヴァネッサは驚愕した。
「エルフ……ナイン……?」
意識を失っていた輪が目を覚ますと、エルフナインがヴァネッサの一撃を防いでいた事に何が起こっているのか、ヴァネッサ達と同じ反応をしている。
さらにエルフナインは左手で錬金術の陣出した。その紫色のハープを出した。それを手に取ると、その弦を弾いて妖しい音色を奏でた。
「あれって……!」
輪にとって、いやS.O.N.G.の者ならば、それは忘れようにも忘れられない聖遺物。身に纏っていた衣服が分解されると、ハープが変形し、伸長した弦がアンダースーツ、アーマーを形成した。そして、四大元素の色と同じ結晶が帽子に象られ、背後にはトポス・フィールドの陣が展開される。
「それですよマスター……あたし達が欲しかったのは……」
主人の覚醒を見届けたガリィが、完全に機能を停止した。
「この土壇場で……出鱈目な奇跡を……!」
「奇跡だと……?」
奇跡、それを忌み嫌う少女が、その声色で、高らかに否定する。
「冗談じゃない……オレは奇跡の殺戮者だ!!」
その少女の名はキャロル・マールス・ディーンハイム。たった一人で装者達と刃を交え、世界を解剖しようとした錬金術師。その少女が復活した。
残存メモリーが少ない為、トポス・フィールドは使えません。特にジークは他の4機より残存メモリーが少なかった為、ヴァネッサに容易く敗れてしまいました。
ですが、ジークにとってそれは敗北とは思っていません。むしろ、勝利へと近づけてくれました。
ありがとう、ジーク。