マリアを伴って制御室に入ったウェルは、中央にそびえ立つ球体の前に立つ。
懐から緑色の液体が入ったガン型の注射器を出す。
「それは……?」
「LiNKERですよ。聖遺物を取り込む、ネフィリムの細胞サンプルから生成したLiNKERです。」
すると白衣の左袖を捲くって前腕を晒すとそこに注射器を打ち込む。すると打ち込んだ腕が変色、変形して人の腕とはかけ離れた歪な腕へと変貌した。
さらにその手で球体に触れると、フロンティアがウェルのネフィリムに反応するかのように文字が羅列される。
「ふふへへッ……早く動かしたいなあ……。ちょっとくらい動かしてもいいと思いませんかぁ?ねぇ、マリア。」
「っ……!」
マリアは何処か嫌な予感がした。
ウェルの下卑た笑みにはいつもろくな事にならないのは分かってはいるが、世界を救う為にウェルを頼るしかない。だが今度ばかりは違う。
その悪い予感は現実のものになろうとしている。
「さぁ行けえぇ!」
ウェルの意思に呼応するように三本の柱がそれぞれ輝きを帯び、それが天を貫き、月にまで届いた。空中で一つになるとそれは巨大な腕となって月を上から掴んだ。
「どっこいしょおおぉぉーーー!!」
ウェルの声とともにフロンティアが浮上、地表までもが剥き出しとなったフロンティアは空中都市のように浮かび上がった。
その影響による地響きは二課の潜水艦にも伝わった。
「い、一体何が?!」
「広範囲にわたって海底が隆起!我々の直下からも迫ってきます!」
響の問いに答えるように藤尭が報告した。
さらに新たに第二陣として配備された米国の艦隊がフロンティアを砲撃するが、フロンティア自体が聖遺物であり、その相手に現代兵器では傷らしい傷を一つもつけられない。
「楽しすぎてメガネがずり落ちてしまいそうだぁ……」
ウェルはネフィリムの腕を使ってフロンティアに命じると、島底の地から光が放たれ、米国艦隊がそれに引き寄せられるように宙に浮かび上がり、空圧で押し潰された。次々と艦隊はスクラップとなり、全艦爆破された。
「ふっ……制御できる重力はこれくらいが限度の様ですねぇ。フハハハハハ!」
もはや英雄とは程遠い所業と高笑いに、マリアですら疑念を抱くようになる。
「手に入れたぞ……蹂躙する力を!これで僕も英雄になれるぅ〜!この星のラストアクションヒーローだぁ~!やったぁ〜!」
メガネは不要と言わんばかりに捨て、制御室中にウェルの高笑いが響き渡る。
その様子は別室にいたジャンヌと輪も把握していた。
輪は初めてウェルを見た時、雰囲気からして何か良からぬ事をやらかすと予想してはいたが、まさかここまでやるかと考えていなかった。
「これ……あのマッドサイエンティストが……!こんなの虐殺じゃん!やめさせないと!」
「無駄だ……。ここでは全てウェルの思うがまま。その気になれば私達だって……。」
完全聖遺物を操るジャンヌでもフロンティアに干渉など出来やしない。
何も出来ないもどかしさに葛藤している所に、ナスターシャから通信が入った。
「マム?!」
『ジャンヌ、最悪の事態が発生しました。Dr.ウェルがフロンティアを浮上させた事で、そのアンカーとなった月が落下を始めています。』
「なっ……?!馬鹿な!奴は人類を滅ぼすつもりか?!」
F.I.S.は本来米国政府が隠蔽した月の落下軌道の偽装を暴き、人類を救う為に活動していたが、結果的に真逆の事が引き起こされてしまった。
「どうするマム?!このままじゃ……」
『落ち着いてください。あなたはそのまま、彼女をお願いします。』
「だったらこの子は逃がす。その後私もマムの……ぅっ……!」
再び心臓の鼓動が止まり、激痛が走った事でジャンヌは蹲る。
(こ、こんな時に……!)
『ジャンヌ?ジャンヌ?!』
「ちょ、大丈夫?!マムさん!ジャンヌが心臓を抑えて……何か苦しそうなんだけど!」
輪が代わりに答えた事でナスターシャはジャンヌの心臓病について思い出す。
(まさか、心臓がもうそこまで……!)
ナスターシャはジャンヌの心臓の病について、把握していた。
ジャンヌはメルが亡くなった後、バイデントの装者となるべく度重なる無茶な実験の被験体となったが、結果は実らないばかりか己の身体をボロボロにしただけでなく、心臓の機能が余命宣告を受けてしまう程にまで弱ってしまった 。
本来であればまともな医療を受けなければならない身体であるにも関わらず、ジャンヌはそれを顧みることなくナスターシャについて行った事で己の寿命を更に縮めてしまった。
ナスターシャは元々彼女を置いていくつもりだったが
『私も連れてってほしい。マリア達だけに、苦しい思いをさせたくない。』
『ですがあなたは既に心臓が弱っています。もしかしたら、あなたは死んでしまいますよ。』
『構わない。私はどの道死ぬ。最後に、自分の命の使い道くらい、決めさせてほしい。』
『分かりました……。』
ジャンヌの意思を尊重して彼女を連れて行くことに決めた。
この事はナスターシャしか把握しておらず、他の者には誰にも知らせていない。それはジャンヌが口外しないでほしいとナスターシャに頼み込んだからだ。
「マムさん!どうしたら……」
「余計な事をするな!」
ジャンヌは声を荒げる。心臓は再び動き出し、痛みも引いたが息は荒く、脂汗が額から垂れ流れている。
「マム、私には……もう未来はない……。だからマリア達には光を……未来を歩んでほしい……。」
それがジャンヌがF.I.S.に、ナスターシャについて行った理由だった。
「私は……後悔していないよ……。皆と過ごした時間……とても楽しかった……。」
今までの男勝りの口調が変わった。これが本来のジャンヌなのだろう。
「マム……私は、最後にどうしても、やらなきゃいけない事がある……。だからごめん……最後に我儘を……許してほしい。」
ナスターシャは溜息をついた。
『あなたは最後まで、強情な人ですね……。分かりました。あなたはあなたのやりたいようにやってください。私も、あなたの後を追うとします。』
「ありがとう……マム。」
そう言って通信を切って立ち上がる。
「良いか、この事は他言無用だ。バイデントの装者にもな。」
一方的に言い渡し、輪を置いて一度別室から去った。
(Dr.ウェル、私の最後の戦いだけは……貴様の指図を受けてたまるか……!)
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二課の潜水艦のブリッジではライダースーツを纏った翼と瑠璃が戦う準備をしていた。現状二課でまともに戦える装者がこの二人しかいない。
「翼、瑠璃、行けるか?」
「無論です。」
「私もです。」
二人は勇ましくブリッジを出ようとするが、その直前に響に呼び止められる。
「翼さん、瑠璃さん!」
その表情は心配そうだったが、安心させる為に二人は笑みを浮かべる。
「案ずるな、立花。」
「私達に任せて。」
二人はそう言い、出て行った。だが響の心は晴れなかった。ガングニールを纏えたのならと、考えてしまう。
潜水艦の先端にある出撃経路に立つ翼の瑠璃。翼はバイクに乗る。
瑠璃は翼とは別ルートからの侵入を試みる為、翼が出撃した後、遅れて出撃する形となる。
「では一足先に露払いに行く。」
「うん、気をつけて。」
「ああ。瑠璃もな。」
翼はバイクのエンジンを吹かし、走らせる。そしてジャンプ台から飛び立ち……
Imyuteus Amenohabakiri Tron……
天羽々斬の起動詠唱によってライダースーツから、シンフォギアを纏い、脚部のブレードを翼の乗るバイクの前部を覆うように連結させた。
【騎刃ノ一閃】
フロンティアに配備されたノイズ達が、翼の前に立ち塞がるも、ギアの前では塵芥となる。
「よし、私も。」
Tearlight Bident Tron……
バイデントのギアを纏い、連結させた槍に跨って飛行する。上空から翼が進んだ方向とは異なるルートでフロンティア内部への侵入を試みるが、広大な大地しかなく、出入り口らしきものは見当たらない。
さらに下から葡萄のような形をしたセル型ノイズが現れ、球体を放つ。
「ノイズ……!」
だがノイズはたった一体だけで、しかも一回攻撃した後、背を向けて何処かへと走り出した。
「えっ?!何で?!」
そこに弦十郎から通信が入る。
『瑠璃!恐らくそのノイズはお前を誘導する為に出されたものだ!』
「それって罠ってこと?」
『ああ。翼の方は大群で待ち構えていた所を見ると、そう考えるのが妥当……』
だが突然通信が乱れ、弦十郎の声が聞こえなくなってしまう。
「司令?!お父さん??」
『バイデント装者、風鳴瑠璃。聞こえるか?』
その声に聞き覚えがある。だが二課の通信を妨害した上でハッキングまで仕掛けてきた。
「ジャンヌ……。」
『ああ。お前の仲間の通信機を少し細工して、お前に話しかけている。』
「輪は……輪は無事なの?」
『安心しろ。私がいる限り身の安全は保証する。』
それを聞いて安堵する瑠璃。
『よく聞け。私はお前との決着を着けたい。』
「何を……」
『口応えは許さない。でなければお前の学友の命はない。』
「そんな!さっきは……」
『それとこれとでは話は別だ。良いか、そのノイズは迎えだ。そいつの後についていけばすぐに会える。一人で来い。』
そう伝えられ一方的に通信を切断され、弦十郎との通信が回復した。
「お父さん……!」
『ああ、こちらも聞こえていた。何かあるかもしれん。気をつけろ。』
「了解!」
瑠璃はセル型ノイズの後を追う。
いよいよG編も最終決戦が近づいてきましたね。
ちなみにジャンヌの心臓病について、ウェルには話していませんがバレています。
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