戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星   作:レーラ

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今回はシリアスマシマシです。





怪物

 八紘の葬儀が執り行われた数日後、拘留された翼が解放された。ブリッジで両手に嵌められた手錠の電子ロックが解除される。

 

「全ての調査、聞き取りは完了した。現時刻を持って行動制限は解除となる」

「調査と、聞き取りだけ……?アマルガムの不許可使用についての処断は……」

「翼さんが発動させる直前、使用許可が下りています。八紘氏が兼ねてより進めて来られていたのです」

「お父様が?」

 

 つまりアマルガムは使用可能となり、翼はそれで咎を受ける必要はない。

 

「兄貴の葬儀に間に合わせられなかった事……本当にすまなかった」

「敵に突け入られた不徳です。何より……手錠をかけられたままでは、合わせる顔がないと申し出たのは私です……」

「そうか……」

 

 親子としての最後の時間、最後に別れの言葉を言わせてやれなかった。弦十郎は叔父として、申し訳なく思っていた。

 だが翼は自分が招いた結果であると受け止めている。今の翼には、もう迷いなんてものはない。

 

「翼さん!」

「お姉ちゃん!」

 

 翼が解放される知らせを受けて、瑠璃と響を先頭に装者の皆と輪、エルフナインがブリッジに駆け込んできた。

 

「瑠璃……」

 

 感情的になり、ミラアルクと誤認して瑠璃に攻撃してしまった事、瑠璃に向かって夷狄と呼んでしまった事に負い目を感じる翼。怒りに囚われ、訃堂に惑わされていたとはいえ、守るべき従妹を傷つけてしまったのだ。翼の中で、瑠璃にどう贖えばいいか分からなかった。

 

「翼さん」

 

 そこに響に呼びかけられる。

 

「全部聞きました。未来の事、翼さんのお父さんの事も……。正直今はまだ、頭の中ぐちゃぐちゃで混乱しています……。だけど、一つだけはっきりしてるのは、翼さんが帰ってきてくれて本当によかった。嬉しかった」

「立花……」

「分からない事は、これから考えていきたいです。だから明日や明後日、その先のこれからを、また一緒に」

「あなたと私、また一緒に……?」

 

 響に手を差し伸ばされ、翼は驚いた。

 

「翼先輩!」

「翼さん」

「翼」

「アタシら全員このバカと手を繋いできたんだ。センパイだけなしだなんて許さねーからな!」

 

 仲間達が自分を呼んでくれた。仲間として、受け入れてくれた。そして……

 

「お姉ちゃん」

「瑠璃……」

 

 瑠璃が翼を呼ぶ。

 

「私ね、八紘叔父様と最後に約束したんだ。お姉ちゃんが何処までも、天高く羽撃けるように応援するって」

 

 瑠璃は八紘の葬儀で、棺に眠る八紘に約束して見送った。大好きな姉を一人ぼっちにはさせない、その思いを秘めて。

 

 翼は思わず涙を流す。

 

「瑠璃……」

「ほら、翼さん!」

 

 輪に背後から肩を掴まれた翼。後輩として、一ファンとして、仲間として、翼の背中を押してくれているのだ。

 

「一緒に、戦ってください」

 

 響にそう言われ、手を差し伸ばそうとする翼だったが、その手を掴んでいいのか、一瞬の迷いから手を引っ込め用とするが

 

「お姉ちゃん」

「一緒に」

 

 右から瑠璃、左から輪の手が引っ込めようとしていた翼の手を優しく掴んだ。一人じゃないと、伝えようとしていた。

 そう受け取ったのか、翼はしっかりと響の手を握った。

 

「おかえり、お姉ちゃん」

「……ああ。ただいま」

 

 一度繋がれた絆は、何者にも断つ事は出来ない。繋いだ手と手が、それを教えてくれた。

 

 

 

 

 装者達が退出し、ブリッジにはオペレーターと司令の弦十郎、エルフナイン、緒川、そして輪が残った。エルフナインがマリアから渡されたSDカードを解析しており、その報告の為に、このメンバーが残っている。

 

「先日、シェム・ハとの戦いの前にアルベルトさんがマリアさんに渡したデータを解析しました」

「それで、何か分かったのか?」

「はい。とはいえまだ一部ですが……」

 

 モニターに解析データがが表示されると、レポートとある人物の姿が表示された。その人物の肌は白く、所々桃色となっている。髪は白くとても長い。そしてその眼は未来を支配している者と同じ眼。これがシェム・ハの本当の姿である。

 

「これは……」

「このデータにはシェム・ハ、そしてバイデントについて記されていました」

 

 ブラインドをタップすると、まずはシェム・ハのデータから表示される。

 

「シェム・ハ・メフォラシュ。現在、未来さんの肉体を支配しているアヌンナキ。これによると、シェム・ハは改造執刀医と称される程、地球の進化に関わっていたようです。ですが、突如としてアヌンナキを裏切り、戦争を仕掛けたと記されています」

 

 それ程までの高名を持ちながら、何故シェム・ハがそのような暴挙に出たのかは分からない。そもそも、この世に残った有史以前の言い伝えなどほぼ0に近い。

 

「そしてシェム・ハの能力、シェム・ハは言葉を用いて、その構造を書き換えてしまう程の強大な強さを持っています」

 

 つまり、言葉一つでその存在そのものを書き換え、全く別のものに変えてしまう事が出来てしまう。

 

「恐らく、埒外物理で周囲の物体を銀に変えてしまったのも、以前のノーブルレッドではアルベルトさんを倒せたのも、シェム・ハが書き換えた可能性があります」

 

 不意討ちとはいえ、ノーブルレッドがアルベルトに膝をつかせるなど考えられなかった。以前の三人ならば呆気なく返り討ちに遭うのが関の山。それを覆してしまったのだ。

 

「まさに神が成し得る技というわけか」

 

 弦十郎が腕を組んでそう言う。

 

「さらに、これによるとシェム・ハはあるアヌンナキを殺害したと記されています」

 

 エルフナインがブラインドタッチをすると、今度は二叉槍が映し出されている画像が表示される。

 

「これは……」

「これがバイデントです。シンフォギアへと変える前の、現存している姿です」

 

 二叉槍の損傷は限りなく少なく、完全聖遺物と言っても違和感はない。

 

「このデータによると、バイデントはある神の死によって分かたれた魂によって作られ、その後はアルベルトさんが所有していたとあります」

「ある神……まさか!」

 

 点と点が繋がった。緒川がエルフナインに訊く。

 

「はい。バイデントというのは便宜上の呼称であり、この槍はギリシャ神話のものとは何の関連性もありません。それどころか真相は、アルベルトさんがかつて仕えたとされるアヌンナキであるという事です」

 

 シェム・ハと同じ、先史文明の神。バイデントと呼ばれたこの槍はハ・デスとは何の関係もないばかりではなく、先史文明の神の魂によって作られたものだというのだ。

 その繋がりを知った今、アルベルトの正体にも行き着く。

 

「という事は、アルベルトはフィーネと同じ先史文明の人間だった……という事ですか?」

 

 緒川の問いに、エルフナインは肯定の頷きをする。

 

「アーネンエルベと結託して、神の力の簒奪を目的とするパヴァリア光明結社を崩壊させる狙いがあったようですが、フィーネと裏で糸を引いていたのであれば、フィーネのバイデント奪取も、アルベルトさんがそう仕向けたという事もありえます」

 

 パヴァリア光明結社も、アーネンエルベも、主の復活のの為なら容赦なく裏切る。そうやっていくつもの仮面を作り上げ、人を騙し、自分を騙して来た。相当な精神力がなければ、己を保つ事など出来ないだろう。

 

「では……アルベルトが仕えていたとされるアヌンナキとは、一体?」

 

 この聖遺物はバイデントではない。ではこの槍を作ったのは一体誰なのか、弦十郎が問う。

 

「そのアヌンナキの名は……」

「エレキガル」

  

 輪がその答えを話した。

 

「どうして輪さんが、その名前を?!」

 

 エルフナインが驚愕している事に構わず、輪はブリッジに入る。

 

「アルベルトに接触していたし、アイツから色々聞いてるからって、残るようにオジサンにいわれてたんだけど……」

「やはり知っていたのか。何処まで知っている?」

 

 弦十郎に問い詰められ、輪はアルベルトと接触した時に知り得た情報をある程度掻い摘んで話す。

 

「アルベルトは、5000年前に起きた戦いで死んだアヌンナキを蘇らせる為に、暗躍していたということか……」

「その願いの障害となる、パヴァリア光明結社を潰す為に、錬金術師として身体を作り変えて、パヴァリアに潜り込むなんて……」

 

 誰にも打ち明けようとせず、一人で抱え込んで戦っていた。その精神力に加えて、その絶対的な忠誠心が無ければここまでの事は出来ない。

 

 アルベルトの行動原理は、一貫してアヌンナキへの忠誠心。シェム・ハ打倒を使命とするアヌンナキを復活させる為だけに、アルベルトはその生涯を全て捧げた。

 

「だが一つ、気になった事がある」

「それは?」

 

 弦十郎が気になった、彼女が僅かに見せた素の感情。その正体に藤尭が訊く。

 

「奴は瑠璃に対して、何か拘りでもあるかのような素振りだった」

 

 アルベルトが僅かに見せた、本当の姿。それは瑠璃にして向けたものだった。何故それだけの忠誠心を持ちながら、私的感情を見せたのか、それだけが気になっていた。

 

「輪さん、何かご存知ですか?」

 

 エルフナインが輪に問う。

 

「……ごめん、私も全部知ってるわけじゃない」

「そうか。ところでエルフナイン君。データはこれだけか?他にもあるようだが……」

「あるにはあります。……ですが」

 

 手掛かりを探るべく他のデータを当たるが、エルフナインが暗い表情になる。

 モニターに別のデータが表示される……かと思われたが、表示されたのはなんと入力画面。ここに入れるものは何か、予想はつく。

 

「パスワード……だと?」

「はい。一枚目の一部と二枚目のデータチップにはパスワードでロックされています」

 

 何の為に施したのかは分からないが、これを知っているのはアルベルトただ一人。だがそのアルベルトもいない。

 

「輪さん。パスワードに何か心当たりはありますか?」

「さ、さあ……?私にも分かんない」

 

 輪も分からないとなると、もはや解除出来るパスワードを知るものは誰もいない。試しにエルフナインが当てのあるワードを入力する。最初に急力したのはbabel。これでエンターキーをタッチ。

 

 だが不正解のブザーが鳴る。

 

 次はfineで試みるも不正解。その後もmoon、Albelt、elekigalと彼女に繋がりのあるものを探すが、どれも不正解だった。

 

 こうなってはお手上げとしか言いようがない。

 

「真実は隠されたままか……」

 

 弦十郎が腕を組んで呟いた。そして、輪の方を見てやる。言及こそしなかったが、弦十郎は察していた。輪が嘘をついていることに。

 

 


 

 鎌倉 風鳴訃堂邸から顕現した白い巨木、『ユグドラシル』。その幹はとても太く、天を貫くかのように高い。

 風鳴訃堂との戦いが決着がついた直後、シェム・ハと共にユグドラシルは出現した。そして、シェム・ハの軍門に降り、アルベルトにダメージを与える程の力を得たノーブルレッド。

 彼女達の行方をS.O.N.G.のエージェント達が追っているが、未だに見つからない。それもそのはず、彼女達は地上にはいない。

 居所は訃堂邸の地下電算室。だがそこもユグドラシルに支配されているかのように、根を張っている。そして、映るモニターに、シェム・ハの真の姿が映し出されている。

 

「それは……」

「面白かろう?我を拘束せしめた戒めより、我の断片を逆流させている。我は言葉であり、故に全てを統治する」

 

 自分を拘束し、支配していたダイレクトフィードバックシステムを、言葉だけで支配してみせたのだ。

 その恐ろしき絶対的な力に、ヴァネッサは戦慄する。

 

「これもまたシェム・ハの力……。あの時、確かに私達は殺されたはず……。現代に解き放たれた超抜の存在に……」

 

 風鳴訃堂に一矢報いる為に、シェム・ハの管理権限を奪取せんと、虫の息だった三人はこの電算室に忍び込んだ。だが、ダイレクトフィードバックシステムを停止させた直後、目覚めたシェム・ハによって三人はなす術もなく、一方的に殺害された。

 だが三人は目を覚ました。気が付くと、自分達からぶちまけられた血液が体内に逆流するように戻ってきている。そして三人の肉体は絶命する前どころか、何もなかったように元の形に戻っている。

 だがそれでもシェム・ハは自身の力が不十分である事に愚痴をこぼす。

 

「遺憾よの。我が力、かつての万分の一にも満たぬとは……」

「ふざけたこと……言わせないぜェ!!……何っ?!」

 

 ミラアルクが怒りに任せて力を解放したが、その力にミラアルク本人が驚愕している。

 カイロプテラは翼の枚数までしか強化出来ない。故に攻撃に使う際は背中の羽を失う事になるので飛ぶ事が出来ない。

 だが今は背中に羽がある状態で四肢に纏って強化出来た。それどころか力が漲る。強化された四肢を見るミラアルクの声が震えている。

 

「一体……どういう訳だぜ?!体にみなぎるこの力、まるで本物の……」

「まるで本物の怪物とでも?ああそうさな。歪な形であったお前達を完全な怪物へと完成させたのだ。我の力の一摘みよ」

「完全と……完成……」

「まさかそれって……もう人間には戻れないって事なのか?!」

「愚問である。完成させるとはそういうことだ」

 

 

 人間に戻る為ならばどんなに汚れようとも、どんなに蔑まれようとも、三人は人間に戻るという願いを果たす為に生きてきた。だがそれも、シェム・ハによって永久に叶わぬものとなって消えた。

 ミラアルクとエルザは泣き崩れ絶望した。ヴァネッサもまた、二人と同じ絶望に打ちひしがれた。

 

「人の群れから疎外される恐怖と孤独は、最早癒されることはなく……。嗚呼……怪物はとうとうどこまでも異物に……」

 

 前腕に搭載されたあらゆる刃物を出し、自身が本当に怪物へと落ちてしまった事を認識し、抗う事をやめた。

 

「気鬱たる。ならば我に仕えよ。この星の孤独も阻害も全て、我が根絶やしにしてくれるわ」

 

 自分達を怪物へと変えた張本人であるシェム・ハ。本来であれば、叶えたい願いの為に抗えた。

 だがその一縷の望みが潰え果て、抗う事をやめてしまったヴァネッサは頭を垂れ、そこに救いを求めた。

 

「神よ……」

 

 ヴァネッサがシェム・ハの配下となった事で、ミラアルクとエルザも服従の道を歩んだ。

 

「ヴァネッサが神と仰ぐのであれば、私もミラアルクも従うであります」

 

 本来であればミラアルクとエルザにそんな道を歩ませたくはなかった。

 だが三人は虐げられ、それでも前に進もうと共に歩んできた。二人が今更ヴァネッサから離れるつもりはない。

 

 

「で、神様はどうやってうちら怪物の孤独や疎外感を拭ってくれるんだぜ?」

 

 シェム・ハに対してもミラアルクは不遜な態度を改めずに尋ねる。

 

「知れたこと。この星の在り方を5000年前の形に戻すのだ」

「5000年前?そいつは先史文明期ゾッコン期だぜ」

 

 有史以前の形など、自分達の想像の範疇から外れている。ミラアルクもこれには理解出来ず、あっけらかんとなる。

 

「申しつけたものはどうなっている?」

「これで、ありますか?」

 

 エルザがシェム・ハに二つのテレポートジェムを渡す。シェム・ハの手に渡り、それを握る。

 すると、握りしめた掌と指の隙間から光輝く。光が消え、手を開くと先程までピンク色だったテレポートジェムが金色になる。

 

 シェム・ハがノーブルレッド三人の方を見て、命令を下した。

 

「傾聴せよ怪物ども。これより使命を授ける」

 




輪の推測力、恐るべし
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