戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星   作:レーラ

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VSアルベルト戦


悲恋

まさに青天の霹靂であった。帰る場所を取り戻したヴァネッサの希望ごと殺すべく現れたのは、風鳴訃堂の屋敷でシェム・ハによって殺められたはずのアルベルトだった。

 

「アルベルト……」

「そんな!確かにあの時、シェム・ハによって……!」

 

 映像では確かにアルベルトは殺害された。あれ程の致命傷を負って生きている者はいない。

 

「違う……お前はシェム・ハ……!」

 

 エンキのホログラムには見えていた。アルベルトを支配するシェム・ハのほくそ笑む様が。

 

「じゃあアルベルトもシェム・ハの眷属に!」

 

 一度ノーブルレッドを殺し、完全な怪物として作り上げたのなら、そう考えるのが妥当だろう。輪がその真相に辿り着いた。

 

「まさか、月遺跡探査ロケットを破壊したのは……!」

「明察だ。こやつの肉体を使って、我が破壊した」

 

 種子島宇宙センターにあった月遺跡探査ロケット。それを破壊した閃光を放った犯人に、マリアは思い当たった。それを暴かれ、アルベルトの口からそう聞かされるが、口調から本人の話し方では無いのは分かる。

 

「バラルの呪詛を破壊する事こそ、我の本懐。ユグドラシルを起動し、世界のあらゆる生命を書き換え……ぐっ!」

 

 突如、アルベルトが呻き声をあげて苦しみ出す。

 

「アルベルト……?」

「ぐ……ぅぅ……!る……瑠璃……」

 

 瑠璃の呼び声に、辛うじて応えるアルベルト。まだ意識は完全に塗り潰されたわけではないようだが、押されているのは明白だ。

 

「た、頼む……!わ、私を……私を……その槍で……!」

「な、何を……」

「躊躇うな……!私は、とうに死んでいる……!私の肉体……っ……ただの人形……!」

 

 意識が残っている内に、瑠璃に自分を倒すよう懇願する。だが突然の事態に、瑠璃は戸惑うばかり。瑠璃だけではない。他の装者達にも動揺が広がっている。

 

「頼む……止めてくれ……私を……終わらせてくれ……!ぁぁっ……!ぐ……ぁ……ああああああああぁぁぁ!!」

 

 アルベルトの断末魔が響くと、その頭が垂れる。だが、直ぐにそれが上がると、再び額にシェム・ハの紋章が浮かび上がる。

 すぐさま槍の穂先から紫色の閃光が放たれ、その先にあった制御盤に直撃した。

 

「シェム・ハ……!」

「皮肉よな。お前を再臨すべく生きながらえていたこやつが、貴様の槍で葬ろうとしているのだからな」

 

 シェム・ハの口調でほくそ笑むアルベルトの表情。完全に眷属として支配された事を示している。

 

「貴様を再び、目障りなネットワークジャマーごと葬ってくれる」

「させない!エンキ達が命懸けで守ってくれたこの想いを、壊させやしない!」

「まさか……お前は……」

 

 プログラムであるエンキが、ギアペンダントを握りしめる瑠璃を見て、エレキガルの面影を重ねた。

 

 

 Tearlight bident tron……

 

 

 ギアを纏い、二本の槍を手にすると、黒槍の穂先をアルベルトに向け、エネルギー波を放つ。

 

【Shooting Comet】

 

 だがアルベルトは槍を払うだけで、それを弾いて駆ける。アルベルトが槍を突き出すと、瑠璃はそれを見を翻して避け、槍を振るう。

 

「瑠璃に続け!」

 

 翼の号令で他の装者もアルベルトに攻撃を仕掛けようとするが……

 

「邪魔だ……!」

 

 アルベルトの左手から紋章が浮かぶと、瑠璃とアルベルトの周囲に青いハニカム構造の障壁が展開される。

 

「フィーネの力と同じデスよ!」

「待って……!何か違う……!」

「ヤバい!瑠璃が閉じ込められる!」

 

 フィーネの力を目の当たりにしたことがある切歌と調はその違和感に気付くが、少し遅かった。

 

 輪はすぐに瑠璃の元へ走るが、目の前で分断されてしまう。

 

 次第にバリアが巨大なドームを形成し、使用者諸共、瑠璃を閉じ込めた。

 

「私達を分断する為に……!」

「姉ちゃんを出せえぇ!」

 

 目の前で家族を分断された翼とクリスが斬撃とミサイルを放つが、ひび割れることなく、ただ煙幕だけが残った。

 

 マリアの蛇腹剣、切歌の大鎌、調のヨーヨー、輪のチャクラムで一斉に仕掛けても傷一つ付けられない。

 

「これ、私のやつより一回り強力になってる……!」

「これもシェム・ハの力ってやつデスか?!」

 

 外からでは完全に破壊する事が出来ないバリアを前に、輪達はただ、中に閉じ込められた瑠璃の勝利を祈るしかない。

 

 バリアの中に障害物はなく、いるのは瑠璃とシェム・ハの眷属となったアルベルトの二人だけ。バリアによって、外からの援護は望めない。

 

 瑠璃の二叉槍とアルベルトの槍、同じバイデント、もといエレキガルの槍から作られたギアとファウストローブのぶつかり合い。

 

 まさに正真正銘、互いの生死を掛けた決闘。

 

「やああぁぁ!」

 

 瑠璃が黒槍と白槍を振るい、アルベルトの槍が受け流しては突き、それを避けては飛び、黒槍と白槍の穂先にエネルギーを充填、それを十字状の斬撃を放つ。

 

【Crossing Gemini】

 

 その斬撃を槍を振り上げて弾く。そして、槍の穂先を瑠璃に向けると、そこから紫色の炎弾が機関銃の如く連続発射する。

 

 空中では避けようがないが、瑠璃は二本の槍で弾いてやり過ごす。だが着地の隙を見逃さないアルベルトは槍を振り下ろすも、瑠璃は二本の槍で防御する。

 

(強い……!同じ槍で作られているのに……力も技も、何もかも向こうが上……!)

 

 同じ聖遺物で作られたもの同士がぶつかれば、あとは本人の技量次第。シェム・ハに支配され、その力も最大まで引き出されている上に、アルベルトは数千年も生きて戦いを重ねてきた分、どちらもアルベルトが優位に立っている。

 

 だがそれでも瑠璃には負けられない理由がある。

 

「はあぁっ!」

 

 輪譲りのヤクザキックでアルベルトを蹴飛ばす。二人の距離が開き、体勢を立て直そうとする瑠璃だった。

 

「うっ……!」

 

 突如、激しい頭痛に襲われ、頭を抱える。

 

「こ、これ……あの時と同じ……でも……!」

 

 バルベルデの記憶が蘇ろうとした時と同じ現象、過去の記憶のヴィジョンが蘇る。既にあの地獄の記憶は蘇ってからは一度も起きなかったが、ここに来て再発してしまう。

 

 だが今度の記憶は、どこか違う。実際に瑠璃には覚えのない記憶なのだが。頭痛もすぐに収まり、それどころか懐かしさを感じてしまう。

 

「この記憶……っ!」

 

 だが呆ける余裕はここにはない。槍の穂先から放たれた炎弾が迫る。

 

 咄嗟に槍を突き、相殺してみせるが目の前に黒い槍が床に刺さる。

 

「これは……っ!」

 

 だがその一本だけでなく、背後、左右と瑠璃の周囲を囲うように槍が突き刺さる。

 

「しまった……!」

「手遅れだ……エレキガル」

 

 この槍は檻の役割だと気が付くも、周囲の槍に強力なエネルギーが増幅され、赤い光を放つ。それが臨界まで達した瞬間、全ての槍が爆破された。

 

 いくらギアを纏っているとはいえ、至近距離でくらえばタダでは済まない。

 

「呆気ない……っ?」

 

 アルベルトを通してほくそ笑んだシェム・ハだったが、爆破による煙が晴れると、黄金のバリアを纏って立っている瑠璃の姿があった。

 

「それは……!」

 

(エレキガルの魂と一体化した私なら、この槍の力を引き出せるかもしれない!それを、このアマルガムで!)

 

 ターゲット(アルベルト)を真っ直ぐ見て、アマルガムを纏った瑠璃は手を頭上に掲げる。

 

 黄金の花弁が輝きを放ちながら舞うと、黄金の穂先が螺旋状にうねり、穂先が二つある、刺々しくも神々しいランス状の二叉槍が黒と白、それぞれ一本ずつ形成される。

 

「異端の玩具が……!」

 

 アマルガムを展開させたバイデントのギアを忌々しく睨み、再び槍の分身体を展開して一斉掃射する。

 

 だが瑠璃は怯みもせず、右手の黒い二叉槍を突き出すと、黒いエネルギー波が放たれ、槍の分身体を全て吹き飛ばす。

 

「馬鹿な?!」

 

 アルベルトが狼狽えた隙を、瑠璃は見逃さない。すぐさま接近し、黒い二叉槍を振り下ろすも、槍で受け止められた上で押し返される。

 すぐさま瑠璃は白い二叉槍を突き出し、槍の穂先で二叉槍の軌道を逸らす。瑠璃とアルベルトの槍が何度も躱され弾かれ、鍔迫り合う。

 

(この感覚……前にも、二人で……)

 

 刃が交え合う度に思い返される古の記憶。女神と神官の剣戟。

 

(そうだ……私は、これを体験してる。アルベルトと何度も……いや、そうじゃない(・・・・・・)!)

 

 

 何を寝ている、立て■■■!

 

 

 女神が口にした名前。それは神官に向けて呼ばれたもの。アルベルトの正体が、エレキガルに仕えていた神官であれば、それこそがアルベルトの本当の名前という事になる。

 

(あなたの……本当の名前……)

 

 まだ記憶に朧気な部分はあり、まるでノイズに遮られているかのように聞こえる。だがエレキガルの槍を通じて、少しずつ鮮明になりつつある。

 

 だからこそ、この悲しき戦いを終わらせなければならない。

 

 鍔迫り合いを解き、距離を取った瑠璃。それぞれの二叉槍にエネルギーを充填、それぞれの槍の穂先に神々しい光と禍々しい闇が集まる。

 

(ごめんなさい……あなたを救う為には……もうこれしか……!)

 

 瑠璃が高く跳躍すると、それぞれの手に持つ二叉槍を一気に投擲する。放たれた二つの槍は高速で回転しながら、その軌道が螺旋状となったそれは1つとなってアルベルトに向かう。

 

「破砕してくれる!」

 

 槍の穂先が紫色の閃光が輝き、それを突いて二叉槍に向かって刺突、槍同士がぶつかり合う。

 

「ぐっ……何だ、この力は?!」

 

 攻撃に特化したアマルガム・イマージュの威力が、徐々にアルベルトを追い詰めていく。やがてアルベルトの持つ槍が耐えきれなくなり……

 

 

 

 

 ガキィン!

 

 

 

 

「な……っ……!」

 

 二叉槍と接触した槍の穂先が耐えられなくなり、粉々にされる。身を守るものが無くなったアルベルトの目の前で爆発した。

 

 

【GRAND X】

 

 

 爆破した衝撃で吹き飛んだ二本の二叉槍を手に取ってアルベルトに向かって駆け出す。

 

「その支配を断ち切る!」

 

 瑠璃は黒い二叉槍を突き出し、アルベルトの身体を貫いた。

 

 

 


 

 

 我が主は、元々威厳とは程遠いくらい優しい目をしていた。

 

 非業な死を遂げた魂を見る度に、誰にも見せないよう彼女は哀れんでいた。

 

 だが裁く者として、一切の私情は許されない。

 

「主……」

「ごめんなさい」

 

 私は見ていられなかった。心根の優しい本来の主を、主自身がそれを殺して冷酷な主を演じなければならない。

 

 そんな主を憂いた私は、独断でエンキに攻撃を仕掛けた。

 

 だが、私は弱かった。そんな私が、エンキに勝てるはずもなく、無様な敗北を喫した。私は、エンキに裁かれる事を覚悟した。

 

「……殺せ!」

「いや……君の言い分は間違っていない」

 

 そう言うと、彼は剣を納めた。

 

「エレキガルには、気の毒な事をした」

 

 エンキは我が主の叛逆計画について勘づいてはいた。だが我が主は巧妙にその証拠を隠匿していた。故にエンキも手を出す事が出来なかった。

 

 だが、真実と真意を知った事で、エンキはこの件を不問にした。

 

「これからは、エレキガルと共に、地球の命を……」

「エンキ様!急報です!」

 

 そこにエンキの手下が慌てて入って来た。

 

「冥府の神殿が攻撃を受け、交戦中との事!」

 

 その急報に、私は絶句した。急報を伝えた兵の胸ぐらを掴んで問い詰める。

 

「一体何が起きたんだ?!」

「そ、それが……シェム・ハ・メフォラシュが、エレキガルへの攻撃を!」

 

 それが引き金となり、私の心は恐怖に陥った。何故シェム・ハが我が主を襲ったのかは、この時には知る由もない。だが、私はすぐに神殿へと走った。

 

 だが神殿に辿り着いた時は、既に辺りは静寂だった。得体の知れない恐怖に、私は心が壊されそうになるも、主を探した。

 

 神殿を片っ端から走って探す。主の勝利を信じて。

 

 そして、裁きの場である玉座の間の扉を開けた。

 

「主!ある……」

 

 裁きの間の中心で、血の池の上に倒れていたアヌンナキ。目の前の光景を目の当たりにした私は酷く狼狽えた。

 

 その血の池にされていたのは……

 

 

「主ぃ!!」

 

 

 心臓を貫かれて、血は既に多く流れていた。止血しようにも、もう手の施しようがないのは見て分かる。だが、諦められなかった。

 

「主……!気をしっかり……主……!」

「……っ……あなたは……」

 

 微かに息はまだある。だが、もう間もなく命の灯火が消えようとしていた。

 

「シェム……ハ……ユグドラシルを……」

「喋ってはいけません!血が……」

 

 主の死が定められている事が受け入れられず、涙を流して足掻こうとした私に、主は首を横に振った。

 

「時間が……ない……」

 

 すると、主の右手から禍々しくも神秘的な二叉槍が姿を現す。

 

「この槍に……魂を宿す」

「え?」

「ユグドラシルを、シェム・ハを討つ為……この槍に………魂を……」

 

 この段階でも、槍には禍々しい力を感じさせる。何故魂までもを込める必要があるのか、私には分からなかった。

 

「それで……私の肉体は滅びる……」

 

 魂の無い肉体は抜け殻と同じ。肉体的な死を迎える前に精神的な死が訪れる。槍に魂を宿せば、もう二度と主に会えなくなる。

 

「主……私は……」

「いつか……また会える……。その槍を……真に支配する、人間を……その時に……」

 

 槍に魂を宿す真意を悟った私は、涙を流した。また会える……その言葉が、私を救ってくれたから。主の手を握って、私は誓った。

 

「約束します……私の愛は……永遠にあなただけに……!どんなに時が経とうと、私はあなただけを愛し続けます……!いつか……いつかきっと……あなたとまた会える時が来ると信じて!」

 

 それを聞いた主は、満足そうに笑みを浮かべた。すると、槍を握る右手に最後の力を込める。

 

 その瞬間、主の身体に燐光が纏う。少しずつ主から力が抜けていくのが分かる。

 

 

「主……」

「また……会う日まで……」

 

 

 

 

 

 

 さようなら

 

 

 

 

 

 

 その言葉を最後に、主の肉体は動かなくなった。

 

 


 

 

 アルベルトの口から吐き出された血が瑠璃の頬に掛かる。

 

「あっ……!」

 

 その時、瑠璃の、もといエレキガルの記憶が蘇った。あの時、槍に魂を宿した最期の日を。瑠璃の両目に涙が溢れて零れ落ちた。

 

「があああああぁぁぁ!!」

 

 アルベルトを支配しているシェム・ハの断末魔が、バリアのドームを壊して遺跡中に響く。

 

「な、何これ?!」

「お、おい!どうなってんだ?!」

 

 中の状況がようやく見えると思いきや、その中心は爆発の衝撃による煙と、耳障りな断末魔。静観する事しか出来なかった装者達は耳を塞ぐ。

 

 次第に断末魔は消え、煙も晴れた。

 

「あれって……!」

 

 そこにいたのは、瑠璃によって倒されたアルベルトと、それを見下ろす瑠璃。瑠璃が仲間達の方を見ると、頬には返り血、両目からは涙が流れていた。

 




本物の瑠無・ミラー

瑠無に化け、S.O.N.G.を翻弄したアルベルト。だが本物の瑠無は存在する。

いや、存在した。

元々は櫻井了子と同じ、考古学者であり医学にも通じる秀才だった。アーネンエルベに所属し、そこで聖遺物の研究していた。

アルベルトと共同でバイデントの研究をしており、その時に親交を深めていた。

だがバイデントのギアの起動実験で、大事故が発生。その災害に巻き込まれ、非業の死を遂げた。
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