これでモチベーション爆上げだぜえええぇぇ!!
ヤッホーーーイ!!
艦内メディカルルーム、意識を失っていた響が目を覚ました。傍には未来がおり、エルフナインがカルテを持って結果を伝える。
「検査の結果、響さんに大きなけがは見られませんでした。大したけがはありませんでしたが、安静は必要です。」
「良かった……。」
何かあったらと考え、不安になっていた未来は一先ず安堵したが、安心はできなかった。メディカルルームで喧嘩している切歌と調がいたからだ。二人とも大した怪我ではなかったが、二人とも頭に包帯や湿布を貼っていた。
「調が悪いんデス!」
「切ちゃんが無茶するからでしょ!」
「調が後先考えずに飛び出すからデス!」
「切ちゃんが私の事を足手まといに思ってるからでしょ!」
いつも仲良しの二人がここまで拗らせてしまっていることに驚く未来。響はこの喧嘩が自分が原因であると理解しており、二人の喧嘩をしてほしくないと心苦しく思っている。
「傷に障るからやめてください!そんな精神状態では、イグナイトモジュールを制御できませんよ?!」
エルフナインが二人の仲裁に入って、喧嘩を止めようとするが、結局二人はそっぽ向いてしまう。そこに響が二人の前に歩み寄り、二人の手を優しく包み込む。
「ごめん二人とも……。最初にペースを乱したのは……私だ……。」
切歌はあのただならぬ様子が気になり、響に何があったのかを尋ねる。
「さっきはどうしたデスか……?」
「うん……。あれからまた、お父さんに会ったんだ……。ずっと昔の記憶だと、優しくてカッコよかったのにね。すごく嫌な姿を見ちゃったんだ……。」
「嫌な姿……?」
調がオウム返しに聞くと、響の目には涙が溜まっている。
「自分のしたことが分かってないお父さん……。無責任でカッコ悪かった……。見たくなかった……こんな思いをするなら……二度と会いたくなかった……!」
響にとって父親は特別で、憧れで、格好いい存在だった。はずなのに、この3年でその存在はもうどこにもいなかった。それがショックだった。
今回、話し合いの場の設けた未来も良かれと思ってやったのが裏目に出たばかりか響を悲しませる結果になってしまい、自分を責めた。
「私が悪いの……私が……。」
「違うよ……未来は悪くない……。悪いのはお父さんだ……。」
「でも……。」
響は未来に歩み寄って
「へいきへっちゃら。だから泣かないで、未来。」
「うん……。」
少しだけ、響は笑った。
調と切歌はメディカルルームから出ていくが、雪音姉妹のように同じタイミングで出ており、一度は向き合うも再びそっぽ向いてしまう。そこにエルフナインが二人の前に立ってガンタイプの注射器を渡す。中にはmodel_KのLiNKERが入っている。
「オートスコアラーの再襲撃が予想されます。投与はくれぐれも慎重に。体への負担もそうですが、ここに残されたLiNKERにも、限りがありますので。」
二人に念押しに説明する。それも二人を心配してくれているが故に。調と切歌はそれを手に取る。
シャワー室では共同溝内の調査から帰還した翼、クリス、瑠璃、マリアが身体の汚れを落とす為にシャワーを浴びている。溝内の破壊された跡を見る限り、相当荒れていたようだが、響の過去はみんな聞いており、みんな響の身を案じている。
「やはり父親の一件だったのね。」
「こういう時は、どんな風にすれば良いんだ……?」
クリスが翼に聞いてみるが
「どうして良いのか分からないのは、私も同じだ。一般的な家庭の在り方を知らぬまま、今日に至る私だからな……。」
マリアは父親が司令である瑠璃に聞いてみる。
「瑠璃はどうなの?あなたのパパさんは司令なのでしょう?」
「ごめんなさい……私も分からない。お父さんに引き取られて3年になるみたいなんだけど……これといった喧嘩もした事ないし……」
「つまりここにいる奴らは、全員お手上げってわけか。」
クリスがこれ以上瑠璃に話させないよう早急に結論づける。瑠璃が何かしらの拍子で地獄の6年間の記憶が蘇ってしまったら、どうなるか分からない。
今この場にいるのは家族の在り方についてよく分かっていない。故に響が自力で解決するしかない。歯痒くなるが今は見守る事しか出来ない。
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ブリッジでは弦十郎が、緒川の調査報告を聞いていた。
「敵の狙いは電気経路の調査だと?!」
『はい!発電施設の破壊によって、電力総量が低下した現在、政府の拠点には優先的に電力が供給されています。ここを辿る事により……』
「表から見えない首都構造を探る事が、可能と……ん?」
報告を聞いている途中、弦十郎が何かに気付いた。不審に思ったオペレーター陣が弦十郎の方を向く。
『司令?どう……』
「待て!」
そう言うと藤尭の座る席の方へ近づく。藤尭を退かし下に手を入れ、何かを摘み取る。盗聴器だ。
「藤尭!」
「はい、すぐに調べます!」
藤尭を疑わず、むしろ調査を指示する。恐らくこの盗聴器は裏切り者によるものだろう。少し前から緒川に裏切り者に関する情報収集を命じており、犯人はほとんど絞られたが、まだ確定はしていない。故に犯人と決めつけて、裏切り者に勘付かれないように極秘に進めていた。
(まさか……君ではないだろうな……?そうでない事を願うばかりだが……。)
裏切り者はS.O.N.G.を知る者であり、殆どが顔見知りだ。だがその誰に対してそう思っているのかは弦十郎のみぞ知る。
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ガリィはチフォージュ・シャトーに帰還し、ミカは共同溝内から奪取したエネルギー経路を開示する。それは広間の中央に大きく表示された。
「派手にひん剥いたな。ん……?」
台座から降りたミカは何処かへ行こうとする。
「どこへ行くの、ミカ?間もなく思い出のインストールは完了するというのに。」
「自分の任務くらいわかってる!きちんと遂行してやるから、後は好きにさせてほしいゾ!」
「ならば見事な散り様になるよう健闘するのだな。」
子供のように荒げた声で行こうとするミカに、ジークは皮肉を込めて言い放った。そしてジークは耳に手を当てると、鼻で笑う。
(やっと勘付いたか……。まあ今更どうにもならんがな。絆が壊れるのはもう間もなくだ。)
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帰り道、既に陽は傾いている夕暮れに蝉が鳴いている。その道を切歌と調が歩いているのだが、さっきから何も言葉を交わさない。最初にこの静寂を破ったのは調だ。
「私に言いたいこと、あるんでしょ……?」
そう言うと切歌は調の方を向いて反論する。
「それは調のほうデス!」
「私は……」
そう言っても、二人の会話は続かない。お互いに黙りこくってしまい、再び静寂が漂うかと思われたその時だった。
突如爆風が発生し、そこにはカーボンロッドが突き刺さっていた。あの時、自分達が戦って敗れた強敵、ミカが現れた。破壊された鳥居の上に立っているその顔は笑っていて、明らかに挑発している。
「アタシ達を焚きつけるつもりデス!」
「足手まといと……軽く見ているのなら!」
Various shul shagana tron……
絆創膏を剥がして起動詠唱を唄う。二人はギアを纏って、ミカに立ち向かう。
調はツインテールのアームが開くと無数の小型鋸を大量に放つ。
【α式・百輪廻】
だがそれらは長さを伸ばしたカーボンロッドで全て弾き落とす。今度は切歌にカーボンロッドを射出、切歌はそれを避けつつ距離を詰め、大鎌を振り下ろす。
『今から応援をよこす!それまで持ちこたえ……ぬぅ?!』
弦十郎から通信が入ったがら突然進行が停止しています。座礁したわけでも故障したわけでもないが、何か異常があったのだろう。モニターを見ると、海底に巨大な人型の影があった。その手にはS.O.N.G.の潜水艦を掴んでいた。だがその手は動かす事なく、潜水艦の止めている。ミカの戦闘に介入させない為に、レイアの妹が潜水艦の進行を阻止していた。
「私と妹が地味に支援してやる……。だから存分に暴れろ、ミカ。」
地上ではレイアが海を見下ろしてそう言う。
増援が期待出来なくなった今、ミカは切歌と調が何とかするしかない。だがミカは二人を相手に大暴れしている。二人は大したダメージすら与えられず、まるでミカに遊ばれているようだった。
「コレっぽっち~?これじゃギアを強化する前の方がマシだったゾ!」
「そんなこと、あるもんかデス!」
「駄目!」
ミカの挑発に、調の制止も耳も貸さずにミカに接近して斬りかかるが、どれもこれも避けられる。ならばと大鎌の刃を3枚に可変させて、それを振り下ろして投擲する。
【切・呪りeッTぉ】
それをミカはカーボンロッドで受け止めると爆発が発生した。
「どんなもんデス!」
切歌は勝ち気でいたがその期待は、土煙が晴れたと同時にあっさり裏切られる。なんとミカの後ろには大量のカーボンロッドが展開され、ミカの上げた右腕を振り下ろすと、切歌に向けて大量に降り注いだ。
切歌は避けようとするが、逃げ道を塞ぐように地に刺さる。
「連携しないと無理だゾー?」
「躱せないなら……受け止めるだけデス!」
切歌は一人で倒そうと躍起になる。だがミカの指摘通り、調と連携しないで勝てる相手ではないにも関わらず、切歌はまだ意地になって連携を拒否する。だがカーボンロッドはまだ残っている。容赦なく降り注ぐカーボンロッドは切歌を襲う。
だがそれは切歌に届く事はなかった。調が切歌を守るように巨大化させた2枚の鋸を盾のようにして守った。だが切歌は俯いて悔しさを滲ませながら
「何で、後先考えずに庇うデスか?!」
助けてくれた調を突き飛ばしてしまう。
「やっぱり、私を足手まといと……」
調は切歌に対してムキになる。
「違うデス!調が大好きだからデス!」
「え……?」
突然切歌から出た思わぬセリフに、調は驚いた。
「大好きな調だから……傷だらけになる事が許せなかったんデス!」
「じゃあ……私は……。」
ミカのカーボンロッドと切歌の大鎌がぶつかり合い、鍔迫り合いになり、火花が散る。
「アタシがそう思えるのは……あの時調に庇ってもらったからデス!みんながアタシ達を怒るのは……私達を大切に思ってくれているからなんデス!」
「私達を……大切に思ってくれる……優しい人たちが……。」
拮抗した鍔迫り合いが、ミカが放った炎で切歌は吹き飛ばされてしまうが、そこに調が受け止めてくれた。
「マムとジャンヌが遺してくれたこの世界で……カッコ悪いまま終わりたくない!」
「だったら、カッコよくなるしかないデス!」
「自分のしたことに向き合う強さを……!イグナイトモジュール!」
「「抜剣(デース)!!」」
二人はギアのウィング型スイッチを押して、コンバーターを宙に投げると、外殻が開き、エネルギーの刃が現れる。そのままそれぞれのギアの主の胸に刺さると、二人の全身に呪いが降りかかる。体感した事のない苦しみに、うめき声を挙げる二人でも、互いに手を取り合い、痛みを、苦しみを二人で分かち合えば乗り越えられる。
「底知れず、天井知らずに高まる力ぁー!」
それを見届けるミカの全身が炎に包み込まれる。その影響でロールの髪は解け、上着は焼け落ちたが、最大出力を引き上げた強化形態『バーニングハート・メカニクス』となった。
「ごめんね……切ちゃん……!」
「いいデスよ……それよりもみんなに……!」
「そうだ……。みんなに謝らないと……!そのために強くなるんだ!!」
二人の力で呪いを乗り越え、イグナイトモジュールの支配に成功する。
二人の歌声を重ね合わせたユニゾンの力でミカに立ち向かう。切歌が大鎌を振り下ろし、調のヨーヨー型鋸を放つが、最大出力となったミカにはこの程度では届かない事を表すように弾き飛ばし、調のヨーヨーを掴んで、強引に引っ張って投げ飛ばす。
「最強のあたしには響かないゾ!もっと強く激しく歌うんだゾ!」
カーボンロッドが、矢のように降り注ぎ、切歌はそれらを弾くが接近してきたミカに吹き飛ばされ、社の壁に背中を強く打ってしまう。そこにカーボンロッドが放たれ、切歌を拘束するように壁に刺さると、身動き取れなくなってしまい、さらにミカの掌から炎が放たれようとしている。
「向き合うんだ!でないと乗り越えられない!」
切歌を守る為に、開いたツインテールのアームから無数の小型鋸を大量に放つ。だがミカはそれを髪で弾き落とし、空中で指を立てた先には魔法陣が展開され、そこから大量のカーボンロッドが降り注ぐ。拘束から脱出した切歌だったが、そこから降り注ぐカーボンロッドの間を避けるように走る。
「闇雲に逃げてたらじり貧だゾ!」
「知ってるデス!だから!」
そう言うと巨大なカーボンロッドを放ち、後ろから切歌を追いかけたが、カーボンロッドを鎌に引っ掛けて急に旋回する事で、ミカを撒く。
そして切歌は肩のアーマーからアンカーを放つと、それをミカの両サイドを通り過ぎ、後ろにいた調のアームと接続、さらにミカの身体に絡めるように拘束すると、正面からはギロチンのような形をした刃に乗る切歌、背後からは調が禁月輪でミカに迫る。
【禁殺邪輪 Zぁ破刃エクLィプssSS】
「足りない出力をかけ合わせてぇ!」
ミカは最期まで笑いながら切歌と調によって切断され爆散した。
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ミカを倒した後、弦十郎とクリス、瑠璃が到着し、S.O.N.G.職員が事後処理にあたっていた。ミカを倒したのは良かったのだが、独断専行により二人の前で正座させられに咎められている切歌と調。
「こっちの気も知らないで!」
「たまには指示に従ったらどうだ?」
瑠璃だけは二人がオートスコアラーを倒した事を考慮してなんとかあまり叱らないようお願いしている。
「で、でも二人のお陰でオートスコアラーを倒せたんだしここは……」
「独断が過ぎました……。」
「これからは気を付けるデス……。」
何と珍しく聞き分けが良い事に驚いた3人は思わず間抜けな声を出してしまう。
「お、おぉ……。珍しくしおらしいな……。」
「私達が背伸びしないで出来るのは……受け止めて、受け入れること……。」
「だから、ごめんなさいデス……。」
「ほ、ほら……こう言ってるんだし……今日の所は……。」
「う、うむ……そうだな。二人が分かれば、それでいい。」
瑠璃の説得もあり、切歌と調も素直に言う事を聞いたので説教はすぐに終わった。後輩達の成長を目の当たりにしたクリスは、家路につく二人の背中を見ていた。
「先輩が手を引かなくたって、いっちょ前に歩いて行きやがる……。」
(あたしとは、違うんだな……。)
「足手まといにならない事……。それは強くなることだけじゃない……。自分の行動に責任を伴わせる事だったんだ。」
切歌がスマホで責任という単語を調べる。
「責任……。自らの義に正しくあること。でも、それを正義と言ったら、調の嫌いな偽善っぽいデスか?」
調はフロンティア事変の頃、この時は敵対していた響に言い放った『それこそが偽善……!』を思い出した。
「ずっと謝りたかった……。薄っぺらい言葉で、響さんを傷つけてしまった事……。」
響の過去も知らずに偽善と吐いた言葉。それが調の心に突き刺さる。俯いていた調の手を、切歌が優しく手に取って包み込む。
「ごめんなさいの勇気を出すのは、調一人じゃないデスよ。調を守るのはアタシの役目デス!」
そう言うと切歌の額は調の額がくっつき合わさる。
「切ちゃん……。ありがとう……いつも、全部本当だよ……。」
二人はいつもの仲良しの二人に、笑顔が戻った。
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事後処理が終わり撤収しようとした弦十郎。クリスと瑠璃を先に帰した直後、緒川から通信が入る。
「どうした?」
『司令、裏切り者の正体が確定しました。と言っても……あまり信じたくないのですが……。』
キャロル、ジーク、ガリィが言っていた裏切り者の正体を単独で当たっていた緒川。通信でその報告をしている。
『裏切り者の正体はやはり彼女で間違いないと……。』
その意外すぎる人物の名前を告げた時、弦十郎は驚愕を隠せなかった。
「そうか……やはりあの子が……。」
『はい。僕も未だに信じられません。ですが、彼女が一番の黒です。』
弦十郎が低く唸る。
『司令、瑠璃さんは?』
「先に帰らせた。だが、この話を聞いてしまったら……あの子は深く悲しむ。ここは俺達だけで対処するぞ。」
『了解。』
そう言うと通信を終えた。弦十郎自身、裏切り者の正体を信じたくないのもある。だがこの時、弦十郎は致命的なミスをしていた。
帰ったと思われていた瑠璃が、陰でその場の会話を盗み聞きしてしまっていた。
緒川が持っていた雑誌、そこには3年前、ある一家が一家心中を図り、その家族は一人の娘を遺して亡くなったという記事が記載されていた。だがその見出しには大きく、『出水一家』と載っていた。
そして、チフォージュ・シャトーではミカが破壊された事を表すように、赤い幕に同じ模様が刻まれた。そして、棺と思われるものが開くと、そこから出てきたのは自害したはずのキャロルだった。
次回、オリジナルエピソードに突入します。
いよいよ瑠璃がイグナイトを使い、ジークと刃を交える局面となります。