家主であるクリスが出動してしまった事でお泊り会は不完全燃焼という形でお開きとなってしまい、それぞれの家に帰っている。
調と切歌の家路の方向は、未来達とは違うので今は二人きりになっている。
「考えてみれば、当たり前の事。」
「ああ見えて、底抜けにお人好し揃いデスからね。」
フロンティア事変の裁判で無罪となったあの日の後、響達がドーナツを持って面会に来てくれた。
「フロンティア事件の後、拘束された私達の身柄を引き取ってくれたのは、敵として戦ってきたはずの人たちデス。」
「それが保護観察なのかもしれないけれど……学校にも通わせてくれて。」
入学初日、初めて通う学校に戸惑っていた所をクリスに背中を押され、瑠璃に手を差し伸べられ、その手を取ると自分達を引っ張ってくれた。そして響と未来は自分達が来るのを待っていてくれていたかのように笑顔で迎え入れてくれた。
そんな優しい恩人達の役に立ちたいのだがLiNKERがない以上、それは叶わない。クリス達が出動する前に、瑠璃が自分達に言ってくれた言葉が蘇る。それは自分達を守る為にと言ってくれたのだろう。
切歌はギアのペンダントを握りしめる。
「力は、間違いなくここにあるんデスけどね……。」
「でも、それだけじゃ何も変えられなかったのが、昨日までの私達だよ、切ちゃん。」
力はあるのにそれを活かせないこの状況にもどかしさを感じている。結論が見えない迷いに、心が沈んでいた時だった。見上げたビルのモニターに火災のニュースが映っていたのだが、目に映っていた同時にヘリが爆発した。
「何か、別の事件が起きているのかも……!」
こうしてはいられないと二人は行動に出る。
クリスが被害状況の確認の為にヘリを降り、それが飛び立った瞬間、ディーラー風の女が弾いたコインによって撃墜された。それを皮切りにクリスと女の銃撃戦が始まった。
ボウガンを乱射するも女の人外的な動作を目の当たりにしたクリスは、人ではないと判断した途端、ガトリングへと可変させて、弾幕の量を倍増させる。
しかし、女もマシンガンのようにコインを連射し、弾丸を全て弾いた。
ならばと展開した腰部のアーマーから小型ミサイルを全弾発射させる。
【MEGA DEATH PARTY】
「へっ、どんなもんよ。」
全弾命中させた……はずだった。
「何……だと?!」
まさかのノーダメージ。女は余裕の立ち振る舞いを見せた。さらにこれだけでは終わらなかった。
「危ない!」
どこからともなく声が聞こえると、頭上から船が降ってきた。先程の精密な射撃とは異なり、出鱈目な攻撃に驚きながらも避けた。
「私に地味は似合わない……だけどこれは少し派手すぎる……。」
女の背後には風貌は女に似ているが、ビルの高さに勝るとも劣らない巨体で、その両手には船を掴んでいた。
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同じ頃、キャロルの姿を捉えた動画を盗撮していた命知らずの青年がいた。
「こういう映像ってどうやってテレビ局に売ればいいんだっけぇ?」
どうやらテレビ局に情報を売って細やかな小遣い稼ぎが目的だったようだが、そんな邪な考えを持った者の末路は大抵碌なものではない。
「断りもなく撮るなんて、躾の程度が窺えちゃうわね。」
青年は突然現れた青を基色としたメイドを思わせるドレス姿をした女が現れた事で動揺する青年を余所に、その頬を手に触れて、顔を寄せると強引に口づけを交わした。するとその青年の髪は白くなり、まるで年老いた風貌へと変わってしまい、そのまま倒れてしまう。その様を嘲笑うように見下していると、一人の少女が近づいてきた。
「あらその格好、あなたか。今回も情報提供ありがとうねぇ〜。」
まるでバレリーナのような立ち振る舞いに、わざとらしく笑顔で出迎える。少女はリディアンの夏服を着ている。口を開く事はせず、女のすぐ下に倒れ伏している青年を見て嫌悪感を抱く。
「嫌だなぁそんな顔しなくても〜。もうすぐあなたの望み通りになるんだからぁ。こんなチンケな人間の一人や二人の犠牲なんて、ちっぽけなもんでしょ〜う?」
笑顔で独善的なセリフを吐く。人ではない故でもあるのだろうが、そのセリフがいかに性根が腐っているのかが分かる。
「ま、今後とも頼りにしてるからよろしくねぇ〜。あぁそれから、もうその格好で現れなくても良いわよ〜。じゃあガリィちゃんはこの辺で〜。」
そういうとガリィと名乗った女はキャロルの所へと移動していった。少女は青年のスマホを手に取ると、先程撮った動画を削除すると地面に叩き割った。
蘇るあの日の記憶。同級生に人殺しと罵られ、暴力を振るわれ、まるで中世の魔女狩りのような虐めを受けていた中学三年生生活。教師からも無視され、それでも耐え抜いて『人殺し』『税金ドロボー』など書かれた貼り紙が貼られ、壁にはスプレーで悪戯された家に帰ったら、血溜まりに倒れていた両親と妹の亡骸があった。
人権なんてない仕打ちを受け、誰も助けてくれない、味方なんていない、この世の全てが敵だった。もうあんな日には戻りたくない。
「世界なんて……無くなっちゃえばいい……。」
少女はそう呟くと何処かへと去って行った。
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頭上から船が降ってきたという予想外の攻撃を何とか避け、草むらで打開策を練っているクリス。
「ハチャメチャしやがる……!」
出鱈目な手段に悪態をつくクリスに背後から声をかけられる。
「大丈夫ですか……?」
「あぁ……ってええぇっ?!」
振り返ると簡素な黒いローブで身体は隠されているが、パンツ一枚という破廉恥な格好に赤面する。
「あなたは……」
クリスは慌てて顔を隠す。
「わ、私は、快傑☆うたずきん!国連とも、日本政府とも全然関係なく、日夜無償で世直しを……」
「イチイバルのシンフォギア装者、雪音クリスさんですよね?」
カバーストーリーとして噂されていた流行りの漫画のキャラクターを名乗ってとりあえずその場しのぎの言い訳を少女は遮る。
「その声、さっきアタシを助けた……」
先程危機を知らせてくれた少女の声だった。その少女はフードを取って素顔を晒す。
「ボクの名前はエルフナイン。キャロルの錬金術から世界を守るため、皆さんを探していました。」
「錬金術……だと……?!」
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被害状況を確認に行く為に再びギアを纏って、槍に跨って飛行していた瑠璃だったが、クリスが敵襲を受けたと聞き、急行する瑠璃。不安になりながらも何とか平常心を保っている。でなければ今頃こうやって飛行出来ていない。
槍の遠隔操作は精密な操作が要求され、この飛行も遠隔操作を訓練した末に応用出来るようになったからこそ行える芸当なのだ。フロンティア事変後でも飛行操作をしながら様々な二重課題を行いながら訓練し続けた。
瑠璃はクリスに通信を掛けようとした時、友里からの通信で響がキャロルと名乗る錬金術師に倒されたという知らせを受けた。
『あの馬鹿がやられた?!』
『それだけじゃないわ、翼さんのいるロンドンでも襲撃を受けてる。』
「お姉ちゃんも……?!」
キャロルに倒された響だったが、幸い怪我も少なく医療班によって回収されたとのこと。
翼はマリアに連れて行かれる形でライブ会場から離れているとのこと。翼が狙いであれば一般人の多い会場から遠く離れた方が被害も少なくなる。
『翼さん達も撤退しつつ、体勢を立て直してるみたいなんだけど。』
『こっちにも252がいるんだ!ランデブーの指定を……なっ?!』
「どうしたのクリス?!」
『そんな……!』
ブリッジのモニターに信じられないものが捉えていた。翼とクリスの周囲に赤い陣が敷かれると、そこからネフィリムの爆発によって消滅したはずのノイズが出現した。それも大群をなしていた。
「ソロモンの杖も、バビロニアの宝物庫も、一兆度の熱量に蒸発したのではなかったのか?!」
だがこうして翼とクリスの前に姿を現した。全て消滅しきれなかったのかと考えてしまうが、現れた以上排除する他ない。
クリスはガトリングで襲い掛かるノイズを文字通り蜂の巣にする。しかし大群に包囲され、エルフナインを守りながら戦っている状態なので、迂闊に動く事が出来ない。次第に包囲が狭まっていき、一体のノイズがクリスに攻撃を仕掛けようとする。
「どんだけ来ようが今更ノイズ!負けるかよ!」
ノイズ如きに遅れは取らない。プロテクターでその攻撃を防いでカウンターを決める……はずだった。
「何だと?!」
ノイズの手を思わせる白い尖端がプロテクターに触れた途端、その守りがいとも簡単に崩されてしまった。
ロンドンでも戦っている翼にも同じ事が起きていた。剣先にノイズの攻撃が触れた途端に、刃が塵と消えた。
「剣が……!」
そして守りが崩れた所をノイズの攻撃が、ギアのマイクコンバーターに直撃、ヒビが入った。二人のギアが次第に分解されていった。
「ノイズだと、括った高がそうさせる……。」
このノイズを召喚したディーラーの女がジャズダンスのポーズを取って言う。
ロンドンでもフラメンコの女が翼に対してこのノイズを召喚していた。
「敗北で済まされるなんて、思わないことね。」
ブリッジにいる人員は全員混乱していた。予想しえなかった事態に皆が動揺する。
「どういうことだ?!」
「二人のギアが分解されています!」
「まさか……ノイズじゃ……ない?!」
響を倒したキャロルは玉座とも言える場所に座っていた。
「アルカ・ノイズ……。」
それがこのノイズの名前であった。
「何するものぞ……シンフォギアアアアアアァァァーーーーーー!!」
キャロルの叫びが響き渡り、部屋の中央には台座が5つ、その内の2つにガリィともう一体、ツインロールの赤い髪の曲芸師のようなポーズで止まっていた。
リディアンの制服を着た情報提供者……果たして何者なのか?!