思いの外長くなったので分割して投稿します。
F.I.S.を陰からサポートし、未来を託して逝ったマリアの最大の友、ジャンヌ・ベルナールの過去のお話。
彼女がF.I.S.に連れて来られたのはまだ幼い少女の時だった。両親が自動車事故で亡くなり、行き場のない孤児になったジャンヌと妹のメルはF.I.S.によって白い孤児院と呼ばれる場所へ連れて行かれた。
だがメルは何処とも分からない場所に連れて来られ、怯えていた。ジャンヌは手を握る事で、少しでも恐怖を和らげてあげる。
周りにはここの施設で支給された衣服を纏う子供達が集められていた。そして、一人の女性が鞭を持って、子供達の前に立つ。それがナスターシャであった。この頃は眼帯や車椅子もしていない。
「今日からあなた達には戦闘訓練を行ってもらいます。フィーネの器となれなかったレセプターチルドレンは、涙より血を流すことで組織に貢献するのです。」
その冷たい一言が、子供達の血反吐が出るような壮絶な日々が始まった。
まずジャンヌとメルは別々に別れ、違う部屋で機械に繋がれた。
「嫌だ!お姉ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だ!」
メルはジャンヌと離れるのを嫌がり泣き叫んだ。ジャンヌはメルを助けるべく抵抗する。
「メルを連れてかないで!メル!」
「お姉ちゃああぁぁん!!」
「メル!!」
泣き叫ぶメルを助けられず連れて行かれ、ジャンヌの抵抗も虚しく鎮静剤を打たれ、強制的に大人しくされてしまう。起きた時には検査が終わっていたようだが、鎮静剤のせいでジャンヌはまともに歩けないまま、違う部屋へと連れて行かれた。
その部屋には大勢の子供達が複数の列をなし、その列に一人ずつ白衣を着た研究者達に注射を打たれていた。ジャンヌも列に並ばされるが、鎮静剤のせいであまり立つことが出来ず、座り込むと、鞭が地を叩く音が響く。
「何を座り込んでいるのです?立ちなさい。」
周りの目線が突き刺さる。お前のせいで自分達に飛び火したらどうするんだと、言いたげな目で見られ助けの手すらない。ジャンヌは一人、立ち上がった。
そしてジャンヌの番が周り、左上腕に緑色の薬物、LiNKERを投与された。それが終わると、ジャンヌは割り当てられ部屋に案内され、そこでメルと再会した。
「お姉ちゃん!」
「メル!」
メルは怪我もなく、姉と再会出来た事に涙し、抱きしめる。
「恐かったよぉ……お姉ちゃぁん……!」
「ごめんね……守れなくて……。」
最愛の妹を守れなかった自分の無力さを噛み締めて強く抱きしめる。
今思えばこの頃からだったのかもしれない。ジャンヌがただ傍観者にしかなれない事を。
それからすぐだった。ジャンヌの身体に異変が起きたは。高熱によって顔は赤く、呼び掛けても反応がなく、呼吸も浅くなっていた。
(熱い……身体が……焼けるような……)
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
メルが大声で呼び掛けるもジャンヌに届いているか、外からでは分からない。異変に気付いた研究者達がジャンヌを医務室へ運び、延命しようと必死に処置が行われる。残されたメルはただ泣く事しか出来なかった。
「お姉ちゃぁん……。」
そこに声を掛ける者がいた。
「大丈夫?」
メルが振り返ると、そこにいたのはジャンヌと同じくらいの背丈の少女とその後ろにはメルと同じくらいの背丈の少女の姉妹がいた。
「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが死んじゃうよぉ……!」
メルは再び泣き喚いてしまう。だが大好きな家族を失うかもしれない恐怖に押し潰されそうになる気持ちは、姉も痛い程分かる。姉の子はメルの手を握ると
「大丈夫。お姉ちゃんはきっと良くなる。だから一緒に待ちましょう?」
「本当に?お姉ちゃん良くなる?いなくなったりしない?」
「大切な妹を遺して逝くなんて、お姉ちゃんだってしたくないと思うわ。」
「でも……でも……。」
泣き止まないメルにマリアはある歌を歌ってあげる。その歌はマリアの故郷に伝わるわらべ唄。その歌はメルの心が安らいでいき、いつの間にか泣き止んでいた。
「私はマリア、この子は妹のセレナ。あなたは?」
「メル……。お姉ちゃんは……ジャンヌ……。」
これがメルとマリアの出会いだった。そして翌日、ジャンヌが意識を取り戻したという連絡を受け、医務室へ案内されたメル。そこにマリアとセレナもついて行った。
メルがベッドで目を覚ましたジャンヌを覗き見る。
「メル……?」
「お姉ちゃん……!」
姉が無事であると知った途端、メルは再び泣き出した。ジャンヌはメルの頭を撫でてやる。
「心配かけちゃったね……メル。二人は……?」
ここでマリアとセレナの存在に気づくジャンヌ。メルが答える。
「お友達。マリアとセレナ。」
「そうか……。友達が出来たんだね……。」
「ずっと心配してたの。死んじゃうんじゃないかって……。」
「そっか……。メル、私はメルを置いて先に死んだりしないよ。」
そういうとジャンヌはメルに微笑んだ。
「本当に?」
「勿論だよ。」
その後、ジャンヌは順調に回復した後、戦闘訓練を受けさせられたが、メルの為なら何だってやると決めた。そして、メルを経由してマリアとセレナとも友達になり、特にマリアとは意気投合した。
その頃、ナスターシャとその研究者はジャンヌの病態の原因を追求していた。
「何故あの子にだけ……。」
ナスターシャがポツリと呟く。
全員にLiNKERを投与され、一部の子供は副反応が見られたが、ジャンヌのように大きな副反応が見られたのは他にいない。LiNKERは元々劇薬ではあるが、このLiNKERは検査結果を元に調合された特別性のLiNKERである為に、ここまで酷い事にはならない。
原因を探していくと、ある男が一説を唱える。
「恐らく、彼女の体質に問題があったようですね。」
そう言って眼鏡をかけ直す男、ウェル。
「どういう事です?」
「彼女の検査結果を拝見しました。彼女の体質は非常に稀なものであり、それがLiNKERに含まれる成分を受け付けないのでしょう。彼女にとって、LiNKERは毒でしかありません。」
「つまり……副反応ではなく、拒絶反応……。」
ナスターシャが答えるとウェルは小さく頷く。
「恐らく今後、如何様な調合を施しても彼女にLiNKERを打てば、最悪死ぬ事になります。」
「そうですか……。」
そう言うとナスターシャは部屋から出ていく。その時のナスターシャはどこか憂いているようだった。
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それから日が経ち、ジャンヌはLiNKER投与の免除が言い渡された。だがその分、戦闘訓練もより厳しいものになり、音を挙げてもおかしくなかったのだが、ジャンヌは全てこなした。
メルもそんな姉を尊敬し、自分も頑張らなければと触発され、訓練を頑張っていたお陰で内気だった性格も潜み、社交性の高い子になっていた。
それからマリアとも親友となった。セレナとメルもそれぞれと打ち解け合えるようになっていて、マリアのいる部屋に遊びに行くようになっていた。
そんな折、マリアが二人の少女を紹介する。
「紹介するわ。月読調と……」
「暁切歌デース!」
調は人見知りしているのかマリアを介して紹介してもらい、対象的に切歌は明るく挨拶する。
「よろしく二人とも。私は……」
「ジャンヌデスよね?戦闘訓練トップの!アタシ、 何度か見掛けてたデスよ!」
「そ、そっか。ありがとう。」
快活に話す切歌だが、調は中々自分から話そうとしない。そこにメルが歩み寄る。
「私はメル。大丈夫だよ。お姉ちゃん、凄く優しい人なんだよ。」
「う、うん……。ありがとう……メル……。」
少し笑みが溢れる。調は勇気を出してジャンヌに挨拶する。
「は、初めまして……私は月読調……。よ、よろしく……。」
「ええ。よろしくね調。」
ジャンヌは優しく微笑んだ。
これが調と切歌の出会いであり、特に調とは何でも話せる程に仲が良くなった。
「調ってば、あんなに仲良くなって……。私の時はそれなりに掛かったのに。」
「メルも最初はそうだったさ。けど、あの子は人とすぐに仲良くなれる、不思議な雰囲気を持ってる。セレナと同じようにね。」
「そうね。」
切歌、調、セレナ、メルが楽しそうにしている姿を見ながらそういうマリアとジャンヌだった。
ある日、転機が訪れた。セレナとメルが正規適合者候補として選ばれた。これは大変名誉な事であると、研究者からは盛大な拍手で讃えられた。
だがジャンヌは複雑な気持ちだった。本来であれば自分がメルを守らなければならないが、ジャンヌはLiNKERを投与出来ないから適合者にはなれない。そして適合者となったメルが戦わなくちゃならなくなるという事に、妹を守れず、戦いに向かわせる事に気が引けていた。その本心をマリアにだけは打ち明けていた。
「やっぱり、メルの事が心配なの?」
「当たり前だ。メルは、戦いには向かない……穏やかな子なんだ。マリアだってそうだろう?セレナを戦わせるなんて……あの子だって本当は……。」
マリアも下を向くが
「そうね……。けど、二人が選んだのなら……私達にそれを止める権利はないわ。だから……二人で守っていこう?」
マリアの前向きな姿勢に、ジャンヌは眩しく感じた。だがジャンヌはメルを守る為に厳しい訓練に耐え抜き、突破してきた。見ているだけでなく、二人を守れるようにこれからも強くなっていく事を二人で約束した。
次回でジャンヌの過去話はおしまいになります。
ご感想お待ちしております。