任務がない時の装者達はそれぞれの日常に戻る事になるのだが、その日常の中で昨夜の戦いの結果がチラついてしまう。
切歌と調は大事を取って検査入院となり、響も大事はないがどこか上の空で、瑠璃とクリスも引きずってしまっていた。
食堂で瑠璃、クリス、輪が同じ席で昼食を取っているのだが、せっかくの平和な昼食時がお通夜のような空気になっている事に疑問を抱いた輪が口を開く。
「何この状況?この後お葬式でもあるの?」
「ないよ。」
「真面目か!そこ真面目に返さなくていいから。」
「とりあえず黙って食っててくれ。」
「姉妹揃って暗い暗い!私はこの空気に負かされてCryCry!あーもう!何なの二人して?!」
この空気に耐えられなくなった輪が立ち上がって親父ギャグを交えて叫ぶが二人とも真顔のままだった。姉妹揃って俯いてお弁当、菓子パンを食べている姿を写真に収めた所でこちらまで暗い空気になるのがオチなので撮る気にすらならない。
輪は再び席につくとテーブルに両肘ついて、指を組む。
「話してみてよ。二人まとめて聞くから、少しは気が楽になると思うよ?」
まるで何処かのグラサンを掛けた司令を彷彿とさせる格好だが、それは置いといてクリスが立ち上がった。
「いや……気持ちはありがたいけど、遠慮しとく。」
そう言うと席を離れてしまう。
「ありゃりゃ……行っちゃった。ねえ、瑠璃の方は?」
「ううん。私というよりは……調ちゃんと切歌ちゃんの事でね。」
「二人の事?あれ?そう言えば暁さんと月読さんは?」
「あの二人は今日はお休み。ちょっと入院中で……。」
「それちょっとなんて話じゃなくない……?」
大事を取っての検査入院なのだが、装者ではない輪からすればただ事ではない。
「まあでも、二人を心配するのは良いけどさ、少しは自分の事も考えなよ。」
「え?」
「あんたはお人好しすぎるんだから、少しくらい警戒心っていうのを持った方が良いと思うよ。」
瑠璃の両肩をポンと叩く輪。輪はこの2年半、瑠璃を見て来たからそれ故に瑠璃の強みも弱みも分かっている。そこにつけ込まれないように親友の好で忠告した。
「ありがとう輪……心配してくれて。」
瑠璃もそのまま席を離れてしまった事で、一人取り残された輪。瑠璃の背を見ていた輪が独り言を呟く。
「困ったなぁ……。姉妹揃ってあれじゃあ……この先どうなるか分かんないや。ま、今は静観するしかないか。」
そう言って腕を伸ばした輪は席から立ち上がって食堂を後にする。
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学校が終わって、空港で翼とマリアの帰りを出迎えた後、S.O.N.G.の艦内に装者が全員集まったが明るい雰囲気にはなれない。事態は深刻であるからだ。
モニターには破損したギアペンダントが映し出された。
「これは……?」
「新型ノイズに破壊された、天羽々斬とイチイバルです。」
破損していないバイデントのギアペンダントを取り出して見比べる瑠璃。その差は明らかだった。
「コアとなる聖遺物の欠片は無事なのですが……。」
「エネルギーをプロテクターとして固着させる機能が、損なわれている状態です。」
「セレナのギアと同じ……。」
そう呟いたマリアはフロンティア事変で半壊したアガート・ラームのギアペンダントを出す。クリスは腰に手を当てて
「もちろん直るんだよな?」
簡単に言ってくれるが、そもそも櫻井理論の提唱者である了子は既にこの世の者ではなく、さらにその腕を継ぐ者すら存在しない為、事実上直すことが出来ない状態だ。
「現状、動けるのは響君と瑠璃のみ……。」
「私と響ちゃんだけ……。」
そう呟く瑠璃だが、調と切歌が反論する。
「そんなことないデスよ!」
「私達だって……」
「駄目だ!」
弦十郎が叱責する。
「どうしてデスか?!」
「LiNKERで適合値の不足値を補わないシンフォギアの運用が、どれほど体の負荷になっているのか……。」
「君達のに合わせて調整したLiNKERが無い以上、無理を強いることは出来ないよ……。」
昨夜の戦闘ではLiNKER無しでどれほどの負荷が身体を蝕むか、二人はよく分かっているのだが、それでも役に立ちたいという思いがそれを認められずにいる。
「何処までも私達は、役に立たないお子様なのね……。」
「メディカルチェックの結果が思った以上に良くないのは知っているデスよ……。どれでも……!」
目の前の現実に打ちのめされ悔しさと不甲斐なさを感じていた。
「守られてばかりが嫌なのは、私も同じだよ。だけど二人を見て。」
翼とクリスは戦えない悔しさはあるのだろうが、焦っている様子は無かった。
「二人は今ジタバタしても仕方がないって分かってる。戦えないなりに今出来ることを考えて、戦える私達に今を託してる。だから今だけは……私達に託してほしい。」
瑠璃の語りかけに翼とクリスも続く。
「こんなことで仲間を失うのは、二度とごめんだからな。」
「その気持ちだけで十分だ。」
そう言うと二人は瑠璃と響を見据える。
「瑠璃、立花。私達の代わりに、戦線は任せたぞ。」
「頼んだからな。」
「うん。」
「……はい。」
瑠璃は言い切るが、響は何処か煮えきらない感じだった。それをマリアは見逃さなかった。
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キャロルの居城、チフォージュ・シャトー。その広間の中央にある台座でガリィは未だ起動していないオートスコアラーの起動を試みている。
「いきま〜す。」
ガリィとミカの唇が重なると、ミカの身体が禍々しいオーラを纏う。これはオートスコアラーのエネルギーの源である思い出を移しているのである。これによってオートスコアラーは起動し、活動する事が出来る。特にガリィは思い出の分配という独特の機能が備わっていて、ミカにはそれがないのでガリィを介して思い出の蓄えている。
すると、ミカがぎこちない動きで起動したが、ヘナヘナと座り込んでしまう。
「最大戦力となるミカを動かすだけの思い出を集めるのは、存外時間がかかったようだな。」
「嫌ですよぉ〜これでも頑張ったんですよぉ?あの子のお陰でよりスムーズに進んだとはいえ〜なるべく目立たずに〜事を進めるのは大変だったんですからぁ~。」
ガリィの言うあの子とは情報提供者である少女の事を指している。その者の情報によって、人目のつかない夜道で、ならず者とも言える集団の思い出を確実に、早くに搾取出来たのだが、ミカを動かす為には膨大な思い出を必要とした為、予定より掛かってしまったのだ。
「まあ問題なかろう……。」
ガリィのぶりっ娘のようなセリフと性根が腐っている点を除けば忠実ではある為、この際目を瞑る。
「マスター。」
中央の台座から、テレポートジェムを通して現れた白を基色としたオートスコアラーが現れた。他のオートスコアラーとは違い、西洋の鎧を彷彿とさせる衣装であり、右手にはハルバードを手にしている。
「ジークか。」
「はっ。エルフナインは奴らに保護されたようです。」
「それは把握している。あいつから何か聞き出せたか?」
「いえ、特に目ぼしいものはありません。強いて申せば、思い出の搾取にうってつけの場所があるとの事ですが……」
ミカの現状をチラッと見るジークだが、再びキャロルの方に向き直る。
「ミカのその頭と同様に足りない思い出の補充も済ませられる好機かと。」
遠回しにミカを貶しつつ報告するジーク。
「ご苦労だった。」
ジークとガリィに命令を下す。
「まあいい。奴には引き続き、情報提供を続けさせろ。ガリィ。」
「ハイハイ。ガリィのお仕事ですよね〜。」
「ついでにもう一仕事、こなしてくるといい。」
ガリィは台座からテレポートジェムで転移した。
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所変わってS.O.N.G.艦内。保護されたエルフナインからキャロルに関する情報を得る為に装者全員と弦十郎が集まっていた。
「僕はキャロルに命じられるまま、巨大装置の建造に携わっていました。ある時、アクセスしたデータベースよりこの装置が世界をバラバラに解剖するものだと知ってしまい、目論見を阻止するために逃げ出してきたのです。」
「世界をバラバラに……?!」
「それは穏やかじゃないな。」
瑠璃とクリスがキャロルの目的を知り、呟く。
「それを可能とするのが錬金術です。ノイズのレシピを元に作られたアルカ・ノイズを見れば分かるように、シンフォギアを始めとする万物を分解する力は既にあり、その力を世界規模に拡大するのが建造途中の巨大装置……チフォージュ・シャトーになります。」
「装置の建造に携わっていたという事は、君もまた、錬金術師なのか?」
翼の問いにエルフナインは答える。
「はい。ですが、キャロルのように全ての知識や能力を統括しているのではなく、限定した目的のために造られたに過ぎません……。」
「作られた……?」
響が疑問を抱く。
「装置の建造に必要な、最低限の錬金知識をインストールされただけなのです。」
エルフナインから立て続けに説明されているが、人間にはあり得ない事が次から次へと口から出る。マリアもエルフナインに聞く。
「インストールと言ったわね?」
「必要な情報を、知識として脳に転送・複写することです。残念ながら、僕にインストールされた知識に計画の詳細はありません……。」
期待に応えられない事に俯くが、エルフナインはすぐにみんなの方に向き直る。
「ですが……世界解剖の装置、チフォージュ・シャトーが完成間近だということは分かります!お願いです!力を貸してください!その為に僕は、ドヴェルグ=ダインの遺産を持ってここまで来たのです!」
そう言うと箱の蓋を開けると、中身を取り出す。何かの破片のようなもので、ルーン文字が刻まれている。
「アルカ・ノイズに……錬金術師キャロルの力に対抗しうる聖遺物。魔剣・ダインスレイフの欠片です!」
エルフナインの話を一通り聞き終え、ブリッジへと向かおうとした時、エルフナインはある事を思い出した。
「そう言えば、みなさんが着ているそれは……リディアン音楽高等学院のものですよね?」
「そうだけど……興味あるの?」
響が的はずれな事を聞く。
「いえ……その……。チフォージュ・シャトーを脱走する直前、その制服を着ている方がキャロルと話しているのを見掛けました。」
その情報に全員が唖然とした。
「何を話していた?!」
弦十郎が思わず詰め寄る。
「あの……。全て聞いていたわけではないのですが……オートスコアラーの起動に必要な思い出搾取に適した場所、皆さんのその日の行動パターンや予定、ルートなどを話していました。」
ということはキャロルに装者全員の行動パターンが筒抜けという事になる。
「それって……つまり……。」
「スパイがいるって事デスか?!」
包み隠さず言ってしまえば切歌の言う通りである。マリアがエルフナインに問う。
「顔は見たの?」
「いえ……後ろ姿しか見てませんし…。かと言って髪だけで犯人と決めつけるわけにも……。」
エルフナインの言う通り、髪の色ならいくらでも変えられる為、特定するのは難しい。
「分かった。スパイの正体はこちらであぶり出すとしよう。」
そう言うと装者と弦十郎は一度ブリッジへ戻った。新たなる敵ある錬金術師とオートスコアラー、ギアを分解してしまうアルカ・ノイズ、さらにスパイの存在など問題は山積みだ。
スパイは一体誰なのか?
スパイの正体は分かっていても言わないでいただけるとありがたいです。