チフォージュ・シャトーではファラが筑波で手に入れたデータを広間の中央に開示する。それはナスターシャ教授が遺し、研究機構に保存されたフォトスフィアであった。ガリィが破壊された今、残ったオートスコアラーは4体であるが、ミカは現在別任務で不在だ。
「筑波から地味に手に入れたらしいな。」
「強奪もありでしたが、防衛の為にデータを壊されては元も子もありません。一本一本が地球にめぐらされた血管のようなもの。かつてナスターシャ教授は、このラインに沿わせてフォニックゲインをフロンティアへと収束させました。」
「これがレイラインマップ。」
「人間に使わせるにはたいそう勿体ない代物だ。我らがこれを使い……世界を解剖する。そのメスは揃いつつある。」
「そうでなくては暴れたりないと、妹も言っている。」
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筑波から帰って来たS.O.N.G.の学生装者達は学校に通い、日常を満喫するはずだった。というのも、響が家族を捨てて失踪した父親と偶然筑波で再会してしまい、元気が一番であるはずの響が一番悲しそうな顔をしていた。
「響ちゃん……大丈夫かな……。」
「さあな……。こればっかりはあいつの問題だ。あたしらが口出しする事は出来ねえよ。」
瑠璃はリディアンの図書室から借りた本を読んでいたのだが、クリスに声を掛けられた事で読書は中断した。ちなみに新校舎に移転してから図書室へ行ったのは初めてであり、装者としての任務や訓練などで来る機会が減ってしまった。今回図書室に行く機会があったとは言っても以前のように一週間に3冊読む時間は取れないので1冊に絞っていた。
「そういや姉ちゃん、今日あのパパラッチと会わなかったか?」
いつもなら輪も来るのだが、その姿がない事に珍しがるクリス。だが輪の名前が出た途端、一瞬だけ動揺する。
「え?……何が?」
「だって、筑波から帰ってから、姉ちゃんあいつとろくに話してないだろ?」
筑波から帰って来てから、瑠璃の様子がおかしかった。四六時中に輪と話しているにも関わらず、ここしばらく殆ど話さない。それどころか、どこかよそよそしいような、まるで避けているように見えた。
「なあ、どうしたんだよ姉ちゃん?」
「何でもないよ……。」
そう言うが、明らかに何でもないわけがない。
「何かあったのか?あいつと喧嘩なんかしたのか?いつもあんなにベタベタくっついてた……」
「何でもないってば!!」
思わず瑠璃は声を荒げてしまう。突然発せられた怒声にクリスは驚き、瑠璃はつい怒鳴ってしまった事に謝る。
「あ……ごめん……。」
「いや……良いんだ……。悪かった……詮索が過ぎた……。」
結局互いに申し訳なくなり謝る。そこにアルカ・ノイズ出現アラートが鳴り響く。
「クリス、行くよ!」
「おう!」
あんな事があっても、二人は冷静にブリッジへと走り出した。ブリッジに到着するとそこには弦十郎はもちろん、翼、マリアもいる。
弦十郎は調と切歌、そして響に通信を掛ける。
「共同構内にアルカ・ノイズの反応を検知した!場所は地下68メートル。共同溝内と思われる!」
共同溝内とは電線を始めとするエネルギー経路を埋設した地下溝の事であり、その内部に敵性反応をキャッチしたのだ。
「本部は現場に向けて航行中。」
「先んじて立花を向かわせている。」
「緊急事態だが、飛び込むのは馬鹿二人と合流してからだぞ!」
「絶対に無茶はしちゃ駄目だからね?」
調と切歌に忠告を入れつつ、本部は現場に向かっている。
少し前に遡る。下校中である切歌と調は自販機で飲み物を買っている。調は最初にりんごジュースを選んで、受け取り口に落ちた缶ジュースを手に取る。
「今朝の計測数値なら、イグナイトモジュールを使えるかもしれないデス!」
起動に関しては問題ないのだが、大事なのはそこではなくその先程の、イグナイトの制御である。調は缶のプルトップを開けてりんごジュースを飲む。
「ふぅ……。あとは、ダインスレイフの衝動に抗える強さがあれば……。ねえ切ちゃん……」
「ん~これデス!」
切歌は自販機の前で変な動きをしながら2つのボタン同時押しで決めた。だが自販機は2つ選ばれた時の為の防止として左側の商品が優先で落ちてくる仕組みになっている。その左側にあったものはブラックコーヒーの缶だった。
「あぁー!苦いコーヒーを選んじゃったデスよ!」
切歌はブラックコーヒーは苦手な方である。それ波置いといて、調は胸元のギアのペンダントを出して、握りしめる。
「誰かの足を引っ張らないようにするには、どうしたら良いんだろう……。」
「きっと、自分の選択を後悔しないよう、強い意志を持つことデスよ!」
と、切歌は言うが苦手なブラックコーヒーを飲むと、顔が引きつる。さっきあんな事を言ったが同時押しで選んだ事を後悔している。
だが調が黙って、切歌のブラックコーヒーと調のりんごジュースを交換する。
「ブラックでも平気だもの。」
そう言うと調がブラックコーヒーを飲む。顔が引つらない辺り、本当に飲めるようだ。
「ご、ごっつぁんです。」
そう言うと切歌もりんごジュースを飲もうとするが弦十郎から通信が入り、共同溝内へと向かった調と切歌。弦十郎から送られたナビのお陰で入り口にはすぐに着いた。その後、響も合流したがどこか様子がおかしかった。調は響に何があったかを尋ねた。
「何があったの……?」
「何でもない……。」
その声は怒りと悲しみによって震えていた。とても大丈夫なようには思えなかった。
「どう見てもそうは見えないデス……」
「二人には関係のない事だから!」
響が怒鳴り声を挙げたことに驚く二人。いつもは笑顔の響が、こんな状態になっているのは初めて見たから驚くのも無理はない。
「確かに、私達では力になれないかもしれない。だけど……それでも……。」
「ごめん……。どうかしてた……。」
調がそう言うと、一度は冷静になった響。
(拳でどうにかなることって、実は簡単な問題ばかりかもしれない……。だから、さっさと片づけちゃおう!)
任務遂行の為に、3人は溝内へ進む。奥まで入ると、街や都市のエネルギー回路になっているケーブル達が繋がれている。これに驚く切歌だったが、そこにはアルカ・ノイズがいる。もしかしたらオートスコアラーもいるのかもしれない。
「行くよ、二人とも!」
Balwisyall nescell gungnir tron……
響の合図でそれぞれギアを纏った三人は地下深くまで飛び込む。
そこにはアルカ・ノイズが出現しており、三人はそれぞれのアームドギアで蹴散らしていく。その奥には梯子に掴まって、ケーブルの装置に入力しているミカがいた。響達が来た事に反応して振り返る。
「来たなぁ。だけど、今日はお前たちの相手をしてる場合じゃ……」
言い終わる前に響が殴りかかってきた。驚いたミカは思わず転げ落ち、ミカがいた場所は穴が開いた。
「まだ全部言い終わってないんだゾ!」
突然攻撃された事に怒ったミカはアルカ・ノイズを再び召喚する。響は構わずアルカ・ノイズを殴り倒すが、パワーに任せて、八つ当たりのように殴り、その目には涙が落ちていた。
「泣いてる……?」
「やっぱり様子がおかしいデス!」
響は先程、失踪した父親、立花 洸とファミレスで会食していた。洸はツヴァイウィングのライブの惨劇から生き残った響とその家族が、世間から酷いバッシングを受け、精神的に参ってしまった事で洸は家族を捨てて蒸発、行方不明となっていた。洸はもう一度やり直したいと響に願い出たのだが、黙っていなくなった事に悪びれた様子もなく、見たのはカッコ良かった父親の面影はどこにもなく、無責任でだらしない、そして格好悪い男になっていた。それにショックを受けてしまった。それを引きずった状態でここに来たのだ。
(何でそんな簡単にやり直したいとか言えるんだ?!壊したのはお父さんの癖に!お父さんの癖に!!)
アルカ・ノイズを纏めて天井に叩きつけ、そのまま殴る。
(お父さんの癖にいいいいいいいぃぃぃぃぃーーーー!!)
だが響は一瞬だけ動きが止まってしまう。確かに蒸発した洸も悪いのだが、結果的に家族に不幸を齎したのは自分なのだと悟った。
(違う……壊したのはきっと、私も同じだ……。)
その隙をミカが見逃すはずがなく、髪のロールがブースターとなって点火、その勢いを乗せたカーボンロッドで響を殴る。防御も受け身も取れなかった響はそのまま背中を打ち付けられ、気を失ってしまう。
「言わんこっちゃないデス!」
切歌が響の所へと駆け寄って抱えるが
「歌わないのかぁ?歌わないと死んじゃうゾ!」
ミカは容赦なく掌から火炎放射、その威力は凄まじく、纏めて焼き尽くさんとする勢いだった。響を抱えた状態ではまともな防御はできない。切歌は目を瞑るが、調が二人の前に立って、2つのアームの巨大化させた鋸を高速回転させて盾のようにして守るが、いかんせん、炎の火力が凄まじく、炎の熱で調は膝をついてしまう。
目を開いた切歌は、それを目の当たりにしてしまう。
「切ちゃん……大丈夫……?」
「なわけないデス……!」
「切……ちゃん……?」
「大丈夫なわけ無いデス……!」
みんなの役に立ちたくて、調を守りたくて戦っているはずなのに、瑠璃には肩を怪我をさせてまで守られて、今度は調に無茶をさせてしまった悔しさが露わになり、守ってくれた調に強く当たってしまう。切歌は切り札のイグナイトを使用しようとギアのコンバーターに触れる。
「こうなったらイグナイトで……!」
「駄目……!無茶をするのは、私が足手まといだから……?」
調もまた同じ思いだった。自分を守る為に無茶をしようとする切歌を止めるが、二人の譲れない思いがぶつかりあってしまい意地になり、敵の前だというのに喧嘩をしてしまう。
そこにミカの脳内にファラの声が聞こえてきた。
『道草は良くないわ』
「正論かもだけど……鼻につくゾ!」
今度は先程よりも強力な火炎放射をお見舞いする。流石にこれを防ぐ術はなく、全員吹き飛ばされてしまう。二人はまだ僅かに意識があったのだが
「預けるゾ。だから、次は歌うんだゾ!」
テレポートジェムで逃げられてしまった。
「待つデス……よ……。」
「切……ちゃん……。」
そのまま切歌と調は意識を失った。
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翼達も到着したが既に戦闘は終わっていた。今は黒服達が被害状況などの調査が行われている。
「押っ取り刀で駆け付けたのだが……」
「間に合わなければ意味がねえ……!」
「人形は何を企てていたのか……?」
4人もそのまま調査に加わる。溝内は攻撃によって破損された箇所が多数あるが、ミカがやったような感じではない。
「これって……もしかして響ちゃんが?」
「はい。大きく破損した個所は、いずれも響さん達の攻撃ばかり。」
瑠璃の推測に緒川は肯定する。となるとミカはここには破壊活動しに来たわけではないという事になる。だがその目的は一体何なのか掴めずにいたのだが、ケーブルの操作した跡があった。
「これは……オートスコアラーの狙いはまさか!急ぎ、指令に連絡を!」
何か勘付いた緒川は黒服に指示を送った。
ちょっと八つ当たりされるアルカ・ノイズ達には同情しちゃうなぁ……。