しかしセリフはなぁい!!
時は少し遡ること数時間前。アルベルトとの接吻で輪は記憶を見せられた。
薄暗い景色に、重力や物理を無視して浮き上がる大陸。その最奥の大地に、禍々しくも立派に聳え立つ神殿のような建物。明らかにここは自分の知る場所ではない事は分かるが、一体何処にいるのか検討もつかなかった。
「ここは……」
「かつて、私の主が住まいとした闇の空間。分かりやすく言えば、冥府とでも言っておこうか。」
「冥府?!」
「アヌンナキはこの星に数多の命を生み出し、進化を促してきたが、私の主はそれとは正反対の性質でね……」
「破壊……闇……死……?」
恐る恐る答えた輪に、アルベルトは正解だと告げるように頷いた。
「遥か数千年前、私は不慮の事故で命を落とした。」
「え?!」
「だが、私の死を哀れんだあの方が……理に反してでも私の魂を呼び出し、新たな肉体に組み込んでくださった。」
死を司る神者であれば、それくらいの事は容易いだろう。自然の摂理に反した行為であるのだろうが、それは問題ではなかった。
「ほら、そこにいるだろう?」
アルベルトが指した方には、少女と青年の二人がいた。
神秘的な白い布の装束を纏った黒髪の少女。彼女の手には、生命のごとく煌めく二叉槍を手にしている。
そしてその場にいるもう一人、銀髪の青年神官が跪いていた。
「あの人達は……」
「ああ、彼女は私の主。そしてもう一人の彼は、彼女に仕える神官さ。」
アルベルトは輪に教えてやるが、気になるのはそこではない。
「一体何の関係があるの?これを見せて、私に何の意味があるの?」
「意味ならあるさ。ほら、あの御方を見てみるといい」
輪はアルベルトに促されて少女の方を見る。よく見ると、見覚えのある髪型だった。胸騒ぎがするが、まだ後ろ姿しか見えていない。
すると、彼女が輪の方に振り返った。
「え……?!」
少女の瞳を見た瞬間、輪は驚愕とともに後退った。
「そんな……でもあれって……!」
だがその瞬間、視界は闇に覆われた。気が付けば、鎌倉の風鳴訃堂の屋敷に戻っていた。
アルベルトは既に退いていた為、輪はすぐに立ち上がる事が出来たが、酷く動揺している。
だが無理もない。あの眼はパヴァリア巧妙結社との戦いで見た事がある、あの冷たい闇を宿した瞳。それは絶対の破壊者となった彼女も同じ眼だった。
「物分りの良い君なら、分かっているはずだよ。何故彼女が神の力を使えたのか、どうして彼女にだけ呪われたギアを扱えたのか。」
「嘘だ……嘘だ嘘だ!そんなの嘘だ!アンタの作り話だ!」
「何を持って作り話だと?あれは正真正銘、私の記憶。私が数千年前、実際に体感した現実……」
「デタラメだ!あれがアンタの記憶って言うなら、アンタは一体どこにいたの?!アンタの記憶を見ていたんだから、アンタがいないと……!」
思い出の共有には、その記憶を持つ者がいなければしない。だがあの光景には、アルベルトの姿は、影すらもなかった。
だがアルベルトは何を言っているんだと言わんばかりに、教えてやる。
「いただろう?あの御方に跪いていた者が一人」
「一人?えっ……」
跪いていた者。それがアルベルトであると彼女は言うが、その主張には一つ、決定的な矛盾がある。
「あいつって……男じゃない!アンタは女!勝手な事を言わないでよ!」
「ああ……知らないのか。私はあの御方を失った後、錬金術師としてファウストローブを纏う為に、この肉体を作り変えたのさ。生物学的完全な肉体である、女にな。」
錬金術師がファウストローブを纏う為には、肉体が女でなければプロテクターを維持出来ない。だがそれでも輪は信じない。
「信じられるわけないじゃんそんな事!大体、呪われたギアを纏えたって言うけど、バイデントと何の関係があるの?!」
「あれはバイデントではない。バイデントは私が便宜上でつけた仮の名前……。本物のバイデントは発見すらされていない」
バイデントの伝承は限り無くと言っていい程に少なく、発見報告まで何一つ新たな情報など無かった。
その発見地もギリシャの辺地というだけで、発見されるまでの経緯やそれまでの理論、その情報すら存在しない中、先の世界大戦でドイツ政府がこれを鹵獲し、アーネンエルベもこれがバイデントであると信じ切っていた。
そう仕向ける事が出来たのはこの槍の真実を知る者のみ。それもアルベルトしか存在しない。
認めたくない一心で輪はアルベルトに何度も問うが、尽くかわされてしまう。だがそれでも認めたくなかった。認めてしまったら、これまで過ごした思い出も、絆も、何もかもが否定されるような気がしてならかった。
「さっきから何?!いい加減にしてよ!瑠璃はアヌンナキなんかじゃ……!あっ……」
「やはり、分かっていたじゃないか」
感情的になってしまったとはいえ瑠璃が
あの少女を見た時、瑠璃の面影と重なった。そして、本能的と言っても良い程に勘の良さが嫌と言う程に働いてしまった。
もう否定出来なくなってしまった事も悟り、泣きながら崩れ落ちた。
「何で……瑠璃なの……?何で……」
「瑠璃だけではない。きっと瑠璃の前、その前の少女も、遥か昔の時代の少女もまた、あの御方の魂を宿らせていただろう。」
「え…?」
それを聞いた輪は、アルベルトの方に顔を見上げた。同時に、その力を使う者が1人いる事を思い出した。
「リンカーネーション……もしかして……!」
「そうさ。だがトリガーはアウフヴァッヘン波形ではない。そうだな、愛でLiNKERと大脳領域を繋げるのだとしたら、彼女が……」
深い絶望へと堕ちた時
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破壊したバイザーが覆っていた目元が露出した。
「その目……やっぱり、
他の者達は気付いていないが、フィーネの力を覚醒させた輪には見えていた。瑠璃の瞳が、既に絶対の破壊者となっていた。
「よく聞け。彼女は深い絶望に落ちる度に、彼女はより強く覚醒する。だが神の力を持たぬ人間のまま覚醒してしまうと、魂に飲み込まれ、絶対の破壊神となる。そうなれば、シェム・ハ以上の災厄を撒き散らす」
曰く、アダム・ヴァイスハウプトとの戦いの時に乱入したあの時を超えるものだという。
さらに未熟なままアヌンナキとして覚醒する毎に、その力は強くなっていく。もし、次に瑠璃がそのような覚醒を果たせば、瑠璃は瑠璃としての人格、記憶、これまで繋いできた絆も全て塗り潰され、この星の全てを破壊し尽くすだろうと。
「そうなる前に、ルリを私の前に連れて来てくれ。それから、先程の話はルリには話すな。私が、然るべき時に話す」
余裕の笑みではなく、真剣な眼差し。初めて見た輪は驚きのあまり狼狽えるが、それが信用の証となる。
「私が必ず、瑠璃のままアヌンナキとして覚醒させる。だから君は……君の役割を果たせ」
瑠璃に伝える事が出来なくとも、瑠璃が瑠璃としていられるのであれば、真実を黙殺する事も厭わない。家族を失った今、輪に残された心の支えはもう瑠璃しかいない。
全てを失うという恐怖に押し潰されそうになっている輪は、もう感情のコントロールが出来なくなっていた。だから瑠璃に言われるまで、気付かなかった。
「輪……どうして泣いているの……?」
既に涙が溜まっており、それを指摘されるとその一筋が頬を伝い、零れ落ちた。
「輪……本当の事を話してよ!そうしたら、少しは……」
「うるさい!!」
輪が怒鳴った。恐怖、苛立ち、悲しみ、負の感情という感情が全てごちゃ混ぜになってしまっている。
左右の手に持ったチャクラムを重ねると、刃が光り輝く。
「私にはもう瑠璃しかいない!お父さんもお母さんも、透も旭も小夜姉もいなくなってしまった!何も失いたくない!!独りぼっちになるのが怖いんだよ!!」
本心をぶち撒ける中、光に包まれた刃は一つの槍のように尖る。
【凜華・アフターグロウ】
瑠璃も二本の槍を繋ぎ合わせ、穂先にエネルギーが集束すると、穂先がドリルのように高速回転する。
「アンタが神様だって言うなら……お願いだから、これ以上私から大切なものを奪わないでよおおおぉぉぉーーーー!!」
泣き叫びながら力いっぱい、槍となったチャクラムを振り上げると、天井もろとも切り裂いた。そのまま刃が振り下ろされた。
瑠璃が神の力を使えた理由、絶対の破壊神となって暴走する理由、バイデントの謎が全てではありませんが、明らかになりました。すべてが明かされるのは恐らく最終決戦か、その手前か……
もしかしたら本当にラスボスに……?
次回、瑠璃と輪の戦いに決着が着きます(多分)