瑠璃と輪の行く末を、最後まで見守っていただければと思います!
(あれ……ここ……)
気がつくと、輪は暗い海のような空間にいた。だがこういう経験を何度もしているお陰か、ここが何処なのか検討はついた。ここが自身の深層意識の世界だと。
(あれって……)
上を見上げると、眩い光が発せられている。手を伸ばそうとするが、届かない。光まで浮かび上がろうとするが、身体に力が入らない。
(ああ……。力……全部使っちゃったんだな……。身体に力が入らない……。このまま、死ぬんだろうな……)
下は暗く、何も見えない。このまま沈んでいけばたどうなるか、予想はついていた。
フィーネの力を限界まで使い、無意識とはいえ黄金錬成までやったのだ。その代償は人間の身体が耐えられるものではない。
次第に、暗い海の底へと沈むかのように輪の意識は落ちていく。
(けど……もう良いかな……。十分……唄いきったし……。後はみんなか何とかしてくる……。それにしてと……何だかすっごく、お腹空いた……)
永遠の眠りにつこうと瞼をゆっくり閉じ、そのまま身を委ねようとしていた時だった。
「何を寝惚けたことを言っている」
それを許さぬ者が一人、輪の腕を掴み上げる。驚いた輪の瞼は思い切り開いた。
「キャロル……?!」
「やれやれ……たかが裏切り者に、ここまで世話を焼く事になるとはな」
何故キャロルが自分の精神世界にいるのか問おうとするが、キャロルはそれを聞くつもりはない。
「帰るぞ。お前の居場所はここではない」
今まで自分の為に戦ってきたキャロルの口から、ぶっきらぼうながらもそんな事が聞けるとは思わず、少し驚くも嬉しそうにする。
「……キャロルの口から、そんな言葉が聞けるなんてね」
「っ……!喧しい!いいからさっさと来い!」
言った事に今更恥ずかしくなる。それでも輪の腕を強引に引っ張りあげ、輪を抱きとめた。
だがキャロル自身の力も残り僅かであり、この深層意識の世界から抜け出そうにも、輪を抱えながら真上の光を目指すどころか、キャロルも少しずつ暗い底へと沈もうとしている。
「けどキャロル……帰るって言ってもどうやって……?身体がもう言う事聞かないし……このままじゃアンタまでこっちに……」
「分かっている。だから……こうする」
「何を……っ!」
いつか、あの時と同じシチュエーション。キャロルが強引に輪の唇を奪う。
またこれかと半ば呆れる輪だったが、こうなったキャロルを、今の輪に何か出来るわけではない。黙って受け入れるしかなかった。
気が済んだのか、キャロルは唇を離してやる。
「アンタと初めて会った時も、こんな感じだったね……」
「お前は裏切り者として利用してやった……。それが、こうなるとはな……」
「こうなるって……え?」
セリフの違和感に気がついた時、?輪を掴む手の力すら抜けていくのが分かった。
「オレの思い出全部、お前の生命エネルギーに換えてやった……。これで助かるはずだ……」
完全に力を失い、今度はキャロルが底へと落ちようとしていた。
「待ってよキャロル!」
キャロルの手を掴んだ途端、彼女の身体が燐光に包まれる。
「アンタ、私を助ける為に……それじゃキャロルが……!」
「勘違いするな。これはオレ個人が望んだ選択だ。エルフナインも、許してくれたよ」
心優しいエルフナインが、そんな事を許すはずがない事は分かっている。そんな嘘を見抜けない輪ではない。
「分かりやすい嘘つくなよ!エルフナインだって……アンタが消えて欲しくないのは分かってんだし!それを……」
「お前なら、命を懸けてでも助けてもいい……。まったく我ながら、似合わない事を……」
「カッコ、つけんなよ……今更……アンタが……」
いくら悪態をついても、泣きじゃくって上手く言えない。まだまだ言いたい事はいくらでもあるはずなのに、涙が邪魔をしてしまう。
そんな輪の涙を僅かな力で拭ってやる。その手も透けていて、間もなく消えてしまう。
「ありがとう……出水輪……」
キャロルが笑みを浮かべた時、その身体は暗い闇の底へと沈みながら完全に消えてしまった。
「キャロル……!」
キャロルーーーーーーーー!!
前線基地で安置されていた輪の回復を願い、エルフナインは輪の手を強く握っていた。
(キャロル……輪さん……)
キャロルが輪に生命エネルギーを吹き込もうとする直前、エルフナインは止めようとした。
『そんな……そんな事をしたらキャロルは!』
「だろうな……。だが、こいつは元々巻き込まれたに過ぎん」
初めて会った時、輪の思い出を覗いたから分かる。一見強気に振る舞っていても、輪の中には負の感情が燻っていた。
理不尽に巻き込まれ、周りからは蔑まれ、その果てに恋人や家族を失った悲しみと怒り。それは何をしても拭える事ではない。
故に、キャロルはかつて父親を失い、涙していた過去の自分と重ね合わせてしまう。
その果てに、仲間を守った代償として命が終わろうとしている。
「ここまで耐え忍んで、得られたものがあったとしても、こんな結末、オレ自身が許せない」
キャロルの真意を、エルフナインはただ黙って聞いていた。
「だから、頼む。止めないでくれ……」
『キャロル……』
止められなかった。キャロルと輪、エルフナインにとって、どちらの命も大切であり、その二つを天秤にかける事は出来ない。
だから止める事が出来なかった。
「また……逢う日まで……」
涙を流しながらそう言うと、輪の瞼がゆっくり開いた。輪も涙を流していた。
「キャロル……」
「輪さん!」
処置は上手くいった。エルフナインは涙を拭う。その時、輪は起き上がろうとしていた。
「ダメです輪さん!まだ寝ていなきゃ……」
「キャロルに……託されたんだ……。だから……」
「だけど……そんな身体で!」
エルフナインの言う通り、輪は先程まで生死の境を彷徨っていた。キャロルが生命エネルギーを吹き込んでくれたとはいえ、あれだけの荒業を用いた後で、満足に動けるわけが無い。
「ならエルフナイン。伝えなきゃ行けない事がある」
輪はエルフナインに、ある事を告げた。
一方まだ動ける装者達は、ギアを纏ったままユグドラシルの直上にて前線基地にいた本部に通信している。
「目視にて状況確認」
「本部。シェム・ハが倒れてもユグドラシルはまだ生きている!」
『なんだとぉ?!』
ユグドラシルの真上は筒のようになっていて、その真下が巨大な洞穴になっている。だがその壁にはまるで血管のように蔓延るエネルギーラインが生きている。
エレキガルの眼を使ってユグドラシルを見ていた瑠璃には、その巨木から発せられる僅かな痕跡が見える。
「このユグドラシル、間違いない。シェム・ハの力の残滓がある。知らない内に、ユグドラシルのシステムすら作り替えて……!」
しかも世界各国のコンピュータが限界を迎えるかのように爆発している。シェム・ハの力を、防護障壁にて何とか抑えていたが、それが破られるのも時間の問題だった。
司令として、弦十郎が指示を出す。
『潜航したユグドラシルをメインシャフトと仮定!中枢部を破壊して、惑星環境の改造を食い止めるのだ!』
「中枢部を壊せば、ユグドラシルは完全に機能を停止する!それが出来るのは、私達だけ!行くよみんな!」
瑠璃が勇んで、真っ先にユグドラシルの中枢に飛び込む。
「瑠璃に続け!」
「ったりめえだ!」
翼、クリスも瑠璃に続き、他の装者達もユグドラシルの中枢へと入る。
ユグドラシルの中はかなり深く、その距離は1万を超えてもまだ中枢部が見えない。想定はしていたが、時間制限がある以上、どうしても焦りを隠せなくなる。
さらに、悪い知らせは終わらない。下からシェム・ハが生み出した神造兵器達の群れが、その先を埋め尽くす数で出現した。
「しゃらくさいのが雁首揃えて!」
「まだ立ち塞がるつもりなの……シェム・ハ……!」
「だけど今のコンディションでは……」
マリアの言う通り、シェム・ハとの戦いで殆ど消耗してしまった装者達にはフルスペックで戦える程の力は残されていない。
唯一の例外であり、エレキガルの真の姿となった瑠璃も、これには苦い表情で見ている。
「もたもたしてたら、この地球は……!」
「知らない星に作り替えられちゃうのデス!」
「やるしかない……!」
瑠璃が二叉槍を天に掲げようとしていた時だった。
Rei shen shou jing rei zizzl……
詠唱とともに、真上から紫色の閃光が雨のように降り注ぎ、神造兵器を一機も残らず殲滅させた。
この歌を唄えるのはただ一人。神獣鏡のファウストローブ身に纏い、響達を追い掛ける。
「未来!」
「私、これ以上響の背中を見たくない!響の見てるものを、一緒に並んで見ていきたいの!だから!」
『間に合いました!』
さらに通信からエルフナインの声が聞こえる。
「エルフナイン!これは……」
『未来さんは問題ありません!先程、輪さんも目覚めました!』
「輪……!」
誰よりも輪の無事を祈っていた瑠璃が安堵する。
『先程、アルベルトさん……いえ、コーダさんが遺したデータを解析して、ユグドラシルの破壊方法が判明しました!』
コーダがマリアに託したチップのデータ。だが肝心な所はパスワードでロックされていて、固く封印されていた。
そのパスワードは、輪がエルフナインにアルベルトの真名《Coda》と伝え、それを打ち込んだ事で、全てのロックが解除された。
そこから先の説明は未来が請け負う。
「この先にある中枢部を壊しても、増殖したユグドラシルのいずれかが管制機能を獲得し、稼動は止められないみたいなの」
「つまり新たなメインシャフトが誕生し、そいつがどれかわからなくなるのか!」
『なので、ここがメインシャフトと仮定できる今、中枢をフォニックゲインで制御し、全ての幹を同時に爆破伐採するしかありません!』
「フォニックゲインで?だが私達は、一度チフォージュ・シャトーの起動にも失敗して……」
今は響がいるが、それでも翼は懸念を拭えない。
「だからキャロルは、未来さんを救おうとしていたのです!」
だが諦めるにはまだ早い。エルフナインが続ける。
「7つの惑星と7つの音階、世界と調和する音の波動こそが統一言語。七人の歌が揃って踏み込める神の摂理。先史文明の最後の人間であるコーダさんは、それらを僕達に託したんです!同時にそれは、世界を識れというパパからの命題に対する、キャロルなりの回答です!」
コーダとキャロル、立場は違えど考えは偶然とはいえ合致していた。
「じゃああの時、神殺し無しでシェム・ハの埒外物理が通ったのも……」
「そういうことだったのか!」
『ですが、それだけでは足りません!』
統一言語、神の摂理に踏み込めたとしてもまだ足りない。何が必要なのか、マリアが問う。
「他に何か必要なの?!」
「シェム・ハの手に渡り、その支配下に置かれたユグドラシルに宿った魂を完全に消滅させない限り、またシェム・ハは蘇ってしまいます」
シェム・ハの魂がユグドラシルに根付いて閉まっている以上、例え神殺しを用いたとしても、増殖したユグドラシルに宿り、いつの時代か再びシェム・ハが蘇る可能性がある。
「なので、中枢部に鍵を差し込む必要があります!その鍵こそが、全てに宿る魂を掌握する冥府の槍……エレキガルの槍です!」
「この槍が……あっ……」
遂にユグドラシルの最深部、メインシャフトに到達した。そこは月遺跡の中枢部と同じ構造に似ている。
「あれが……」
メインシャフトの中心部にある制御装置を見つけた瑠璃は、そこに手を翳す。すると、制御装置が開き、その中央に窪みのような穴が現れる。
「間違いない……ここに槍を……!」
槍を強く握り締め、窪みに槍を鍵のように差し込んだ。そこを中心に、メインシャフトのエネルギーラインが藍色に光り始める。
確信した瑠璃は振り返る。
「7つの惑星と7つの音階、そして我が槍、ここに全ての鍵は揃った!」
「だったら何も迷わない!信じよう!胸の歌を!」
「私も響と!みんなと一緒に!」
響達7人のシンフォギア装者が唄い始める。
ここまでの道のりはあまりにも過酷で険しいものだった。
残酷な運命を前に絶望し、闇に堕ちた事もあった。それでも絆という道標があったからこそ、立ち上がる事が出来た。自分を強くしてくれた。
元々戦いとは無縁だった少女は、歌と出会った。大切な陽だまりと一緒に歩んできた日々と、繋いで来た手はとても暖かいものになった。
戦う事を運命づけられ、他者を守る為に己を殺し続けてきた少女も、星となった友と父に向き合えるくらいに強くなった。
平和の願いを踏み潰され、利用され、歌すら信じられなかった少女は、人と繋がる事の温かさを知り、本当に歌が好きなんだと思い出し、歩んでいく。
偽りを重ね続け、弱さを隠し続け、己を奮い立たせた少女。弱さを受け入れた今、もう迷いはない。
未熟さ故に、誰かを傷つけてしまう日々に苦しんだ小さな自分。そんな思いを誰かにさせたくないから、彼女は優しさを忘れない。
お気楽と言われてもいい。何も背負ってなくても、生きていける。これからも誰かが1人で苦しんでいるなら、迷うことなく共有するだろう。
(バラルの呪詛……繋がりを隔てる呪いさえなくなれば、この胸の想いは全部伝わると思ってた。だけど……それだけじゃ足りないんだ)
ずっと伝えたくても伝えられなかった。その苦悩に悶え、1度はそれを利用された。だがもう躊躇わない。この先にある未来の為に、伝えると決意した。
(今なら分かる気がする。何で7つのシンフォギアが作られたのか、槍をシンフォギアとして作ったのも……)
瑠璃が両手を空に伸ばした。メインシャフトに、7人の歌によって解き放たれたフォニックゲインで満たされていく。それにエレキガルの槍が共鳴し、これまで出会い、命を落としていった魂達が姿を現す。
真実を伝えられず、手を取り合う事が出来なかったエンキとフィーネが、5000年の時を経て手を取り合った。
マリア、調、切歌の前にナスターシャ教授が母親のように微笑み、隣には三人の姉であるジャンヌ。そしてその手を繋いでいるメルが手を振っている。
その3人の後ろにはDr.ウェルが素っ気なく手を振っている。
サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティのパヴァリアの幹部三人、響達を助ける為に命を懸けて散ったヴァネッサ、ミラアルク、エルザの三人もいる。キャロルとイザークが手を繋いでいる。
翼の前には天羽奏と八紘、マリアの前にはセレナが姿を現した。
瑠璃とクリスの前には両親が現れる。その隣にはひょこっと輪の姉である小夜が軽く手を振っている。
そして、瑠璃の前に現れた最愛の人、コーダ。白髪の青年の姿で微笑み、瑠璃は涙を流した。
(ただ繋がりたい……その想いが今、時を超えて、全ての人類が絆を繋ぐ奇跡となる。それが……アヌンナキからの脱却、人類の独立!)
歌もいよいよ、フィナーレとなる。姿はみえなくなっても、多くの魂が見守っている。人類の未来を、繋がった絆の強さを。
「七人の歌で」
「みんなの歌で」
「この奇跡は、私達の軌跡だ」
「繋いだ手だけが紡ぐもの」
「強く、尊く、儚いもの」
「未来に響き渡らせる為に!」
絶唱を唄い終え、中枢にそびえ立つ7つの結晶が虹色へと変わる。
終わりを告げる時だと、瑠璃は鍵となった槍を改めて強く握り、地球に残った最後のアヌンナキとして高らかに宣言する。
「これが私達の!」
絶唱だあああああああぁぁぁぁーーー!!
ガチャリと槍を鍵のように捻る。結晶から7本の光柱が放たれ、中枢の装置に注がれたエネルギーが漏れだす。中枢の地は割れ、壁とともに同時に爆発が起こる。
7人のフォニックゲインが、エレキガルの槍を通して増殖したユグドラシル全てに流入。宿っていたシェム・ハの魂が断末魔をあげながら、共鳴するように世界各国に根付かれたユグドラシルの幹が沈んでいった。
ユグドラシル中枢から脱出するべく地上まで飛ぼうとする装者達だが、ギアの損傷は著しい。次第にギアの損壊は大きくなっていた。
「このままじゃギアが!」
「持ちそうもないのデス!」
「っ……!」
悪い予感のように、シェム・ハの魂を察知した瑠璃が下を見ると、迫り来る爆煙の中からまるで執念深く動き出した亡霊の如く、シェム・ハが姿を現し、その両腕を伸ばした。
「シェム・ハ……!あなたは……!」
だが不思議と、そこからは憎しみも敵意も感じられなかった。
すると、ギアがとうとう耐えきれなくなり、粒子となって砕け散った。飛べなくなった装者達は落ちていくしかなく、シェム・ハの手に捕まった。
気がつくと、響と未来は暗い闇の中にいた。その目の前にはシェム・ハが本来の姿で問いかける。
「答えよ。なぜ一つに溶け合うことを拒むのか……?」
「私達は簡単に分かり合えないからこそ、誰かを大切に想い、好きになる事が出来る。その気持ちは誰にも塗り潰されたくはない!」
「それが原因で、未来にまた傷付き、苦しむことになってもか?」
それを知っている未来には反論出来なかった。だが隣には響がいる。響が未来の手を取る。
「だとしても、私達は傷付きながらも、自分の足で歩いて行ける。神様も知らないヒカリで歴史を創っていけるから」
響の答えを受け止めたシェム・ハは、満足そうに笑みを浮かべた。
「なるほどな。これがお前が伝えたかったことか……エレキガル」
響と未来の後ろにいた瑠璃を見て言った。
「私も最初はそうだった。誰かと繋がる事の出来なかった私は、壊す事しか表せなかった。コーダと出会って、それが大きく変わった。繋いだ絆は何処までも続いていき、やがては大きな愛になる」
瑠璃の後ろにはクリス、翼、マリア、調、切歌もいた。
「人っていうのはね……強いんだよ、シェム・ハ」
瑠璃が微笑んでそう言った。
「ならば責務を果たせよ。お前達がこれからの未来を司るのだ」
シェム・ハは満足そうに消えていった。
「これで、全部終わったんだな」
クリスが瑠璃に言うが、首を横に振られてしまう。
「まだだよ」
「まだって……どういうことだ?」
翼が瑠璃に問う。
「人類は、アヌンナキから脱却を果たす。だけどまだ、アヌンナキの魂は残っている」
「……まさか!」
クリスがその意味に気付いてしまった。いや、気付いたのはクリスだけではなく、全員だ。
「ダメだ姉ちゃん!姉ちゃんはアヌンナキの魂があったとしても、姉ちゃんは姉ちゃんだ!一緒に帰ろう!な?!」
「雪音の言う通り、お前までも消える必要は無いはずだ!」
「そうよ!輪はどうするの?!あの子に黙って消えるなんて、あの子が悲しむわ!」
「瑠璃先輩が犠牲になるなんて間違ってる!」
「そうデスよ!一緒に暮らせば良いだけデス!」
皆が瑠璃を止めようとしてくれる。だがだが、それでも瑠璃は申し訳なさそうに言った。
「ごめんね……今の私は、まだそっちに帰るわけにはいかない」
「そんな……」
クリスが瑠璃の肩を掴む。
「また……あたしを置いていくのかよ……?!また、1人にする気かよ?!」
クリスが泣きながら瑠璃に悪態をつく。バルベルデでも、ルリの犠牲によってクリスは最悪な結末を避ける事が出来た。だが代償として、瑠璃は心が壊れてしまった。
同じ思いをするのは嫌だ。クリスは涙を流した。
「そんなんじゃないよ、クリス」
そう言いながらクリスの手を優しく包む。
「今の私は、アヌンナキの魂を返す為に……今からちょっと旅に出る」
「姉……ちゃん……」
そう言うと、クリスの目を見て言う。泣きそうになるクリスを、瑠璃は抱きしめた。
「ごめんね。また少しの間だけ……離れ離れにさせちゃうね……。ダメなお姉ちゃんで、ごめんね」
「姉ちゃん……」
堪えきれずに涙を流した。仲間達の目もはばからず泣くクリス、瑠璃は続けた。
「だけどね……これだけは信じてほしい。絶対に、帰ってくる。だから、それまで……私の帰りを待っていてほしい」
旅の終わりは、いつになるか分からない。もしかすれば、果てしなく長い旅になるかもしれない。
クリスはすぐには答えられなかった。だが……
「信じよう、クリスちゃん」
響がクリスに声を掛けた。
「嘘ではないんだな、瑠璃?」
翼が瑠璃に問う。
「うん。約束するよ」
「……なら、信じましょう」
「絶対デスよ!」
「クリス先輩だけじゃありません。皆待ってますから!」
マリア、切歌、調は瑠璃を信じて待つ選択をした。翼も頷いた。
「ちゃんと伝えよう、クリス」
同じ後悔をさせたくない未来が、声を掛ける。クリスは涙を拭って顔を上げた。
「絶対、帰って来いよ!」
「うん。これで、安心して行ける」
すると、瑠璃の身体が光に包まれる。その光は眩く、クリス達は目を開けられなかった。
「さよならなんかじゃないよ。今度は瑠璃-ルリ-として必ず帰って来るから……約束だよ!」
光は7人を包み込み、空へと送り届けた。
「シェム・ハ……皆をお願いね……」
ここにはいないシェム・ハに、仲間達を託した。
最後の一人となった瑠璃、これまでの道のりを思い返す。
記憶を失い、戦いに苦しみ、裏切られ、悪夢に嬲られ、果てには神の魂と1つになった。
それでも乗り越えられたのは、仲間と繋いだ絆があったから。独りじゃないと知ったから、瑠璃はここまで強くなれた。
今度の旅は、誰かと共に歩んでいけない。正真正銘、自分一人の旅。だが今の瑠璃に恐れはない。瑠璃はエレキガルの槍を召喚、それを手にする。
「1つになった魂は……在るべき場所へと還る」
槍の穂先を、自分に向けた。
「この先、神の魂はいらない。悲しい魂の旅路はお終い。今度は……この星の未来を、一緒に見届ける為に……!」
槍を力いっぱい引き寄せ、自分の身体を貫いた。二つの穂先が自分の身体に穴を開け、その先端から血が滴る。吐血する瑠璃。
次第に身体は砂のように崩れ落ち、粒子となって消えていく。
だが不思議と痛みも恐怖も感じられない。空を見上げるその顔は、穏やかなものだった。
「行こう……待ってる……」
粒子の中から藍色に輝く光の玉が露出。それは炎を纏い、天高く飛んでいく。
そして、それは藍色と紫色のそれに別れ、2つの光は違う方へ、それぞれの行くべき所へと飛んで行った。
ユグドラシルの中枢があった大穴から黒い炎が逆巻いていた。遠く離れた前線基地からもそれは目視で観測されている。
弦十郎を始めとする、本部にいた主たる面々が車で向かう。輪もその車両に乗って無事を祈っている。
「瑠璃……皆……」
緒川の肩を借りなければ立つことすらままならない状態だったが、仲間が傷ついてでも戦っているのに、自分だけ寝ていられないと、同行を願い出た。
「あれって……!」
黒い炎から砂のような巨大な両手が現れた事に気づいた。その手が地上に降り立つと崩れ落ち、その中から響達7人が降ろされた。
炎が消え、深紅に染まった空は元の藍色の夜空に戻った。
「大丈夫か?!」
現場に到着した弦十郎が響達に駆け寄る。気が付いた響達は起き上がった。
「師匠……シェム・ハさんが……繋ぐ大きな手が、私達を……」
「ああ……皆が繋いだ、明日の世界だ!」
夜空の向こうから登った夜明けの光が、人類を照らした。だが……
「ねえ……瑠璃は?瑠璃はどこにいるの?」
緒川の肩を借りている輪が瑠璃を探して辺りを見回すが、その姿は見えない。クリスに声を掛けるが、輪を見ようとしない。
「ねえクリス、瑠璃は?瑠璃は……っ……!」
黎明の光を見るクリスの頬から伝う涙。それが何を意味するのか、輪は悟った。
「まさか……」
風鳴瑠璃ー雪音ルリー はこの日、世界から消失した。
長かった悲しい魂の旅は、終わりを迎えた。
平和な日常を取り戻した少女達だったが……たった1人、大切な人がいなくなった。
夜空を失った日常に、皆は何を思うか。
流星群が降り注ぐ、静寂な空。そこに何を願うか……
次回、戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星 最終回
「還る場所へ」
この絆は、決して放さない。私が繋いだ奇跡……みんなと一緒に……