響達がイグナイトモジュールを制御し、キャロルが自決したあの戦いから数日、瑠璃はジークによって負傷した肩は治り、今まで通りの訓練が出来るようになっていた。その間に破壊されていたバイデントのギアも改修済みであり、それを預かっていたクリスから受け取った。
「怪我も治って、バイデントも復活だな。良かったな姉ちゃん。」
「うん。」
瑠璃は受け取ったバイデントのギアペンダントを握りしめる。
そして壊されたといえば……
「壊されたイガリマと……」
「シュルシャガナの改修完了デス!」
調と切歌がそれぞれのギアが改修され、戻って来た事を共に喜び合う。
「機能向上に加え、イグナイトモジュールも組み込んでいます。そしてもちろん……。」
エルフナインが着ているワンピースのポケットからギアペンダントが出された。
「復活の……アガートラーム……。」
フロンティア事変で半壊したアガート・ラームのギアは正式には改修ではなく、新造されたものである。そのペンダントが今、マリアの手に戻った。
「セレナのギアを……もう一度。この輝きで、私は強くなりたい。」
それがギアを手にしたマリアの新たな決意である。そこに弦十郎が割って入るように言う。
「うむ。新たな力の投入に伴い、ここらで一つ特訓だ!」
「「「「「「「特訓?!」」」」」」」
装者達が一斉にオウム返しするように言う。
「オートスコアラーとの再戦へ向け、強化型シンフォギアと、イグナイトモジュールを使いこなす事は急務である!近く、筑波の異端技術研究機構にて、調査結果の受領任務がある。諸君らはそこで、心身の訓練に励むと良いだろう!」
という弦十郎の案により、装者達は茨城県の筑波にある政府保有のビーチに来ている。
(強くなりたい……。翻弄する運命にも、立ちはだかる脅威にも負けない力が欲しくて、ずっと藻掻いて来た……。求める強さを手に入れる為……私はここに来た!)
そう言うと水着姿のマリアはグラサンを取って太陽を見上げる。
「おーい。マリアー。」
「何をやってるデスかー?」
切歌と調の呼び掛けにも応じないくらい、気合が入っている。傍から見ていた輪が苦笑いする。
「ねえ瑠璃。何かマリアさん、随分と気合入ってない?」
「確かにそうだね……。お姉ちゃんの方も本当に特訓だと思ってるみたいだよ。」
瑠璃と輪は、ビーチパラソルの下に敷いたレジャーシートに座って皆が遊んでいるのを眺めている。
ちなみに輪と未来は装者ではないが、特別に同行が許され一緒に来ている。
「まあ、私達は私達でのんびり楽しむとして……やっぱあの水着の方が良かった気がするなぁ……」
「無理だよ!あんなに布が少ない水着着れないよ!」
瑠璃の水着は藍色のレースアップタイプの水着であり、クリスが選んだものである。輪も選んでいたのだが、それが布の面積の少ないマイクロビキニであり、試着室で着た時、中で盛大な悲鳴を挙げた。
これにはクリスにこっぴどく怒られてしまい、クリスが選んでくれたこの水着になった。
輪の方はオレンジと白のストライプ模様のタンキニタイプである。
「おーい姉ちゃーん!こっち来いよー!」
浮き輪に乗って波に揺られているクリスが手を振って瑠璃を誘う。
「まるでクラゲみたいだなぁ……。」
そう呟きながら瑠璃はクリスの方へと向かう。ちなみにクリスは泳げるのだが、響のように体力があるわけではないのでこうしてのんびり波に揺られている。
「楽しそうだね。」
「姉ちゃんと海に行くなんて、もう随分前だったからな。その時はパパとママと一緒にさ。あ……覚えてないか?」
「ううん。それは覚えてるよ。覚えてないのは……バルベルデで……パパとママが亡くなった後の事……あの日以降何でクリスと離れ離れになったのか……覚えてないんだ……。」
瑠璃が体験した惨劇、あれを思い出させて良いのか?もし思い出したら、大好きな姉が壊れてしまうんじゃないのか?クリスは心の中で己に問う。
「けど、今はみんなとこうして海で遊びにいるんだから、楽しまなきゃね。」
「ああ……そうだな。」
「というわけでこっち向いてー!」
声がした方を姉妹は同時に振り向くと、輪がデジタルカメラで写真を撮っていた。
「なっ!」
「お前!」
「良いじゃん良いじゃん。この姉妹は体型が良いから瑠璃の大人の水着、そしてクリスの可愛らしい姿……うっひょ〜たまんないな〜!」
後半のセリフは欲望丸出しのセクハラ親父になりながらも連写する。また勝手に撮られたと分かったクリスは顔を赤らめ、カメラをぶん取ろうと腕を伸ばすが浮き輪に乗っている事を忘れている。
「お前なあぁぁ!今すぐそれを消せぇ!」
「悔しかったら取ってごら~ん。」
輪は後ろに下がりながらカメラを持つ手を高く上げている。浮き輪に浮いている状態では取れるはずがないのに、クリスは浮き輪に乗っている事を忘れている。
「ちょっとクリス!慌てて立とうとしたら……」
「うわぁっ!」
「え?」
バランスを崩したクリスは転び、ついでに手を伸ばした方にいた瑠璃を押し倒してしまう。砂浜の方まで交代していたという事もあり、波飛沫もそこまでではなく、溺れる事は無いが代わりにとんでもない光景に出くわした輪。
「大丈夫か姉ちゃ……っ!」
「だ、大丈夫……ひゃぁっ!!」
「ちょっと、二人とも大丈……ヒョっ?!」
何と押し倒された瑠璃の豊かな果実を、クリスの右手が鷲掴みにしていた。瑠璃の胸は妹であるクリスと同じ大きさであるが、クリスの手の指の間からはみ出そうになり、押し返そうとする弾力とそれに反する柔らかさが伝わる。
姉妹の顔は真っ赤になり、輪はその姿を写真に収めたが、女の子同士でも刺激的すぎたようで鼻血が出ている。
「こ、ここ……これは……お、お……お宝……」
ワナワナと小刻みに震えるクリス、そして……
「と……撮るなパパラッチがああああぁぁぁ!!」
火山が噴火したかのように怒り、輪を追いかけ回す。輪は「逃げろ逃げろ〜!」と叫びながら逃げている。一方残された瑠璃は起き上がってから、未来に声を掛けられるまで顔が真っ赤なまま座り込んでいたという。
同じ頃、藤尭と緒川は異端技術研究機構にやって来ていた。その職員によって部屋の中央には光の球体が表示されている。
「これは……?」
「ナスターシャ教授がフロンティアに遺したデータから構築したものです。我々は便宜上、フォトスフィアと呼称しています。実際はもっと巨大なサイズとなり、これで約4000万分の1の大きさです。」
フォトスフィアはまるで地球儀のように陸や海を表示している。違いがあるとすれば所々、線のような光ものが表示されていた。
任務を終えた緒川は翼に通信をかける。
「調査結果の受領、完了しました。そちらの特訓は進んでいますか?」
『くッ……!なかなかどうしてタフなメニューの連続です!』
通信機越しだと何か切羽詰まったような声だった。
『後でまた連絡します!詳しい話はその時に!』
翼がそう言うと通信が切られてしまった。どんな特訓なのかと考える緒川だったが……
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「さあ、続きと行こう!」
実際はビーチバレーをしているのである。響の提案で始まったビーチバレー大会、これは本来肩の力を抜く為のレクリエーションなのだが、その中で翼だけがこれを特訓だと思い込んでいた。そのせいか翼の出る試合は本気度が増し、白熱していた。
「頑張ってお姉ちゃん!クリス!」
「ああ、任せろ!」
「おらおら〜!バッチ来〜い!」
瑠璃の声援が翼とクリスのコンビを元気づける。ちなみに輪は撮影係を務めている。
その二人と対するはマリアとエルフナインのコンビであり、エルフナインのサーブから試合再開する。
「それっ!」
エルフナインはボールを高く投げて上からサーブを狙うが、手はボールにかすりもせずに空振り、ボールは砂浜に落ちる。
「なんでだろう?強いサーブを打つための知識はあるのですが……実際やってみると全然違うんですね。」
マリアはボールを拾ってエルフナインに渡す。
「背伸びをして、誰かの真似をしなくても大丈夫。下からこう……こんな感じに。」
マリアは下から打つやり方を真似をすると、エルフナインは縮こまる。
「はうぅ……ずびばぜん……。」
「弱く打っても大丈夫。大事なのは、自分らしく打つことだから。」
マリアのアドバイスを受け、鼓舞されたエルフナインは気合を入れる。
「はい!頑張ります!」
それからというもの、全員が白熱した試合を繰り広げたせいで全員疲労困憊となってしまう。
それぞれビーチチェアやレジャーシートにその身を委ねる。
「うぅ……もう動けないデス……。」
「気が付けば特訓になっていた……。」
「何処のどいつだぁ?途中から本気になったのはぁ………。」
「ガチで勝ちに来てたよね……みんな……。」
活発な輪ですらヘロヘロになっている。ちなみに輪が試合に出ていた時は、未来、調、マリアに撮影を頼んでおり、自分が出ていた試合もバッチリ取れていた。
ここで響がみんなに呼び掛ける。
「所でみんな、お腹が空きません?」
「だがここは政府保有のビーチ故……」
「一般の海水客がいないと、必然売店の類も見当たらない……。」
そうなると近くのコンビニへ買い出しに行かねばならない。だが全員で行く必要はない。となれば買い出しに行く人を決める為にやる事と言えばアレである。全員が1箇所に円を描くように集まる。
コンビニ買い出しジャンケンポン!
それぞれが手を出す。一瞬静寂に包まれるが
「あはははは!翼さん変な直出して負けてるし!」
「ホントだ!何ですかそのチョキ!」
「変ではない!かっこいいチョキだ!」
親指までしっかり立てており、チョキというより指鉄砲である。
他には調、切歌、輪がチョキを出し、後はみんなグーである。
「斬撃武器が……」
「軒並み負けた……デース。」
翼、調、切歌が扱うギアはどれも斬撃武器である。ちなみに瑠璃の槍は斬撃というより、どちらかと言えば穿つ方である為、斬撃武器にはカウントされない。
「好きな物ばかりでなく、塩分やミネラルを補給出来るものね。あと翼。」
「どうした?」
翼にサングラスを掛けてあげる。
「人気者なんだから、これ掛けていきなさい。」
「母親のような顔になってるぞ。マリア。」
4人は買い出しにでかけて行った。瑠璃はレジャーシートに座って休憩する。すると輪が持ち込んだ小さな鞄の口が開いていた。恐らく財布を持っていく時に開けっ放しにしていたのだろう。
「もう輪ったら……。」
その口を閉めようとして中身も見てしまうが、あるものか目に留まった。
「何これ?」
取り出したのはピンク色の容器に何か液体のようなものが入ったアンプルだった。化粧水か何かかと思った瑠璃はそのまま戻して、鞄の口を閉めた。
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買い出しに出かけた4人はコンビニで買い物を済ませて、そのまま店から出る。ただ切歌の持つコンビニ袋にある中身は殆どお菓子が占めていた。
「切ちゃん自分の好きなのばっかり……。」
「こういうのを役得と言うのデース!」
二人のやり取りを微笑ましく見ている翼と輪。
「まるで妹みたいだなぁ。」
「マリアが母親のようになるのも、頷ける。」
「そう……ですね。」
輪は歩みを止め、既にこの世にいない妹を思い出す。もし生きていたら、調と切歌と同じ年齢だった。二人のやり取りが、輪の記憶からあの悲劇が蘇る。
「出水?」
「へっ……?」
翼の声で輪は我に返る。気がつくと隣にいたはずの翼が既に先に行ってしまっていた。
「どうした?何か呆けていたようだが……」
「いえいえ、何でもありませんよ!」
輪は慌てて追いかけ、再び3人と離れないように同じペースで歩く。
「そうか?何もなければいいが……ん?」
すると4人はあるものが目に留まった。それは社が巨大な氷塊によって破壊されていた。近隣住民は台風が原因と言っていたが、台風ごときではこんなにはならない。十中八九犯人は水や氷を操るオートスコアラーのガリィではないかと考え、嫌な予感を抱く。
その頃、待機組はみんな翼達の帰りを待っていた。だがエルフナインは先程から特訓ではなく遊んでいる事に懸念を示していた。
「皆さん、特訓しなくて平気なんですか?」
「真面目だなぁ、エルフナインちゃんは。」
響は呑気な声で返すが、エルフナインはそれでも特訓をするよう呼び掛ける。
「暴走のメカニズムを応用したイグナイトモジュールは、三段階のセーフティに制御される危険な機能でもあります!だから自我を保つ特訓は……」
だがそれは突如噴き出した水柱の上にバレリーナのように佇むガリィが現れた事で遮られてしまう。
「ガリィ?!」
「どうしてここに?!」
エルフナインと瑠璃はガリィが現れた事に驚いた。キャロルは既に亡く、主無しで襲撃した事、さらにここら政府保有のビーチであり、その存在は徹底的に隠されている為、知られる事はほとんどない。それをこうもピンポイントでここに現れた。
「さあねぇ〜?それなら裏切り者に聞いてみたらいいんじゃな〜い?それより、夏の想い出作りは充分かしら?」
「んなわけねーだろ?!」
走り込んで来たクリスが言い返す。そして響、クリス、瑠璃は起動詠唱を唄う。
Killter ichaival tron……
それぞれギアを纏った装者はガリィと対峙、クリスがクロスボウの矢を放ち、瑠璃が二本の槍を携えてガリィに向けて駆け出す。
「マリアさん!今のうちに未来とエルフナインちゃんをお願いします!」
「分かった!」
マリアは未来とエルフナインを安全な場所まで避難させる為に、二人を伴って走る。
それを見たガリィはニヤリと笑いながら、クリスの矢を受けるが、それは水となって消えた。
「偽物?!っ!」
バイザーが反応して、振り返ると後ろからガリィが現れ、氷の手刀を振り下ろす。瑠璃はそれを黒槍の柄で受け止め、白槍でガリィを貫くが、これも水となって消えてしまう。
「これも……?!」
再びバイザーが反応をキャッチしたが、今度の反応はアルカ・ノイズの出現である。
「飽きもせずにまた!」
クリスはガリィがアルカ・ノイズを召喚した事に文句言いながら、クロスボウを構え、回転しながら発射したことで周囲のアルカ・ノイズ達を文字通り蜂の巣にする。
響は突き進みながらアルカ・ノイズを殴り倒し、瑠璃も黒槍と白槍の穂先からエネルギー波を放つ。
【Shooting Comet:Twin Burst】
放たれたエネルギー波はそのままアルカ・ノイズを貫き、その後ろにいる個体も纏めて穿つ。
買い出しに行っていた翼達もビーチから発せられた爆発を目撃する。
「あれは……!」
「もしかすると、もしかするデスか?!」
「行かなきゃ!」
遠目でもその爆発が分かる為、子供達は不安になる。調と切歌はすぐさま現場へと向かう。残った翼と輪は近くにいた男に声を掛け避難誘導をお願いする。
「ここは危険です、子供達を安全な所にまで……」
「冗談じゃない!どうして俺がそんな事を!」
「はぁっ?!」
何と男はそのまま走り去ってしまった。男の素早い逃げ足に翼は呆れ、輪はその身勝手さに憤慨するが、それよりも子供達が怯えていた。
「ここは私が。翼さんはみんなの所へ。」
「心得た。ここは頼むぞ。」
翼はすぐさまビーチへと向かい、輪は子供達を守る為に避難誘導をする。この時、翼の背を見届けていた輪の眼差しはどこか睨んでいるようにも見えた。
ちょっとエッな成分も含めた水着回でした。
そして何気に重大なシーンも含んでいます。