そして、瑠璃のモデルを知る方であれば何となく予想していた方もいるのではないでしょうか……?
瑠璃と輪が戦っている間、石庭で翼とマリアが熾烈な戦いが繰り広げていた。
「風鳴訃堂に与する事が、あなたの言う人を防人るという事なの?!」
「そうだ!神の力は、その為にこそ!」
刀と短剣の鍔迫り合い。翼はこれを押し切るが、マリアはすぐさま立て直した。
「全く血の通わない言の葉ね!」
「言うに事欠いて……!」
刀を斬馬刀のように巨大化させた斬撃、蒼ノ一閃を繰り出した。
それを避けると、左腕の篭手からもう一本の短剣を射出、それを逆手持ちにして翼に接近、天羽々斬とアガート・ラームの刃がぶつかり合い、交差する。
「思い出しなさい!あなたの居場所!あなたの仲間!あなたの家族!あなたがあなたである理由を!」
「私が……私で……?」
マリアの怒涛の素早い攻撃を前に、巨大化した刃と翼の迷いでは守りに徹さざるをえない。
「そうよ!神の力なんかじゃない!あなたがあなたの力で、人の命を護る理由を!」
だがその怒涛の連続攻撃も、翼に腹を蹴られた事で止まってしまい、後退る。
「知れた事!」
跳躍した翼は刀を元の形状に戻し、脚部のブレードを展開、バーニアを点火させるとそのまま身体を高速回転する夢想三刃を放つ。
「人は弱いからだ!弱き命だからこそ、強き力で護らなければならない!!」
高速で回転する三刃は、石庭の地を抉りながら容赦なくマリアに襲い掛かる。マリアが何度防いでも攻撃は止まず、アーマー、インナースーツ、頬を掠めてしまう。
だがトドメと言わんばかりの大振りなったその瞬間を、この時をマリアは待っていた。
三刃の内の二つを短剣でギリギリの所で受け止め、回転を殺した。
「弱いから守るだなんて傲慢ね……!」
「何だと?!」
止められた翼は後退した。
「まるで、誰かを守っていないと自分を保てないみたいじゃない。その言葉……瑠璃の前でも、胸を張って言えるの?!」
「えっ……?」
この場に瑠璃はいないが、今言った翼が戦う理由を彼女に告げても、絆を強く信じる瑠璃が受け入れるわけがない。
揺らぐ翼にゆっくりと近付いて来たマリアが、翼の頬を平手打ちした。
「いつからあなたは、誰かではなく自分を守るようになってしまったの?!」
その瞬間、翼を縛る
戦う理由が、防人の在るべき姿から掛け離れていた事に気付いていなかった。翼の手から刀が落ちた。
「弱きを護るは理由たりえない……。じゃあ私は何の為に……いつまでも防人、防人と……馬鹿みたいに繰り返して来たのよ……!」
その姿は防人ではなく、本当の姿である一人の気弱い少女。泣き崩れ、戦う意義を見失った翼のシンフォギアは解除された。
「分からない……分からないわ……!」
戦意喪失状態となってもうギアを纏う理由はない。マリアもギアを解除した。
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屋敷の屋根では弦十郎と訃堂が相対している。訃堂が羽織を脱ぎ捨て、愛刀である群蜘蛛を構えると、弦十郎も戦闘態勢に入る。
二人の間に流れる殺気は、実の親子で醸し出されるものではない。これは本気の殺し合いだ。
「はあぁっ!」
先に動いたのは訃堂だった。刀の連続突きを手の甲で弾きながらその切っ先を掴み、反撃の貫手を訃堂は避ける。
そのまま刀を振り下ろすが弦十郎はこれを宙返りで高く跳躍して避けた。だが訃堂の一振りの衝撃は屋根の瓦を吹き飛ばし、屋敷の塀を越えた木々を切り裂く威力だった。
だが訃堂の鋭い眼光が宙にいる弦十郎を捉え、刀を振り上げた。が、弦十郎は宙のまま刀身を両手で無刀取りするばかりか、身体ごと竜巻の如く高速回転して刀を庭に落とさせた。
「貰ったぁっ!!」
屋根に着地した弦十郎の貫手が、得物を失った訃堂の胸部を捉えた。
その刹那、貫手は拳へと変えてしまったが、その拳圧は訃堂に打ち込まれる……はずだった。
「果敢無き哉!」
訃堂の貫手が、弦十郎の甘さと共に鳩尾を突いた。肉は貫かれていないが、内臓にまで届く威力。
吐血した弦十郎の身体を、そのまま訃堂が背後から腕を掴み、高く飛び上がった。その後は落下の勢いのまま、弦十郎を庭の巨石へと叩き落とした。
庭を陥没させたその威力は弦十郎を戦闘不能に追いやる威力。彼は地中に頭部を埋め込まれた状態で動かなかった。
「儂を殺す気で突いていればあるいは……とことんまでに不肖な息子よ……!」
死んではいないだろうが、弦十郎の敗北は見るより明らか。
用無しと言わんばかりに、屋敷の正門にいる、排するべき存在を捉えた。
それ故に、怪物達が屋敷に忍び込んでいる事に気付かなかった。
シェム・ハとなった未来が封じられている訃堂邸の地下電算室に三人の侵入者、訃堂に切り捨てられたノーブルレッド。
訃堂に渡された全血清剤の細工によって、三人は不調状態に陥った。あの後、三人はチフォージュ・シャトーからここまで目指した。歩みは遅かったものの、だからこそ誰にも悟られずにここまで侵入出来た。
小柄故にパナケイア流体の濁りの影響に最も苦しんでいるエルザは、ミラアルクが肩を貸してやる事でようやく歩けている。
「奴らが派手にやり合っている今こそ、ウチらのターンだぜ……!」
「……どうするでありますか?」
ヴァネッサがコンピュータの前に立ち、コンソールをタッチして操作する。
「神の力の管理者権限を、こちらに移し変えるの。私達を簡単に切り捨てた風鳴訃堂とアルベルトには、相応の報いを受けてもらわないとね……。」
三人には、風鳴訃堂とアルベルトへの復讐に燃えていた。だがその為には、ダイレクトフィードバックを一度解除するしかない。
するとシステムがダウン。モニターに表示されたゲージが減少、ゼロになった。
「よし、これでダイレクトフィードバックシステムを……」
だがダイレクトフィードバックシステムが停止したという事は、シェム・ハを野に解き放つという事を意味していた。
その意味通り、拘束から解放されたシェム・ハの目が開いた。エルザの耳が、シェム・ハの目覚めにいち早く反応した。
「何を……」
最後まで言い終える間もなく、シェム・ハの腕輪から放たれた光線に身体を貫かれたエルザ。
「おい!これって……」
そのまま光線を、剣で薙ぎ払うようにエルザとミラアルクの肉体を斬り落とした。
「エルザちゃん?!ミラアルクちゃん?!」
不調により苦しむヴァネッサが攻撃する前に、シェム・ハの方が早かった。気が付けばエルザとミラアルクと同じように、ヴァネッサもシェム・ハによって胴体を切断されてしまった。
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慟哭と共に振り下ろされた刃は、ドリルのように高速回転させた二叉槍の穂先によって受け止められていた。
【Horn of Unicorn】
「いい加減に……」
「瑠璃……?」
いい加減にしやがれええええぇぇ!!
瑠璃が叫んだ。瑠璃の怒りが共鳴したのか、エネルギーと回転速度が上昇していく。押されていった槍の刃に亀裂が生じ、次第にそれが大きくなっていくとそれが砕け散り、元の円環の刃に戻ってしまう。
輪は刃が砕けた拍子に後ろによろけるが、それよりも突然人が変わったように乱暴な口調で叫んだ事に輪は戸惑った。
「ちょっと……瑠璃……?」
「黙って聞いてりゃ、勝手な事ばかり言いやがって!!一人で抱えきれなくて泣いているくせに、知らなくていいだ、うるさいだ、何様のつもりだよ!!」
今まで一度たりとも、瑠璃がこんな乱暴な口調をするなど誰一人として見たこともない。本部のモニター越しで見ていた妹のクリスもこれには唖然としてしまっている。
「アイツに何を吹き込まれたのか分からねえけどな……何かに怯えきって、それから逃げる為に神の力に頼ろうとするお前なんかに、私は守られたいなんざ微塵も思わねえよ!!」
まるで、いやもはやクリスそのものと言っても過言ではない。
「いつから神の力に頼るようになっちまったんだよ?!いつだって輪は、我武者羅に前を向いて突っ走ってたじゃねえか!!」
「うるさいうるさい!!私はどうしてもアンタを守らなきゃならないんだ!!」
瑠璃に乱暴な一喝をされても、引き下がる輪ではない。
「どれだけ正しいと思った道を突っ走っても!いつも私の手から大切なものが零れ落ちていった!ただ突っ走るだけじゃ、アンタを守れないから!もう神の力を頼るしか方法が無いんじゃないか!!」
急速で瑠璃に接近、チャクラムの刃を振り下ろすが、二叉槍の柄で受け止めた。
「どうして分かってくれねえんだよ……この分からず屋!!」
力いっぱい押し返し、輪の腹にヤクザキックが入った。そのまま壁に叩きつけられたが、すぐに立ち上がった。
「分からず屋はアンタだ!!」
チャクラムを輪の周囲に高速回転させてそのまま瑠璃に突っ込んできた。チャクラムの刃を、分離させた黒槍と白槍で防いでいたが、輪のチャージタックルがそのまま襲い掛かり、背中の襖ごと吹き飛ばされた。
ちなみにそこには家宅捜索に尽力していた一人のエージェントがいたのだが、運悪く瑠璃と襖の下敷きになった。死にはしないが、「ゴハァッ!」と小さな悲鳴をあげた。
瑠璃は他のエージェントを巻き込むまいと走り出し、輪もその後を追うが、無慈悲にも瑠璃と畳に敷かれたエージェントを、輪が踏んづけて気絶させてしまう。
そして、誰もいない正門前の敷地まで移動すると即座に反転、輪に膝蹴りを繰り出した。
「なっ……?!」
まさかの行動に驚愕し、咄嗟にチャクラムで防ぐが、すかさず瑠璃が黒槍を振り上げた。防御が間に合わず、チャクラムは2枚とも弾き飛ばされた上に、再びヤクザキックをくらって倒されてしまう。
「負けられない……!私は……はっ……!」
だが気付いた時には既に輪の上に乗っかっており、右手の拳を振り上げていた。
殴られる。そう思い、輪は覚悟して目を瞑った。
ドガアァン!!
「え……?」
痛くない。確かに振り下ろされたはずだが、何故痛いくないのか、目をゆっくり見開いた。
すると、瑠璃が泣きながら輪を見ていた。涙を流す目は、冷たい闇ではない。ラピスラズリのように煌めいている。
そして、瑠璃が振り下ろした拳は、輪の左側の地面を殴っていた。
「瑠璃……どうして……」
「約束したじゃないかぁ……!あの時、ダインスレイフの闇から私を救ってくれた時、一緒に戦おうって……二人で、私達の絆で一緒に戦おうって!!」
一人じゃ不安だから……一緒に戦ってほしい。私も、瑠璃と一緒に戦うよ
うん。今度は二人で……
私達の絆の力で!
ダインスレイフの闇に呑み込まれ、暴走した瑠璃を、負傷しながらも瑠璃を救い出した。その時に二人は誓い合った。
「それだけじゃない!フィーネの意識に操られた時だって!フロンティアの時も!バルベルデの記憶を思い出した時だって!私はいつだって、真っ直ぐ前に突っ走る輪に救われたんだよ!」
(そう……だったんだ……。そう思ってくれてたんだ……)
ギアやファウストローブがなくても、常に隣には輪がいてくれた。目の前に高い壁があっても、どんな困難が迫ろうとも、輪が傍にいてくれたから乗り越えられて来た。
瑠璃と輪の間には、何者であっても切れる事のない強い絆で結ばれていた。
だが輪がその絆よりも、神の力を求めるようになっていた。瑠璃はそれに憤り、同時にそこまで追い詰められていた事に気付いてやれなかった自分が許せなかった。
「神の力なんか要らない!輪が独りで泣いているなら……私もクリスも!お姉ちゃんや皆も傍にいる……!輪は独りじゃないんだよ……!だから……一緒に戦おうよ……!」
瑠璃は思いの全てを打ち明けた。その思いに、輪は自分が大事なものを見失っていた事に気付かされた。
(何やってんだ私は……!瑠璃を守るって決めたのに……泣かせてどうすんだ……!とんだ大馬鹿野郎だ……私は……!)
次第に輪は涙を流した。
「ごめん……瑠璃。私……また大事なことを見失ってた……。」
「輪……」
「私……馬鹿だからさ……突っ走る事しか出来ないから……またこうやって大事なものを見失う……。だけど瑠璃……」
輪はゆっくりと上体を起き上がらせると、その場で瑠璃を抱きしめた。
「アンタが命懸けで繋ぎとめてくれたこの絆、私は手放したくない。ありがとう……瑠璃。私を見つけてくれて……!」
「輪……!」
離すと輪は真っ直ぐ、瑠璃の目を見てニッと迷いのない笑みを浮かべる。争う理由がなくなった二人はそれぞれ纏う戦闘装束を解除した。
「行こう輪。マリアさんもお姉ちゃんと……っ!」
だが突如、瑠璃が虚を突かれたように驚愕していた。輪がそれに気づいた時には、瑠璃に退かされるように右の方へと払い倒されていた。
「瑠璃……?!っ……!」
輪の目の前で、瑠璃は群蜘蛛にその肉体を貫かれていた。その刀の使い手、風鳴訃堂の手によって。
「ぁ…………あぁ…………っ!」
瑠璃いいいいいいぃぃぃぃーーーーー!!
輪の甲高い悲鳴が、万魔殿と化した鎌倉の夜空を切り裂いた。