本当に申し訳ありません
星々が燦然と輝き、満月が浮かぶ夜空。その下は荒野。そこに緑と藤色の閃光が交差する。その度に巨大な爆発と衝撃波が発生し、地上の断崖が破壊される。
二つの閃光の中にいる二人の眼差しが、互いに討つべき敵を見ている。
そしてもう一人、戦場となった荒野にこの戦いを見届けようとしている人間がいた。白い神官の装束を身に纏いその背中に、黒白の穂先となっている二叉槍を背負っている彼、エレキガルの配下
緑色の閃光はエンキ、そして藤色の閃光にはシェム・ハ。エンキは右腕の篭手から、シェム・ハは右腕に填められた腕輪から光の剣を出し、その刃が交わる度にその余波が絶えず、荒野の大地を瓦礫へと変えている。
「シェム・ハ!お前の目論見は潰えた!これ以上の抵抗は、無意味だあぁー!」
高速でシェム・ハに接近し、刃を振り下ろそうとするエンキを返り討ちにしようと光の刃を振るうが、そのエンキが残像であると気づいた時には、彼は背後を取っていた。
エンキの刃によってシェム・ハは大地へと叩き落とされ、墜落した荒野の瓦礫と砂塵が舞う。シェム・ハが落ちた地点を中心に、大地が大きく陥没している。だがシェム・ハはまだ健在。空から見下ろしているエンキは、まだ得物を納めない。
「終わらぬ……!」
相当なダメージを負ってもなお、立ち上がろうとするシェム・ハは戦意を失っていない。
「業腹な……!だがエンキ……貴様の言う通りかもしれぬな……」
「ならば!」
「故に……である!」
「なっ?!」
立ち上がったシェム・ハの掌から紋章が浮かび上がり、その中心から銀色の波動が放たれた。
突如の反撃に対し、回避できなかったエンキは咄嗟に左手からバリアを展開した。だが予想を大いに上回る威力に、急ごしらえともいえるバリアは耐えられず、破壊された。
「ぐわああああぁぁぁ!!」
エンキの叫喚が空に響き、シェム・ハがほくそ笑む。
「快哉だ……行く道を尽く阻む貴様だけは、この手で屠らねば溜飲が下がらぬ……!」
エンキの左手の指先から徐々に銀と化していく。
「このままでは……!」
いずれエンキの全身は全て銀へと変わり、生命としての自分は果てるだろう。そして、まだシェム・ハは健在。シェム・ハを野放しには出来ない。
決断に一度躊躇うが、最悪の結末を帰るべく、自らの剣で斬り捨てられた左腕は荒野へと落ちた。
「腕を捨てて命を拾うか……!」
勝利を確信していたシェム・ハの表情が歪む。
左腕の切断面から夥しい流血、痛みに耐えるエンキの息が荒い。だからこそ、エンキは次の一撃に全てを賭けようとシェム・ハに高速で接近し、右腕の剣を突き出した。
強大な力がぶつかりあった事で巨大な爆発が起こり、再び瓦礫と砂塵が発生し、二人の姿が捉えられなくなった。
「エンキ!エン……っ!」
すぐに砂煙が晴れたが、その光景に青年が絶句した。
エンキの刃がシェム・ハの胸部を貫いていた。だが咄嗟に突き出したシェム・ハの光の刃もまた、エンキの胴を穿った。
それでもエンキは剣を、その根元まで深く刺した。トドメを刺されたシェム・ハが吐血した。
「な、ならば……我は……命を捨てて、未来を拾う……。さらばだ……エンキ……」
絶命したシェム・ハの身体が崩れ落ちた。強敵を倒したエンキもまた、瀕死の重傷を負っていた。剣をシェム・ハから引き抜いたと同時にエンキのものと思われる血が、シェム・ハの臍にこぼれ落ちた。
「あとは……ネットワークジャマーを……」
右腕の剣を納めると、エンキはシェム・ハとは反対の方向へと歩き出した。
「エンキ!」
陥没した大地に降り立った神官が瀕死の重傷を負ったエンキに肩を貸してやる。
「すぐに手当を!」
「ダメだ……!」
「な、何を……?!」
自身の治癒をエンキは拒んだ。まるでそんな暇はないと言わんばかりの物言いに神官は理解出来なかった。
「だが、このままではあなたが……」
「そうだ……時間が無い……!このままでは……全てが水の泡となる……!」
「エンキ……」
「頼む……!私を、あの場所へ……!」
あの場所と言われて、神官はすぐに察した。そこはかつて、一度だけエレキガルの供で訪れた。
そこで行われる事が何か、エンキから聞かされていたが、それを成せば助かるはずだったエンキの風前の灯火である命が消えるだろう。
それでもエンキは、シェム・ハが遺した最期の言葉を現実にさせない為に、命を賭して成さなければならない。
エンキの強い訴えに、神官は目を閉じた。
(嗚呼……主よ。私はまた……)
その命懸けの信念と覚悟を目の当たりにした神官は、エンキの意思を汲み取って月遺跡へと向かった。
「はっ……!」
突如、夢から目覚めたマリア。エンキと呼ばれた青年、シェム・ハの真の姿、そして二叉槍を背負っていた神官。この夢が何を指しているのか、理解できないまま起き上がろうとした。
「今のは……っ!嘘っ……?!ここって……!」
起き上がると、建物の外には地球が浮かんでいる。さっきの夢といい、宇宙に浮いている地球を見ている事、どんなに想定外を想定しているマリアでも、これには驚愕を隠しきれなかった。
マリアが目覚めた少し前、自分達がいるこの場所が月遺跡であることを把握した瑠璃と輪の二人。
「まさか本当に月遺跡にいるなんて……」
輪は天井の隙間からでも見える地球に、瞼をパチパチと瞬きを繰り返しながら唖然としている。
フィーネにカ・ディンギル、フロンティアに錬金術師、神の力など、あらゆる異端技術を目の当たりにしてきた輪でもまさか地球より外、しかも月遺跡にいるなど、輪でなくても信じ難いのは当然である。
「宇宙なのに空気が澄んでる……うん。美味しい」
深呼吸して、月遺跡の空気を味わう輪。地球以上に澄んた空気に真顔で評価した。
「ねえ、瑠璃。ここの空気……瑠璃?」
対する瑠璃は不気味な程に冷静だった。普段であれば、このような事態を前にすれば慌ただしく動揺するのだが、何故か今の瑠璃にはそれが見られない。
遥か遠い地球を見上げていた瑠璃。今は冷たい闇の瞳で、地球を見上げている。
「どうしたの瑠璃?」
「う、ううん……」
何でもない。そこまで言わず、首を横に振る。だが輪は知っている。瑠璃の笑顔の裏には何かを隠している事を。
瑠璃がここまで冷静なのも、恐らくエレキガルの魂が何かに反応しているからなのだろうと感じた。
それでも、アヌンナキの生まれ変わりであっても、目の前にいるのは正真正銘、風鳴瑠璃その人。普通に笑って普通に泣くごく普通の人間。
だが本人はどう思うのか。バイデントを操れる唯一の少女、平行世界の自分にダメージを押し付ける能力、断片的に蘇る前世の記憶。これだけの要素が揃ってしまえば、たとえ瑠璃でなくてと自分が人間ではないと悟るだろう。
クリスにも相談出来ない……出来るわけがない。大好きな姉が人間ではないと、最愛の妹に告げる事など。
(瑠璃……)
妹に拒絶されるかもしれないという恐怖。輪には分からないものだが、それを見て見ぬふりなんて出来るわけがない。
「あのさ瑠璃……あ、あれ?」
「輪、どうしたの?」
「……ヤバい。脚に力が入らない」
何か言おうとした時、立ち上がろうにも立ち上がれなかった。
それもそのはず。エルザとの激戦でフィーネの力を限界まで使った結果、その反動も凄まじいものになり、しかも月遺跡という未知の領域でのしかかった。
「だ、大丈夫?!」
「さっき、だいぶ無茶しちゃったかな……」
「どうして……。こんなになってまで、また無茶を……」
瑠璃の肩を借りて漸く立てたが、このコンディションではまともに戦えないのは目に見えている。そんな状態で何故ここまでついてきてしまったのか、いつも無茶ばかりする輪を瑠璃は心配する。
「アンタのせい」
「え……?」
瑠璃には意地悪に聞こえるかもしれない。だが、たった一言の真意は別にある。
「それはね……あっ」
突如扉が開く音が聞こえ、その方を振り向く二人。
「「クリス!」」
そこにいたのはクリスだった。ここまで走ったのか、息遣いが荒い。だが、僅かではあるが、クリスの様子がどこかおかしいようにも見えた。
マリアが目覚めてから間もなく、翼も目覚めた。
「はぁ……ふぅ……」
奇しくもマリアも輪と同じように深呼吸。そして……
「空気はある。寧ろ美味しい」
そして同じ評価である。
今度はつま先で床をタップしながら動いてみる。地球と同じように動ける事から、ここ遺跡の重力が制御されていると判断する。
一方、この異常事態の連続だというのに、翼は俯いていた。まるで落ち込んでいるかのようで、普段のクールな雰囲気は見られない。
「無鉄砲なんてらしくないわね」
「マリア……」
普段の翼なら敵の懐に、しかも単独で飛び込もうとはしない。言葉通り、翼のらしくない行動にマリアがそう言う。
「私はどうすれば良かったんだ?分からないんだ……」
呆れながらもマリアは答えた。
「そうね……勇気かしら」
「勇気……?」
マリアの言った事に理解出来ない翼が、オウム返しに聞く。
「差し出した手を握ってもらえなかった時、あの子はきっと心細かったはず。それでもあの子は、勇気を出して自分から握って来た」
「立花……」
「あの子の勇気に、今度はあなたが応える番だと思う」
「そうか……。私は、士道不覚悟にも立花の勇気から逃げ出した……あいったぁ!」
いつぞやのライブ前と同じように、マリアのデコピンが翼の額に直撃。いい一撃だったのか大きく後ろに仰け反った。
「まったく……とんだぶきっちょさんね。兎にも角にも、はぐれた仲間を探しましょう」
ここは未知の領域。何が起きても不思議ではない。一先ず、仲間と合流しようと辺りを見回すが……
「何?!」
突如、マリアのギアペンダントが赤い輝きを放った。その瞬間、一筋の光が天井から屈折し、壁へと向かった。
光が壁に当たると、直撃したそれは開き出した。壁の正体は扉だった。
「導いてる……アガートラームが?!」
「行ってみよう!」
マリアの言う通り、アガートラームが道を開いたかのように開いた扉。この先に何かあると信じ、二人は光に従って走り出した。
月遺跡に飛ばされたのはノーブルレッドも同じ。この月遺跡までの転送用のテレポートジェムを使用したのも彼女達。
だが事態は深刻だった。ヴァネッサの手には、帰還用であるもう一つのジェムが砕けていた。
「帰還用ジェムの損傷が著しい……とても扱えないわね」
使えないと判断し、不要となったジェムを捨てた。これでノーブルレッドが持ちうる地球に帰還する術が無くなった。
(シンフォギア装者を巻き込んだ、想定を超える転送負荷が過干渉したのか……それとも……)
もう一つの可能性、恐らく自分達の帰還させる気など最初から無かった事。そう考察していた時、背後から物音が聞こえた。
「誰?!」
そこに現れたのはトランクケースに乗って移動するエルザだった。輪、調と切歌との激闘に敗れて負傷しており、その息遣いは荒かった。
「エルザちゃん!無事だったのね!」
家族の無事を知り、喜ぶヴァネッサが駆け寄る。エルザがトランクケースから降りるが、戦闘による負傷でそれを支えに立っている。
「ですが……脚下のニューロンコネクトが焼き切れたであります……。恐らく、テールアタッチメントの使用はもう……」
臀部にある差し込み口の損傷から、これではエルザは戦力にならない。だがヴァネッサにとっては、それは問題ではない。
エルザの無事を知り、ヴァネッサは抱きしめた。
「でもよかった。一緒にミラアルクちゃんを探しましょう」
ヴァネッサの抱擁から伝わる愛。同時に、相対した輪の言葉が蘇る。
『アンタ達を人として受け入れる人がいる限り、アンタ達は怪物じゃない!だから……優しさを捨てんな!!』
「ガンス……」
あのセリフの意味に気付いた。エルザから悲しげな表情が消えた。
早く続きを描かねば……!