いよいよ瑠璃のターニングポイントとなるあの場所に向かいます。
二課の本部では誰もが驚嘆を隠せなかった。
司令の娘である瑠璃が、何の武器を持たない彼女が戦場に迷い込んでしまう事に、誰一人として予想できるわけがない。
「まさか、今夜の流星群を観測する場所がそこだったとは!」
特に一番驚いている弦十郎も、今回の事は完全に失念していた。すぐに戻るようスマホで着信を掛けるも、瑠璃は出る様子は無くどんどん進んでしまう。このままでは戦闘区域に入ってしまうのも時間の問題だった。
「車を出せ!!直ちに現場に急行するぞ!!」
焦った様子で指示を出す。だが藤尭がここで口を出す。
「し、しかし司令!ですがそれでは指揮系統が……」
「娘が危機だというのに、黙って見ていられるわけがないだろう!!」
「落ち着いて弦十郎君!」
弦十郎の前を櫻井了子が立ちはだかった。
彼女は響と翼が着用しているパワードスーツ「シンフォギア」を作った櫻井理論の提唱者。専門は考古学であるが、メディカルチェックも担当してる才色兼備の美女。といいたいのだがマイペースな気質。
唯一弦十郎にタメ口で意見を物申せる人物であり、対等とも言える関係である。
「そ、そうですよ!了子さんの言うとおり、ここは……」
「私が乗せてあげる。行くわよ!」
「ええええぇぇぇ?!」
だが止めるどころか背中を押した。了子も弦十郎と共に出て行ってしまった。
同じ頃、瑠璃達は木々を避けて先へ先へ走っていった。
何が起きているのか分からないが、瑠璃は行かなければならないと予感していた。
(あの歌……お姉ちゃんの歌のように聞こえた。でもまさか……)
真偽を確かめる為に、瑠璃はなんの躊躇いもなく進む。途中着信が鳴ったが瑠璃は気が付かなかった。
無我夢中に走り、ようやく見えてきた。そこにいたのは……
「お姉ちゃん!」
白いパワードスーツを纏った襲撃者と交戦している翼だった。
戦う力を持たない従妹がここに現れたことに、翼は動揺を隠せなかった。
「瑠璃!何故ここに?!」
「お姉ちゃんの歌が……ってその格好は……?それに……」
すると後ろから来た輪が追いついた。
「もう早いよ瑠璃!やっと追いついた……ってうわっ!翼さんだ!何これ?!映画の撮え……」
映画の撮影かと思い込み、カメラを構えて辺りを見回すが、響がノイズに捕らわれているのを見て、好奇心から恐怖へと変わった。
「嘘……ねえ、何でノイズが?こ、これ映画の撮影なんですよね?そうなんですよね?!」
その声は明らかに恐怖で震えていた。人類にとって、ノイズとは無差別に人を襲う殺人生物と認識されているため、力を持たない者がノイズ会ったら逃げるしかない。
輪は目の前に起こっている事が信じられず、翼に問う。
「二人とも逃げてください!」
響は捕らわれてもなお二人を助けようと声を上げた。
「お姉ちゃん……これ、どういう事……?」
「来るな瑠璃!今すぐ逃げろ!」
「瑠璃……?」
翼は気付かなかったが、瑠璃の名前に一瞬だけ襲撃者が反応していた。
「そうか……そういう事かよ……!」
襲撃者が杖のを構えると瑠璃と輪の周りを囲うように緑色のレーザーを発射させる。そのレーザーが着弾するとノイズが2人を囲うように出現した。
「ノ、ノイズ!」
「貴様!民間人まで手にかけるつもりか?!」
翼が襲撃者の行動に憤怒する。
「落ち着けよ、このすっとこどっこいが。ギャラリーが一人二人増えたところで何も変わらねえよ。ただちょっとばかし、あんたがやられる姿を見せてやろうと思っただけだ。勿論逃げようとしなければ殺さねえ。だからそこで大人しくしてなぁ!」
人の命を弄ぶのかと憤った翼が襲撃者に刀を振り下ろす。襲撃者は軽くいなして、鞭を振るう。
一進一退のように見えるが、翼が劣勢に立たされている。これは襲撃者が纏う完全聖遺物「ネフシュタンの鎧」によるものだった。
シンフォギアは聖遺物の欠片を用いて作られたものであるが、完全聖遺物は欠損のない聖遺物を指す為、そのスペックはシンフォギアを凌駕する。その差を埋めるには容易ではない。現に徐々に翼が後退している。
一方瑠璃と輪はノイズに囲まれた状態で逃げ道を塞がれてしまった。2人はノイズを倒す術を持ち合わせてないのでどうしようもない。
逃げなければ殺さないと襲撃者は言っていたが、そんなことが信じられるわけもなく、いつ自分達を炭素化すべく殺しに襲ってくるか分からない恐怖に晒されている。
「瑠璃、ヤバいよ……。ねえどうしよう……瑠璃?」
反応がないので瑠璃の見たら、頭を抱えるように蹲っていた。
「瑠璃……?!瑠璃!!」
(頭が……ぁっ……!)
「瑠璃!しっかりして!誰か……誰か助けて!!瑠璃が、瑠璃がああぁぁ!!」
輪が助けを求めている声が聞こえた響は何か思い当たったように顔を上げた。
「そうだ、アームドギア!私にアームドギアがあれば!」
響は彼女達を助けようとシンフォギア装者の持ちうる武器、アームドギアを出そうとしたが出る気配がなかった。
「どうして?!何で出ないの?!助けを求めている人がいるんだ!だから応えてよ!」
響の願いも虚しくアームドギアは出て来ず、翼も襲撃者に一方的に攻撃されてしまっている。
「てんで大したことない。」
襲撃者は翼を見下ろすように吐き捨てた。
翼にとって、これは屈辱以外の何者でもない。
「この身を一振りの剣と鍛えたはずなのに、あの日、無様に生き残ってしまった。出来損ないの剣として、恥をさらしてきた!だが、それも今日までの事。奪われたネフシュタンを取り戻すことで、この身の汚名をそそがせてもらう!」
そう啖呵を切るとゆっくりと立ち上がった。
「そうかい。脱がせるものなら脱がして……?!何?!」
体が急に動けなくなっていた。
自分の影をよく見ると、短刀が刺さっていた。
【影縫い】
「こんなもので、あたしの動きを……まさかお前?!」
これから翼が何をしようとしているのか、かつて友が最期に歌った挽歌。
「月が覗いているうちに、決着をつけましょう」
月が雲に隠れてしまえば影縫いは意味を成さなくなる。
故に一撃で決める。
「歌うのか……絶唱を?!」
「翼さん!」
翼は一度目を閉じて覚悟を決めると、視線を響に向けた。
「防人の生き様、覚悟を見せてあげる!あなたの胸に、焼き付けなさい!」
天羽々斬の刃先を響に向けると、それを降ろし瑠璃と輪を見る。
(瑠璃、あなたは絶対に守る。それが、防人としての、家族としての責務。)
Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl……
(クソッ!こんな事があってたまるか!やっと、やっと見つけたってのに!あたしの……大切な……)
一刻も早く脱出しようと足掻くが影縫いの拘束力の前に成す術がない。
(歌が……聞こえる……。お姉ちゃんの……)
Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl……
翼が絶唱を終えると襲撃者は左手を伸ばしていた。
同時に絶唱の衝撃が全身に襲い掛かり、ノイズ達は跡形も無く消し飛んだ。
それを意識が遠のく中、瑠璃はそれを見届けた途端に意識が無くなり、気を失った。
絶唱を食らった襲撃者は吹き飛ばされ、鎧の一部が砕かれた。
だが鎧は襲撃者の身体を蝕むように再生していったが、それには激痛が伴っていた。
「チクショウ……侵食が……!せっかく見つけたってのに……!」
(悪い……。でも、絶対に、助け出してやるからな……!)
襲撃者である少女は撤退した。
同じ頃、翼の絶唱でノイズが塵となって消えたことに、輪は戸惑いを感じていた。
「な、何これ?!ノイズが……消えた?!」
辺りを見回すとノイズが消え喜ぼうとしたが、瑠璃は気を失っていた。
「ねえ助けて!瑠璃が……」
翼に助けを求めようとしていたが、その姿を見て絶句した。
同時に弦十郎を乗せた車が到着し、運転していた了子とともに降りた。
「無事か翼、瑠璃?!」
振り返った翼からは口、鼻、目からおびただしい量の血が出ていた。
「私とて、人類守護の務めを果たす防人……。こんなところで、折れる剣じゃありません……!」
そのまま崩れるように倒れた。
「翼さぁぁぁぁぁん!!」
響の絶叫が星が流れる夜空に木霊し、その一部始終を目の当たりにした輪は怯えていた。
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