戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星   作:レーラ

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エレキガルの槍

 アガートラームのギアペンダントから発せられた、一筋の赤い光の後を走って追うマリアと翼。その道中、防衛機構である生命体との群れとは一度も遭遇する事なく進んでいく。その赤い光が巨大な石の扉に当たり、反応を示すように扉の隙間に光が発せられる。

 

「マリア!あれを!」

「ええ。どうやらここを指し示しているようね」

 

 二人の予想通り、と言うべきか巨大な扉が左右に開き、周囲には砂塵が舞う。まるで中へと誘うようにも思える。

 

「どうする?」

「招待を受けましょう。ここは月面、飛び込まなければ始まらないわ」

 

 脱出への手掛かりも無ければ、真実すら分からないこの状況。それを変える為に、二人は未知の領域へと足を踏み入れる。

 

 

 部屋の中心にはまるで装置のような巨大な球体に刻まれた刻印が輝き、その真下には石柱が立っている。その周りを囲う結晶の柱が外側と内側にそれぞれ六本ずつ立っており、球体から発せられている光によって輝きを帯びている。

 

「この異様……遺跡の拠点と思われるが……」

 

 まるで祭壇を思わせるそれら、ここがこの月遺跡に重要な部屋であると翼は考察する。

 

 すると、中心にある球体の光が少しずつ弱まっていった。次第に光は消えたが、代わりに幾つも結晶の柱から発した光がその中央に集まった。

 

 そこに一人の青年が現れた。だがその姿に実体はなく、ホログラムのようになっている。

 

「マリア!」

「待って、彼は夢に見た」

「夢……?」

 

 突如出現した青年を警戒する翼はギアを纏おうと臨戦態勢を取るが、それをマリアが制止した。先程マリアが見た夢に、彼と同じ姿をした青年がいたからだ。

 

「ーーーーーーーーーー」

「何を伝えようとしているのか?」

 

 彼が何か話しているが、ノイズのような音にしか聞こえず、翼達には伝わっていない。青年は喉に手を当てると……

 

「施設内で観測されたパターンを基に、言語をチューニングしてみた。これで通じるであろうか?」

「あなたは……?」

「俺は、オリジナルエンキの意思をトレースした、オペレーティングシステム」

「エンキ……アルベルトも口にしていた……」

 

 風鳴訃堂邸にてアルベルトが発していたエンキという言葉。それこそが目の前にいる彼の名前だった。

 

「ここは観測ベース『マルドゥーク』。ネットワークシステムジャマー バラルの中枢だ」

 

 

 同じ頃、月遺跡に迷い込んだミラアルク。彼女の耳は音響を拾い、周囲を索敵する事が出来る。

 

「反響転移にて動体反応を二つ捕捉。こいつがヴァネッサとエルザだとありがたいぜ」

 

 カイロプテラを一対の翼に変えて羽ばたかせながら、その方へと向かった。

 

 

 


 

 

 生命体の群れとの戦闘から間もなく、瑠璃達の前にエレキガルが現れた。風貌は瑠璃と瓜二つであるが、違うとすれば身に纏う衣と、冷たき闇の瞳。

 とはいえ、初めてエレキガルを見たクリスと響は瑠璃が二人もいると思ってしまっても仕方がない。

 

「ーーーーーーーーーーーーーー」

「ちょいちょいちょいちょい。何て言ってるのか分かんないんだけど……」

 

 目の前にいるエレキガルが何か話しているが、聞いた事のない言語で話しているせいで、なんて言っているのか輪はおろかここにいる者には理解出来なかった。

 

「待っていた……私を……?」

「え?!瑠璃分かるの?!」

 

 だがエレキガルの魂を宿す瑠璃だけには分かっていたようだ。するとエレキガルが少しの間、喉に手を当てると……

 

「お前達の言語に合わせてやった」

「日本語になった!」

 

 先程の謎の言語から自分達と馴染みのある言語に変わった事に響が反応を示した。ようやくまともな会話が取れるようになった事で対話が取れるようになったからか。

 

「先程はようやくその時が来たかと話していてな」

「それ……どういう……」

 

 まるで待っていたようなセリフ、輪はそう思えた。

 

「その前に、我について教えておこう。我はエレキガル。死と破壊のアヌンナキである。正確には、オリジナルのエレキガルを基に作られた、自律……まあ、要はただのプログラムだ」

 

 途中から面倒くさくなったのか、端的に言いまとめてしまった。

 

 あの絶対の破壊神から破壊以外を語るとは思わず、身構えていた輪とクリスが呆気に取られる。

 初めてエレキガルを見た時、それはもう尊大で冷酷無比だったが、それが嘘のように思えてしまう。

 

「何か……全然違う。あの時は、破壊破壊しか言わない機械的な奴だと思ってたのに……」

「あれは制御不能となって暴走する我の力そのものだ。まあ。また起こり得る事態ではあるがな……」

 

 エレキガルのプログラムが、オリジナルの魂を宿した瑠璃を指した。暴走した自分を記録で見た事があるが、二度となりたくないと心からそう願っていた。それを知るクリスがエレキガルに吠える。

 

「冗談じゃねえぞ!いくら御託並べようが、お前の仕業じゃねえか!あんなの姉ちゃんがやるわけがねえ!」

「吠えるな小娘。あれは覚醒が早すぎた故に、少女も我も、制御する前に力だけが暴走したのだ」

 

 自分の意思とは無関係に、家族や親友、仲間を手に掛けようとするなど出来るはずがない。心優しい瑠璃なら尚更だ。

 

「それで、あんたは何でここに現れたの?」

 

 気になっていた事を代表して輪が問う。

 

「この月遺跡は、我々アヌンナキが長い年月を経て作った代物。当然、我も関わっている。故に、これを遺す事が出来た」

「遺すって……もしかしてエレキガルさんは……」

「死んだ。それもシェム・ハの手によってな」

 

 響の問いに答えたエレキガルだったが、あまりにも衝撃的すぎる返答に四人が驚愕が露になる。

 

「あなたは……一体何者なの?」

「我の記憶はまだ不完全であるか。まあ、余計な者が三人いるが……良いだろう」

 

 余計なもの、つまるところ今ここにいる瑠璃以外の三人の事を指している。クリスと輪はムッとするが、エレキガルは構わず右手を天高く掲げる。

 

 その刹那、月遺跡にいたはずが、周囲はあの冥府の神殿の玉座の間へと変わり、エレキガル以外の四人は突然変わった風景に驚く。

 

「どうなってんだ?!」

「私達、月遺跡にいたはずなのに!」

「ここって確か……!」

「あの時夢で見た……」

 

 輪はアルベルトによって見せられ、瑠璃は夢でこの景色を見た事があり、ここが冥府の神殿であるとすぐに分かった。

 

「我らアヌンナキは様々な手段を用いて、この地球に数多の命を創造し、生命を育んだ。だが我は、我だけはそれと対をなす力を持っていた。それが死と破壊だ」

 

 そう教えながら、エレキガルは玉座に腰掛けて四人を見下ろした。

 

「命あるものは終わりを迎えるのは必須。故にその魂を管理する必要がある。だがこの力は、創造とはかけ離れた悪魔の力。故に我は一人、この暗い闇の世界に押し込まれた」

 

 暗黒の世界で一人、永い時を生き続けなければならない宿命を背負わされたエレキガルを思ったのか、響が悲しげな表情を浮かべていた。

 

「故に我は、光溢れる世界を地獄へと変えるべく、力を蓄えた。幾多の魑魅魍魎、闇に跋扈する悪鬼達、我はそれらを従えていく過程で、惑星改造装置ユグドラシルを作った」

「ユグドラシルを作っただぁ?!」

「ちょっと待って!今聞き捨てならない事を聞いたんだけど!惑星改造装置って、どういう……」

 

 シェム・ハが掌握しているあの巨木の作成者がエレキガルだという事もそうだが、ユグドラシルの正体に輪が追及する。

 

「言葉通りだ。惑星の在り方そのものを変える。我はそれを用いて、生きる者を眷属として暗黒の支配を企んだがな」

「もしかして、アンタがシェム・ハに殺されたのって……」

「聡明だな。ああ……それを目当てにやつが現れた」

 

 エレキガルの隣に、ホログラムとして現れた白と桃色の素肌の女性、その異様な姿から同じ人間ではないのは分かったが、何者なのか分からない(響とクリス)見た事がある者(瑠璃と輪)が驚愕する。

 

「改造執刀医 シェム・ハの叛逆。ここで奴と戦い……我は敗れた」

 

 破壊神だったとはいえ、エレキガルは正攻法では勝てない程の強敵だった。それでもシェム・ハに敗れたという衝撃的の展開に四人は愕然とした。

 

「我が死と破壊を司る者でも、自分の死を捻じ曲げる事は叶わぬ。故に、滅びゆく肉体より変換された槍となり、魂だけが残った」

「その肉体が……バイデントになった」

 

 アルベルトが遺したデータの事を四人の中で唯一人知る輪が、その答えを告げた。

 

「バイデント。お前達がそう呼称しているが……あれには元より名前など無い。だが、ここで敢えてつけるとすれば、それは……我『エレキガル』というアヌンナキから成る槍だ」

 

 難しい単語でなければ、意味のある単語では無い。ただ単純に、自身の肉体から作った槍だからこそ、それは『エレキガルの槍』となって誕生した。

 

「そしてその槍の欠片から、シンフォギアとファストローブが作られた……」

 

 瑠璃のギアペンダントの中にある槍の穂先。そして絶対の破壊神だった瑠璃、アルベルトが着けていた指輪にも同じ穂先が使われてる。

 

「そして、我が槍を……我が最も信ずるに値する者に託した」

「って事は、アイツか」

 

 クリスのいうアイツ、S.O.N.G.の前に何度も立ち塞がった宿敵ともいえるアルベルト。彼女、もとい、彼の正体を知る者はここには輪しかいない。

 

「そしてその槍はアルベルトと櫻井さんの手によって、シンフォギアとなった……」

 

 バイデントのシンフォギアとして作られてからのあらましは皆知っていた。

 アルベルトがフィーネと共謀してバイデントのシンフォギアを掠め取り、それがF.I.S.で用いられるも《バイデントの呪い》と呼ばれるものによってジャンヌの妹 メルを含めた関係者の命を奪った。

 

 それから何度も適合に失敗し、エレキガルの魂は人間の可能性を見限ろうとしたその時、瑠璃と適合した。バイデントの呪いを受けず、今も尚その力を支配している。

 

「我が槍を手にし、呪いを受けなかった少女、我の魂を宿した少女という証。その者はいずれ我と同化する」

「それって……瑠璃は瑠璃でなくなるってことじゃ……!」

「まるまるフィーネじゃねえか!」

「リィンカーネーションとはそういうもの……そのはずなのだが……」

 

 どうも歯切れの悪い物言いになっている。違和感に気付いた輪が尋ねる。

 

「ど、どしたの?」

「確かに魂は存在している。だが……これは……」

 

 冷たい闇の瞳が瑠璃の魂を覗き込む。その中には一つの白い魂が存在していたが、僅かに黒い靄が魂の中に入っていた。

 

「これは……紛れもなく我の……ではこれは……」

 

 一つの結論に辿り着いたエレキガルは笑みを浮かべた。理解出来ていない四人は次第に高笑いする彼女を不気味がる。

 

「何がおかしいんだよ?!」

「なに、いずれ分かる。この先に待ち受ける運命をな」

 

 意味深な言葉を出しながら、エレキガルの右手に光が宿ると、それが粒になって一つの形になって具現化した。それは、穂先が両方とも欠けた藍色の柄の二叉槍だった。

 

「それが……エレキガルの槍」

 

 実物を初めて見た瑠璃達が、その禍々しくも神秘を感じさせるその槍に息を飲む。

 

「この槍であれば、魂、力などの脈絡を掌握出来るだろう。地球のシェム・ハの魂すら滅する事も容易い。だが、今のお前では……それは不完全だ」

「え……?」

「槍はあくまでも我の肉体を変換、再構築した形に過ぎない。真に制御するには、魂が必要だ。お前の中に眠る、我の魂がな」

 

 エレキガルは瑠璃を指した。

 

「私の中の……」

「けど、瑠璃の中にアンタの魂があるなら最初から使えるんじゃ……」

「言ったはずだ。まだ不完全であると。リンカーネーションが果たされていない。その娘の魂が、我とならぬ限り、槍は真の力は覚醒されん」

 

 瑠璃がエレキガルとして覚醒しなければ、槍は使えない。つまり、シェム・ハを倒す為に槍を制御する為に、瑠璃の魂は死ななければならないという事になる。

 

 これにはクリスが憤る。

 

「ふざけた事を抜かすんじゃねえ!姉ちゃんを食い潰してでも復活するつもりか?!」

「では、シェム・ハをこのまま野放しにする気か?」

「待って、こっちには神殺しがある。アンタなんか復活しなくても……」

「ほう。では依代ごと殺すつもりか?」

 

 そう言われた輪は何も言い返せなくなる。依代を殺す。それは未来を殺すということとを意味する。

 

 それが現実のものになるのか、それとも出任せであるか分からない。過去に神殺しの力が発揮された瞬間は、 ディバイン・ウェポンと、チフォージュ・シャトーで戦ったシェム・ハの繭、いずれも人外の類ばかり。

 

 今回のように、シェム・ハの依代となった未来に神殺しを使えば、エレキガルの言う通り、シェム・ハの力ごと未来を殺してしまう可能性がある。

 

 未来を助ける為にここまで戦ってきた響に、そんな残酷な選択などさせられるはずもなく、瑠璃は俯いた。

 

「さあどうする……友を救う為に我と同化するか?我を拒んで友を殺すか?」

 

 前者を取れば、未来を助ける為に槍の力を最大限まで引き出せる。だがその代償として、瑠璃としての存在が塗り潰されてしまう。

 

 後者を取れば、瑠璃は瑠璃のまま生きられる。だがそうなれば、未来を止めるには神殺しの力しかなくなるが、その神殺しによって未来も殺す事になる。

 

 己の死か、友の死か。瑠璃に残酷な選択が迫る。




エレキガルの槍

バイデントの真名。

元々はエレキガルの死の間際に、魂と肉体を分離した結果、肉体は槍となった。

分かたれた魂はいつか、選ばれた少女に宿って伏せる。

魂と槍が接触した時、少女は神によって塗り潰され、神として再臨する。

瑠璃もまた、そうなる運命か……
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