柴田事務次官から今回のテロ組織、武装集団フィーネについて新たな情報が送られた。
「では、自らをフィーネと名乗ったテロ組織は、米国政府に所属していた科学者たちによって構成されていると?」
『正しくは、米国聖遺物研究機関『F.I.S.』の一部職員が統率を離れ暴走した集団、という事らしい。』
ちなみに柴田事務次官は蕎麦を啜りながらこの情報を提供している。
何でも蕎麦好きだからなんだとか。
「ソロモンの杖と共に行方知れずとなり、そして再び現れたウェル博士も、F.I.S.所属の研究者の一人……。」
『こいつはあくまでも噂だが、F.I.S.ってのは日本政府の情報開示以前より存在しているとの事だ。』
「つまり米国と通謀していた彼女が、フィーネが由来となる研究機関ですか?」
『出自がそんなだからな。連中がフィーネの名を冠する道理もあるのかもしれん。テロ組織には似つかわしくないこれまでの行動、存外周到に仕組まれているのかもしれないな。』
そう言うと再び蕎麦を啜る。
『ところで、お宅の娘さんも装者になったそうだな?』
「ええ。つい最近ですが、それが何か?」
『実はな、以前に米国政府がお宅の娘さんが所有するバイデントの返還を要求して来た事があってな。』
「なっ……?!」
柴田が言うにはバイデントの装者である瑠璃が先のライブ中継にほんの僅かではあるがそれが映ったと分かるや否や、日本政府に対してバイデントの返還を要求して来たそうだ。
さらにバイデントはかつてF.I.S.が研究の為に極秘理に所有していたとの事だった。
『ところが急に引き渡しの話は取り下げたそうだ。あの米国があっさり引き下がる辺り……これがどうもきな臭い……。』
「まさか……米国政府が瑠璃を狙う可能性が?!」
『否定出来んな。奴らならそれくらいの事は平気でやるだろう。』
広木防衛大臣の暗殺、フィーネの暗殺未遂からそれくらいの事はやりかねないだろうと想像はつく。
「分かりました。情報提供、感謝します。」
柴田との通信が切れる。
その途端、弦十郎は頭を抱えた。
(何でこった……まさかバイデントの出処にそんな事が……!)
恐らく米国政府が急に引き下がったのも、理由があると考えるのが妥当だろう。
了子が過去にバイデントの研究に関わった適合者候補を含めて全員何かしらの不幸な出来事があったと言っていた。
つまりバイデントの研究で何か不都合な事実があり、返還要求をし続けていればそれが明るみになる事を恐れた米国政府が、秘密裏に奪取を目論んでいるのではないかと思われる。
だが瑠璃はバイデントを唯一扱える適合者であり、恐らく捕獲対象に含まれている恐れもある。
そうなれば瑠璃は米国で奴隷のような仕打ちを受けてもおかしくない。
「不本意だが……瑠璃に護衛をつけさせるしかないか。」
瑠璃を守るエージェントはいるが、娘の自由を奪う事になるのが心苦しかったが、守る為には致し方ない。
弦十郎は早速、信用出来るエージェントを瑠璃の護衛として選出し、彼らになるべく瑠璃の視界に入らないように伝える。
その後、弦十郎は瑠璃が眠っているメディカルルームへと足を運んだ。
ジャンヌのタックルを受け、意識を失っていた瑠璃はメディカルルームに運ばれたが、目を覚ました。
だが起きた時間には既に登校時間を過ぎていた為、今日は病欠ということになった。
今は弦十郎が様子を見に来ている。
「もう大丈夫か?」
「うん……。」
瑠璃は浮かない顔をしていた。
というのも、マリアとの戦いに目が行き過ぎてしまい、クリスを切歌と調の奇襲から守れなかった事に悔しさを感じていた。
「守れなかった……。」
「ん?」
「あ、ううん。何でもない。」
瑠璃は無理矢理に笑顔を振る舞うが、弦十郎にはお見通しだった。
「瑠璃、今回の事で自分を責めているんじゃないか?」
図星を突かれ、落ち込む瑠璃。
「うん……。あの時、クリスを守れなかったのが悔しくて……。マリアに攻撃するのに目が行っちゃって、私クリスの守りを……」
「それは自惚れというものだな。」
「え……?」
弦十郎の方を向く。
「クリス君は君に守られてばかりのような、そんなヤワな子ではない。そこを履き違えるな。」
「うん……。」
「だが、初陣といい、今回と言い、短期間でこれ程の事をやって退けたんだ。もっと喜んで良いんだぞ。」
父親として娘を褒めた。
「う、うん……。ありがとう。」
瑠璃に笑みが戻ると弦十郎も笑った。
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遂に開催された秋桜祭。
色んな出店やその客引きの声だけでなく学生だけでなく、その家族や知り合い、一般の人間等、多くの人がリディアンに来ている為、かなり賑わっておりある意味お祭り並みに人が多い。
「お待たせしました。こちらチョコバナナクレープと、イチゴクリームになります。」
瑠璃はクレープ屋の出店で調理しており、出来上がった商品を渡している。
その評判を聞きつけて、自分達も賞味したいという人達が長蛇の列をなしている。
「な、何で急にこんなに人が……?!」
「そりゃあ瑠璃のクレープ食べに来た人達でしょ。結構評判になってるよ。あ、次はフルーツクリームね。」
会計を務める輪はオーダーも取る役割を担っている。
「そう言えば、小夜さん来るの?」
「うん。その為に休みを入れたって言ってたけど……なかなか来ないなぁ。」
その小夜はもうとっくに来ていたのだが色々出店を周っていた。
「さてと、まだまだ周るで〜!けんどそろそろ輪の出店にも行かんと。」
しおりを手に瑠璃達の出店を探す。
だが前を見ていなかった為に曲がろうとした時……
「切ちゃん前!」
出会い頭に金髪少女とぶつかってしまう。
「しまった、うちとした事が……。大丈夫?」
「切ちゃん大丈夫?!」
「デデデデース!ぁ……あたしのアイスが……」
小夜とぶつかってしまった金髪の子供に声を掛けたが、それよりも落としてしまったアイスを見て今にも死にそうな顔をしていた。
というか小夜がぶつかった相手が切歌とツインテール少女の調だった。
「あっ!ホンマにごめん!アイス駄目にしてしもうて!」
「アイス……」
(あ、駄目だ。こりゃ聞いとらんな。)
「な、なあ。もし良かったらうちに弁償させてくれんかいな?」
すると途端に喜ぶ金髪少女。
「デース?!良いんデスか?!」
「勿論や。そうでもしないとうちの気が収まらんわ。それにお詫びも兼ねて何か奢っちゃる!」
「デース!」
切歌は喜んでいたが、調はじーっと小夜を見ている。
「どないしたん?」
「信用できない……。話し方とか胡散臭い……。」
「おーう。そんなストレートに言われると、流石のお姉さんも傷つくで。」
とてもそんな風には見えないが、小夜にとっては本当に他意は無い。
「でもまあ正直者のお嬢ちゃんにも特別に奢っちゃるで!」
「でも私達には……やる事がある。」
「ん?何か事情があるん?」
調と切歌は元々ネフィリムの餌である聖遺物を確保する為に、二課のギアペンダントを奪いにここに潜り込んだのだが、調が強硬手段に出る前に切歌が慌てて調と小夜の間に入る。
「え〜とデスね!あたし達、今上手いもんマップを完成させる為にここを周ってるんデス!」
切歌がカモフラージュにしては渾身の出来である上手いもんマップを広げて見せる。
ただまだ周った証である赤印が半分以下もない。
「何や!まだ全然周れてへんやん!よし、その上手いもんマップ作り協力しちゃる!ほな行くで〜!」
切歌はノリノリに、調はため息をついて渋々ついて行ったが、小夜の妹の親友がバイデントの装者であるとはこの時は知る由もない。
小夜さんが出て来ると装者達はいつもろくな事にならない……
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