戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星   作:レーラ

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進む!進む!手が進む!


連れ戻すと決めたから

 小日向未来

 

 立花響にとって大切な親友であり、唯一の心の拠り所である陽だまり。時には喧嘩する事もあるが、同じ数だけ仲直りをした。

 ずっと、この先もずっと、そんな二人であるのだと信じてやまなかった……だが。

 

「行っちゃ駄目だ!遠くに……未来ううううぅぅぅーーーー!!」

 

 この日、その陽だまりは踏みにじられた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 届くはずだった手は掴まれる事なく、響はそのまま落ちていった。そのまま地面に叩き付けられると思われたが、瑠璃が二叉槍と腰の背部のブースターを全力で点火させ、猛スピードで響を拾い上げた。

 シャトーの外郭に足を付けて、ドリフトさせてそのスピードを殺し、ギリギリ落下寸前で停止した。

 

「未来……!」

 

 ギアが解除され、検査着姿に戻った響。尊大な口ぶりで、身に纏うファウストローブの姿、そして無機質で冷たい瞳。何もかも未来とはかけ離れた姿となってしまった未来が信じられない眼差しで見上げる。

 

「良きかな……人の生き汚さ……。100万の夜を越えて尚、地に満ち満ちていようとは……」

「シェム・ハ!!」

 

 自身の名を呼ぶ者を見てやる。そこにはどこか憎しみを持ったように睨む瑠璃。未来ではなく、何の迷いもなくシェム・ハと呼んだその姿に、シェム・ハはどこか違和感を感じている。

 シェム・ハはチフォージュ・シャトーへと降り立った。 

 

「貴様は……ゔぅっ……!」

 

 突如シェム・ハが頭を抱えて苦しみだした。一体何が起きているのか、翼達が降り立って駆け寄った。そこにクリスが未来の背中に着けられたそれが、原因である事に気が付いた。

 

「なっ!身に纏うそいつは……まさかあの時と同じ……!」

『そして……刻印、起動!!』

 

 天羽々斬のギアヘッドホンにだけ聞こえた訃堂の声。同時に、翼の瞳がステンドグラスのように灯った。

 

「未来……一緒にかえ……うわっ!」

 

 突如、翼が意識を失ったシェム・ハを強奪するように抱え、飛び立った。

 

「お姉ちゃん?!何を……?!」

「全ては……この国の為に!」

 

 右手に持つ刀を天高く掲げたその瞬間、無数のエネルギーの剣が雨の如く降り注いだ。

 仲間であるはずの翼に刃を向けられた装者達は後ろに交代するように跳んで躱した。いつもの翼らしからぬ戦法に戸惑う調と切歌。

 

「ただ面で制圧するなんて……」

「らしくないバラ撒き……およっ?」

 

 飛び立てない事に気づいて足元を見る。すると、月光によって生まれていた影に剣が刺さっていた。

 先程の剣は動きを封じる為に、大量に放ったものだった。それにより、装者達全員の影に剣が刺さり、動けなくなっていた。

 

 【乱れ影縫い】

 

「お姉ちゃん……どうして?!」

「夷狄のお前には分からない……。」

「え……」

 

 夷狄。それは風鳴訃堂が血の繋がりのない瑠璃に、常に言い放っている蔑称。まさか翼の口からそのような言葉が出るなど思いもしなかった。瑠璃は絶句してしまう。

 

「私は、この国の防人なのだ!」 

 

 そう言い放った翼はシェム・ハを抱えて飛び去ってしまった。

  

「お姉……ちゃん……」

 

 姿が見えなくなるまで遠くに行ってしまった事で、剣は崩れて消えた。動けるようになったが、よほど堪えたのだろう、瑠璃は膝から崩れ落ちた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 エルフナインを救出には成功したが、未来はシェム・ハとなり、さらに彼女は翼によって連れ去られてしまい、さらに独断で乗り込んだ輪もアルベルトによって行方知れずという結果になってしまった。

 

「輪……。」

 

 ポツリと、不安そうに呟いた。何故アルベルトが輪を攫ったのか、瑠璃の時とは違い目的が不明である。その不安から、瑠璃はただ輪の無事を祈る事しか出来なかった。

 震える瑠璃の手を、クリスがそっと包み込んだ。

 

「アイツならきっと無事だって、信じよう。」

「クリス……。」

 

 いつだって輪は自ら危険な事件に首を突っ込んでは生還を果たして来た。それは決して褒められたものではないが、彼女は悪運が強い。

 クリスはきっと今回も生きて切り抜けてくれると信じているのだ。

 

「うん……。ありがとうクリス……。」

 

 不安は完全に拭えたわけではないが、少し気が楽になったようだ。だが調があの話を切り出した事で、再び深刻そうな表情に戻ってしまう。

 

「一連の事件を操っていたのが風鳴機関だなんて……」

「確かに、信じたくはないデスよ……」

 

 まさか日本を守る最高機関が今回の事件の黒幕だったという衝撃的な事態に、皆は動揺を隠せなかった。

 そして、自分達のリーダーである翼がそれに与して敵に回ってしまった事を、今でも信じられずにいる。

 

「お姉ちゃん……あの時……私の事を夷狄って言ってた……。今までそんな事言わなかったのに……。」

 

 自分を家族とも思わぬその言動に、あの時はショックを受けていたが、一度冷静に考えれば、普段の翼からは考えられない発言だった。

 

「あれはきっと……お姉ちゃんの本心じゃないと……私は思う。」

「ああ、あたしも姉ちゃんと同じだ。不器用なあの人に、裏切って姉ちゃんを傷つける真似なんか出来るもんか……!」

「私だって疑ってない!」

「翼さんは、大切な仲間デス!」

「恐らくは、あの魔眼に……」

「魔眼……あっ……」

 

 エルフナインが顎に手を当てて述べた魔眼、瑠璃には心当たりがあった。

 病院でノーブルレッドと戦った際、ミラアルクの眼から映し出されたステンドグラスの瞳だった。

 

 恐らく翼もあの凱旋ライブの惨劇で、あの魔眼に侵食されたのだろう。だが瑠璃は、小夜を殺された怒りと憎悪が強く表れていた。

 状況は異なれど強い怒りと憎しみは同じであるにも関わらず、翼は侵食され、瑠璃は弾き返せた。その違いが何なのか分からない。

 

 そこに、マリアの通信機にだけ指令が届いた。端末でそれを確認するマリアだったが、それ以外のメンバーには届いていないようだった。

 

(私だけ……?)

 

 マリアの目は、一瞬だけ驚愕の反応をしたが、すぐさま平静となった。他の者はそれに気付くことはなかった。ただ一人、瑠璃を除いて。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 鎌倉の風鳴邸。その地下にある電算室へと翼は訃堂に連れて来られた。扉が開いてその部屋に入ると、シェム・ハとなった未来がいた。今は装置の中で眠っているかように動かない。

 

「小日向……?!」

「否、我が国に相応しき神の力である。ダイレクトフィードバックシステムによる精神制御は、間もなく完了する」

 

 かつてDr.ウェルが開発したダイレクトフィードバックシステムは、フロンティア事変収束後にF.I.S.の遺産としてロスアラモスの研究所に、データとして保管されていたが、先程切り捨てたノーブルレッドの一人、ヴァネッサによって持ち出された。

 訃堂はそれを用いて、依代たる未来を制御して支配に置こうと考えた。

 

「その時こそ、次世代抑止力の誕生よ……!」

「しかし、櫻井女史亡き今、どうやって新たなシンフォギアを?」

「シンフォギアに非ず!神獣鏡のファウストローブよ!」

「ファウストローブ?まさか……!」

 

 シンフォギアは櫻井了子、もといフィーネにしか作れない。だがファウストローブであれば可能だ。それにダイレクトフィードバックを搭載する技術を持った錬金術師はアルベルトを置いて他にない。

 

「だが……奴も用済みよ。それにしても奴め……ネズミをまた一匹引き入れるとはな……。まあ良い……。」

 

 訃堂の下卑た笑み。それを見た翼はこれが防人なのかと疑念を抱くも、あの時はそうしなければならなかったという、焦燥感に駆られていた。

 防人と言うには醜く、邪悪なその姿に嫌悪のあまり吐き気を催し、涙を溜め込んだ。

 

(そうしなければならぬと囁かれ、あの時は疑いもせず行動した……。なれど……本当にそれが正しかったのか?私は……)

「翼!」

 

 迷いが生じるも、訃堂はそれを許さない。

 

「何故、連中にトドメを刺さなんだ?中でも夷狄の混血は、神の力を有する事が出来るのだぞ?」

「っ……!瑠璃……!」

 

 それはつまり、瑠璃を殺せというのだ。神の力を有した今、その障害となりえる瑠璃を、訃堂は何が何でも排除しなければ気が済まない。

 ノーブルレッド、アルベルトを使ってそれを果たそうとしたが、今日までそれは叶わなかった。そして瑠璃の従姉である翼にそれをやらせようとしたが、翼の不安定な心では出来なかった。

 

 あの時、瑠璃に夷狄と言ってしまった罪悪感が翼の心を苦しめている。

 

「まあ良い……。だが惑うな。そのように脆弱な心ではやがては折れてしまう。護国の為に鬼となれ!歌では世界を救えぬのだ!」

「はい……」

 

 歌では救えない。否定したくても、翼はこれ以上何者をも失いたくないという思いが、それを受け入れてしまった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「んぅ……ここは……?」

 

 アルベルトに倒され、意識を失っていた輪が目を覚ました。見慣れない天井に、ここは何処なのかと辺りを見回す。襖に床は畳、輪にとって馴染みなどない武家屋敷の部屋。

 

「本当にここ何処……?私は確か……そうだ!アイツに!」

 

 あの時、突如現れたアルベルトの一撃で倒されたが、そこで意識を失ったのを思い出した。

 キャロル、もといエルフナインは無事なのだろうか。安否が気になり、起き上がって襖を開けると……

 

「うわっ!」

 

 目の前にアルベルトが現れ、ビックリした輪はその場で尻餅をついてしまう。

 

「痛た……」

「おや?大丈夫かい?」

 

 アルベルトから手を差し伸べられた。だが敵にそのような事をされて、腹が立ったのかその手を払って立ち上がった。

 

「アンタ……一体何のつもり?」

「それだけ元気ならば十分だ。安心しろ。私がいる限り、雇い主には手は出させない。」

 

 つまりここはアルベルトの雇い主が住まう屋敷なのだろうとすぐに思い至った。

 

「その代わり、私の尖兵として動いてもらう。」

「はぁっ?!」

 

 アルベルトはこれまで、何度も自分や仲間達を欺き、利用してきた。そして今度は、自分の部下になれというのだ。

 

「冗談じゃない!アイツらみたいに……アンタの使い捨ての駒になれなんて、そんなのお断りに決まってんじゃん!」

 

 アイツらとは、ノーブルレッドの事を指している。彼女達は訃堂によって雇われたのだが、輪にとって誰が雇い主かは関係ない。

 彼女達を散々利用し、挙げ句に用済みとなったらゴミのように切り捨てた。仮に何か大義があったのだとしても、到底信ずるに値しない。

 

「君の意思はどうであれ……輪、君は私に従う。そういう運命だ。」

「本当にムカつく!」

 

 すぐさま右フックを繰り出したが、簡単に止められてしまい、投げられてしまう。

 

「がぁっ!」

 

 受け身を取り損ねてしまい、畳に背中を叩きつけられてしまう。その上、アルベルトに馬乗りされ、起き上がれなくなってしまう。

 

「こいつ……ぅっ……!」

 

 アルベルトの掌が、輪の両頬に触れた。輪の表情が、アルベルトに対する恐怖が僅かに現れている。

 

「私はね、瑠璃を守る為にここにいる。君も、同じ思いで戦っているのだろう?」

「やっぱり……アンタまだ瑠璃を……!」

「数千年の時を生き、ようやく見つけた……星々を司る眼をもつ少女。この千載一遇の好機……誰にも邪魔をさせない。」

「アンタ……何を……?!」

 

 何の意味があって、何を言っているのか、洞察力が鋭い輪ですら理解出来ない。次第に恐怖も増大している。 

 

「君だけに見せよう。私の真実を……そして、これから起こる結末を……。」

 

 アルベルトは輪の顔に近づけ、そのまま唇同士を重ね合わせた。その瞬間、輪の意識は遠くなり、見たこともない光景が入り込んで来た。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

  S.O.N.G.のブリッジにマリア一人が入って来た。先程、マリア一人だけにブリッジに来るよう通達指令が下されたのだ。

 

「お呼びでしょうか?」

 

 ブリッジに入ると、弦十郎と緒川が待っており、モニターには八紘が映っている。彼も、通信で対話している。

 

「すまないな、急に呼び出して」

『早速だが、君に新たな任務の通達だ』

 

 八紘がこの作戦を主導している。その極秘とも言える任務に盗み聞きをしようとしている不届き者、瑠璃がブリッジの扉が開かないギリギリの距離で耳をすませている。

 

「兼ねてより進めていた内偵と政治手段により、風鳴宗家への強制捜査の準備が整いました。間もなく執行となります」

「風鳴宗家って事は……!」 

「そうだ。最早一刻の猶予もない」 

 

 自分達の父親であろうとも、罪を犯したのであれは、法の下で裁かなければならない。ましてや聖遺物や神の力が絡んでいるとなれば、手をこまねいていれば、最悪の結果を招きかねない。

 そうなる前に、息子である八紘と弦十郎はそれを阻止するべく、父親を逮捕しようとしている。

 

『風鳴訃堂自らが推し進めた護国災害派遣法違反により、日本政府からの逮捕依頼だ。状況によっては……殺害の許可も下りている』

「殺害って……それは翼に対しても?!」

(お姉ちゃんが……!)

 

 大好きな姉が殺害される。そのような事が、瑠璃に受け入れられるわけもなく、つい後退った。

 だが迂闊にも、足音を立ててしまったが既に手遅れである。

 それが聞こえたマリア達が扉の方に視線が集まった。弦十郎が扉の前に立つと、通路で盗み聞きしている瑠璃を見つけた。

 

「瑠璃?!」

 

 後をつけられていた事に気が付いていなかったようで、マリアは瑠璃がいる事に驚愕している。

 

「何故ここに来た?」

「だって……お姉ちゃんの事が心配なのに、それでマリアさんにだけにしか教えないなんて、そんなの……」

「だからと言って、盗み聞きしても良い理由にはならん!!」

 

 司令として、父親としてそのような不届きな行為を認めるわけにはいかず、つい怒鳴ってしまう。

 

「私だって、風鳴の一人なんだよ?!なのに私を除け者にして、勝手にお姉ちゃんを処分しようなんて、それこそ許せないよ!」

「お前はまだ子供だ!」

「いつまでも子供扱いしないでよ!」

 

 父親と娘の口喧嘩に発展してしまい、八紘は聞くに耐えないようだ。勿論、マリアも頭を抱えて呆れている。

 

『止せ!今は親子喧嘩をしている場合ではないのだぞ?!』

 

 八紘に制止され、弦十郎もつい熱くなってしまった事に反省する。瑠璃も、申し訳なさそうに謝る。

 

「ごめんなさい……」

 

 だが、そこにマリアが口を開いた

 

「風鳴司令、瑠璃もこの任務に加えましょう」

「マリア君?!」

 

 まさかマリアから瑠璃の同行を求めるとは思いもしなかったのか、弦十郎は狼狽えた。

 

「向こうにはアルベルトもいるわ。翼を連れ戻すにしてもアルベルトが現れたら、私一人では対処しかねるわ。それに……」

 

 一度瑠璃の方を見てやると、すぐさま弦十郎の方に向き直る。

 

「翼を連れ戻すという思いは、彼女は誰よりも強い。私はその思いを尊重してあげたい」

「マリアさん……」

 

 そう言われた弦十郎は腕を組んで悩む。組織として、一人の我儘を通すのは愚の骨頂ではあるが、マリアの言い分にも一理ある。

 そして、弦十郎は決断した。

 

「良いだろう。但し、俺の言う事には従ってもらうぞ。」

 

 瑠璃の同行が認められた。喜びが先走りそうになるが、装者として相応しく在るべく、真剣な表情で応えた。

 

「はい、司令!」

 

 こうして、極秘裏に風鳴宗家への強制調査が行われる事が決まり、瑠璃もそれに同行する事になった。

 




訃堂の腹の内

神の力を手に入れた以上、それを過去に唯一制御を可能にした瑠璃は最も目障りであり、危険人物となった。
神の力を手に入れる以前からノーブルレッドに瑠璃の殺害命令を下しており、今も尚虎視眈々とその命を狙っている。

何処までも外道なジジイに成り下がった……

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