閑話1
ブリッジのモニターにはエルフナインの検査結果が映し出されていた。全員がそこに注目しているのだが、オペレーター陣は戸惑っていた。
何故なら性別、血液型など人間にはあるはずの情報が殆ど無いからだ。
友里曰く
「彼女……エルフナインちゃんに性別はなく、本人曰く、自分はただのホムンクルスであり、決して怪しくはないと……。」
それを聞いた装者全員はこう思った。
「「「「「「「怪しすぎる(デース)……。」」」」」」」
閑話2
翼がロンドンで遭遇したアルカ・ノイズの絵を提示した。
「これが……ロンドンでお姉ちゃんが戦ったアルカ・ノイズ?」
「我ながら上手く描けたと思う。どうだ瑠璃、雪音。」
翼は自信満々なのだが、子供が描いたような侍であり、瑠璃が記憶しているアルカ・ノイズの特徴、姿形とはあまりにもかけ離れている。
「アバンギャルドがすぎるだろ?!現代美術の方面でも世界進出するつもりかぁ?!」
「うん……。ノーコメントで……。」
評価はそれとして、雪音姉妹は揃って呆れた。ただその翼作 武者ノイズはちょっと可愛いので瑠璃のスマホで写真を撮ったという。
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放課後、その画像を輪に見せた所大爆笑した。
「プッ……!ハハハハハハ!あぁー!おかしいおかしい!こんなっ……こんな個性が爆発したノイズが……クククク……!」
「もう、笑い過ぎだよ輪。それに声が大きいよ。」
瑠璃は注意するが、当の本人は笑いのツボに入ったようで、笑いが止まらなくなっていた。
「にしても翼さん絵心無さすぎでしょ?!これ……バライティー番組とかで出したら……お茶の間の人達爆笑する……ヒヒヒ……!」
ちなみに翼は日本でバライティー番組に出た所、そのポンコツ具合がウケたようで、ロンドンでもバライティーの出演依頼が殺到したという。それ以降、翼にとってバライティー番組はある意味天敵となりつつある。
「あー笑った笑った。こんなに笑ったのいつ以来だろ。」
今も若干笑っている。これではキリがないので瑠璃は話題を変える。
「そう言えば、小夜さんはもう大丈夫なの?」
「あ、うん。あれからもうすっかり元気になっちゃって。復帰したよ。多分夜勤疲れで疲労が祟ったんじゃないかな?小夜姉も人間だったってわけよ。」
最後の一言を本人が聞いたらツッコまずにはいられないだろうと考えながら帰り道を歩く瑠璃。すると二人が通ろうとした道の前に、アルカ・ノイズが大量に出現した。
「何なのこいつら?!」
「アルカ・ノイズ……!何でここに……?!」
瑠璃はギアのペンダントを握りしめる。
Tearlight bident tron……
瑠璃はすぐさまギアの詠唱を唄い、バイデントのギアを纏う。そこに弦十郎から通信が入る。
『瑠璃、響君の方にもアルカ・ノイズが出現した!現状はそこにいるアルカ・ノイズをお前一人で対処しなければならない。行けるか?』
「任せてください。輪、下がってて!」
「う、うん!」
輪は危険が及ばぬよう下がり、瑠璃は走り出した。
『気を付けろ!奴らの発光する部分こそが解剖器官だ!』
「了解!」
アルカ・ノイズは命令通り、瑠璃に攻撃を仕掛ける。白く発光している解剖器官がギアコンバーターを狙うが、瑠璃はそれを避けつつアルカ・ノイズの身体を黒槍で刺突する。後ろからの攻撃もしゃがんで回転斬りで対処、さらに黒槍と白槍の穂先にエネルギーを集め、それをアルカ・ノイズのいる虚空に放つとそこからエネルギー波を放った。
【Shooting Comet:Twin Burst】
エネルギー波に貫かれたノイズは赤い塵となって消え、その後ろにいたノイズも纏めて塵と消えた。
「信じらんない……。」
後ろで潜んでいた輪が思わず呟く。
バイザーの戦闘補助システムに瑠璃の動体視力が相まって的確に攻撃を避けつつ反撃を繰り出す為、瑠璃は殆ど防ぐ事をせずにアルカ・ノイズを殲滅させた。
「よし、何とかなったかな……。」
一安心出来ると思いきや弦十郎から通信が入った。
『瑠璃!すぐに響君の所へ向かってくれ!』
「響ちゃんに何か?!」
『いや、響君の代わりにマリア君がガングニールを纏って戦っている!』
マリアもLiNKERによって適合係数を高めていた。それを無しでギアを纏うとなったら身体に掛かるバックファイアも尋常ではないだろう。
「すぐに向かいます!」
そう言うと瑠璃は響の所へ走り出し、後ろで身を潜めていた輪もその後を追う。
だが輪が潜めていた場所の後ろにジークが見ていた。
「バイデント……。人間如きの下らん噂話で呪われたギアと名付けられた悲しきギア……か。」
『ジーク。』
キャロルの念話に反応するジーク。
「何でしょうマスター?」
『まだ様子見を決めているのか?破壊を先延ばしにしすぎると、計画に支障をきたす。』
「これもまた、勝利の為。もう少し煽ってやれば、奴の絆の力とやらも……いずれは容易く壊れるでしょう。」
ジークは確実な勝利を得るまで目立つ動きはしない。自らの身を隠していたのもその為であり、エルフナインにすら自分の存在は知り得ない。
『完璧主義も良いが、早い所済ませてしまえ。』
「はっ……。」
そう言うとジークは姿を消した。
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瑠璃は急いでマリアの救援に向かったが、瑠璃と輪が到着した時には既に終わっていた。マリアの両目からは血が流れ、蹲っていた。
「ちょっと、これ大丈夫なの?!」
「マリアさん!立てますか?!」
バックファイアによる激痛でまともに立つことすらままならないマリアに、瑠璃は駆け寄って肩を貸す。
装者でもない後ろ4人はともかく、響が戦えないのには訳があった。帰り道にガリィがアルカ・ノイズを召喚して襲い掛かってきたのだ。対抗しようと響がギアのペンダントを握るが、詠唱が浮かび上がらず戦えなかった。
詩織が機転を利かせて一度は包囲から脱出出来たが、あっさりと追いつかれてしまい、到着したマリアが代わりにガングニールを纏って戦っていたという。
アルカ・ノイズは全滅させたが、ガリィを倒すまでには至らなかった。ガリィの攻撃がギアのコンバーターに届く寸前にギアが強制解除された事で、ガングニールの破壊は免れ、ガリィはそのまま撤退したという。
「ごめんなさい……もっと早く到着出来ていれば……。」
「君はしっかり務めを果たした……。それだけで十分よ……。」
マリアは凛とした表情で言うが、マリアの痛々しい姿を見ると心苦しくなる。
マリアは瑠璃に支えられ響達の方に歩み寄る。ガングニールのギアペンダントを返そうとそれを手に出す。
「君のガングニール……」
「私のガングニールです!」
響はあろう事かペンダントを奪う形で取った。
「これは!誰かを助けるために使う力!私がもらった、私のガングニールなんです!」
「ちょっとあんた!戦ってもない癖にそんな言い草……」
「良いの。」
響の叫びに輪が憤慨するが、マリアによって制止される。
昨日の翼の武者ノイズの展覧に戻る。響のあるセリフが切っ掛けだった。
「戦わずに分かり合うことは……出来ないのでしょうか……。」
瑠璃は戦う事に対して前向きな姿勢でいるのとは対象的に、響は戦う事を躊躇っていた。それにマリアが反応した。
「逃げているの?」
「逃げているつもりじゃありません!」
響が感情的になって否定する。
「だけど……適合して、ガングニールを自分の力だと実感して以来、この人助けの力で誰かを傷つけることが……すごく嫌なんです。」
これにマリアは
「それは……力を持つ者の傲慢だ!」
響の主張にマリアは一刀両断した。
マリアからすればギアを纏えても、その纏うギアが無い上にLiNKERすらない。ジャンヌが抱えていた悔しさを、このような形で痛感していた。そもそもジャンヌは戦う為のスタートラインに立つことすら出来なかったのだ。今ならばジャンヌが自分の身体を虐待してまで力を欲した訳も頷けた。
だがマリアはそれでもガングニールを響に託す事を選んだ。
「そうだ……ガングニールはお前の力だ!だから……目を背けるな!」
「目を……背けるな……。」
だが響はその重圧に耐えきれず、目を背けてしまう。
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チフォージュ・シャトーではジークが先に、間もなくガリィも帰還した。
キャロルはジークに続いてギアを破壊せずに帰還したガリィを玉座から見下ろす形で睨みつける。
「ガリィ……」
「そんな顔しないでくださいよぉ。碌に唄えないのと、唄っても大したことない相手だったんですからぁ!あんな歌を毟り取った所で役に立ちませんって。それに、ジークだって全然戦おうとしないんですからぁ。」
「性根の腐った貴様と同じにするな。私は完璧に、奴のギアを破壊する。」
「完璧ぃ〜?チキンの間違いでは〜?」
「何だと……?」
「やめろ!」
ガリィとジークの口喧嘩をキャロルが怒鳴って止めた。
「自分が作られた目的を忘れていないのならそれでいい……。だが次こそ奴の歌を叩いて砕け。これ以上の遅延は計画が滞る。」
「レイラインの解放……分かってますとも。ガリィにお任せでぇ〜す。」
ガリィの猫を被った態度とウィンクにキャロルは呆れるようにため息をつく。ジークの言った通り、性根が腐っているのを知っている。
だがそれは今は置いておく。キャロルは響と初めて邂逅した夜を思い出し、苛立った。次こそギアを確実に破壊する為に、念には念を入れる。
「お前に戦闘特化のミカをつける。それとジーク、お前もだ。いいな?」
「はっ。」
「いいゾ~!」
ミカは無邪気に元気よく手を挙げる。ジークはガリィの下につくような命令で内心快く思っていないが、主の命令には従わなくてはならない。ジークは顔色を変えずに平伏する。
だがキャロルが命令を下したのはガリィにであって、彼女を無視した反応にガリィは
「そっちに言ってんじゃねぇよ!」
今までの猫かぶりをかなぐり捨てるかのように怒鳴った。
(せめてあの時、外れ装者のギアが解除されなければ……。)
マリアとの戦いを思い出し、任務を遂行できなかった事に悔しがるガリィだったが、構わずジークがキャロルに問う。
「マスター、バイデントの装者は如何様に?」
「奴はそれに関しては吐こうとしない。よほど話したくないのだろう。バイデントの装者に関しては、お前に任せよう。」
「はっ。」
そう言うとジークは台座から転移した。ジークは人間嫌いであり、自身が人間より優位に立っているという証としてわざと人間を甚振ってから思い出を搾取していた。情報提供者にも手を出そうとしていたが、キャロルが命じた為、未遂に終わった。
「まあ、やりすぎないだろうがな。」
キャロルは静かに呟いた。
ぶっちゃけ血を流している状態で迫られたらそりゃあ……ねぇ。