研究所に移されてからすぐに実験が行われた。多くの研究者から見守られるジャンヌ。その中にはウェルと、日本から出向した櫻井了子がいた。
まずはLiNKER投与の障害となるその体質を変えるべく、薬物療法が行われた。得体のしれない薬をジャンヌは嫌な顔をせずに飲み、実験台のベッドに寝かせられると、身体中の至る所に機材と接続するコードに繋げられる。その機材は細胞を活性化を向上させるための電気療法の機材、言ってしまえば電気ショックである。
研究者がスイッチを入れるとジャンヌの全身に電気ショックを浴びせる。
「うああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ジャンヌは悲鳴を挙げるが、研究者達は誰一人ジャンヌを見ておらず、モニターに映る脳波、心電図、カルテの情報に目が行っている。
数分後、電気ショックから解放されたジャンヌはLiNKERの入った注射を投与された。だがその途端、ジャンヌは吐血してしまい、痙攣を起こしてしまう。すぐに体内洗浄が行われ、一命を取り留めたが、しばらくは立つことすらままならなかった。最初の実験は失敗に終わった。
二度目でも違う薬を投与された後、再び電気ショックを浴びせられた。しかも一回目よりもパワーを上げられた為、全身に襲う痛みも苦しみもその分増していた。だがそれでもジャンヌは弱音を吐かなかった。
(こんな痛み……メルが苦しんだの時と比べれば……!)
ジャンヌは、メルの死に報いる為にバイデントを支配する。それが出来るのであれば何だってやる。もはや彼女にはそれしか残されていなかった。
しかし、月日は半年流れてもその成果は実らず、未だに初期段階の状態から進んでいなかった。それをずっと繰り返していく内に、バイデントを支配する事にしか頭になかった。
そして何度目なのか分らなくなる程に実験を重ねていった。再び薬物を投与され、電気ショックを浴びせられるジャンヌ。だが今回は黒服達も実験の様子を見ていた。そこに黒服の男が指示を出す。
「パワーをもっと上げろ。」
それを聞いた研究者達はその命令に意見する。
「で、ですが……これ以上は危険です!」
「このままパワーを上げてしまえば、彼女の命は……」
流石の研究者達も人殺しに加担するのは本意ではない。これでもギリギリの数値であり、もしこれ以上上げてしまえば、本当に死んでしまう。研究者達は訴えるが……
「ならこいつはそこまでだったというだけだ。他にも被験体は幾らでもいる。構わん、上げろ!」
銃を突きつけられた研究者は、死への恐怖から逃れる為にパワーを上げた。
「あああああああああああぁぁぁぁぁ!!ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
甲高い悲鳴が響き渡り、ジャンヌの心臓の鼓動を映す心電図の波は平坦になり、危険を知らせるアラートが発せられた。
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ジャンヌと喧嘩してから2年の歳月が過ぎた。マリアはジャンヌと一度も会う事はなく、メルに続いてセレナまでもが亡くなってしまった。
セレナは暴走したネフィリムを休眠状態にする為に絶唱を唄い、その暴走を止める事が出来た。しかし、セレナは降り注いだ瓦礫によって潰され、命を落とした。
マリアはセレナを失った事で、ジャンヌの気持ちをようやく理解した。マリアはジャンヌともう一度会う為に部屋を訪れたが、既にジャンヌは部屋を移されており、今どこにいるか分からない状態だった。調と切歌もジャンヌの身を案じていた。
(ジャンヌ……一体何処へ……)
俯向きながら歩いていると、ストレッチャーを動かす研究者の会話を耳にする。しかも、その慌てぶりようからただ事ではない様子だった。
マリアが駆けつけると、ストレッチャーで運ばれている少女の姿を見て絶句した。
(まさか……今のって……。)
見間違えるはずがない。それは一年前に仲違いした友、ジャンヌだったからだ。
マリアは追いかけたが、処置室の扉の前でその行く手を阻まれた。
「そんな……何で……?!」
「まさか……こんな事になるとは……。」
後ろを振り返ると、車椅子に乗っているナスターシャがいた。
ナスターシャはセレナの一件で下半身不随となり、左目も失った事で眼帯を着けている。ただ車椅子は手動で動かす車輪タイプのものだった。
「マム……何か知ってるの?!」
「ええ。」
一度目を閉じたナスターシャだが、説明する時は、マリアの方を見て話す。ジャンヌに起こった事を。
「そんな……ジャンヌはLiNKERを……」
「ええ、恐らく何度も拒絶反応があったことでしょう。そして今回、あってはならない最悪の事態を引き起こしてしまった……。」
ナスターシャも研究所で行われていた実験の事実を知ったのはついさっきだった。しかし、ナスターシャはあの時、強引にでも止めるべきだったと後悔していた。
「こんな事になるのなら……初めから止めるべきでした……。ですが、今となっては……。」
「マム……。」
悪いのはナスターシャではなく、ジャンヌの弱みにつけこんだ米国政府だと言っても、これでジャンヌが死んでしまったら何の慰めにもならない。今はジャンヌの無事を祈るしかない。
数時間経過した後、処置中のランプが消えると扉が開いてストレッチャーを動かす研究員達が姿を見せた。
「どうでしたか?」
「ええ。何とか一命を取り留めました。」
マリアは当然のことながら、ナスターシャも安堵した。ジャンヌはそのまま治療室へと運ばれ、そこで絶対安静となった。また今回の結果と事態を引き起こした黒服の男は独断で実験に関わった罪で逮捕となり、さらにバイデントのギアペンダントが行方不明になった事で、今回の計画は全面破棄される事となった。
治療室へ運ばれたジャンヌだが今でも眠ったままだった。マリアは毎日訓練が終わった後、調と切歌を伴って何度も通い詰めている。一命を取り留めたとはいえ、いつ目覚めるか分からないというだけで、みんなを不安に駆り立てる。
「いつになったら……目を覚ますのかな……。」
「早く、起きてほしいデス……。」
メルが亡くなってから、ジャンヌと疎遠になったとしても、彼女の事を大切に思っていた調と切歌。あれから闇に落ちていくジャンヌを見ていられなかった二人は思わず目を背けてしまった。だがジャンヌがこんな事になってから、その行動に後悔した二人は、罪滅ぼしとして毎日通っていた。
マリアが二人の頭を撫でる。
「二人は先に戻ってて。私も少ししたら戻るから。」
「マリア……大丈夫?」
「無理は駄目デスよ?」
「ええ。分かってるわ。ほら、戻りなさい。」
切歌と調を先に帰し、二人きりになった。
(駄目……調と切歌には見せられない……。私が不安になったら……あの子達もきっと……。)
日に日に積もりゆく不安が、マリアの心を押し潰そうとしていた。ジャンヌの手を握っても、握り返してこない。何度呼び掛けても帰って来ない。メル、セレナに続いて、ジャンヌまで本当にいなくなるのではと考えてしまう。
「ジャンヌ……早く起きてよ……。」
ジャンヌの右手を、マリアは両手で握って祈る。その時だった……
「っ……!」
一瞬握り返してきた。そして自分ではない、発した呼吸音。
「マリ……ア……?」
ジャンヌが目を覚ました。今まで抑えてきた涙が、溢れ落ちた。
「ジャンヌ……!」
嗚咽混じりにマリアは泣いた。
調と切歌もジャンヌが目を覚ましたと聞きつけ、治療室へ駆けつけた。
「良かった……目を覚まして……。」
「すっごい心配したデスよ!」
あれから2年の間に起きた事をジャンヌに話した。セレナが亡くなったこと、マリアがガングニール、切歌がイガリマ、調がシュルシャガナのギアを纏えるようになった事も。
そして、ジャンヌは自身の身に起こった事を全て、マリア達に話した。自身が抱いていた劣等感も、メルの死に報いる為に自分が起こした愚行を自分を嘲笑うように。
「馬鹿みたいだろう……?私は結局……何も出来ないただの出来損ないだ。笑いたければ笑え。今の私を見たら……メルは軽蔑するだろうな……」
「そんな事はない!」
マリアが大声で遮った。
「ジャンヌは、出来損ないなんかじゃない!ギアの有無なんて関係ない!だってこんなに苦しんでまで手に入れようとしたんだ!それを笑う人なんていない!メルが軽蔑するものか!」
「そうだよ。もしジャンヌを笑う人がいたら、私達が黙らせる。」
「だからジャンヌはもう一人で苦しまなくていいんデス!私達を頼ってほしいデス!」
ジャンヌはハッとした。自分は大切なものを失ってまでバイデントを手に入れようとした事に気付き、あと少しで本当に失うところだったと知った。ジャンヌは下を向いて涙を流した。
「ごめん……みんな……ありがとう……!」
シーツを握りしめジャンヌは懺悔するように泣いた。そしてジャンヌは生涯三人を守る事を誓った。
それからというものジャンヌは順調に回復し、戦闘訓練に加わった。さらにマリア達を陰から支える為に、メカに関する勉強も始め、並々ならぬ努力で2年でエンジニアになれる程の知識を得た。その知識を活かして、戦闘シュミレーターの改良、セキュリティの強化、さらにナスターシャの電動車椅子も開発出来るようになり、完成させた。
「ありがとうございます、ジャンヌ。」
「いや、これくらいは平気だ。それに……私に出来るのはこれくらいしかない。」
「あなたは十分に、みんなの役立ってますよ。それは誇らしく思いなさい。」
ナスターシャは優しく、ジャンヌに諭す。
「マム……っ……!」
だが突然ジャンヌは心臓を押さえて苦しみだした。
「ジャンヌ?!ジャンヌ!」
ジャンヌは再び処置室へと運ばれ、検査を受けた。それを聞いたマリア達はタラリアの靴の起動実験を終えた直後、慌てて検査室へと駆け付けるが、到着した時には既にジャンヌは元気そうにしていた。
「ジャンヌ!大丈夫なの?!」
「ああ。平気さ、少し疲労が祟っただけだ。」
心配するマリア達だったが、過労と伝えたジャンヌ。しかし、ナスターシャだけは知っていた。ジャンヌの本当の病を。
マリアが到着する数分前、ジャンヌは診断結果を宣告された。
「君の心臓の機能は10代にしては非常に弱くなっております。このままでは、3年以内には完全に止まり、亡くなってしまうでしょう。」
ジャンヌは2年前の実験の失敗によって心臓の機能が低下していた。それが今になって今後の人生を奪う形となって発症してしまった。そして、それをマリア達には黙っていてほしいと頼まれた。
「何故このような事を?」
「いずれは話す。だがそれは今ではない。それに私の口で話さないと意味がない。どうか……頼む……。」
ジャンヌは頭を下げて、ナスターシャに懇願した。その結果、マリア達には事実が伏せられたままあの日を迎えた。
日本でルナアタックが起きた事で、月の落下の軌道線を割り出したNASAの観測結果が不正だと判断したナスターシャが、この事実を暴露する為に武力蜂起する事を決意。マリア、調、切歌、そしてドクターウェルが賛同した。
そしてもう一人、ナスターシャの右腕として名乗りを上げた少女がいた。
「私も連れてってほしい。マリア達だけに、苦しい思いをさせたくない。」
「ですがあなたは既に心臓が弱っています。もしかしたら、あなたは死んでしまいますよ。」
「構わない。私はどの道死ぬ。最後に、自分の命の使い道くらい、決めさせてほしい。」
「分かりました……。あなたの力を……私達に貸してください。」
そして、彼女はバイデントの装者となった風鳴瑠璃と刃を交える事となる。
ジャンヌ・ベルナール(享年21歳)
F.I.Sに所属するレセプターチルドレン。
マリアと同い年という事もあり、相談役を買っている。
機械に強く、蜂起した際に用いられた機材や装備はジャンヌのお手製であり、エアキャリアのメンテナンスも熟していた。
唯一シンフォギアを纏えないが、戦いには精通しており、マリアが起動した完全聖遺物タラリアを武器に瑠璃と戦う。
特別性のLiNKERであっても、それが身体が受け付けない稀な体質である為、ギアを纏うことが出来ない。
かつては妹のメルがいたが、バイデントの実験で命を落とし、自身も自暴自棄となる。
そして精神的に不安定な状態で、バイデントを支配しようと実験を繰り返した結果、心臓病を患う。
元々蜂起まで心臓がもたないと宣告されていたが、ジャンヌの執念というべきか結果的に余命宣告の1年以上生きた。
しかしそれでも最後まで己が出来る事をなすべくナスターシャについて行く。そして瑠璃とバイデントの在り方を目の当たりにしたジャンヌは、バイデントが呪われたギアではない事を認めるが、その直後に暴走したウェルの粛清の魔の手から瑠璃達の身代わりとなって逃がした結果、瓦礫に押し潰されて亡くなった。
次回はもう少しコミカルな番外編を作りたいと思います。