正直なところ、終わりが近づくと少し名残惜しく感じますが……始めた以上、最後まで描きます!
S.O.N.G.の本部潜水艦はある場所と航海している。本部では次の作戦の為に、ブリッジに主たるメンバーが揃い踏みである。
「現在本部は、鹿児島県種子島に向かって航行中」
「種子島だぁ?!」
弦十郎から告げられた目的地にクリスが素っ頓狂な声と表情で驚く。種子島に向かってどうするつもりなのか、瑠璃も同じ気持ちで弦十郎に訊く。
「種子島に向かって、何があるっていうの?」
「目的地は、種子島宇宙センターだ」
「先だって風鳴邸に出現した巨大構造物・ユグドラシルと呼応するかのように、月遺跡よりシグナルが発信されているのが確認されました」
モニターに映し出された二つの映像。一つは風鳴訃堂の屋敷から出現したユグドラシル、そしてもう一つは一部欠損した月。そしてそこにある月遺跡から白い光がシグナルのように点滅している。
「まさか私達に……」
「月遺跡の調査に行けというのデスか?!」
「検討段階ではそういった話もありました。ですが今回、月に向かうのは特別に編成された米国特殊部隊となります」
「また米国?!何で……」
調と切歌の問いに緒川が答えた途端、輪が米国政府が絡んでいる事に大きな嫌悪の反応を示した。
かつて米国政府は瑠璃の意思を無視してバイデントの返還を要求し、さらには自国有利の裁判にまで掛けようとした。
そればかりかパヴァリア光明結社との戦いで、他国を差し置いて反応兵器を独断で撃った米国政府を、輪は不信感を抱く。
そして南極で装者達が命懸けで戦い、発見した棺のミイラ、及びシェム・ハの腕輪を横取り同然の扱いで米国政府が引き取った。
これだけの事があり、また異端技術の独占を狙っているのではないのかと輪は米国政府に対して不信感を抱くようになっていた。
「何でアイツらがまた……」
「輪君の言い分も分かる。だが万が一、ユグドラシルに動きがあった場合、お前達がいなければ対処しょうがない」
「あっ……」
ユグドラシルとは何か、何一つ解明出来ていない状態かつシェム・ハが動いた場合、装者達がいなければ対処しようがない。装者達を月遺跡に行かせるのはリスクがかなり大きすぎる。
他の装者達も、それを十分に納得している。
「確かに、あのユグドラシルを放ってはおけないものね」
「だからって、こうも簡単に都合つけられるものなのか?探査ロケットって……」
『Mr.八紘の置き土産だ』
突如証明が落ち、モニターには米国大統領がビデオ通話で話しかけてきた。
「お父様の……?!」
亡き父の名前が出た事で翼が反応する。
「プレジデントの判断と対応には、感謝に堪えません」
『先の反応兵器発射による国際社会からの非難を躱せたのは、Mr.八紘が提案した日米の協調姿勢によるところが大きい。その象徴であった月ロケットを活用することにどうもこうもあるものか』
自国を守る姿勢には理解出来るが、他国を無視して反応兵器という最悪の核ミサイルを撃ち込むのは国際問題なんてものではない。最悪の場合、米国は国際社会から失墜も免れない所を八紘が救ってみせたのだ。
その被害者である日本が米国に対して協調路線の姿勢を見せた。端から見れば臆病者と言うものもあるだろうが、そのお陰で米国政府は国際社会の批判から守られた。日本には大きな借りを作ったという事になる。
『だがこれで借りは返した。後は精々、派手に貸し付けてやるつもりだからそう思っていてくれたまえ』
感謝しているのだろうが、大国としてのプライドなのかありがとうという一言も言わずに通話を切った。
照明が戻ったのに紛れて輪が舌打ちをする。
「元はと言えばお前が原因じゃん……」
「こら、輪」
米国大統領の言い草に輪がこっそり悪態をつくが、それを聞き逃さなかったマリアに咎められる。
「諸君らの任務は三日後に発射が迫る月遺跡探査ロケットの警護である!敵の襲撃は十分に予想される!各員準備を怠るなよ!」
「「「「「「「「はい(デス)!!」」」」」」」」
弦十郎から下された指令に、装者達は大きく返事をする。
種子島に到着したS.O.N.G.の潜水艦。安全の為に付近の住民には避難勧告が出され、それに従い住民達は安全な場所へと移動する。
装者達は現場に赴き、探査ロケットを防衛する為の警護についている。響とクリス、翼とマリア、調と切歌、そして瑠璃と輪がそれぞれの持ち場につき、本部に報告する。
「はい。こちらも異常ありません。引き続き、周囲の警戒にあたります」
輪が周囲を見渡している中、瑠璃が通信で定時報告をする。
「しっかし、こんな形で生のロケットを拝めるなんてねぇ」
発射台に設置されたロケットを見上げる二人。右翼と左翼のロケットエンジンのてっぺんには日米の国旗が標されている。
本物の宇宙ロケットなどそうそう拝めるものではない。初めての体験に輪のテンションが盛り上がっている。瑠璃も顔には出ていないが、少女らしく圧巻されている。
「って言っても、月へ行けないのが残念だね」
「……もしかして月に行けるんじゃないかって期待してた?」
瑠璃の意外な一言にキョトンとする輪。
「うん……ほんのちょっとだけ」
「実を言うとね……私も」
同じ考えだった事に二人は微笑み合う。こう見れば、エレキガルの生まれ変わりと言われている瑠璃も、普通の少女に変わりない。
「っ……!」
「どうしたの……って、あっ!」
だがその少女でいられる時間も終わりを告げる。瑠璃が何かに気付き、空を見上げる。輪も見上げると、上空には空母型のアルカ・ノイズが出現していた。
『アルカ・ノイズの反応を検知!』
『装者各員は、施設の防衛に当たってください!』
藤尭と友里の通信が入ると同時に、空母型アルカ・ノイズが卵を地上に落とした。その卵から小型のアルカ・ノイズが召喚される。
「行くよ!輪!」
「オッケー瑠璃!」
Tearlight bident tron……
瑠璃が詠唱を唄い、バイデントのギアを纏う。輪もファウストローブを纏って、二人はアルカ・ノイズ討伐に乗り出す。
黒白の槍を振り降ろし、その刃に斬られたアルカ・ノイズを赤い塵へと還す。
さらに黒白の槍を連結、一本の二叉槍へと可変させるとそのまま槍をプロペラのように高速回転、そこから発生したエネルギーを竜巻へと変えて、空のアルカ・ノイズを切り裂く。
【Harping Tornado】
輪の方もチャクラムを振るい、アルカ・ノイズを葬る。そしてチャクラムの刃に炎を纏い、それを投擲する。
【緋炎・フレイムシュート】
チャクラムに直撃した個体もあれば、炎に巻かれて消滅するアルカ・ノイズもいる。そのまま群れに突っ込んでアッパーカット、ソバットと弦十郎直伝の格闘術を使って迎撃、その数をみるみると減らしていく。
「これで最後だぁ!」
投擲したチャクラムを拾い上げ、上空で漂う一体の空母型アルカ・ノイズに向かってチャクラムを投擲、その身体を貫いて撃墜した。
「これで雑魚はいないね」
「待って!敵影が三人……これって!」
喜んでいる暇はない。バイデントのバイザーに搭載された戦闘補助システムが三人の敵影反応をキャッチした。その姿形から、ノーブルレッドである事をすぐに見抜いた。
そこに弦十郎からの通信が入る。
『瑠璃!輪君!ノーブルレッドの襲来だ!急他の装者との合流を急ぎ、加勢するんだ!』
「了解!輪!乗って!」
「はいよ!」
瑠璃は槍を連結させて、それに跨がると輪も後ろに乗る。
「飛ばすよ!しっかり掴まって!」
槍の遠隔操作を用いて飛び立つと、そのまま飛行。急いで他の仲間の所へと向かう。
響とクリスの方にヴァネッサ、翼とマリアにはミラアルク、そして調と切歌の所にはエルザがそれぞれ単独で奇襲を仕掛けて来た。
狙いは月遺跡探査ロケットの破壊。その為に邪魔な装者を排除を目論んだ。
しかもシェム・ハによって、完全な怪物として変えられた事で以前よりも遥かにパワーアップを果たしており、長期の戦闘を行っても全血清剤を必要としなくなった。当然個々の能力も強化されている。
「流石のシンフォギア、こちらの行動を先読みしていたでありますか。ですが、超越人智の力の前には無駄な事であります!」
エルザのテールアタッチメントは一度に複数同時に運用出来るようになった事で攻撃手段が多彩になっている。
「シェム・ハから授かったこの力……もはや賢しい手段も、全血清剤も、ダイダロスエンドも、お前らを倒すのに必要なさそうだぜ!」
ミラアルクはカイロプテラは両肘、両膝にも追加された事で背中の羽を使う事なく四肢を強化も可能になった。
ヴァネッサも武装が強化され、威力もスピードも桁違いに引き上げられている。ヴァネッサの両肩から展開されたアームによる連続パンチが、響が防御に徹さざるをえない程に速い。クリスもその動きを封じ込めようにも、ヴァネッサ自身も速い為、遠くから援護射撃が出来ない。
「ヴァネッサさん!皆と仲良くなりたいって!だったらこんな事……」
「ええ!仲良くなりたいわ!でも人間と怪物が仲良くなりたいなんて出来ないのよ!だから!」
前腕ら放たれた巻き尺が、響の胴に巻き付いた。一瞬響の頬が朱く染まるが、すぐさま高く持ち上げられる。
「今だ!」
ヴァネッサの動きが止まった隙にクリスが2発の銃弾を発砲する。だが、アームからバリアが展開された事で銃弾は呆気なく防がれる。
「私達は皆を怪物にする事にしたの!」
ヴァネッサは笑いながら自身に搭載されたミサイル全弾、響に放った。
ロケットの発射台に最も近い場所で調と切歌も、強化されたエルザ一人に追い込まれ、後退している。これ以上後ろに下がれば、攻撃の余波がロケットに巻き込みかねない。
「ロケットには手を出させない!」
「好きにはさせないのデス!」
「月遺跡に調査隊など、派遣させないであります!」
高く飛び上がるエルザ。キャリーケースから放たれたテールアタッチメントを追加で二本差し込み、武装を強化。そのまま調と切歌に突進する。
それを後ろに飛んで避けた調はツインテールのアームから鋸を二枚目、切歌は大鎌の刃を高くから投擲する。
立ち込める爆煙によって、いつ襲い掛かってくるか分からない。着地した調と切歌は警戒しながら構える。
「気を付けて切ちゃん……!」
「合点デス!きっとこれしきの攻撃では……」
だが爆煙が晴れたと同時に、目の前にエルザがいない事に気が付いた二人は驚いた。
「いないのデス……?」
だが先程エルザがいた場所に、コンクリートが大きく陥没している。だが前に気を取られていた二人は、その穴の意味に気付く前に、背後から大きな衝撃音で振り向いた。そこには巨大な銀狼の鎧を纏ったエルザがいた。
「地中を掘り進んで……?!」
「やり過ごしたデスか?!」
その銀狼の胸部が開くとエルザが姿を現す。
「オールアタッチメント!Vコンマインであります!!」
胸部を閉じ、そのまま探査ロケットへと二足歩行で駆け出す。背後を抜かれた今、探査ロケットを守る者がいない。
「させるかあああああぁぁぁぁーーーー!!」
咆哮に似た叫び。突如、輪が稲光を纏ったチャクラムをメリケンサックのように持って銀狼の脇腹を殴り飛ばした。地面に叩きつけられる前に体勢を立て直して着地するエルザ。
「援軍でありますか?!」
強固な銀狼の鎧を、不意討ちとはいえ殴り飛ばされた事に驚愕するエルザ。その援軍が今、華麗に着地した。
「ギリギリセーフ!」
「「輪先輩!」」
頼もしい姉貴分が駆けつけ、調と切歌が歓喜する。
「瑠璃がいなかったら、間に合ってなかったかもな……」
二叉槍のバーニアを最大出力まで点火させて飛び降りて来たのだ。飛ぶタイミングも戦闘補助システムのお陰であり、それがなければ今頃どうなっていたことか。
「また、私めらを阻むつもりでありますか?!」
「当たり前じゃん!特に、アンタ達には負けるわけにはいかないんでね!」
輪に秘められた闘志、心なしか怒りが混ざっているようにも見えた。
次回も瑠璃より輪が目立つかも……?
主役ってなんだろうね?