楽しい海水浴は突如現れたガリィによって終わりを告げた。呼び出したアルカ・ノイズを葬った響、クリス、瑠璃。だが瑠璃はアルカ・ノイズを殲滅させた直後、バイザーの反応が無い事に気づく。
「反応が無い……オートスコアラーがいない!」
「何だと?!」
「まさか……!」
瑠璃は急いで槍を連結させて、それに跨ると遠隔操作でそのまま低空飛行で飛んでいく。ここにガリィがいないという事は、マリアの方へ向かった事が予想された。しかも未来とエルフナインもいるのでこのままでは2人の身にも危険が及ぶ。クリスと響も急いでその後を追う。
マリアは未来とエルフナインを安全な所まで連れていく為に走っていたが、すぐ目の前にガリィが現れてしまった。
「見つけたよ、ハズレ装者!さあ、いつまでも逃げ回ってないで!」
ガリィは左手に形成した氷の手刀でマリアに攻撃を仕掛ける。
Seilien coffin airget-lamh tron……
だが起動詠唱を唄いながらそれを避けたマリアは左手でガリィの顔面を殴った。そのままマリアは新生された銀腕、アガート・ラームを纏った。
(銀の……左腕?!)
「マリアさん、それは?!」
「新生アガートラームです!」
顔面を殴られたガリィは、アルカ・ノイズを召喚する石をばら撒き、砕かれた場所からアルカ・ノイズを召喚する。
「あの時みたく失望させないでよ?」
マリアは左腕の篭手から取り出した短剣を持ち、頭上に同じ短剣を錬成、手に持った短剣を除いて全て放つ。
【INFINITE † CRIME】
放たれた短剣はアルカ・ノイズに刺さり、赤い塵へと変えた。手に持った短剣を逆手に持って突撃、マリアを迎え撃つアルカ・ノイズを斬っていく。
予めLiNKERを打っており、前回のように途中で適合係数の低下による強制解除はないだろうが、それでも時限式であるのには変わらない。故に早めに対処する必要がある。マリアは短剣を蛇腹剣へと可変させて、その変則的な軌道によって、周囲にいるアルカ・ノイズを全て斬った。
【EMPRESS † REBELLION】
「うわー私負けちゃうかもー。ギャハハハハハ!」
いかにも棒読みのセリフで、マリアの戦いぶりを見ていたガリィは高笑いをする。
アルカ・ノイズがいなくなれば、残るターゲットはただ一人となった。マリアはそのままガリィに斬りかかる……
「なんて……っ?!」
マリアの斬撃をヒラリと避け、氷の手刀が襲い掛かろうとするが、飛んできたバイデントの黒槍に弾かれる。
「またあいつかよ!」
飛んできた方、マリアの後ろに瑠璃がいた。危機を脱したマリアは一度距離を取る。
「ありがとう、助かったわ。」
「いえ……。それよりも、あれはどうしますか?」
黒槍を遠隔操作で手元に手繰り寄せ、それを手にする瑠璃。あれとはガリィの事を指している。
「そうね。このまま戦っても勝ち目はないわ。それに、奴の狙いは私一人みたい。あなたは二人をお願い。」
マリアは未来とエルフナインの方に見やり、瑠璃は二人を守る様に立つ。これでマリアとガリィの1対1という構図になる。それがガリィが望む展開なのだろうが、マリアもそれは承知の上だ。
「邪魔者がいなくなった所で、聞かせてもらうわ。」
ガリィの挑発じみたセリフにマリアは応えるように、ギアのコンバーターに触れる。
「この力で決めて見せる!……イグナイトモジュール!抜剣!」
コンバーターのウィング型スイッチを入れ、それを取り外して宙に投げるとコンバーターの外殻が開かれ、エネルギーの剣が展開される。そしてそれはマリアの胸を突き刺し、マリアに闇が襲い掛かる。
「弱い自分を……殺すんだぁ……!」
その身に襲う闇に抗い、支配しようとするが全身は真っ黒に染まり、眼は赤く光る獣へと堕ちた。瑠璃はその姿をフロンティア事変で響が変貌した姿で見覚えがあった。
「まさか……マリアさんが……!」
マリアは破壊衝動の闇に飲まれたということは、イグナイトモジュールは失敗した。黒い獣と堕ちてしまったマリアは、破壊衝動のままにガリィに襲い掛かる。その姿は先程の美しい技とはかけ離れた、ただ暴れ狂うだけの狂戦士である。
「いやいや、こんな無理くりなんかでなく、歌ってみせなよ。アイドル大統領!」
イグナイトを使用せずともマリアの攻撃を余裕でかわせたガリィが相手では、当然勝てるわけもなくあっという間に叩きのめし、ねじ伏せた。
「マリアさん!」
倒されたマリアはギアを纏っていない、水着姿に戻っていた。
「ハズレ装者にはガッカリだ。」
そう言うとテレポートジェムを出して、それを投げて割ってチフォージュ・シャトーへと転移した。
(今のって……!)
ガリィが転移する時、驚愕する瑠璃。そこに響とクリスが合流した。
「姉ちゃん!こいつはどういうこった?!」
「マリアさん!しっかり!」
響とクリス、エルフナインが倒れたマリアに駆け寄る中、瑠璃は立ちつくしたままだった。
(あれって……。でも……それってつまり……)
「瑠璃さん?」
「え……?」
後ろから心配する未来に声を掛けられた。
「大丈夫ですか?」
「ううん……何でもないよ……。」
口ではそう言う瑠璃だが、それでも瑠璃の中で生まれてしまった疑念が拭いきれない。
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ガリィは不機嫌な様子でチフォージュ・シャトーに帰還した。原因はマリアとの戦いにあるのは間違いない。
「派手に立ち回ったな……。」
「目的ついでにちょっと寄り道よ。」
「自分だけペンダントを壊せなかったのを引きずってるみたいだゾ。」
レイアの問には素っ気なく返したが、ミカが煽るように言った。
「うっさい!だからあのハズレ装者から一番に毟り取るって決めたのよ!」
どうやら図星だったようで声を荒げている。
「本当、頑張り屋さんなんだから。私もそろそろ動かないとね。」
唯一ファラだけが優しく微笑みながらそう言う。ジークは興味無いのか何も告げない。
ガリィは5つの垂れ下がっている幕を見上げ睨みつける。
(一番乗りは譲れない……!)
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外は既に夕日が差し込む頃、マリアを除いた装者、未来と輪は研究機構の一室に集まっていた。キャロルは既に死亡したにも関わらずガリィが襲い掛かった事が不可解であり、謎は深まるばかりだ。そして調が気になる事を挙げた。
「どうして優位に事を運んでも、トドメを刺さずに撤退を繰り返しているのだろう……。」
「言われてみれば、とんだアハ体験デス!」
気になるのはそれだけではない。イグナイトを制御しきれず暴走した挙げ句、叩き潰されたとはいえ、ガリィによって救われたようなものだった。さすがのマリアも堪えただろう。
だが瑠璃は今話していた事に集中出来ていない。一人だけ下を向いていた。
先程の戦闘の負傷でマリアは頭に包帯を巻いていた。風に当たる為にビーチに一人でいるのだが、先程の戦闘で自分の無力さを突きつけられた事に落ち込んでいた。
(私が弱いばかりに……魔剣の呪いに抗えないなんて……。)
「強くなりたい……。」
無力さに震えながら呟く。すると足元にボールが転がり込んできた。ボールを広い、前を見るとそこにはエルフナインがいた。彼女はすぐさまマリアの前まで駆け出す。
「ごめんなさい。皆さんの邪魔をしないよう思ってたのに……。」
「邪魔だなんて……。練習、私も付き合うわ。」
エルフナインは謝るがマリアはそんな事は思っていなかった。優しく微笑み、エルフナインのサーブの練習に付き添う。
エルフナインはあれから何度も何度もサーブの練習していたのだ。まだ上手ではないが、最初の時と比べると少し飛ぶようになったくらいである。だがそこまで行けたのは彼女が頑張って努力したからである。
「おかしいなぁ。上手くいかないなぁ。やっぱり……」
「色々な知識に通じているエルフナインなら、分かるのかな……。」
「え?」
マリアの独り言が聞こえたエルフナインは練習をやめ、ボールを手に歩み寄る。
「教えてほしい。強いって……どういう事なのかしら?」
「それは……マリアさんが僕に教えてくれたじゃないですか。」
思わぬ答えに驚くマリア。自分が何を教えたのか、見当もつかなかった。だがその二人を弄ぶように巨大な水飛沫からガリィは再び現れた。
「お待たせ、ハズレ装者。」
敵の出現に、マリアはエルフナインを守る様にガリィと対峙、包帯を解いてそれを投げ捨てる。
「今度こそ歌ってもらえるんでしょうね?」
ガリィの問に、マリアはハッキリと答えを出せなかった。再び無様を晒す事になるのかと、あの時の戦いを思い出すと嫌というほど考えてしまう。
「大丈夫です!マリアさんならできます!」
エルフナインの励ましが勇気となり、マリアは起動詠唱を唄う。
Seilien coffin airget-lamh tron……
再びアガート・ラームを纏い、短剣を構えてガリィにリベンジを挑む。
「ハズレでないのなら!戦いの中で示して見せてよ!」
挑発するようにアルカ・ノイズの群れを召喚する。
再びガリィとアルカ・ノイズが現れた事を知った装者一同はすぐにマリアを救う為に部屋から出て、ビーチへと駆け出す。未来、輪、藤尭、緒川もこの場から走り出すが、最後尾で走っていた緒川は、自分達が走っていた廊下に風が部屋に吹き込んでいたのを不自然に感じ、その足を止める。
「緒川さん!何してるんですか早く!」
輪が緒川の方まで走り、早く来るよう促す。
「いえ、大丈夫です。きっと……。」
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アルカ・ノイズは問題なく殲滅出来た。問題はガリィだ。今度こそ討ち取ろうと接近しようとするが、その前にガリィが巨大な水をビームの様に放つ。マリアは3本の短剣で逆三角形のバリアを展開する。だがそれに耐えきれず、バリアはあえなく瓦解、マリアは大きく吹き飛ばされる。
「てんで弱すぎる!」
マリアを見下しながら言い放つ。マリアは再びイグナイトモジュールを使おうとするが
「その力。弱いアンタに使えるの?」
ガリィの指摘通り、今のままイグナイトを使ってもまた暴走するのが関の山である。自分は弱いままなのか、強くなれないのかと悔しさを滲ませる。
「マリアさん!」
ガリィやアルカ・ノイズがいたにも関わらず、この場に残り、戦いを見届けていたエルフナインが呼び掛ける。
「大事なのは、自分らしくある事です!」
マリアがエルフナインに教えた、ビーチバレーでサーブを教える時に送った言葉。『自分らしくある事』
それを思い出した。
「弱い……そうだ……!」
マリアは痛みを押し殺して立ち上がる。
「強くなれない私に、エルフナインが気付かせてくれた。弱くても、自分らしくある事。それが……強さ!エルフナインは戦えない身でありながら、危険を省みず、勇気を持って行動を起こし、私達に希望を届けてくれた!」
マリアは一度、エルフナインの方に見やると再びガリィと向き合う。
「エルフナイン、そこで聞いていてほしい。君の勇気に応える歌だ!イグナイトモジュール、抜剣!」
ウィング型スイッチを押し込み、外したコンバーターを宙に投げると、外殻が開き、エネルギーの刃が展開される。そのままマリアの胸に突き刺さり、再びその身に呪いが降りかかる。
(狼狽える度、偽りに縋って来た昨日までの私……。)
いつだってマリアは強くある為に、弱い自分を押し殺して己を偽って来た。
(そうだ!らしくある事が強さであるなら!)
だが今は違う。マリアは己の弱さをさらけ出そうとしている。そして新たな決意を胸にする。
「私は弱いまま……この呪いに反逆して見せる!!」
すると白銀のギアが漆黒の鎧に染まり、姿を現した。遂にマリアはイグナイトの支配に成功した。
「弱さが強さだなんて、トンチを利かせすぎだって!」
ガリィはマリアが放った言葉が気に食わないのか、悪態をつきつつ、アルカ・ノイズを召喚する。左腕の篭手前部に短剣を連結させると、エネルギーの刃をマシンガンのように射出。アルカ・ノイズを貫いていく。
「いいねいいねぇ!」
ガリィは悪い笑みを浮かべながらスケートのように滑走しながら接近するが、マリアに一刀両断……されたと思ったらそれは泡となって分裂、増殖するように偽物のガリィが増えた。
マリアは再びマシンガンのようにエネルギーの剣を連射し、全ての偽物を倒す。
「私が一番乗りなんだから!」
本物のガリィが現れ、接近するマリアは短剣で斬ろうとするがガリィが笑いながらバリアを張る。だが短剣が煌めくと、そのバリアは真っ二つに割れた。驚愕したガリィの隙を突く形でマリアはアッパーをくらわせる。
高く打ち付けられたガリィよりもさらに高く飛翔したマリアは篭手の後部に短剣を装着、刃が巨大化させると腰、篭手のブースターが点火して急降下する。そしてその勢いのまま、ガリィの胴体をすれ違い様に真っ二つにした。
「一番乗りなんだからあああああぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」
胴体が泣き別れしたガリィは最期に断末魔のように叫び、爆散した。
【SERE†NADE】
力を使い切ったマリアはその場に座り込み、ギアが解除される。そのタイミングで響達が駆けつけた。
「オートスコアラーを倒したのか?」
「どうにかこうにかね……。」
エルフナインは嬉しそうに
「これがマリアさんの強さ……。」
「弱さかもしれない……。」
弱さを否定するのではなく、受け入れる事で強くなれた。
「私らしくある力だ。教えてくれてありがとう。」
「はい!」
マリアは葛藤を吹き飛ばし、心配事が消えた事で皆が笑顔になった。
同じ頃、研究機構の施設の屋上にはどこからともなくファラが姿を現した。
「お疲れ様ガリィ。無事に、私は目的を果たせました。」
彼女が出した舌にはマイクロチップが張り付いていた。
そして、チフォージュ・シャトーの内部の5つの垂れ幕の内、青い布に模様が浮かび上がっていた。
「ガリィ……見事な負けっぷりだったぞ……。」
ジークは一人、散って行ったガリィに手向けのように呟いた。
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陽は沈み、星々が煌めく夜空の下で花火を楽しんでいた。
「マリアが元気になって、本当に良かった……。」
「おかげで気持ちよく東京に帰れそうデスよ!ありゃ……」
調と切歌はマリアが元気になった事を喜んでいたが、切歌の線香花火が落ちてしまった。翼も今日を振り返って胸を張るように
「うむ。充実した特訓であったな!」
「それ本気で言ってるんすか……?」
「むしろそう思ってるのはお姉ちゃんだけだと思うよ……?」
瑠璃とクリスからツッコまれる。
「充実も充実ぅ!おかげでお腹もすいてきたと思いません?」
これがデジャヴである。
「あんたいっつもお腹空かせてるよね。」
輪からツッコまれるが、響は気にしない。
「だとすれば……やることは1つ!」
マリアの音頭で始まった
コンビニ買い出しジャンケンポン!!
響と輪がパー、それ以外は皆チョキだった。ちなみに翼は再びカッコいいチョキを出していた。
「また負けた〜!!」
輪は2連敗であり、しかもどちらもあいこ無しで負けている。響はというと
「拳の可能性を疑ったばっかりに……。」
だがもし響がグーを出していても輪がパーを出していたのでまた決め直しになるのでそんなに落ち込む必要はないのだが、拳は響のギアのアイデンティティでもあるので、余計に落ち込む。
「しょうがない。付き合ってあげる」
「良いのぉ?!」
「買い込むのも大変でしょ?それに響の買う量じゃ輪さん一人で持ち運び切れないと思うし。」
「いや〜助かるな〜!」
ジャンケンに勝った未来が同伴する事になり、3人でコンビニに買い出しに出掛ける。コンビニに張ってあるゲテモノ商品に釣られる響とそれを輪と未来が楽しそうに微笑む。
「でもあれ買うかねぇ?」
「さ、さあ?」
鮟鱇汁のジュースは買う勇気が出ないし、誰かに飲ませる気にすらなれない。
「とりあえず、何か買っていこう。みんな待たせるのもあれだし。」
「そうですね。」
「おや、君は……」
コンビニに入ろうとした時、未来が男に声を掛けられる。
「未来ちゃん……じゃなかったっけ?」
「へ?」
「ほら、昔うちの子と遊んでくれていた……」
「え、誰この人……?」
その顔にはどこか見覚えがあったがハッキリとは思い出せなかった。輪は初対面なので知るはずがない。そこに響が来た。
「どうしたの?未来……え……」
響が男の顔を見て、驚愕していた。未来も響と男を交互に見て、思い出した。
「響……!」
「お父……さん……。」
その声は震えていた。そして突然響は、まるで逃げ出すように夜道を駆け出した。
「響!」
「ちょっと待って!もうあの子ったら!」
輪は急いで彼女の後を追い掛けた。
同じ頃、瑠璃は輪がいないのを見計らって、鞄の口を開け、その中に入っていたアンプルを取り出した。
「やっぱり……これって……」
「姉ちゃん?」
突然クリスに声を掛けられ、振り返る。
「ど、どうしたの?」
「どうしたも何もねえよ。ほら、花火の続きだ!」
「う、うん!すぐ行くよ!」
そう言うと、クリスに気付かれないように、ポケットにしまった。
ちなみに最後のやつは瑠璃のイグナイトを使用する時の鍵になります。