神獣鏡のギアを纏った未来が現れた事は、ブリッジでもモニターに映し出されている。
「未来……!」
響が未来の名前を叫んだ。
エアキャリア内でも、安静にしていたナスターシャが車椅子に乗ってウェルに問いただしている。
「神獣鏡をギアとして、人に纏わせたのですね……。あれは封印解除に不可欠なれど、人の心を惑わす力……。」
ナスターシャはウェルを睨みつけるも、本人は悪びれた様子は見られない。
「ふうん。使い時に使ったまでの事ですよ。マリアが連れてきたあの娘は、聞けば融合症例第一号の級友らしいじゃないですか。」
「リディアンに通う生徒は、シンフォギアへの適合が見込まれた装者候補たち……。つまりあなたのLiNKERによって、あの子は何もわからんまま無理矢理に……」
それにウェルが添削するように言う。
「ちょっと違うかなぁ~。LiNKER使って、ホイホイシンフォギアに適合できれば、誰も苦労しませんよ。装者量産し放題ですよ。」
「ならば、どうやってあの子を?!」
ナスターシャの問いにウェルは断言した。
「愛、ですよ!」
「何故そこで愛?!」
そこに愛という言葉が出てきた事に信じられなかったが、ウェルは狂気の歓喜で言い放つ。
「LiNKERがこれ以上級友を戦わせたくないと願う思いと、これ以上何も失わせたくないと願う思いを神獣鏡に繋げてくれたのですよ!ヤバいくらいに麗しいじゃありませんか!」
「悪趣味なやつだ……。」
そこに割って入ったのは、息が荒く、苦しそうな状態であるにも関わらず、ウェルに対して静かに憤るジャンヌだった。
「ジャンヌ……。」
「あの子は急ごしらえで仕立て上げられた分、壊れやすく脆い。それを分かってお前は……」
「私は背中を押しただけに過ぎません。選んだのはあの娘ですよ。」
詭弁と言いたいが、シンフォギアは人の意思を映し出す、言わば鏡のようなものでもある。
そして未来の意思を映し出すように纏えたのも、全ては響を戦う必要のない、安心して過ごせる世界を作る為にと思っての事だった。
「なら……バイデントは……メルの時はどう説明する?!愛でギアを纏えるのなら、メルにだって……」
「さあて、それは僕にも分かりませんよ。」
「何……?!」
「いずれ分かりますよ。その為に彼女を連れてきてもらったのですから。」
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エアキャリアを目指していた瑠璃は、未来が装者になっていた事に動揺し、船まで戻って行った。
「未来ちゃんが装者に……?!」
クリスに拘束されていた調が話す。
「あの装者は、LiNKERで無理矢理に仕立てられた消耗品……。私たち以上に急ごしらえな分、壊れやすい……。」
それを聞いたクリスは怒りに震える。
翼は本部に報告するが、流石の翼も動揺を隠しきれなかった。
「行方不明となっていた、小日向未来の無事を確認。ですが……。」
「無事だとぉ?!あれを見て無事だというのか?!だったらアタシらは、あのバカ共になんて説明すればいいんだよ?!」
確かにクリスの言う通り、無事とは言い難く、装者として自分達に立ち塞がっている。
未来はヘッドギアを閉じ、脚部のユニットで浮遊し、加速する。
やるしかないと踏んだクリスは調の拘束を解いて、腕の装甲をボウガンへと可変させる。
「こういうのはアタシの仕事だ!」
未来がアームドギアである閉じた扇の先端から光線を放つが、それを舞うように避けボウガンを乱射する。
【QUEEN's INFERNO】
だが神獣鏡に搭載されたダイレクトフィードバックによって、即座に軌道演算、適切な回避ルートによって全て避け、海上へ浮遊する。
そこにバイデントの黒槍が未来へ襲い掛かる。
「姉ちゃん?!何で……」
「クリス一人に辛い思いはさせない……!私も一緒に戦う!」
米国の哨戒機上で槍を遠隔操作する瑠璃の援護によって未来の行動ルートを封鎖していく。
さらにクリスはガトリング砲を乱射、未来にダメージを与える。
圧倒してはいるが、瑠璃にとっては可愛い後輩であり、クリスにとっては恩人である未来を相手にしているという事実が、心の枷となって一層やりづらくなる。
(やりづれぇ……!姉ちゃんと共に助ける為とは言え、あの子はあたしの恩人だ……!)
(お姉ちゃんやクリス達に……こんな苦しい思いをさせてたなんて……!)
以前フィーネに操られていた瑠璃は、こんなに辛い事を三人に敷いていた事に気付く。
だが次第に数でも経験でも上回る二人の攻撃に追い詰められ、黒槍の柄が未来の腹部に直撃して、彼女は船の上に倒れる。
倒れた未来に、クリスが駆け寄る。
「こんなもん、取っちまえば……」
「女の子は優しく扱ってくださいね。乱暴にギアを引きはがせば、接続された端末が脳を傷つけかねませんよ。」
手を伸ばそうとした時、ヘッドギアから聞こえたウェルの警告にクリスは躊躇うが、その隙を突かれる形で未来は動き出し、扇が展開されるとそこから波動を放つ。
【閃光】
「クリス危ない!」
辛うじて避け、距離を取る。
展開された扇を閉じて浮遊すると、背部の鞭、脚部のユニットが連結すると巨大な鏡となって、紫色の光がエネルギーとなって集約される。
クリスは背後にいる調を見ると、今度は瑠璃の方を見る。
「姉ちゃん!そいつを頼む!」
クリスはリフレクターを展開させて迎撃の構え、意図を察知した瑠璃は調の所へ駆け寄る。
「飛ぶよ、掴まって!」
瑠璃は調の手を掴んだ瞬間、二人の身体中に電気が流れるような衝撃が走った。
突然の出来事に二人は動揺を隠せなかった。
(何……今の……?!)
「呆けるな瑠璃!」
翼の声で我に返った瑠璃は今はここから調を安全な場所へ移動させなくては、未来の攻撃の餌食になってしまうと判断し、調を抱える。
「しっかり、掴まってて!」
調を抱えた状態で連結された槍に跨って浮遊すると、上空へ移動する。
「調を返すデス!」
逃がすかと言わんばかりに切歌は大鎌の刃を三枚投擲する。
【切・呪りeッTぉ】
後ろからイガリマの刃が迫っているのを確認すると、上昇、下降を繰り返して回避すると弦十郎に通信を入れる。
「司令、調ちゃんを保護しました。すぐに安全の……」
「待って。」
突然調に遮られる形で声をかけられる。
「お願い、切ちゃんの所まで連れてって。このまま切ちゃんを、ドクターの所に行かせたくない。」
瑠璃の左腕を掴んで、瑠璃に懇願した調。
瑠璃はその思いに頷いた。
「分かった。司令、少し寄り道を……っ!」
旋回して切歌の所へ向かうが、突如目の前に紫色の光線がバイザーに被弾してしまい、左半分が割れ、ラピスラズリの瞳が露出する。
遠隔操作の制御が一瞬途切れてしまった事でバランスが崩れ、海に落ちそうになるがギリギリの所で制御を取り戻し、超低空飛行で立て直す。
放たれた方を見ると、未来がこちらを撃ち落とさんと扇を向けてきた。
再び撃ち落とそうと放とうとした時、切歌に腕を掴まれる未来。
「やめるデス!調は仲間!あたし達の大切な……」
『仲間と言い切れますか?僕たちを裏切り、敵に利する彼女を。月読調を……仲間を言い切れるのですか?』
切歌のヘッドギアの通信からウェルの声に遮られる。
「違う……あたしが調にちゃんと打ち明けられなかったんデス……!あたしが調を裏切ってしまったんデス!」
その声は震えており、今にも泣き出しそうになっている。
「切ちゃん……!」
後ろを振り返ると浮遊から着地した瑠璃と調がいた。
「ドクターのやり方では、弱い人達は救えない……!」
『そうかもしれません。何せ我々は、かかる災厄にあまりにも無力ですからね。』
再びウェルの声が神獣鏡のヘッドギアから割って入った。
エアキャリアの扉が開いた音で装者達がその方へ注目すると、そこにはウェルが立っている。
「シンフォギアと聖遺物に関する研究データは、こちらだけの専有物ではありませんから。アドバンテージがあるとすればぁ……精々このソロモンの杖!」
するとウェルは再びソロモンの杖を海に向けて薙ぎ払うように緑色の光線を放つ。
そこからノイズが召喚され米国哨戒機に乗り込むと、生き残ったの米国兵士達を襲い、次々と炭素化していった。
虐殺とも言えるそのやり方に憤る瑠璃は、ウェルに怒号を向ける。
「Dr.ウェル!!」
槍の穂先エネルギーを集中させるが、ウェルの声がそれを妨げる。
『おぉっと!それを放てば、あなたの学友も一緒に木っ端微塵になる事をお忘れなく。』
その言葉に心が動じ、身体は止まってしまう。
「まさか……輪!」
エアキャリアの中に輪がいる事が判明したが、これでは人質に取られたようなものだった。
「瑠璃、それよりも小日向を!倒そうとせずとも、抑えておくだけでいい!」
「分かった……。」
翼の指示で冷静になった瑠璃だが、悔しさを噛み締めながら未来と対峙する。
ここで裏話。
瑠璃は穏やかで誰かに対して怒る事をしません。
基本たじろいだり、泣き出すくらいです。
なので瑠璃が怒った所をクリス、輪、弦十郎ですら見たことがありません。
なのでもし瑠璃が怒る時が来たら……
ご感想お待ちしております。