裏切り者の正体が明らかになります。
調と切歌が戦闘特化型のミカを撃破して翌日、瑠璃は思い悩んでいた。弦十郎が通信しているのを盗み聞きしたのだが、それは裏切り者に関する内容だった。名前は出していなかったが、瑠璃は裏切り者の正体について薄々気付いていたが、信じたくないという思いがあり、問い詰める勇気が出なかった。
だがあの時、名前を出さなかったが弦十郎も気付いているだろう。このままだと取り返しがつかなくなる。だから何としてでも自分の手で止めなくてはならない。幸い、今日は休日であり自由に動ける。瑠璃はスマホで着信をかける。
「もしもし、輪?」
『あ、瑠璃!どうしたの?』
「うん。ちょっと話したいことがあるんだ。公園で待ってるね。」
『了解。ちょっと諸用があるから夕方の5時頃で良い?』
「うん。良いよ。じゃあ後でね。」
瑠璃は着信を切った。ため息をつくが、覚悟を決めなくてはならない。瑠璃は一人、公園に向かう。少し早めに着いた瑠璃はブランコに座って輪の到着を待つ。
「お待たせ〜。」
「輪。」
だが10分経たないうちに輪も到着した。輪はご機嫌な様子でやって来た。もちろんカメラも持ち歩いて。対する瑠璃はどこか怯えている。
「どうしたの瑠璃?何か暗い顔をしちゃって〜。あれからあの人形とは戦ってるの?あ、そうだ!こないだ見つけた撮影スポット……」
意を決して話そうとした時、輪のマシンガントークに戸惑った瑠璃は一旦止める。
「待ってよ輪、そんなに一気に聞かれても!」
「あ、そうだったね。それで、話って何なの?」
「その……輪は……裏切り者について……何か聞いてる?」
同じ頃、クリスは未来の買い物に付き合っていた。響が負傷し、しばらくは安静という形で寮にいる。
「ごめんね。付き合わせちゃって。」
未来の笑顔に顔を朱に染め、照れる。
「い、良いって事よ。それに、あの馬鹿よく食うだろ?こんな量一人で持ってくのは大変だろ?」
ビニール袋には食材やインスタント食品が多く詰め込まれており、未来一人で持たせるには重く、大変である。
「そうだね。だから響にも手伝ってもらってるんだけど、あいにく無理はさせられないし……あれ?ねえ、あれ瑠璃さんじゃない?」
「え?あ、本当だ。何してんだ?」
瑠璃は気付かなかった。偶々クリスと未来に公園に向かっている所を見られ、そのまま尾行されていた事に。二人はそのつもりはなかったのだが、何かあったのかと気になり、つい尾行してしまっていた。
「あぁ……。未来から聞いたよ。何かいるんだって?そんなスパイみたいな奴。それなんだけどさ……調べても全く出て来ないんだよね。まさかS.O.N.G.と張り合える諜報活動が出来る人がいるなんてね。」
瑠璃は意を決して輪に話す。
「輪じゃないよね?裏切り者……。」
突然疑われた事に驚いた輪。もちろん尾行していたクリスと未来も声を押し殺して驚いている。響を除いた他の装者は裏切り者の存在は懸念していたが、それでも仲間を信じる事を選び、誰も疑ったりはしなかった。
「はっ?何言ってるの?私がそんな事するわけないじゃん!まさか私を疑ってるの?」
「お父さんの会話……聞いちゃったの……。キャロルに情報を流した裏切り者を調べてたって……。」
輪は自分ではないと必死に否定する。だが目を見開いて少し恫喝するように否定していた。瑠璃は前に図星を突かれて否定すると、それを強引に否定する為に強い言い方で否定するのだと聞いたことがあった。もちろん確たる証拠はないが、今の輪はそれに当てはまっていた。
尾行していたクリスは通信を本部に掛ける。
「ん?クリス君どうした?」
『オッサン、姉ちゃんが……あのパパラッチが裏切り者なんじゃねえかって……』
「何だと?!すぐに繋げろ!」
通信機のマイク機能を拡張させて、瑠璃と輪の会話を盗聴する。そして本部中に、他の装者の通信機にも聞こえるように繋げた。
『それで態々私にそれを伝えに来たってわけ?もう……私はそんなこと……』
突然輪が黙った。何なあったのか気になっているオペレーター達。発信源の近くにあるカメラをモニタリングする。
すると瑠璃の掌から何かを出していた。エルフナインが真っ先に反応した。
「あれは……!」
瑠璃の手にあったのはキャロルや自動人形達が持っているテレポートジェムだった。何故瑠璃が持っているのか疑問だった。
『あの海辺で輪が置いてった鞄の中、偶然見つけちゃったんだ。そしたらこれが置いてあった。』
あの時、瑠璃が輪の鞄の中で目にしたもの。最初は何だったのか分からなかった。最初は何か化粧水かと思い、気にしなかった。しかしガリィがこれと同じ形をしたものを持ち歩き、使っていたのがテレポートジェムだった。
『あのオートスコアラー、人間嫌いに関しては本当に正直だから嘘はついていないと思った。でもこれが敵の持ち物だって知って……。信じたくなかった……今だって……嘘なんじゃないかって……思いたかった……。』
他の装者達にも当然この会話を聞いており、潜水艦にいた翼、マリア、切歌、調は通信機の会話を聞きながら公園へ向かっている。
「輪先輩が……スパイだなんて……。」
「そんなの信じられないデスよ!」
「信じたくないが、物的証拠が出た以上、出水が裏切り者である事に間違いない!」
マリアは輪の事について詳しくはないので何も言わなかった。ただ目の前に集中するだけだ。
『プッ……フフフフ……ハハハハハ……!アハハハハハハ!』
『輪?』
突然の高笑い、それが答えだということは明白だった。
『あーあ、しくじったなぁ。まさか一番のお人好しのあんたにバレるなんてね。正直予想しなかったよ。』
まるで人が変わったように悪態をつくようになった。
『そうだよ。私がスパイだよ。』
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(どうなってやがんだよ?!何であいつが?!)
盗み聞きしていたクリスも未来も信じられなかったが、輪が認めてしまった以上、もう輪は敵である。
「輪、私は輪が裏切り者でも……そんなの関係ない!今ならまだ私達だけで……」
「もう無理だよ。」
そう言うと輪はクリスと未来がいる方を向いた。盗み聞きしているのがバレていた。
「いつまでそこでストーキングしてんの?趣味悪いなぁ。」
もう尾行の意味がなくなった今、隠れる必要はない。クリスと未来が姿を現した。
「何で……何でお前が?!」
クリスは信じられない様子で輪に問い詰める。
「どうして?言ってもアンタには分からないよ。アンタなんかに、私の気持ちが分かるわけがない。」
「そんな事は……」
未来が否定しようとした時、輪に睨みつけられ、怯えてしまう。 輪は正体が露見した事で、もう隠す必要がなくなった事で態度を悪くしている。
すると翼、マリア、調、切歌が到着した。輪はため息をつく。
「瑠璃、こっそり通信してたんだね?酷いなぁ、騙すなんて……」
「ち、違う!私はそんな事……」
「お前が軽々しく言うんじゃねえ!やったのはあたしだ!お前こそスパイしてたって……脅されてるのか?!」
「何言ってんの?私、自分の意思でキャロルに協力してるもん。別に操られてないし。」
包み隠さず堂々と暴露した事に、全員驚愕を顕にした。信じられない形相でマリアが問いただす。
「何故……何故君が自らの意思でキャロルに?!」
「何で?そうですね……。じゃあ言います、ちょうど
それを聞いた時、誰もが驚愕した。本部でもそれを聞いていた響も狼狽えた。まさか同じ被害者が、こんな身近にいた事に気付かなかった。
「そう風鳴翼!私はあのツヴァイウィングのライブにいたんだよ!!」
翼に向けて怒声を放った。敬語だったのもかなぐり捨て、睨みつけていた。
「あの時、私は透に誘われて一緒にライブに行った!けどノイズに襲われて……目の前で透が崩れて……私だけが生き残って……けど!あの後、家に張り紙や落書きされて!何度消しても剥いでもまたやって来る!家に石まで投げられて、妹の旭の頭に当たって血を流して!先生に助けを求めても……誰も助けてくれなかった!警察もろくに取り合ってくれなかった!」
ここまでは所々違う所はあるが、響と殆ど同じ境遇だった。だがそれだけではここまで荒れたりはしない。
「ただ生き残ったっていうだけで心無い罵倒や暴力を振るわれて!お父さんとお母さん、それに耐えきれなくなって……妹と心中したんだよ!」
輪の過去を、ブリッジのモニターでも表示されていた。3年前、生存者の中に輪の名前が入っていた。そして、別の新聞記事には、
【賤しきライブ生存者一家が無理心中?!命を冒涜した夫婦の身勝手な行動!!】
と書かれていた。出水一家が一家心中し、夫婦と妹が死亡、輪はその時、遅く帰って来た事で免れたというものだった。
輪の父親はエリートだったが、出世コースから外れ管理職に追いやられただけでなく、理不尽な業務を強いられていた。
母親は、近所のママ友達から陰湿なイジメを受け、廃棄物を家の前や庭に放り込まれていたという。
その魔の手は当時、大阪で一人暮らししていた小夜にも及んだ。仲が良かった患者からも掌返しするかの様に罵倒され、全ての担当から外された上に、田舎の分院に左遷を告げられる。だが家族が死んだと聞き、辞職して東京に戻った。小夜は残った貯金で生き残った輪の面倒を見ていた。しかし再就職も容易ではなく、今の病院に就職するまでいくつものアルバイトを掛け持ちしていたという。
輪と旭も学校の同級生からも暴力を振るわれ、教員すらグルになって救済の手を差し伸べなかったというものだった。
「小夜姉だって、私のせいで病院からも追い出されて東京に戻って来たんだよ!小夜姉の人生も巻き込んで……台無しにしちゃったんだよ!小夜姉が頑張って働いている所を見る度に、私はずっと苦しくなるんだよ……!何でなの……何で生き残っただけでこんな辛い目に遭わなきゃいけないの?!何で透や家族が死ななきゃいけなかったの?!何で関係ない小夜姉まで傷つかなきゃいけなかったの?!ねえ教えてよ!!風鳴翼あぁぁ!!」
自身が過ごした地獄をぶちまける形で暴露した。そしてその怒りの矛先が翼に向いており、その眼圧が翼に対する殺意を体現している。だがここでクリスが待ったを入れる。
「待てよ!元はと言えば、ソロモンの杖を起動させたあたしに非が……」
「分かってるよそんな事!でもね……あのライブの裏で、聖遺物の起動実験をしてたってキャロルから聞いた時、騙された気分だったよ!何にも知らない私達はそれに加担させられて、透が巻き添えで死んで!それで生き残ったら、死んだ方がマシな地獄を味わって……こんな理不尽な事がある?!」
クリスが翼を庇おうとしたが、輪の激しい憎悪では聞き入る事はない。
あのライブの裏でネフシュタンの鎧の起動実験が行われていた事は極秘であり、一般人が知る事はない。それを知ってしまったら、翼は叩かれるだけでは済まされない。恐らく響や輪のように地獄を見る事になる。キャロルにそのライブの裏側を教えられた事が、輪がS.O.N.G.を裏切る動機となったのを頷くのは無理はない。
「じゃあお前、最初から先輩に復讐する為に姉ちゃんに近づいたってのかよ?!」
「そうだよ。妹って聞いた時は、ラッキーって思ったよ。私をこんな惨めにしたあいつを破滅させる為に、私はファンのフリをした!聞きたくもないCDも借りて、歌声も聞いた!本部に盗聴器も仕掛けた!!」
先日見つけた盗聴器の持ち主、それも輪だった。入手先がどこにも見つからなかった辺り、キャロルの手によるものではないかと疑われていた。
「そう、私はあんたをあんたの周りを破滅させる為にキャロルに手を貸したんだよ!!」
最初は翼にその憎悪が向いていたが、もはやそれだけでは収まらないところまで来てしまっていた。
「それでと……だとしても、そんな事しても……死んだ家族が浮かばれると思うのか?!あなたの姉が、君が悪行に走る事を望むと思うのか?!」
「そうですよ!それに響だってあのライブで……」
「あんた達に何が分かるんだよ!!」
手に持っていたカメラを未来に投げつけた。それをマリアが片手でキャッチするが、もし非力な未来に当たったら大怪我するところだった。
「あいつと私、同じ被害者でも、あいつの家族は生きてるじゃない!!でも私の家族は、もう死んだんだよ!!あいつみたいに心が強いわけじゃないんだよ!!」
輪は失った家族を今でも大事に思っている事には変わりないのは分かるが、家族を亡くした事が、響とは唯一違う点であり、それが輪を余計に刺激してしまう。そして怒りの矛先は親友であったはずの瑠璃にまで向いてしまう。
「にしてもあんた……本当に愚図だよねぇ!私の言うこと全部信じたんだからさぁ!友達とか、絆とか家族とか。私はね……そんなあんたが大嫌いだったんだよ!!」
親友だと思っていた輪から罵声を浴びせられ、瑠璃は泣いてしまう。親友だと思っていた人にこんな形で裏切られ、愕然としている。従妹を愚弄され、翼が怒る。
「出水!いくら私が憎くても、瑠璃を侮辱する事は許さんぞ!」
「私があんたを恨む事があっても、あんたに言われる筋合いはないけどね!あんた達のせいで家族と人生が滅茶苦茶になっているのに、あんたはのうのうと歌手を続けてる!あんたの歌を聞く度に、惨めに思えてくるよ!」
「そういう事だ。」
輪の背後から、ジークが現れた。まるで輪を守る様に立っている。
「オートスコアラー!」
「わざわざアイツを守る為にやって来たってかぁ?!」
Imyuteus Amenohabakiri Tron……
翼が起動詠唱を唱え、ギアを纏うと、他の装者達も続いてギアを纏う。だが瑠璃は輪に裏切られ、罵倒されたショックで立ちすくんでいる。
「虫けらがいくら集まった所で、所詮は無駄だ。」
ハルバードを地面に刺しトポス・フィールドを展開させる。その広さは公園の敷地内全てに及び、これでこの公園は、ジークの領域となった。だが、それで退く装者ではない。
翼、切歌、マリアが一斉に切り込むが、穂先でイガリマを柄で天々羽斬を止め、残ったマリアには鳩尾を蹴る。ハルバードによる守りがなくなったと思われ、後ろを取ったはずが逆に返り討ちに遭い、しかも急所を的確に突いた。
「「マリア!」」
「お前ら退け!」
クリスがガトリング、調がアームから無数の小型鋸をばら撒くと、翼と切歌は後ろへ下がり、残ったジークに纏めて集中砲火させる。
「小賢しい!」
ハルバードをブーメランのように投擲すると、高速回転したハルバードが自身に被弾させようとする弾丸と鋸を全て弾き、さらにそのままハルバードはクリスを刈り取らんと回転して近付いていく。
だがマリアの蛇腹剣が、ハルバードを絡め取り、そのまま剣先がジークへと向かう。
【EMPRESS † REBELLION】
そしてヨーヨー型鋸を放ち、同時攻撃を仕掛ける。
しかし、死角から狙う蛇腹剣の剣先を見ずに避けた上でヨーヨーを掴み取り、そのまま強引に引っ張る。引きずり込まれた調はジークに鳩尾をアッパーで殴られ、倒されてしまう。
「よくも調を!」
調がやられた事で切歌が怒り、短期で突撃するも、ジークは気を失った調の足を掴んで、切歌に向けて投げ飛ばす。これを避けられなかった切歌はそのままブランコの柱に背中を強く打ち、気絶する。
「どうなってやがるんだよ……?!たった1体の人形にここまでボコボコにやられるのかよ?!」
装者5人に対し、ジークたった1体。だが既に全員満身創痍だった。ジークは瑠璃の方に見やり
「所詮絆の力などこの程度。いとも簡単に裏切られ、絶たれる。そんなものに縋ったお前には何が残っている?」
「私は……私は……。」
瑠璃は崩れるように膝につく。そして輪の方を向く。
「輪……」
「もうこうなった以上、あんたとは絶交ね。」
ジークがテレポートジェムを地面に投げて、割る。ジークと輪の周りに赤い魔法陣が敷かれる。
「サヨナラ、瑠璃。」
「待って……待ってよ輪……!」
瑠璃は輪に手を伸ばすが、そのまま転移されてしまい、届かなかった。瑠璃はそのまま倒れ込んでしまう。ジークが撤退した事で戦闘は終わったが、完敗に終わった。マリアとクリスは瑠璃に歩み寄る。
「瑠璃、大丈夫?」
「姉ちゃん……。」
「輪……輪……ぁ…………あぁ………あああああああああああぁぁぁぁ!!」
瑠璃は親友だと思っていた輪を失い、裏切られたという事実を突きつけられ、泣き崩れてしまった。瑠璃の慟哭が呼び寄せたように、夜の闇に浮かぶ雨雲が雨を降らせた。
裏切り者の正体は輪でした。
透
輪の中学生時代に付き合っていた恋人。
ツヴァイウィングのファンで、受験前の最後の思い出作りに輪をライブに誘ったが、そこでノイズの襲撃に巻き込まれてしまい、輪の目の前でノイズによって炭素化されてしまう。
旭
輪の2つ下の末妹。
輪と同じく学校で虐めに遭うが、輪の励ましもあって、何とか立ち向かえていたが、学校を無断欠席した日に父親と母親と共に一家心中。輪が帰って来た時には既に血塗れの遺体となっていた。