戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星   作:レーラ

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久しぶりの戦闘パートを描きますが……

この展開まで行くのに5ヶ月掛かってるってマ?


帰る場所

遺跡の一室から出た瑠璃達は、マリア達がいる制御室へと向かっている。

 

 瑠璃とエレキガルの問答で時間を稼いだお陰で、輪はだいぶ休む事が出来た。何とか走れるが、普段足の早い輪は今、1番後ろを走っている。その体力も半分もない状態では満足に走る事すら出来ず、息が上がるのも早い。

 

「輪、大丈夫?」

「私は平気!それよりも、制御室に急がないと……」

 

 輪は焦燥感に駆られていた。

 

 

 

 時はエレキガルのプログラムと問答した直後まで遡る。輪の通信機に、遺跡の中枢よりマリアからのコールが発せられた。

 そこで、通信越しで情報を交換したのだが、それには驚くべき真実が眠っていた。

 

「私達人間が、ユグドラシルを操る為の生体端末として作られたって……」

『シェム・ハの目的は、人類を生体端末郡として、ユグドラシルを使って星と命を怪物へと改造すること』

「つまり、この世に生きる人間全てが、ユグドラシルを操る為の道具ってことですか?」

『ええ。言語を力とするシェム・ハは、どんなプログラムにも入り込む事が出来る。それを阻止してきたのが、ネットワークジャマー《バラル》よ』

「バラル……もしかしてバラルの呪詛?!」

 

 人類の相互理解を妨げる不和の呪い。原罪とも呼ばれているそれは、アヌンナキによって発動、これにより人類は統一言語を失い、多くの不和を生み出し、それがフィーネがルナアタック事変を引き起こす切っ掛けとなった。

 

 だがマリアのバラルの呪詛の言い方に何か引っ掛かりを感じたクリス。

 

「けどよ、その言い回し……まるでバラルの呪詛のお陰で、今のあたし達があるみたいな……っ!」

「……まさか」

 

 輪もその違和感の正体に辿り着いた。

 

『そうよ。けど、アヌンナキが遺したこのバラルの呪詛がある限り、シェム・ハは手を出せない』

 

 今まで不和の根源とされていたバラルの呪詛こそが、人間を守るための、言わば最後の砦。

 フィーネは愛する神との再会を願って、破壊しようとしたバラルの呪詛を起動したのが神であり、それが人類を、フィーネ達を守っていた。

 知らなかったとはいえ、皮肉としか言いようがないこの運命に、輪は彼女を憐れむ。

 

「逆に言えば、シェム・ハの目的はバラルの呪詛の解除!もしそうなったら、私達は……」

『怪物として改造されてしまうわ。そうなれば終わりよ』

「あの時、テレポートジェムでここに送り込まれたのは私達だけじゃない……ノーブルレッドもいる!」

 

 シェム・ハの眷属となったノーブルレッド三人がバラルの呪詛を破壊する為に攻撃を仕掛けるのは明白だ。より一層、合流しなければならなくなる。

 

「私達も急いで行きます!だから……」

『へえ、流石はS.O.N.G.。あっさり詳らかにしてくれるぜ』

 

 通信越しに聞こえたミラアルクの声。その刹那、通信が切れた。

 

「マリアさん?!マリアさん!」

「アイツら、もう嗅ぎつけたのか?!」

 

 マリア達を救援すべく、瑠璃達は急いで制御室へと向かう事になり、今に至る。

 

 

 

(ったく……私のせいで、救援に遅れたんじゃ洒落にならない……!)

 

 先を急ぐ必要があるこの状況で、自分が完全に足手まといになっている。輪は叫んだ。

 

「私を置いて先へ行って!」

「輪さん?!」

「何言ってんだお前?!」

 

 自分を置き去りにしろと言われ、響とクリスが驚愕する。

 

 最も合理的な案ではあるが、仲間を見捨てる事が出来ない彼女達にとっては受け入れ難い提案だ。

 

「アンタ達だけでも、早く制御室へ……」

「っ!見て!あれ!」

 

 遺跡の天井の隙間から覗き見る事が出来る青い地球が、深紅に染まり、邪悪な光を発していた。

 

「あたし達の帰る場所が……!」

「あれは……」

 

 エレキガルの眼となった瑠璃が、その光の根源を覗き視た。

 

 鎌倉に根を張っていたユグドラシルの幹が、日本全土、それどころかアメリカや中国といった大国にまで顕現、幹の先から放たれた枝が、全てのユグドラシルに接続され、地球を覆い尽くしていた。

 

「ユグドラシルが……起動した?!」

 

 信じられない瑠璃が動揺を露わにする。

 

 ユグドラシルをフル稼働させるには生体端末である人間を利用しなければならない。だがバラルの呪詛がある限り、人間を用いてユグドラシルとの接続は不可能。

 

 それだというのに、ユグドラシルは起動している。エレキガルの魂と一つになった瑠璃が驚愕するのはそういうわけである。

 

「それじゃあ、冗談抜きで地球丸ごと改造されちゃうじゃん!」

「始まったのね……」

 

 瑠璃達の背後から現れたヴァネッサ、そして満身創痍のエルザが地球を見上げる。その声に気がついた四人はヴァネッサの方を向いた。

 

「あれが……あんなのが、ヴァネッサさんが望んだ、皆と仲良くなれる世界なんですか?!」

「……人間に戻れない完全怪物となった今、この身を苛む孤独を埋めるには、全てを怪物にして仲良くするしかないじゃない……!」

 

 響の訴えから目を背けながら、開き直ったヴァネッサにクリスが噛み付いた。

 

「お前達が言う分かり合うって……!」

「そうよ!その為にシェム・ハは星と命を作り変え、私達は封じられたシェム・ハの力を取り戻す為、バラルの呪詛を解除するの!」

 

 人間に戻れる可能性は潰え、完全なる怪物と堕ちた自分達に選択肢など残されていない。

 

 怪物と蔑んだ人間達への対する復讐にも似た感情は、誰よりも人間に戻れると信じていたヴァネッサだからこそ、その反動も、絶望も果てしない。

 

「……ヴァネッサ。戦うでありますか?」

「戦うわ……。だからエルザちゃんは下がってなさい……お姉ちゃん判断よ」

 

 家族であるはずのエルザにさえ、冷たく言い放った。優しかったヴァネッサが変わってしまった事に落胆するが、テールアタッチメントが使えない今、戦う術を持たないエルザには何も出来ない。大人しく引き下がった。

 

 装者側でも同じ、完全に回復しきれていない輪が、戦闘の余波を避ける為に下がった。

 

「だったら私は……私達は!」

「皆がくれた優しさや温もり、そして、皆で繋ぎあった日常を取り戻す為に!」

 

 瑠璃をはじめとした装者達はギアのペンダントを構えた。

 

 Tearlight bident tron……

 

 シンフォギアを纏った瑠璃が、二本の槍の穂先から黒白のビームを撃ち放った。ビームはそのまま真っ直ぐ、ヴァネッサに直撃したはずだった。

 

 だが完全な怪物となったヴァネッサには、そんなものは通用せず、かすり傷一つすら作れていなかった。

 余裕の立ち振る舞いでライダースーツを脱ぎ捨て、機械の身体を露出、背中から二本のアームを生やし、足部のジェットで瑠璃に接近する。

 

 瑠璃は迎え撃つべく槍を構えるが、上からガングニールのギアを纏った響がヴァネッサに殴り掛かる。正面からでは、アームで防ぐ。だがイチイバルのギアを纏い、背後を取ったクリスが拳銃を発砲する。

 

 それも、ヴァネッサにはお見通しだった。首元から無数の赤い光線が放たれ、銃弾を撃ち落とし、クリスを叩き落とした。

 

 瑠璃と響が白兵戦に持ち込むも、ヴァネッサのアームが自由自在な軌道を描いている為、二人の攻撃はヴァネッサに届かない。

 

「奪われた未来を取り戻す為、私達は先に進む!元に戻るとか帰る所とか!そういうのはもう必要としないのよ!」

 

 圧倒的な力で瑠璃と響を押し返した。

 

「正中線に……打たせてくれない……!」

 

 響の徒手空拳では、アームの圧倒的なリーチによって防がれてしまう。だが、それで終わるヴァネッサではない。

 

 浮遊するヴァネッサの周囲に光が漂い、それがアームと脚部と一体化、アームはそれぞれの上肢と変形合体、脚部は1本の装甲となって、巨大なロボットへと姿を変える。

 

「合体変形した?!」

 

 瑠璃が驚くのも束の間、クリスが銃弾を放つが、まるで効いていない。

 そして、その装甲からいくつものビーム砲が展開、エネルギーが充填される。

 

 危機を察知した瑠璃が仲間を守るべく、ヴァネッサの前に立ち塞がり、二本の槍を連結させる。

 

 砲門からビームが放たれると、瑠璃は連結させた槍を高速で回転、黒白のエネルギーが竜巻となってビームを迎え撃つ。

 

【Harping Tornado】

 

「くっ……威力が……!」

 

 だが予想よりも大きく上回るパワーに、竜巻が少しずつ後退している。次第に竜巻の風圧がかき消され、無防備となった瑠璃にビームが迫る。

 

「姉ちゃん!」

 

 だが姉ばかりに守られるだけのクリスではない。瑠璃の隣に並び立ち、リフレクターを展開、ビームを正面から防御する。

 

 リフレクターと衝突したビームの一部が反射され、ヴァネッサの背後にある壁や天井を撃ち抜いた。だがその衝撃で、壁が瓦礫となってエルザに振り注ごうとしていた。

 

「エルザちゃん!」

 

 エルザとの距離は離れており、今の形態を解除してから助けに行っても間に合わない。

 

「どっせええぇぇーーい!」

 

 何とファウストローブを纏って飛び込んだ輪が、そのまま瓦礫を拳で粉砕した。お陰でエルザに瓦礫が落ちてくる事は無かった。

 

「こっちは大丈夫!」

 

 輪が天高くサムズアップ。

 

「何故……」

「へ?」

「何故助けたでありますか……?あなたからして見れば、私達は仇であります……!」

 

 俯きながら輪に問いかけた。すると、輪はファウストローブを解いた。

 

「アンタ達の事は一生、死ぬまで許す事は出来ない。だけど、こんな所で死なれちゃったらさ、罪を償わせる事も出来なくなる」

 

 輪にとってノーブルレッドはたった1人の家族だった小夜を殺した憎き敵。だが同時に、哀れだと思った。

 

「だから私は、アンタ達を生かす。私達と同じ……」

 

 だが再び戦闘による爆発と衝撃による砂煙が舞い、二人の意識はそちらに向かう。そこには、アマルガムへと変身した装者三人の蹴りによって装甲が破壊されたヴァネッサだった。

 

 


 

 

 瑠璃達がヴァネッサと交戦する少し前の制御室にいた翼とマリアだったが、突如強襲を仕掛けたミラアルクと交戦。

 

 完全なる怪物と化したミラアルクに苦戦した二人だったが、アマルガムによる連携によってこれを打ち払った。その直後に、運良くノーブルレッドと遭遇しなかった調と切歌が合流を果たした。

 

 だがそれから間もなく、爆発による揺れを察知した。何処かすぐ近くでで、誰かが戦っているのが分かる。

 

 すると、制御室の壁に穴が空き、そこからノーブルレッドの三人と、ヴァネッサと交戦していた瑠璃、響、クリス、そして輪が飛び込んできた。

 

「「ヴァネッサ!」」

 

 この場で戦えるノーブルレッドはヴァネッサのみ。だが先程のアマルガムを纏ったいち激によって装甲から強引に引き剥がされた事で、四肢の一部が欠損、スパークしていた。

 

 さらにクリスがアマルガム・イマージュを展開、黄金を纏った真っ赤な大弓を手にする。

 

「だったら……一気に足掻く!」

 

 最後の足掻きで胸部から漆黒のビーム砲を発射、クリスも大弓から矢を放った。

 

 ビームと矢がぶつかり合った瞬間、矢がビームを割いて直進していた。この矢尻にはイチイバルのリフレクターが備え付けられていた。それ故に、ビームを諸共せずに進むことが出来た。

 

 だが弾かれたビームが天井を穿ち抜いた事で外、ここでは宇宙空間に通じる穴が空いてしまった。空いた穴に引きずり込まんと引力が働きかけている。

 

 

「ヤバっ……のわっ!」

 

 

 その穴に最も近くにいるノーブルレッドの三人、そして三人に1番近くにいた輪が宇宙へと吸い込まれようとしている。

 

 だが輪の手を掴む一つの手によって、彼女は吸い込まれずに済んだ。

 

「絶対に、離さない……!」

「瑠璃……!……はっ!」

 

 二人の小さな悲鳴に気付き、振り向くと宇宙へと吸い込まれようとしているエルザとミラアルクの姿が。

 

「それでも……私達は……」

 

 そして、最後まで足掻こうとしていたヴァネッサまでもが宇宙へ放り込まれようとしていた。

 

「怪物になりたくなかった!」

「クリス!」

「食らいやがれえぇーー!」

 

 輪の願いを聞き入れたクリスが、強く引き絞った弦を手放して矢を放った。

 

【∀∀・デ・レ・メタリカ】

 

 矢は真っ直ぐとヴァネッサ達の方へと向かう。最期を覚悟したヴァネッサは目を閉じて死を待った。

 

 だが、その矢はヴァネッサのすぐ横を通り過ぎ、その背後で赤い閃光と共に、矢尻からシールドを展開、壁となったそれは三人を守った。

 

 遺跡の防衛プログラムが働いたのか、空いた穴は自動的に修復された。

 

 

 


 

 

 誰一人欠けることなく戦いは幕を閉じた。だがヴァネッサの左腕と左脚は先の戦いで欠損、ミラアルクもエルザも戦う術を失った。

 

 家族であるヴァネッサを失わずに済んだエルザとミラアルクはすすり泣きながらヴァネッサの傍に寄り添う。

 

 そして、敵として何度も交戦した響とクリスもまた、彼女達に駆け寄る。

 

「……どうして助けたの?」

「助けたわけじゃねえ……。ただ……」

 

 少し間を空けて、クリスがそれに答える。

 

「本当に今よりここに先に進もうと願うのなら、尚の事、帰る場所ってのが大切なんだと伝えたかった。あたしは考えすぎるから、きっとまた迷うかもしれない。けど、帰る場所があるから、立ち直って先に進める。それはアンタだって……!」

 

 人間に戻りたいと願った自分を捨てて、怪物として茨の道を進もうとしていたヴァネッサ。いつの間にか、失ったものに気が付いた彼女は、家族である二人を見る。

 

「もうやめるであります……!心まで怪物にしないためにも……!」

「ウチも……弱さを言い訳に、自分の心を殺すのは……もう沢山だぜ……!」

「帰る……場所……。私の家族……。あっ……」

 

 そこに、輪がヴァネッサの前に立つ。

 

「……許してほしい、なんて言わないわ」

「分かってる……。今更アンタ達を許す事はないし、この先一生、アンタ達を恨み続ける。なんだったら、今すぐにアンタを一発殴りたいのを我慢してる」

 

 たった1人の家族を奪われた輪からすれば、ノーブルレッドは憎き敵。だが強く握った拳を振り下ろしたいのを抑えている。拳の震えを、響が悲しげな目で見る。

 

「輪さん……」

「けどここにいる人間は、誰一人としてアンタ達を怪物だなんて思っていない!私もその1人!だから私は、アンタ達を怪物としてじゃなく……何処にでもいる、普通の人間(・・・・・)として!……アンタ達を、裁いてやるから!」

 

 それが、輪の答え。あの時エルザに伝えようとしていた事であり、輪の願い。

 

 人と怪物の狭間で足掻いてきた小さな三人が、せめて少しでも報われてほしいと願って。

 

 

 

 

 だが……

 

 

 

 

「っ!避け……」

 

 瑠璃が気付いた時には遅かった。避けろと言う前に、瑠璃のすぐ横を通った赤い小さな閃光が、ヴァネッサの身体を貫いた。

 

「がはぁっ!」

「「ヴァネッサ!」」

「ヴァネッサさん!」

 

 重傷を負ったヴァネッサの身を案じるエルザ、ミラアルク、そして響。

 

「敵襲か?!」

 

 翼が制御室の出入口の方を向くが……

 

「なっ……!」

「そんな?!」

 

 マリア達も同じ方を向くと、翼と同じ驚愕する。

 

「あなたは……!」

 

 杖を振り下ろし、装者達を妖しげな目で見る青い眼。身に纏うは、風鳴訃堂の屋敷で見せたバイデントのファウストローブ。

 

 瑠璃がその名前を口にした。

 

「アルベルト……!」

 

 シェム・ハによって殺されたはずの蒼き錬金術師・アルベルトの額に、シェム・ハの紋章が浮かび上がっていた。

 




次回、アルベルト(シェム・ハ眷属)戦

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