全ての曲を歌い終え、舞台から降りたマリアは黒服の男二人に出迎えられる。
「任務、ご苦労様です。」
「アイドルの監視ほどではないわ。」
マリアは皮肉っぽく言葉を吐く。
「監視ではなく警護です。世界を守った英雄を狙う輩も、少なくはないので。」
その薄っぺらい言葉を構わず無視し、マリアは楽屋へと戻る。
マリアはフロンティア事変収束後の裁判でマリアは無罪となったが、米国政府の陰謀によってマリアは米国政府のエージェントであり、世界を救った救世主という偶像として立ち振る舞うことを強要されている。切歌と調を守る為とはいえ、再び偽りの英雄を演じさせられているこの状況に、皮肉すら感じている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
月夜が浮かぶ夜更け、建物の頂上に佇む黄色を基色としたディーラーを思わせる女が地を見下ろしている。その先を見ると、ローブを着た少女が何か箱のような形をしたものを抱えて走っている。息を切らしながらも必死に走っている辺り、逃亡しているのだろう。
女が目をつけてからコインを数枚指で弾くと、そのコインは道路を運転中のタンクローリーのタンクを貫く。さらに後輪のタイヤを破壊し、運転中のタンクローリーは制御が効かなくなり横転する。運転手は命の危険を感じその場から逃げ出した瞬間、破壊されたタンクから漏れ出たガソリンに火花が接触、それが引火しエンジンに火の手が及ぶとタンクローリーは爆発を起こした。
火災が発生した事を響、クリス、瑠璃に通信で伝える弦十郎。
『第七区域に大規模な火災発生。消防活動が困難なため、応援要請だ。』
「了解です。響ちゃんとクリスと共に、直ちに向かいます。」
瑠璃が応答して通信を切る。名前が出なかった切歌と調も立ち上がる。
「待って、私達も……!」
「手伝うデス!」
勇ましさは十分だが、クリスがそれを止める。
「LiNKERの無いお前達は留守番だ!」
現状ウェル以外にLiNKERを作れる者がおらず、手持ちにそれがない以上ギアのバックファイアによって苦しむ事になる。その為、S.O.N.G.所属の装者であっても調と切歌の出動は認められなかった。
そんな現状に立たされている二人は不満だっだが、瑠璃が歩み寄り
「いつか……本当に私達が危険な目に遭ったら……その時は、力を貸して。ね?」
二人の手を優しく包み込み、微笑む。下手に押さえつけるより、敢えて優しさを前に出す事で不満を解消させた。
「分かりました……。」
「了解デス。」
「ここに残るみんなの事、お願いね。」
そう言うと瑠璃はクリスと響と共に出動する。
同じ頃、ロンドンでも非常事態が起きていた。マリアの前に現れた謎の女、緑色のフラメンコドレスを着ており、そのダンスのような立ち振る舞いで右手には剣を持っている。
「司法取引と情報操作によって仕立て上げられたフロンティア事変の汚れた英雄、マリア・カデンツァヴナ・イヴ……。纏うべきシンフォギアを持たぬお前に用はない。」
その女はマリアを監視していた二人の黒服を亡き者にし、今度はマリアに斬り掛かりに来る。
だが戦闘慣れしているマリアにとってこの程度のものを避ける事は造作も無く、さらに背後を取ってその女の首を目掛けて蹴りを入れてやる。これで黙らせることが出来る……はずだった。
「なっ……!」
その女はダメージを受けている様子は一切なく逆にマリア宙へ押し上げ、剣先を落下するマリアの方へ向けていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「踊れ、踊らせるがままに……。」
見下ろしながらそう言うディーラー風の女はコインを弾き、車のガソリンタンクを貫通させる。爆発によって逃亡中の少女は爆風で転倒するも、すぐに受け身を取って、走り続ける。
火災現場に向かう為、上空を飛んでいるヘリに搭乗している響、クリス、瑠璃の三人。現在通信で弦十郎が現状説明をしている。
『付近一帯の避難はほぼ完了。だが、このマンションに多数の生体反応を確認している。』
「まさか人が?!」
『防火壁の向こうに閉じ込められているようだ。さらに気になるのは、被害状況は依然、四時の方向に拡大していることだ。』
「じゃあこれは、意図的に起きたって事……?」
「どっかで赤猫が暴れていやがるのか?」
『響君と瑠璃は救助活動に、クリス君は被害状況の確認に当たってもらう。』
「「了解!」」
火災現場の真上まで近づくと、ヘリの出入り口のドアを開ける。
「任せたぜ、二人とも!」
「うん。」
「任された!」
そうクリスに返した二人はヘリから飛び降りる。
Balwisyall nescell gungnir tron……
響がギアのペンダントを掲げて詠唱を唄うと、ガングニールのギアを纏った。瑠璃もそれに続いてバイデントのギアを纏う。
響は拳で、瑠璃は連結させた黒白槍で火災現場のマンションの屋根を穿ち、そこから内部へと侵入する。既に火の手が上がっていて、煙で視界が利きにくいがバイデントのバイザーに内蔵されている補助システムを用いれば、視界不良の問題は解決される。
「友里さん、響ちゃんの誘導をお願いします!」
『任せて!瑠璃ちゃんは?』
「大丈夫です!視えてますから!」
バイザーには建物内にある3つの生体反応がキャッチされていた。1つは響であり、残りの2つが救助対象ということになる。その2つはそれぞれ正反対の方に別れている。
「じゃあ響ちゃん。」
「はい、そっちはお願いします!」
響と瑠璃は二手に別れて避難に遅れた住民の救助に向かう。バイザーが捉えた反応の方へ走ると、それが下方に動く事から下の階にいると判断した瑠璃は階段を使おうとするも、そこは既に瓦礫で塞がれ、通れなくなっていた。バイデントの威力をもってすれば破壊できなくもないが、横幅が狭い故に、柄が長い槍では壁に引っ掛かり振り回せない。どうしたものかと悩んだが……
「そうだ……!」
連結させた槍の穂先をを床に突き立て、それを振り下ろすと、そこに穴を空けて下の階へ通れるようにした。穴から入って下の階へ落ち、さらにもう一階床を穿ち抜く。目的の階まで降りると再び走り出す。
「いた……!」
そこには倒れ伏している女性がいた。
「無事ですか?!私の声が分かりますか?!」
瑠璃は女性を抱え、少し揺さぶる。すると女性は咳き込んだ。まだ生きているが、このままでは一酸化炭素中毒で死んでしまう。瑠璃はマンションの壁を破壊すると女性を抱えて飛び降りる。そして、連結させた槍を箒のように跨ると、遠隔操作を用いて飛行する。ゆっくり着地すると、ギアを解除して救急車の方へ向かう。
「お願いします。」
救急救命士に女性を預けると、ストレッチャーで運びそのまま救急車へと運ばれた。
響の方も救護完了したようだ。
「これで一安心ですね!」
「うん。」
そこに弦十郎から通信が入る。
『瑠璃、そのまま被害状況の確認も出来るか?クリス君のいる所とは反対の場所だ。』
「了解です。すぐに行きます。」
通信を切った瑠璃は響の方に向き直す。
「響ちゃん、ここはお願いね。」
「はい!」
瑠璃は再び走り出し、その背を見届ける響。
「瑠璃さん、また一段とカッコよくなってるなぁ。」
そう呟くと、響はあるものを見つけた。それはとんがり帽子を被り、魔法使いを思わせるようなローブをきた小さな少女だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
宙に打ち付けられ、剣を突きつけられたマリア。このままでは串刺しになってしまう所だったが、天羽々斬を纏った翼が、女の剣を弾いた事でマリアは串刺しにならずに済んだ。
「翼?!」
翼はマリアを守る様に、女の前に対峙する。
「友の危難を前にして、鞘走らずいられようか!」
翼が現れた事で女は笑みを浮かべる。
「待ち焦がれていましたわ。」
「貴様は何者だ?!」
そう言うと女はスカートの裾を掴んでフラメンコのポーズを取る。
「オートスコアラー。」
「オートスコアラー……?」
そんな名称は聞いたことがなかった。だが誰であろうと友に危害を加え、刃を向けている以上、倒すべき敵である事に変わりはない。
「あなたの歌を聞きに来ましたのよ。」
そう言うと女は剣先を翼に向けて、素早く距離を詰めて突きつける。翼は正面から剣を受け止め押し返すと、脚部のバインダーから刀をもう一本出して、柄の部分を連結させて双刀へと姿を変える。それを脚部のブースターを点火させながら双刀に紅蓮の炎を纏わせ、高速回転させる。
「風鳴る刃、輪を結び、火翼を以て斬り荒ぶ。月よ、煌めけ!」
高速回転させていくと紅蓮の炎は蒼炎へと姿を変えて振り下ろし、女を勢いよく吹き飛ばした。
【風輪火斬・月煌】
吹き飛ばされた女は崩れ落ちた荷物の下敷きとなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
同じ頃、少女は燃え盛るマンションの炎を目にした事で忌まわしき記憶が蘇った。それは最愛の父が、助けたはずの村人達に悪魔呼ばわりされ、その上磔にされ火刑に処されたあの日を。
泣き叫んだ少女に託された、『世界を知る』という亡き父の命題。それだけが彼女に残されたたった一つのもの。
「消えてしまえばいい思い出……。」
「そんなところにいたら危ないよ!」
下から響が呼び掛けていた。響は善意で声を掛けてくれているのだが、キャロルにはそれが不快だった。
「パパとママとははぐれちゃったのかな?そこは危ないから、お姉ちゃんが行くまで待っ……」
「黙れ!」
少女は円を描くように緑色の魔法陣を展開させると、その中心から竜巻を発生させて響に放つ。響は間一髪のところで避けるが、竜巻の攻撃を受けた地面は抉られており、突然それ程の攻撃をしてきた事に戸惑う。
『敵だ!敵の襲撃だ!そっちはどうなってる?!』
「敵?!敵って……」
通信からクリスが敵襲を知らせる。だが響はその敵の内に、今見上げている少女も入っているのかと戸惑いを隠せずにいる。
威力の高い攻撃で敵を吹き飛ばした翼にマリアは叱責する。
「やりすぎだ!人を相手に……」
「やりすぎなものか!手合わせして分かった……こいつはどうしようもなく……」
翼は確信していた。敵は人間ではなく……
「化物だ!」
山積みとなった荷物を蹴散らし立ち上がるフラメンコの女。まるで痛みを感じてないと言わんばかりの余裕で構えている。
「聞いてたよりずっとしょぼい歌ね。確かにこんなのじゃ、やられてあげるわけにはいきませんわ。」
響と対峙する少女は複数の金色の魔法陣を展開させる。
「キャロル・マールス・ディーンハイムの錬金術が、世界を壊し、万象黙示録を完成させる。」
「世界を壊す?」
「オレが奇跡を殺すと言っている!」
そう宣言したキャロルという少女は複数の魔法陣から放たれたエネルギー波が一つとなって響に襲い掛かる。
どっかのタイミングで技に関する解説もしていこう……